FAMILY GAME
は客間でヒューゴと話をしていた。
といっても他愛のない話だ。
考古学だったりオベロン社の技術の話だったり。
ごく普通に、雄弁に語るヒューゴの話はおもしろい。
その横でリオンはよくもそんな話(ヒューゴの話は皆たわごとに聞こえるんだろう)を真面目に聞いていられるものだという顔で黙りこくっている。
「それでだな、わが社としてはイメージは大切にしているのだ」
「そうですね、一流企業のイメージは大事ですよね」
なんのことはない。
世間話になった。と、思ったのが間違いだった。
ヒューゴは満足したようにうんうんとにこやかにうなづいた。
「それで、君はイメージキャラでもしてみる気はないかね」
「「は?」」
あまりにも唐突にふってわいた話にリオンの声も重なる。
しかし美貌のおっさんは聞いちゃいない。
「知ってのとおり、リオンは天才少年剣士として名を馳せている。
私が言うのも何だが、顔もいいだろう。客員剣士としてだけではなく色々な意味でオベロン社に大きな貢献をしてくれているのだが」
「あぁ。宣伝としても最高の逸材ですね」
ヒューゴの言葉で、自分の意図しない効果を上げていることを知らしめられ、リオンの眉がやや寄せられる。
そして の言葉で微妙に切れる寸前を伺わせるかのように俯いて、彼はテーブルの下で拳を握り締めた。
しかし、無情にも話は続いている。
「しかし、もちろん本業は剣士…大々的に何かやらせるわけにもいかずにな」
───本人の意思、無視ですね。
「まぁ、このままでも話題性は十分だろう。
と思っていたところ、君がここへ来て気が変わってしまってね。」
「と、言うと?」
「今まで周りが年の離れた大人ばかりだから、考え付きもしなかったのだが…
君はなかなか見栄えのいい姿をしているからリオンと一緒に一度、社外報にでも出…」
「ヒューゴ様」
何か、もの凄く「様」をとってつけた感じでリオンが止めた。
それからふ、とにこやかに微笑んで一言だけたしなめる。
「戯れは程ほどに」
明らかに怒気を含んでいるのだが。
ヒューゴは全く気にしていないようだった(大物)。
「オベロン社の役割も大詰めだ。私は戯れのつもりなどない。大体ベルクラン…」
「一般人を機密事項に巻き込むな!!#」
ヒューゴ様。
今、ベルクラントとか言いかけなかった?
それ以前に会話がとびまくってて支離滅裂ですから。
リオンが部下にあるまじき口調に変わったところも気になるのがつっこみどころが多すぎて一体どこに焦点を絞ってよいものやら既にわからない。
はじっと会話の落ち着く先を伺っている。
「一般人といっても彼女は既に手を貸してくれているのだから…
しかも同じ屋敷に住み込んで、こうして私の話し相手になってくれるわ、お前の稽古の相手になってくれるは…もう家族のようなものだろう!?」
「どういう飛躍の仕方だ!!」
「…」
容赦の無い指摘で、しばらくお子様のごとくすねたように黙り込んだヒューゴはふいに不敵に口元をゆがめナイスミドルな渋い声でこう言った。
「ほう?私の考えに反抗か。マリアンがどうなってもいいのかな」
「…!」
「私は別に良いのだよ。手伝ってくれるものは他にもいるのだから」
「く…汚いやつめっ」
いやいやいや、今何か物凄い不自然じゃなかったか?!
そもそもそこは、そんなシリアスに切り替わるところじゃないから!!
リオンもそこで真面目につきあっているんじゃない。
しかし彼らにとってはこれが茶飯事なのか、そのままシリアスムードを保って話題は次に持ち込まれた。
「そう、君と我々は大きなつながりを持ってしまった。だからこそ近しい者として迎えさせて欲しいのだよ。
その証にひとつ、君の任務で重要なことを教えておこう」
リオン、何か見えない圧力に抑えられるように動く気配なし。
攻撃的な目で見ながらもやむを得ずといった感じだ。
「実はリオンは私の息子なのだ」
…。
「えぇっ!!」
っていうか、いいのか、ここで私にぶちまけて。
そもそもそれ以前にこの会話の流れで行き着く先はそこでいいのか?
任務とどう関係あると?
一瞬遅れて驚いた方向性は、彼の予期していたものと違っていたのだろうが、ヒューゴはその反応に満足したようだった。
「ふふ、大企業の総帥の息子などといえば、その肩書きだけで物事を測る輩も多い。
だから、もうひとつ名前を与えて隠しているんだよ。
エミリオにはその腕だけでも十分な評価を得るだろうと信用しているからね」
「あぁ、それは立派なお考えですね」
にこやかに微笑んだヒューゴにリオンは物凄く嫌そうな顔をしている。
何だかこの瞬間、また唐突に当たり障りのない普通の総帥っぽい会話に戻っていた。
…ねぇつい今しがたのシリアスムードは何だったのかな。(嵐みたいなもの?)
「改めて言うのも何だが、本当に頭も良くてできた息子でね」
「は、はぁ」
「時々反抗的で、困ったものだが…まぁ年頃なのだからしょうがな────」
「年齢のせいではなく貴様のせいだ#」
耐えかねたようにリオンが参戦(?)してきた。
「私のせいなのか!?…じゃあ今から素直に従ってくれるにはどうしたらいいと!!?」
「貴様…僕にケンカを売っているのか…?」
「まさか。
エミリオが素直に私の言うことを聞いてくれるなら何でもしよう!…金と権力でできること限定で。」
「…。」
そんなことだから息子がこうなってしまったのだと思うのですが?
リオンの苦労が見えたようで泣けてきそうだ。
「ちなみにいくらお前の頼みでもマリアンは開放できんぞ」
「根本的に性根を入れ替えろ」
「そんな口ばかりきいて…たまには団欒をしたいと思う父の気持ちがわからないのか!?」
リオン、ついに無視。
「エミリオ」
「…」
「エミリオ」
ヒューゴ様はしつこく子息の名を呼んでいる。
「僕はリオンだ。そんな名前は知らないな」
実はその名前(※エミリオ)の方が嫌いなんじゃないかと言うくらいの勢いで否定した。
誰かに呼んで欲しいどころか呼ぶなとは。
いろんな意味を込めてちょっと予想外の展開である。
そもそもヒューゴの性格がおかしいじゃないか。
…これってミクトランなの?ヒューゴなの?
と言うところで微妙なことこの上ない。
しかもどう見ても、さっきからリオンの方が優勢なのだが。
ヒューゴは寂しそうな顔をすると
「そんな冷たいことを言わないでくれ。たった2人の親子だろう!?」
「貴様など親だと思ったことはない」
あっさりあしらわられた。
「…やはり父子家庭がまずかったのだろうか?」
視線も合わせないその様に心底困ったようにヒューゴは溜息。
もっと他に問題があると思います。
きっと今彼は「いっそ天涯孤独の方がマシだ」とでも思っているだろう。
「下らん話なら僕はもう下がるぞ」
「あっ?まだ話が途ちゅ…」
バタン。
リオンは上司の言うことに耳も貸さずに出て行った。
…。
で?私はどうしたらいいんだろう?
なんだかどっちに同情していいんだかわからずとりあえず息子を溺愛してそうな父を慰める気持ちで話しかけた。
「ヒューゴさん…紅茶のおかわりします?」
「あぁ、ありがとう。ははは、娘がいたらこんな感じかな」
その娘を自分で捨てといて何を言う?
オベロン社の総帥の正体について、一石を投じられた瞬間だった。