私は、弱かった。
弱いと思い込むことで、強い者の影に隠れていたのかもしれない。
- 微笑みの代償 -
エミリオは、私を崩壊する世界から逃がすことを選んだ。
時々思うのは、例えば、私が強かったならあの子は「ヒューゴ様の手から」私を逃がすことを選んだのではないかと言うこと。
彼は、あの洞窟で言っていた。
「この女をここに置いていってもよいのだぞ。お前たちは死を待つだけだが」
私は人質だったけれど、命を奪うと脅されるのではなくむしろ身の安全を保証されることが条件だった。
エミリオは、汚いと罵りつつも従うしかなかった。
どうしようもない未来から、私を守るために。
だけど、あの子は、彼女──
と言った。ほんの数日一緒にいただけだったけれど、強い瞳をした人だった──を巻き込まないために、『外へ逃がすことを』選んだ。
守りたいと思うのなら、崩壊する世界に置いてきても無駄。
それがわかるから、あの子はヒューゴ様に私の命の保証を条件にしたのに、彼女を外へと逃がす、その矛盾。
わからないでもなかった。
どちらもそれぞれに無意味なことではないのだから。
でも、私にそれをしなかったのは…
私が「外」では耐えられないと、わかっていたのではないからではないの。
『ダイクロフト』に連れられて来てからは恐怖に、我が身を庇うことしか考えられなかった。
助けに来てくれたスタンさんたちにも、エミリオに対する同情の言葉しか吐き出せなかった。
本当に大事なことはもっと別の場所にあったのに。
私は、あの子がもうこの世界のどこにもいなくなったと知って、それよりずっと後──
ルーティさんに頬を打たれるまで、そんなことにすら気づけなかった。
当たり前のフリをして、嘆いてみせて
強い者に屈服していた。
弱いから、強い者の影にすがっていたくて。
口ではあの子にやめなさい、といいながらも何もしようとはしなかった。
本当に止める気があるのなら…死んでも構わないと言うのなら、あの洞窟であの子と残る選択肢もあったのだから。
そんな自分を守ろうとしたのだから、
エミリオも命を落としてしまうほどの業を背負わざるを得なかった。
今ならわかる。
だって彼女だったら、人質として連れて来られることに承諾すらしなかっただろうから。
私は、全てを知っていたのに
甘んじていた。
エミリオの弱さを知っているのも、
おそらくは私だけだったろうに。
それでも、あの子の「強さ」に守られていたのだから…
もしも、私がもう少しだけでも強かったなら。
エミリオはソーディアンマスターとともに、歩んでいけたのかもしれない。
それらのことに気づいたのは、全てが終わった後。
けれど気付けたのなら、私は強くなれるのだろう。
今からでは遅いのかもしれない。
それでも…
あの子の全てと引き換えに
エミリオからもらったものは
無駄にはできないから…
私は、もう 少しだけでも強くなろう──