前回イレーヌさんちで黒い人に初めて出会ったと
発言したことを撤回します。
忘れてました。
もう既に、コイツは腹黒いと思っていた人物が
いたということを──────
恋のかけひき
~ VSウッドロウ~
「
君、もっとこちらに来たらどうだい?」
「エンリョします」
きっぱりはっきり断るとすらりとした手が後ろから伸びてくる。
その手をぴしゃりと叩き落す勢いで視線を投げかけると浅黒い肌、銀の髪のいわゆる美形が立っていた。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのだよ?」
と、何か、こっ恥ずかしいことを平然とのたもうた。
この人は自分を客観的に見たことがあるのだろうか。
は思わずにいられなかった。
「私にかまわずもっと女性らしい人に手を差し伸べてあげてください」
「私は君が気になって仕方がないのだよ。無理をしているのではないかとね」
スノーフリアを出て、ウッドロウを仲間にして以来、彼はなぜか
にターゲットを絞っていた。
これから氷の大河に入ろうというときに。
休憩したら余計に寒いとこぼした
のスキをついて魔手が伸びてきた。
っていうか、ねぇ。
あなたの好みのタイプはマリーさんじゃなかったのか?
なんで私?
よりにもよって何ゆえ私か。
…その至極まともな反応──他のメンバーにはない警戒心──がまたそそられるのだという事実に
は気づいていない。
「こんなに嫌々言ってんのになぜ、無理強いする?
セクハラだぞ?それ」
「逃げれば追いたくなるものだろう?
手に入らないものならなおさらだ。リ オン君も男ならわかるだろう?」
「僕に同意を求めるな」
話を振られてあからさまに嫌そうな顔をむけるリオン。
残念ながら
を擁護する為などではなく、心底素直な反応である。
「
さん、モテモテですわねv」
天然色ボケ女のような反応でフィリアがきゃっvと頬を赤くした。
スタンとマリーも微笑ましげな顔である。
この場合、微笑ましいのは2人じゃなくて見ているこっちが微笑ましくなりそうな暢気さってこと。
全くこの場合、歓迎できることじゃないんだけどね?
…。
「逃げれば追うなら、逃げなければ追われないのか」
の念押しのための質問。
「もちろん逃げなければ、その時は私のものだろう?」
「どっちにしたって何かしようって魂胆見え見えだーーーーーー!!!!」
のつっこみにも ははは、とマイペースな笑いで動じない。
…こいつ…『ライオン心理』を知っている。
・
・
・
説明しよう!
あるところにライオンとウサギがいました。
ライオンは食事にするためウサギを獲りました。
命乞いをするウサギに向かって戯れに言います。
「オレの考えていることを当ててみせたら、逃がしてやろう」
酷すぎです。心など、自分以外に覗けるわけがないのだから。
どう答えようとウサギがエサになるのは目に見えています。
勝ち誇るライオン。
そして、正にウサギが食べられようとした瞬間。
ウサギは言いました。
「貴方は今、私を食べようと思った!!」
…ライオン絶句。
そう、「その通り」と答えればウサギを逃がす約束を果たさねばならないし、
「違う」と答えようものなら自ら、食べようとしている事実を否定することになる。
つまり、どっちに答えようがウサギには有利なのである。
これが、ライオン心理。
・
・
・
は意を決したように真正面から見据えて言った。
目には目を。
この世界にはないであろうハムラビ法典による古の教えの元に。
「あなたは賢王として名だたるファンダリア国の王子。
まさかとは思いますが、国が…いや、世界が危機に陥ろうとしている のに、
グレバムに国をいいように使われそうになっているのに
私のような得体の知れない人間相手に戯れで愛を語ろうなどと愚かな行為は なさりませんよね?」
肯定ならば、そんなことしている場合じゃないと認めること。
否定ならば私はアホです、と自爆すること。
「そのまさかだね」
ガングロ王子は自ら地雷を踏んで撤去した。
「………………………っ!!!!!」
もとよりライオン心理を知っているやつに通じるわけはないのだが。
たじろぐライオンならまだ可愛い。
しかし。
こいつ、にっこり笑って結局ウサギをえさにするタイプだ。
それが黒たる所以だと今更再認識せざるを得ない。
自分の欲望に素直なのだ。
はっきりいってグレバム以上に恐ろしい。
手を変えてみた。
「あのさ、ほかにもっとステキな女の人いるでしょう?
私はそういう目で見られるのがイヤなんだけど」
そこはかとなく、きっぱり主張。
「そんなに卑下しなくても。
少年のような格好をしていても君は、か弱い女性に違いはないよ」
「だから腰に手をまわすな。万年発情男。」
「うわぁ!ダメだって
!!
仲間同士で争うなんて…哀しすぎるよ!!」
次第に
の口調も明確な毒を帯びていく。
その手に銃が握られたのを見て、スタンがわけのわからないことをのたまいながら止めにきた。
おかげでウッドロウの掌中から離れられたことには違いないので今回は、つっこまないでいてやろう。
「ふ、君は容赦ないな。そこもまた斬新で良いのだが」
「超ポジティブシンキング野郎ね」
唯一マトモに抗えそうなルーティも彼の人格を受け入れてしまったのでもうどこ吹く風である。
ここまでゴーイングマイウェイだと迷惑以外の何者でもないというのに…
という人身御供がいてこそのルーティたちにとっての安寧だった。
対して、
の場合は既にアレルギー反応にも等しい。
「次に触れたらぶっ放す…#」
「そんなふうに気丈な趣もまたいいな」
「リオンもなんとか言ってよ!」
「遊んでいる場合じゃない。お前たちはこれからグレバムを倒しにいくという実感があるのか?」
「ひ、ひどい!!こんなのと一括りにしなくてもっっっっ!!!」
『ちょっと坊ちゃん…本気で泣いてますよ』
「女性を泣かせるなど、まだまだ若いぞ、リオン君」
「ちょっと待て。どうして僕が責められなければならないんだ」
を泣かせた。
次々と非難の声がリオンに放たれる。
にしてみれば。
ここに来るまで一度たりとも涙など見せたことはなかったのに…
ウッドロウと一緒にされたのがなんだかとても情けなかった。
というか痴話げんかとして扱うなよ、コラ!!!!
