『
は坊ちゃんのこと、どう思ってるの?』
それはシャルティエの暴走発言から始まった。
キリリク88888
戯曲(たわむれうた)
「はい?」
野営には早いが、適当な場所をみつけて泉の近くで休むことになった、とある道中。
日没まで時間があるのでいつもの訓練をつけてもらい、つい今しがた終わったところだ。
柔らかな泉畔の草地に倒れこむように手足を投げ出して休み始めると何の前触れもなく、木の根元に腰を掛けたばかりのリオンの手元でシャルティエがのたもーた。
思わずつっぷしたまま間抜けた声をあげる
。
あまりの急襲にリオンの時も止まっている。
『だから、坊ちゃんのことどう思っ…』
「いきなり何を言い出す!」
その、確認のための第二声はリオンによって妨げられた。
視線を落として叱責しているリオンとシャルティエを、顔だけ上げて見やる。
それから、ひじで上体を支え起こして
はシャルティエに応えた。
「それってさぁ…意味は特に無いんだよね?」
『うん。ただ聞いてみたかっただけなんだけど』
「そんなことを聞く必要はないだろう!!」
ふぅん?
だったら、まぁ。と
はのっけから質問自体に否定的なリオンは差し置き、疑問に答えることにした。
「仲間。…じゃダメなの?」
それ以上でもそれ以下でもなく。
そんなことわかりきってるだろうに。
うつぶせたまま片足をふらふらと宙に上げて、すっかりくつろぎモードな
。
でも他に言いようが無いし。
とりあえず、それでも言ってみた。
『ダメ。もっと他の言葉で何か無い?』
しかしありきたりな言葉はご所望ではないらしい。
一体、彼は私の口から何を言わせたいのだろうか。
他意はないといいながら、なにゆえ却下するのか。
があっさり答えたことで一度は沈黙したリオンも渋い顔をした。
「他の言葉って言われても…じゃあリオンにとって私は何なの?」
…。
間(ま)。
心底、他の言葉が出てこなかったので、話題をふってみた。
まさかお鉢が回ってくるとは思っていなかったのだろう。
リオンは驚いたような顔をして…それから更に間があって、視線が斜め下方に泳いだかと思うと少し眉が寄る。
なんなのと言われても。
「困るよね、普通」
考えることを放棄する寸前で
の方から匙を投げた。
何なのといわれても、なんなのさ。
そんな言葉しか思い浮かばない言った人と言われた人。
「仮にも成り行き上同行することになった人間相手に、そんなことを常日頃考えながら行動しているやつはいないだろう」
『せっかくの機会に考えてみてもいいじゃないですか』
「お前は、一体何が言いたいんだ?」
問いに対する答えとしては、己のボキャブラリーの貧困さは棚に上げてリオンが相変わらず渋面でいい加減にしろといいたそうだ。
『だから、聞いてみたいだけなんですってば』
スタート地点に戻った。
「仲間がダメなら…」
その一方で呟いた
に再び2人の視線(といってもシャルティエは気配だけだが)が向く。
肘を草地につけたまま頬杖をついて考えている
。
「真剣に考えるな、そんなこと」
「ん~トモダチ?」
『「「…………………」」』
リオンの制止も虚しく、辛うじて搾り出した言葉はあまりにもありふれていた。
反面…これっぽっちも的を射ていないと、発言した当の本人も思っている。
それどころか、これほど似合わない言葉があるんだろうか。
それぞれの思惑の元、時間が再び停止した。
「ごめん。私が悪かったよ」
沈黙を破ったのはまたもや
だった。
何かをつっこむ前に謝られたリオンは「全く」といった様子で溜息をついている。
は両手を投げ出してまた草地に頬を落とした。
その様子がお手上げじみて見えたらしく話が進みそうも無いことを悟ったリオンがもう一度溜息をつく。
たぶん、さっきとは違う意味なのだろうがよくわからない。
『なんで2人ともそう客観的かなぁ…気持ちなんて本来主観的なものですよ?もうちょっと考えてみてもいいでしょう!?』
「ちょっと待て。なぜ僕がお前に怒られなければならないんだ。」
『別に怒ってません』
たぶん、自分でもよくわかってないんだろうな。
なんとなくシャルティエは勢いでしゃべってるっぽい。
…その先はいじけている、と言うのかもしれない。
明らかにむっとしたリオンの前でふん、と横を向いたシャルティエの大人気ない姿が見えた気がして
は思わずぷっと噴出した。
くくっとそのまま草の褥に顔をうずめて笑いを耐えていると釈然としない視線を感じる。
それでいよいよおかしくなった。
『
…笑い事じゃなくて…君にも言ったつもりなんだけど…?』
「だって…じゃあ、シャルティエは同じこと聞かれたらすぐに答えられる?」
えっ?という呟きに続いて思考の間が沈黙を埋めた。
はシャルティエにとって、やはり仲間…というのとは少し違う。
シャルティエにとって仲間と言うのはディムロスやアトワイトたちのような存在であり、彼女はもっと個人的な感情の部分で身近な感じがしないでもない。
かといって友達、というのはどうだろう?
