朝起きたら。
リオンがおかしくなっていた。
騒乱の予感
「ねぇっ変だよ、これ、どーいうこと?」
が初めてその様子を見たときは一瞬意識を手放しかけたくらいだ。
宿に一泊した翌朝、いつまでたっても下へ降りてこない仲間たちの部屋を順番に訪問しようとしていた矢先のこと。
ノックしても返事が無いのでドアを開けると妙に口調は幼げなリオンが慌てた様子で、しかもその顔にあからさまに「不安」という字を貼り付けてわめきたてていた。
「…」
『こら!!
、見なかったことにするんじゃない!!』
黙って今開けたばかりのドアを閉めようとするとシャルティエにあり得ない口調で引き止められた。
…それだけでなんだか色々判った気がするが。
「えっ?あ、
!!大変だよ!」
「えーと…シャルティエ、かな…?」
「あれ?なんでわかるの?」
素ボケだよ。
腐女子と呼ばれる人たちがいたら襲われるぞ、お前。
首を傾げてきょとんとするリオン(中身シャルティエ)を前にひどい眩暈を覚える
。
「じゃあ、そっちのソーディアンには---」
『あぁ、僕だ』
僕って言われても見かけソーディアンなんだからさっぱりわからないわけですが。
リオンであることは明らかだったので黙っていた。
「一体どーしてこうなっちゃったわけ?」
「そんなことわかってたらこんなに慌てないよっ」
はい、そーでした。ごめんなさい。
「まぁ落ち着きなよ。
…それにしても困ったねぇ」
『お前はシャルを落ち着けたいのか、煽りたいのか、どっちだ』
コロコロ表情を変えるリオン(中身…以下略)をベッドの端に腰をかけてしげしげ見つめる
。
…ぷっ…
『…………………(怒)』
思わず口元に手をやって顔をそむけ、辛うじて笑いを堪えた
にシャルティエ(inリオン)は気づかない。
「そうなんだよね…このままだと旅に支障が出るし----
それに、僕が坊ちゃんになっちゃったら坊ちゃんの顔どーやって見ろっていうの-----!!?」
『っっっ!#』
「…鏡見れば」
そこに見えるだろうリオンは多少いつもとは違うと思うけど。
呆れながら暴走気味のシャルティエに教えてあげる。
そーいう問題でもない。
『とりあえず…シャル……その緩みきった顔はやめてくれ………』
なんだかものすごく力ない声でリオンが言った。
もう呆れきって疲れきって諦めきったような声である。
「え?どうしてです?」
『どうしてって…僕がそんな顔してたらいい笑い種だ!!』
自覚があるんだね、色々と。
「そんなこと無いと思うけどなぁ…」
「そうだね、リオンはどんな顔しててもステキだよ」
中身シャルティエだと思えば違和感より面白さが先立つというものである。
言葉の端にその感想がつい滲んでしまい、察したリオンに怒られた。
『妙なこと言ってるんじゃない!!!』
「じゃあ緩みきってない顔っていうと…?」
「こんな感じ?」
きらーん、と擬音がつきそうな勢いでシャルティエが不敵に微笑む。
いや、そもそもオリジナルは微笑まないから。
もうダメ。
『…………僕が悪かったよ……………』
笑い死にしそうな勢いで
がベッドに転がっていると完全に諦めきったかのようなリオンの声が届いた。
「(はぁはぁ)…と、とにかくみんなの所に行ってみる?」
と、シャルティエからシャルティエ…リオンを預かる。
どうにも、鞘に入れて腰から下げることなど恐れ多いらしい(そりゃマスターだし)。
腕に抱いて部屋を出るとシャルティエがまたリオンにあるまじき無邪気な顔で笑った。
シャルティエ…やはり私を笑い死にさせる気なのか…?
「坊ちゃん、役得だね!」
『…っ!うるさい』
余裕あるね、2人とも。
* * *
その足で隣のスタンの部屋に入った
は違和感を覚えていた。
ついさっき感じたばかりのよーな、またそれとも違うよーな。
「おはよう、…ディムロス?」
「…わかるのか」
なんていうかね、スタンにしては、キリリとし(すぎ)ている感じ。
「スタンは?」
「まだ寝ているようだ」
ベットの脇に立てかけられたままの『ディムロス』に視線が集まった。
こんな時まで寝起きが悪いとは全く幸せなことだ。
シャルティエがおずおずとしていると妙に物分りがよくて凛々しいスタンがその様子に気づく。
「まさか…リオンもか?」
「うん、笑えるでしょ」
『笑ってる場合か!!』
こうなるとフィリアとルーティも気になるところだ。
訝しみながらも2人の部屋へ行くとやはり。
「人間の体になるなんて天地戦争以前のことを思い出すようじゃな」
ジジイ口調のフィリア。
「一体何が原因なのかしら…」
冷静沈着、おまけに知的なルーティの姿があった。
「うそぉ!?なんで?
なんで皆してこーなるわけ!!?」
喜怒哀楽の激しいリオン。
「まったく。なぜ私がスタンの体になど入らなければならないんだ」
威圧的なスタン。
…………………………………。
そこには、先行き混迷を極めそうな光景が広がっていた。