いわば
は被害者な訳で。
なのにわかってくれないリオンが…なんだかとても哀しいというか、寂 しいというか、
…間もなく、怒りが湧いてきた。
┌──────コマンド──┐
| たたかう とくぎ │
| さくせん じゅもん │
| はなす アイテム |
|▼けしかける にげる |
└────────────┘
「さぁ、
君、傷心の君を私が慰めて───…」
「リオン、そんなこと言わないで。私とリオンの仲でしょうっっ!!」
巻き込み決定。
ウッドロウのたわ言をかわし、リオンにしがみついて肩に顔を埋めた
。
いつもだったらありえない口調で言うとリオンは明らかにうろたえた。
…
を泣かせた時点で既に動揺していたのは誰もが知っている事実だが。
「…ほほぅ?どんな仲だというのかな?」
案の定。
目の前の獲物を横取りされた形になったウッドロウの顔に不機嫌な色が浮かぶ。
「勘違いするな…っ!僕は!!」
「慰めてくれるならリオンじゃなくちゃイヤ」
「「……………!!!」」
が顔をうずめているのは自分の発言に笑いそう(もしくは吐きそう)になる表情を見せないが為なのだが効果は抜群であったらしい。
ウッドロウの矛先は見事にリオンへと向いた。
「
君、こんな王子様ルックの若造のどこがいいというんだ」
ピクリ。
売られたけんかにリオンも反応する。
「ガングロセクハラ王太子に言われたくないがな」
「ふっ。王子ではなく既に王なのだよ。天才少年剣士だか何だか知らないが、そんな無粋な手つきで彼女を扱うなど笑止だな。」
「僕が
をどう扱おうがお前の知ったことか。
僕らはお前が加わるよりずっと前から行動を共にしているんだからな」
…。
何気に恥ずかしいこといわれてませんか。
しかも勢いでリオンの手は
をしっかりと抱きかかえている。
これは偶然の役得なのでしょうか。
それとも単なるウッドロウ氏へのあてつけなのでしょうか。
とりあえず、誠心誠意を込めてかばってくれてるわけじゃないことは明確なので複雑な心境だ。
…けしかけておいて何だが。
「このパーティの指揮権は僕にある。何なら今からここへ残ってもらってもいいが?」
「ふ、そうすれば黙ってついていくのみだよ。君たちこそ、土地勘のある私を置いていって何の得があるというのかな」
「未だにレベル9の人間に言われたくないな。足手まといだ」
「たとえ戦闘のレベルが9でも人間的にはレベル120は下らないだろう」
いや、そんなこといってるお前の方が下らないから。
100点満点だといっているのに150点という点をつけるお子様のような発想に、
誰もがそう思ったが、誰もつっこまなかった。
「僕は、ガキのお守りをしているヒマはない」
「失言だな。一番の子供が誰か火を見るより明らかだろう」
「その子供より
に嫌われているとは笑止だな」
どーしよう(滝汗)
収拾つきません。
リオンも切れてきています。
というか、渦中であるはずの
の人権は無視され始めて久しい気がしないでもない。
誰か、
止めろ─────!!!!
いい加減、笑えなくなった
が震えていることに気づいてリオンは我に返った。
「おい…?」
「そもそもリオンがこんなのと一緒にするから───!!!」
「…悪かったよ。確かにこんなのと一緒にされたら気分も悪くなるな」
「とりあえず素直に謝るリオンにもつっこんでやりたいところだけど
あんたたち。
ラヴラヴなフリして何気に失礼な攻撃繰り出してるわよ?」
ルーティ、私たちに突っ込む前にそこにいる黒兄貴につっこみいれてくれよ。
ついでにリオンが我に返ったという表現は撤回します。
全く帰ってきてませんでした。
それどころか磨きをかけて攻撃に回ってます。
ラヴラヴ呼ばわりされたことを歯牙にもかけない様は、
ウッドロウを倒すことに全力投球しているのでそのためなら手段を問わずといったところ。
人間てここまで変われるものなんだね(遠い目)
「こんなグレバムより危険な男をほおって置けるわけがないだろう」
今ここでとどめを刺す、と言わんばかりに。
「セインガルドの天才客員剣士にライバル視して頂くとは光栄の限りだな」
バチリ、と2人の間に火花が散って見えたのは気のせいだろうか。
2人とも見た目クールなだけに、まわりに氷雪が吹き荒れているのも寒々しい。
パーティ内に新たな人間模様の構図ができあがった瞬間だった。
「どうしよう…?」
「ほっときなさいよ、その内飽きるでしょ」
「…。なんか、ルーティって凄いね」
まともな精神で我関せずな立場を取っているルーティを見ていると、確かにバカバカしいことに思える。
いや、そもそも私が狙われてたわけだけど。
すっかり矛先が変わった様子に、後ろ髪引かれる思いもありつつも
ルーティの言うとおりほっておくことにした。
結局、2人の対決は
野営をしなければならない時間まで
続いたという─────
誰か、止めろ。