あまりにも戻らないので、カルバレイスに遊びに来ました。
騒乱の予感
-夏の動揺編-
「夏だねぇ」
「あぁ、夏だな」
「真夏の暑さを体感するなんて…初めてかも」
『お前ら、いい加減に逃避から帰ってこい!!』
ディムロスの入ったスタンと、シャルティエの入ったリオンと並んで海を見ていると怒られた。
ノイシュタットでは埒が明かないと移動してきた次第である。
着いたのがセインガルドではなくカルバレイスに来たのは単に船がそちらの方が早く手配できたからだ。
元に戻る手がかりがないならどこで情報収集してもいいわけで。
とりあえずバルックにも解決策を打診しようと言うわけである。
しかし、暑い。
天地戦争時代を生きたソーディアンたちは当然生身でこんな暑さなど経験したことがないのだろう(クレメンテ以外は)。
彼らはどこか新鮮そうで、どこか物見遊山のノリでもあった。
「ふぅぅ~ワシはもうダメじゃ」
「ちょっとクレメンテ。あっさりダウンしないでよ」
『だ、大丈夫ですか?クレメンテ様!』
「私が診るわ」
「さすが主治医だね」
既に何のパーティ何だかわからない。
こんな時はスタンとルーティがぎゃいぎゃい騒ぎそうだが、あまりにもうるさかったため今は道具袋の奥底に封印されている(酷)。
ディムロスもアトワイトも侮れない性格である。
フィリアはクレメンテが携帯しているが、話す調子からしてもうどっちがマスター人格だかわからない状態だ。
マスターとして、自覚のあるリオンはひたすら沈痛な溜息をついた。
それでも彼はまだましなのである。ソーディアン…シャルティエに主従関係の自覚があるのだから。
ディムロスとアトワイトなどもう勝手知ったるなんとやら。
まぁ前述したように、マスターを封印したくらいだから。多くを語る必要はないだろう。
「ディムロス、パイナップル食べる?天地戦争時代じゃ南国植物は育たないだろ~」
「あぁ、ハロルドが何か育ててたみたいだが、育ちきる前に戦争は終わったしな」
「あればっかりは誰にも被害が及ばなくてよかったよね」
突っ込みどころが多いが、
は「ハロルド」がどんな人物だか知っているので頓着しない。
法外な値段をふっかけられたがアトワイトがカルバレイス出身だとうそぶくとあっさり出店のおばちゃんは正規価格に戻してくれた。
ルーティの顔してしゃあしゃあとにこやかに微笑む顔ったらない。
『ふふふ、皆さん楽しそうですわね』
『……………………………』
フィリアは天然振りを発揮してもうこのままソーディアンでも問題ないんじゃないか、とさえ思わせる。リオンは孤軍奮闘の立場だった。
波打ち際の木陰でクレメンテを休ませている間に、ソーディアンたちは常夏を堪能している。
「リオーーーン!!」
「うわっ」
ばしゃあ!!
後ろから
に背中を押されて海につっこむシャルティエ。
『お前はなぜこういうときに僕の名前で呼ぶんだ………?#』
「短くて呼びやすいから」
『……………##』
そんなに強く押した覚えはないんだけど。
が予想外にずぶぬれになってしまった間抜けたその姿に視線を落とすとディムロスが渋い顔で寄って来る。
「シャルティエ…お前そのくらいよけられないとは、腕が鈍ってるんじゃないのか?」
それはソーディアンと生身の体じゃ気の使い方も違うだろう。
ディムロスは軍人時代に戻ったかのようにシャルティエを見下ろしつつ鋭い眼光を放った。
「久々に特訓するか?」
「やめてよ。このメンバーじゃ油断もするってば」
さながら怖いスタンだ。
はその後ろに回りこんで、今度こそ思い切り突き飛ばす。
腕の力ではたかが知れているので蹴りを入れてみた。
「ぐわ!!」
ばしゃーーーん!