─────同胞。これも違う。
恋人。…残念ながら問題外だ。
シャルティエが行き着く先に困って意識を再び外へ向けると ほら見ろ、とばかりのマスターの視線があった。
…なんとなく悔しい。
「まぁ…なんでもかんでも言葉にしろって方が難しいよ。
私にとっては…何にしても2人とも特別だから。」
うん、それは間違いない。
と、ちゃっかりその間に自分の気持ちを整理していたらしい
が涼しげな笑みで言い切った。
そして一人で完結している。
特別、という言葉に安堵と悦びをにじませる気配のシャルティエ。一方、リオンは無情に意見した。
「お前にとっては他のヤツらも皆、特別なんだろうが」
「うん」
あっさり。
そんなことは知っている。
記憶が無い(あるいは今は何も無いといっている)人間にとって、その後新たに得たものはさぞかし大切なものだろう。
『あれ?坊ちゃん、妬いてるんですか』
「………………だからどうしてそうなる………?」
素なんだか、からかっているんだかわからないシャルティエの発言にリオンの顔が静かな怒りと共に下方へ沈んだ。
たぶん、素だからタチが悪いのだろうけど。
その辺にしておかないと。
リオンも素で泉にシャルティエを放り込み兼ねない気がする。
──────それはそれで見てみてみたい気もするが。
はそんなことを考えながら、草地にごろりと仰向けになった。
泉の上を渡ってくる風は涼しいし、木漏れ日ごしに見える空も今日は青くて綺麗だ。
ひらりと眼前を横切った黄色い蝶を目で追っているとリオンの呆れた声が耳に届いた。
「…お前…何、1人で蚊帳の外を決め込んでいるんだ…?」
つい今しがたまで会話の中心人物であったはずだが。
気づけば何食わぬ顔で、シャルティエとリオンのやりとりを視界の端に眺めている
。
「元はお前が聞かれたことだぞ。しっかり最後までシャルの相手をしろ」
…自分が相手をするのが面倒になっただけのクセに。
この2人の沈黙は雄弁だ。
言葉の底でお互い器用に意志の疎通を図りながらシャルティエをめぐって話が回る。
「だから、きちんと答えたでしょ。仲間以外だったら『特別だ』って。それでいいんでしょ、シャル」
『うん。ついでに坊ちゃんの気持ちも聞きたいな』
「僕はついでか」
聞かれたら聞かれたで嫌な顔をするのに、ついで扱いでも思い切り不満そうなリオン。
…難しい人だ。
いや、結局つきあいがいい、というのだろうか。
くるくると思想を回す
は、2人を見ているだけでも飽きなかったりする。
「わかった、ちょっと待て」
しかし、気をとりなおしたようにリオンは考え出した。
答えないと収拾がつかないことに気づいたのだろう。
しかし、こうなると答えることが目的ではなく、切り抜けることが目的になるわけだからまっとうな問答など期待は出来ない。
そんなこと
がすでにやってみせたことなのだが。
ちなみに、
の場合はまがりなりにもウソがつけないので当たり障り無く微妙な点をついてみたりする。
「あぁ。僕も的確な表現がみつかったぞ」
「何?」
リオンの開き直っている態度を見れば、どうせきっぱり連れないことを言い切るんだろう。
しかし、それでも好奇心が先立って楽しそうに
は尋ねた。
「ただの連れだ」
「………」
先立ったものが大きかった分、結構痛い(いろんな意味で)。
再び、溜息と共に
はつっぷした。珍しくがっくりと。
「あーあ、もう薄情なんだから~」
「初めからただの連れなのだから薄情も何も無いだろう」
『そういう言い方はないでしょう?』
自身よりもシャルティエの方がブーイングを送っている。
きっとそれは、シャルティエの期待した答えとは程遠いものだったのだろう。
…そもそもポジティブな方向へ期待する方がどうかと思う。
まぁ、それがこの2人の面白いところなのだろう。
再び、始まったテンションの異なるやりとりをながめつつ
はふと、上機嫌な笑みで口元を飾った。
「いいよ、ただの連れなら連れらしく…
どこまでも連れ立っていってもらうから」
「!」
目的も無く、着いてきていると言うことはつまり。
目的が達成されても別れる理由にはならない、ということかもしれない。
その激しく裏をついた見解に気づいた
は、言葉を失ったリオンに涼しげな笑みを送った。
いわんとしていることは理解したんだろう。
リオンは顔色を変えて驚いたように
を見て、それから眉を寄せた。
勝った(笑)
『あ、それいいですね。せっかくだから旅が終わって記憶が戻らなかったらダリルシェイドにいてもらったらどうですか?』
「いてもらったらという表現がそもそもおかしいだろ」
『なんでもいいですよ。僕はその方が楽しいなぁ』
…やはり勢いだけでしゃべっとるな、こいつ。
何を言っても無駄そうだった。
そうなると、呆れた溜息を送るしかないリオン。
爽やかな風が泉を渡って、束の間の休息はどこか倦怠に、のどやかに過ぎていった。
あとがき**
春凪 秋さんキリリク88888HIT
お題「リオン、ヒロイン、シャルティエのほのぼの会話」。
ひたすら会話です。春凪さんがリクの際『暴走発言あってこそシャルティエ』と言われたので
こうなりました(まんま。)暴走しているかどうかは謎ですが…
舞台も水辺の草地でロケーションは最高です!(←?)
正直書いてる最中、この2人を表現できる関係は思い当たりませんでした。
今考えると…り、理解者…?(恐々)