風が冷たくなってきました。
騒乱の予感 - 秋の動向編 -
「秋といえば…月見だね」
『だからなぜアクアヴェイルなんだ…?』
ソーディアンズの「どうせだったら行きたいところへ行こう」という意図をひしひしと感じるようになった昨今。
ほのかな怒りを滲ませつつ言うリオンの声は、だがどこか諦めムードでもある。
マスターとソーディアンの人格が交替すること、早数週間、
彼らはこの島国の異文化をとことん満喫中であった。
『月見なんて、他の国でもできるだろうが。こんな辺境の島国まで来ることが信じられん』
「といいつつ、自力で移動できないのはどういう気分かな、リオン」
『くっ…』
ここしばらく開き直っているのかディムロスの横柄な口振りに、リオンの気配には屈辱すら感じて止まない。
それでもシャルティエだけはまだまだマスターを尊重した態度なのが不幸中の幸いだ。
「坊ちゃん…僕らの時代にはこんな独自文化の国はなかったんですよ。
ちょっとくらいいいじゃないですか」
『…』
稀に悪意の無いマイペースな発言もするのがたまに傷なのだが。
「アクアヴェイルは四季を尊重する国だからね。紅葉がキレイだよ」
『そんなものはセインガルドでも見られる』
「でも浴衣姿はセインガルドじゃ滅多にお目にかかれませんよ」
ホントに何しに来たんだ(→観光)と言いたいくらい、彼らは温泉宿に逗留してちゃっかり浴衣姿だったりする。
宿の縁側にたむろって和風な庭園を皆で眺めていた。
「月見の他に、何ができるかしら」
珍しくわくわくした様子のアトワイト(inルーティ)。
「これくらいの寒さだと露天風呂もいいのう」
既に極楽気分にトリップ中のクレメンテ(inフィリア)
「もうすぐ鍋の季節です」
『それまで僕らに滞在しろと…?』
「湯治、って一回やってみたかったんだよね」
「そりゃいいのう」
湯治しなければならないほど不健康ではないだろう
の発言にクレメンテは本気で相づちを打っている。
彼女はもっぱら中立でソーディアンがマスターの体に入っていようが元々のマスターだろうがどっちでもいいという感
じだ。
態度が変わらないといえば聞こえはいいが…
タチがいいのだか悪いのだかは微妙なところ。
ちなみに、普段の移動時は携行されているスタン(inディムロス)とルーティ(以下略)だがこういう時は部屋へと置き去りにされている。
さすがに毎度騒ぐことはなくなったながら、こういう時は何かにつけて不平不満が叫びになるからである。
ソーディアンメンバーは意外に御都合主義だ。
「ティベリウスの起こした戦、直後で客はいないようじゃし…混浴するかのv」
「「黙れ、エロじじい」」
今の男性陣のハモリにアトワイトも混じっていたのは結構恐い事実である。
「混浴も何も…フィリアの体だしどっちにしても男湯には入れないよ?クレメンテ老」
「それは楽しみじゃ」
「『「おい#」』」
普段の入浴は唯一フィリアにとっての災難なのだろうがそこまで面倒見きれない。
「秋っていってもさぁ…結構寒いね。」
『高山は冠雪しているくらいなのだから当然だろう』
木の葉はきれいな紅色で、もう冬の取っかかりだ。
さぞかし露天風呂は気持ちよかろうと思いつつ冷たくなってきた風に自分の肩をなでながら部屋へと入ることにした。
夕飯の時間になると、鍋が出る。
一泊目にして冬といわず、ナイスなタイミングだ。
アクアヴェイル近海の新鮮な海産物が盛り込まれていた。
「おいし~v」
『ちょっと!あてつけがましく食べてるんじゃないわよ!!』
と、食事が始まっての第二声はいきなりルーティからの怒声。
こんな時ばかり彼らはソーディアンズの動向の見える場所に置かれている。
あてつけがましいというよりあてつけなのだろう。
『あ~あ、オレたちだってそんなにゆっくりおいしいものなんて食べなかったのにさぁ…』
スタンの声は呆れにも似た深い哀しみに包まれている。
「そうだろう。スタン、ソーディアンの辛さがよくわかったか?」
「食べ物で辛さってディムロス、けっこう食い意地張ってるんだね」
「…」
おもわぬところで
から痛いつっこみを受けているディムロス=ティンバー(元)中将。
悪意がないので怒れない。
その横でもくもくとしあわせ一杯箸を運んでいるのがシャルティエだ。
正面からじっとそれをみつめているアトワイト。
「どうしたの、アトワイト?」
「なんだか…萌えvって感じよね」
『「「…………………………(滝汗)」」』
遂に出たか、その単語が。
いつか誰か(って誰)から発せられるのではと心配していた発言に、一瞬にして暖かい鍋を囲んでいた一同の箸が止まった。
それが何を示しているのかわからない人間も相当数いるのだが、雰囲気だけでなんとはなしに伝わっているこの現状は、早いところ何とかしてほしいもので
ある。
「リオン…」
『何も言うな』
「え?どうかした?」
シャルティエ、食べることに真剣で聞いてなかった模様。
「なんでもない…シャル、こっちのつみれ食べてみる?」
「うんv」
「「「……」」」
改めて『リオン(のカッコしたシャルティエ)がにこやかに微笑みかつ人当たりがいい様』に違和感を覚えるメンバーと約1名、そんなシチュエーションに
ものすごく機嫌がよい人間が、その後しばらく室内に不可思議な空気を織り成していた。