鎧の重さも合いまって、バランスを崩したディムロスは見事に浜辺につっこんだ。
「ふふ!ディムロス油断大敵ね?」
「く…まさかそうくるとは…」
「ほら、
て何気に気配が無いからわからないんだよ」
波打ち際でほかほか地球家族(何?)みたいな展開。
なんなんだ、この和みっぷりは。
『
…、お前そんなにはしゃぐ人間だったか…?』
「うーん?なんでかね。ディムロスやシャルティエなら何やっても許される気がして(特にディムロス)。」
「私が許してあげるわ。
、少ししごいてやって」
にこやかなアトワイト。
は、思わぬ許可にふふふ、と不敵な笑みを漏らしている。
『こら、いい加減にしろ!』
2人ならまだいい。シャルティエが話を聞く。
しかし、今、リオンの静止に動じるものはいない─────
そりゃそうである。
アトワイトもディムロスも主従関係というより保護者的立場なのだから、リオン1人がいくら言っても彼らはひたすら「大人」なんである。
言うことなんて聞きゃしない。
立派に「自立した」わがままなおとなっぷりである。
で。
何だかわからない内に彼らは町の外までやってきた。
ダウンしたクレメンテは宿に置き放してモンスター退治である。
『どうしてこんなことしなければならないんだ…』
「先立つものも必要よ。バルックさんにはお世話になりっぱなしだし…人助けも兼ねられるでしょう?」
言ってることはルーティと同じだろうのにアトワイトが言うと見事に合理性と博愛主義をともなって聞こえるのは何故だろう。
当面の宿代にレンズハント兼人々を脅かすモンスター退治という名目の元、彼らは町から西の溶岩地帯へとやってきていた。
「シャルティエの訓練も兼ねてだな」
「!?そんなこと聞いてないよ!」
「人間の体での戦闘は久々だ。腕が鳴る。」
ディムロスが異様に上機嫌で、しかもシャルティエの反論など聞いちゃいない様子だ。
そんなにモンスター退治が楽しみなのだろうか。
「それにしても…暑いよ」
ある意味、マスターよりも気力満々で元気そうに見えるオリジナルメンバーに気圧されつつ
。
そりゃ暑いだろう。TOD2でカイルとリアラしか通らないようなところへまさか自分が来るとは思いもしなかった。
「今回は私たちに任せておいて。
は適当に見物していてくれていいわ」
「そうする」
「む、来たぞ!」
そんなことを話していると早速モンスターが現われる。
この辺りは見通しがいいからなかなか遭遇率は高い。
向かってきたモンスターに臨戦体勢に入る。と、
「「…」」
ふいにディムロスとアトワイトは不自然な沈黙を落とした。
「どしたの?」
「シャルティエ、行け!」
「なんで僕だけ!?」
「剣を忘れた」
『「………………………………。」』
なんて間抜けさだ。
それでも突撃兵の異名を持っていたのか?
明らかに同じ意味の沈黙をリオンと
が繰り出している。
「アトワイトも!?」
「うるさくてスタンとルーティ、皮袋に入れておいたのをそのまま宿に置いてきちゃったのよ」
本気で酷い扱い。
今更同情の気持ちが湧き上がった。
『お前らな…』
「く、せっかく炎の晶術を披露してやろうと楽しみにしていたものを…!!」
「ヤだよ、こんなに暑いところで熱血晶術かまされたら」
本気で嫌そうな
。そういう問題でもない。
「まぁいいわ。はじめからシャルティエに活を入れてもらおうと思ってたんだから」
いやいや、アトワイト。
さっき『私たちにまかせて』とか言ってなかったか?
初めからシャル1人にやらせる気だった!?
…色々突っ込みどころの多い人々だ。
『アテにならん、やるぞシャル!』
「は、はいぃっ!」
怒気をはらんだリオンの声に1人で向かっては見るものの。
「…」
「「「シャルティエ?」」」
銀の刀身を眼前に構えたままフリーズしているシャルティエ。
のんきなディムロスたちの声は別としてモンスターは迫っている。
「なんか…すっごくやりづらいんですけど…」
情けない笑い顔で構えたまま振り返ってシャルティエは同意を求めた。
ソーディアンを使うには心理的要件が大きく威力を左右する。
リオン=主を使う。逆転した立場に彼は全く能力を発揮できそうにない。
「そんなこと言っとらんで、きっちり同調させんか!!」
「む、無理だよ!!坊ちゃん使うなんて恐れ多くて…!!」
「リオン、シャルティエときっちり主従関係を築いていたことが仇になったね」
そうでないならそうでないでルーティ・アトワイト、スタン・ディムロスのように「使えない」コンビなのだからいずれにしても救えない、と次の瞬間、誰もが思う。
せめてフィリアだったらソーディアンとしての役目を全うしそうなものだが…置いてきているのだから後の祭りだ。
『なんでもいいから晶術で狙え!あの数で来られたらそこの役立たずどもともどもやられかねんぞ!!』
よほど、ソーディアンメンバーに不満が溜まっていたらしいリオンが吠えている。
天地戦争時代の英傑ぶりが見る影すらないので無理も無かろう。
「体術くらいは使えるぞ!」
「…私は流石にむりかしら」
「あーもぅっ!埒あかない!!」
『!?』
大挙しそうなモンスターを前にそう、シャルティエの手からソーディアンをひったくったのは
だった。
「シャルはこっち!リオン、晶術の使い方は!?」
「えぇえっ!?」
自分の剣をシャルティエに放って、リオンに訊く
。
「なるほど、資質があれば使えないわけじゃないからな」
「要は同調率の問題だものね」
すっかり傍観者なディムロスとアトワイトをよそに
は短いレクチャーの元、晶術を放った。
「サンダーブレイド!!」
ドォォン!!
