どうせ仮面つけるんだったら
私じゃなくてもいいだろう!!!#
小休止
それは神の眼奪還後から次の事件が始まるまでの間に起こった。
ヒューゴ邸。
仲間たちは多忙なヒューゴになかなか会えず、報酬をもらい損ねたままのルーティになんとなくつきあう形でまだ、解散していない。
束の間の平和。
「ふ~ん、仮面パーティねぇ」
は『仮面』というニュアンスに笑いを覚えつつ、リオンの話に耳を傾けていた。
今夜、城で仮面舞踏会があるらしい。
さも、興味なさそうに話すリオンはいかにも参加が面倒だと言わんばかりだった。
それでも立場上出席しなければならないのが客員剣士の身分というものだ。
同様に表舞台の苦手な
はその気持ちがわからないでもない。
身分のある彼にやや同情しながらもやはり他人事な
は苦笑しながら次の言葉を待った。
「お前、僕の代わりに行って来い。」
「はぁ!?」
だがしかし。次の瞬間、彼はありえないことを平然と放っていた。
無関係と思っていたお鉢が見事に回ってきた。
半ば投げやりなマスターの言葉に続くシャルティエの声。
『あ、けっこういけるかも』
「なぜそうなる。」
『だって
って坊ちゃんと背格好似てるじゃない。髪の色も一緒だし…』
確かに。
は普段からあまり女性らしい格好を好まない。
髪も短く、動きもたおやかというよりしなやかで、そのせいかどこか中性的な雰囲気を持っている。
男装がいけるといえばいけるだろう。
というか、普段男物すら好んで着てしまうのだから見事に化ける可能性は否定は出来ない。
が。
話になるはずもなかった。
男装はともかく、そのシュチュエーションは無理だろう。
『だって仮面舞踏会(マスカレード)なんでしょ?だったら大丈夫だよ』
「そうだな、仮面をつけるんだからそれなりになんとかなるだろ」
「既に自分は行かない気、満々だね、リオン…」
単に『リオンの格好をした
』が見たくなってしまったシャルティエがおもしろそうに炊きつけた。
冗談が、本気になっていく瞬間
「でもね、絶・対いや!まして舞踏会なんて…冗談じゃない!!」
「大丈夫だ、踊りなんか断っても問題ない」
あぁ、とりつくヒマもなく誘いをかわすリオンの姿が目に見えるようだ…
「だからそうじゃなくて、ばれるって。」
だいたい仮面なんてつけていてもわかる人にはわかるものである。
あんなものはお互い詮索無しで、というお約束に過ぎない。
第一面識のない人間は騙せても見知った人間だったら…七将軍だっているはずだ。
ましてやリオンだと見て貴族のご令嬢などに寄って来られたらどうするのか。
さばく自信は、ない。
「…」
「…何を考えているんだ」
いや、むしろ開き直って「社交的かつ女性に優しいリオン」を演出してみるとか?
ありえない状況を思い描いて思わずにやりとしてしまう。
「やっぱりやめておく」
よからぬ気配を悟ったのかリオンは自ら代理案を却下した。
「その代わり─────お前、パートナーとして参加しろ」
「はぁ?」
「向こうに行くとうるさい奴らが多いから気乗りしなかいんだが……お前が一緒ならそれも減るだろう」
「ヤだ」
即答。
拒絶の言葉にリオンの顔が複雑にしかめられたことに、言うなりそっぽをむいてしまった
は気付かない。
「ドレス着るなんて冗談じゃない」
なんだ、理由はそっちか…
なぜか安堵したリオンの腰でシャルティエが小さく笑った。もちろんその後、マントの下で殴られて抗議の声もあがる。
「ドレス着るくらいいいだろう!」
「嫌」
「なぜそんなに嫌がるんだ!」
「じゃあリオン、着ろって言われたら着るの?!着られないでしょ!」
「当たり前だろ。なんで僕がそんなもの着なければならないんだ!」
「だから私だって嫌だ」
なにがだからだかわからない内に熱くなっている2人。とうとうリオンは実力行使に出た。
といってもせいぜい逃げようとする
を捕まえているくらいだが。
リオンは当初の目的を忘れ「意地でも着せる」くらいの勢いで
の腕をつかんで離さない。
「マリアン誘えばいいでしょう?!」
「どうしてそこでマリアンが出てくるんだっ」
「だって『仮面』だもん、メイドだろうがなんだろうが城と言う一種最高の舞台で踊れるよ?」
…。
はた、と動きが止まり、一瞬の間。
「…っ!お前は…っ」
「!うぁっ…と…っっ」
ドサリ。
ついにリオンが押し勝った。
おもわず一歩あとずさった
はそのままソファに足を取られ倒れこんでしまったのだ。
「とにかくいーやーだーーーーー!!!」
まだ言うか。
「いいかげん、観念しろ!!」
「ちょっとあんた…何してるのよ…」
ふいに後ろからかかった妙にテンションの低い声でリオンははっと振り返った。
部屋の入り口でルーティが唖然とこちらをみつめていた。そう、2人ともドアを開けたままあの会話を繰り出していたのである。
あまりにも騒がしいのでとおりすがったルーティが覗くと、これだ。
そこで初めて自分がどんな格好をしているのかに気付いた。
そう、
がじたじたと暴れるのでむしろ離せなくなったまま、
覆い被さったままのリオン。
「…!!」
「あっ、ルーティ…助けて!!」
全くこれっぽっちも他意のない
が放ったセリフは。
「あんた…サイテー」
「馬鹿者!勘違いするな!僕はっ…」
誤解を招くのには十分すぎるものだった。
その後、仲間の間で「リオンが
を無理やり押し倒した」という噂がまたたくまに広がったことは言うまでもない。