※前回までのあらすじ:ソーディアンマスターとソーディアンが入れ替わっています。
とうとう季節、ひとまわり。
騒乱の予感
- 冬の完結編 -
雪と言えば…ファンダリアに決まっている。
ノイシュタットで春を
カルバレイスで夏を
そしてアクアヴェイルで秋を堪能したソーディアンマスターたちはついに季節を一巡する勢いで白銀の大地へとやってきていた。
実際は、こちらが国を移動して回っているので1年は経っていないのだが
『…』
リオンにしてみると1日千秋の思いであろう。
ところがいざスノーフリアへとやってきたメンバーと言えば、思ったほどは浮かれていない。
理由は単純だった。
「しかし、雪は天地戦争時代で見飽きているから堪能すると言うほどでもないな」
要するに見慣れているのである。
ついでに当時の嫌なことまで思い出をひっそりと掘り起こしてしまった模様だ。
「そうかしら。あの頃は塵交じりでもっと灰色の雪だったじゃない」
アトワイトが白い息を吐きながら清々しそうな声で言う。
それも暗闇に包まれた極寒の光景であり、麗しいなどという情緒とは程遠かったに違いない。
「そうだよ~戦争中じゃ雪で遊ぼう、なんて気にはならなかったじゃないか。面子的にも」
…さりげに爆弾発言を繰り出しているシャルティエ。
当時のこの面子にご不満があったのか。
今となっては地位も隔たりも無いお気楽仲間である。
「わしの幼い頃はまだ戦争もない時代でよく戯れたものじゃがのう」
「出た。年寄りの昔話は長いよ」
「じゃああっちで雪だるまでも作ろう」
『だから戯れるな#』
あまりにも緊張感の無さに思わずつっこんだリオン。
なにやら町は物々しさに包まれている。
実は、アクアヴェイルへバティスタを追ってから来るはずのこの町。グレバム自身はまだ来ていないもののその尖兵が大分幅を利かせている。
住民もひっそりと閉じこもって町は沈黙ムードなのだ。
それなのにこのメンバーと来たら…
なんなんだ、この図太さは。
腕組みをして辺りを見回すディムロス(スタン)の足元で雪だるまは断念して、なぜか仲良く雪ウサギの作成に着手している
とシャルティエ。
…傍目にも自分の姿だとは思いたくない。
その後ろでフィリアの姿をしたクレメンテがじじい口調で自分の肩を抱いて震えている。
「うぅっ寒いのう…わしは暖かい国の方が肌に合う。…やはりアクアヴェイルで温泉か…」
これから戻る気か。
「…さすがにそろそろ元の姿に戻っておくか…?」
その時、どうも雪景色に心揺るがされない様子のディムロスが不意に不可解な呟きをもらした。
シャルティエと
が「えっ?」と目を丸くし、その腰では途端にリオンが鋭く瞳を細めるような気配があった。
悩むように指を顎にからめるディムロス自身はその反応に気づいていない。
『おい、どういうことだ』
「実はちょっと前に戻る方法を突き止めたのだけどね。せっかくだからもう少しこのままでいようかってことにしていたの」
アトワイトが何の反省の色もなくにこやかに弁解(?)してくれる。
『シャル!!』
「し、知りませんよ!僕だって初耳です!!」
「そりゃシャルティエに話したら、即リオンに伝わりかねんからのう。知っていたのはワシらとフィリアだけじゃよ」
ちょっと待てぃ。
「フィリア!?」
『皆さん体があってとても楽しそうでしたので…しばらく貸して差し上げていても良いかなぁと思ったので同意したのですわ』
唐突な展開にもめげず、うふふと癒し系な花をクレメンテ(剣)の周りに漂わせながらおっとりと言うフィリア。
『おまえ自身はともかく他のマスターに伺いを立てろ!!』
『でも、リオンさん最近解決方法について話題にしませんでしたので…聞かれたらお答えしていたと思うのですが』
だから何だ。
意外なダークホースだった。
『
!!』
「知らないよ」
知っていても黙っていそうな
もどうやら今回は蚊帳の外。
まぁ、どっちでも楽しいから知っても一口のっていたかもしれない。
「まぁまぁ…これを機会にそろそろ戻ることにしようかの」
クレメンテに促されてディムロスは頷くと荷物から小ビンを取り出した。
その袋の奥底からスタンの声がしていたが今、そんなことにかまっている場合ではない。
『その薬を飲めば戻るのか…?』
「あぁ、失敗しても有毒でないことはアトワイトが臨床実験済みだ」
『そうか、じゃあ僕が実験台になってやる』
「そう?じゃあそうしてもらいましょうか」
…おかしい。
リオンがこんな時に一番手を挙げるだろうか。
その言い方に、あからさまな怒りから一転して笑みを含んだ怒りを感じて
は押し黙った。
実験台、と言っても飲むのはシャルティエなのだからソーディアンチームのメンバーにとっては実験台として何ら違和感はないらしい。
特に気にせず総員からOKが下った。
「坊ちゃん…いいんですか?こんな得体の知れない薬、まっさきに飲まされて。」
『いいから飲め』
短く言われて、シャルティエは躊躇したものの、目を瞑って一気に小ビンに入った液体を飲み干した。
緊張の面持ちで見守る一同。
「…どう?」
「…」
無言で顔を上げる。それは紛れもなくリオンの表情(かお)だった。
「成功だな」
「あぁ。申し分のないできらしいぞ」
にやり、と笑むとともに つかつかディムロスの元に歩み寄るリオン。
彼はその手の内に有る小ビンをひょいと取り上げるとそのまま雪の下に剥き出しになっている石畳に思い切りたたきつけた。
当然、派手な粉砕音ともに液体はあたりにぶちまけられ、雪に染みて消えた。
「「「!?」」」
『ぼ、ぼぼぼ坊ちゃん!?』
「ふ…お前ら最後まで責任持って神の眼を奪還しろ!僕をおちょくっ
た罪は重いぞ」
…。
スタンたちもスタンたちだけど、ディムロスたちをまとめるのも容易ではあるまい。
自分が負うだろう苦労も差し置くほどリオンの怒りは頂点に達しているようだった。
「ソーディアンもあんななのに?」
「元はお前らのマスターだろうが」
「せめて晶術はまともに使えないとさすがにまずいのではないだろうか」
「使えないなら肉弾戦でいけ。ディムロス=ティンバー中将」
「わしは氷の大河を越えられるか不安だのう」
「骨は拾わんぞ」
あっさりテイストで斬って捨てた後にはシャルティエの小さな溜息と、さすがにちょっとばかり困った顔のソーディアンズが残ることになった。
────「騒乱の予感シリーズ」了