大地に走った雷と共にモンスター、一網打尽───
「あら、頼もしいわね」
「いや、それ以前に…なぜシャルティエでサンダーブレイド?」
「???」
何があっても動じそうも無いアトワイトの横で眉を顰めるディムロス。そして、ひたすら混乱するシャルティエ。
「ディスクつけたんだよ。グレイブじゃ仕留められそうも無かったから」
『いや、今の調子ならプレスくらいはいけるぞ。』
「ふぅむ。今の判断力と瞬間的なコンセントレーションはシャルティエより上だ」
珍しく感心するリオンの横でディムロスが興味深げに顎に手をからめて
を見下ろしている。
…改めて何だけど、こういうスタンて違和感あるよね。
「集中力も何だけど、シンクロ率が異様に高くなかった?」
「…シンクロ率って集中力と違うの?」
「こればかりは相性だな。オリジナルメンバーは自分自身だったから遺憾なく発揮できたわけだ。マスターの違う今は、一方向でどうにかなろうと言うものではない。」
「マスターが動揺すれば、ソーディアンの力は引き出せないし、その逆も影響大よ」
「ふーん」
なぜかレクチャーの始まるその手元で沈黙しているリオン。
図らずしも相性が良いなどと言われたら彼にしてみれば、言うべき言葉もなくなるのだろう。
…でも、共通の敵に対する集中力ってことだと思うけど。
冷静に理解を進める
。
そして、ふと黙りこくるシャルティエに気づいた。
「…シャル?」
「…。」
「なにいじけてる」
「………………」
ディムロス、はっきり言い過ぎ!!!!
ますます沈みそうになったシャルティエをひっぱりあげようと試みるが効果はあまりなさそうだ。
「仕方ないよ、シャルがリオン使ってたら変だし!!」
『今ごろ気づくな、馬鹿者』
関係ないところから怒られた。
「まぁあなたたちは本当に主従関係だから…無理も無いわ」
「アトワイト、そんな甘いことを言ってもしょうがないだろう」
辛口だね、ディムロス中将。
「人には役割と言うものがあるのよ。私たちだって、スタンやルーティを使うにはそれはそれは苦 労すると思うわよ」
「意味はかなり違うがな」
妙に物を含んだ言いように妙に納得しているディムロス。
改めて考えると、彼らがソーディアンとしての自覚の上に成立っている関係でありそれを彼らに求めても難しいのだろう。
いかに彼ら自身が優れていても、ソーディアンが落ち着きの無いことには…(それも酷い)。
「そういう点ではリオン(INシャルティエ)は使えるわ。シャルティエ、優れたマスターでいいわね」
「そ、そう?」
「あぁ。それにお前のマスターと
が相性がいいのは悪いことか?むしろ喜ぶべきことじゃないのか?」
『な…っどうして僕たちの相性がいいのが喜ばしいんだ!!』
いや、単に2人ともシャルティエをいいように扱いだそうとし ているだけだと思うよ?リオン。
証拠にシャルティエはあっさり丸め込まれ… 持ち直しそうだった。
「そっか…そうだよね。シンクロ率が高いなんて相性いいことが実証されたようなものだし」
『だからなぜそうなる!?』
こうなると一体誰がターゲッティングされているんだかわからなくなる。
まぁいいや。なんでも。
丸く収まれば。
は傍観を決め込んでいた。
相性とか言うより、やっぱり共通の対象物へのコンセントレーションの問題だと思う。
「じゃあしばらくは
がシャルティエ(リオン)を使うといいわ」
「うん、僕も坊ちゃんだと携行し辛いし」
「地・闇属性は、合わない気もしないでもないがディスクでも十分カバーできるだろ」
『お前ら結局自分たちがやる気ないだけだろ…』
むしろこの一件で、リオンの方が落ち着きがなくなってしまったので今モンスターに襲われても駆逐できるか怪しいものだが。
大人の余裕かハイパーマイペースなソーディアンメンバーに、
ただただリオンの溜息だけが痛々しかった。