救いなどいらない。
強すぎる光の中へ引きずり出されるよりも、
ありのままであればいい。
それを認めてくれるなら
どんな結末が待っていても臆すことはないのではないか。
例え、どんな結末でも…
「お前が僕を殺さないなら、僕が、お前を殺す」
信じてくれているのなら。
裏切りの逆説
シンの銃は下がらない。
誰の邪魔も入らない。
リオンは静かに、しかし目にも留まらぬスピードで剣を一閃させた。
「
シンっ!!」
『……っ!』
沈黙していた時間が唐突に動き出す。
視界を真紅に染め上げる鮮血、倒れこむ
シン。
ドサリ、と目の前に倒れたその向こうからスタンの叫び。
切り捨てた瞬間、シャルティエの声にならない叫びだけがリオンの心を打っていた。
「リオンっ!!」
「言ったはずだ。僕はたとえ親でも兄弟でも殺せる、と」
それは彼が選んだ道。
仲間との決別、そして絶対的なひとつの覚悟。
やり場のない怒りに駆られたかのようにディムロスを振り上げたスタンに向かって
リオンは躊躇なくシャルティエを振るった。
しかし。
マスター4人を相手に勝てるはずもなく。
激しい水音の響く中、リオンは
シンの傍に倒れ伏して物言わぬ彼女の姿をみつめている。
僕が、殺した────
おそらく、今にして思えばリオンのことを最も理解してくれていたであろう彼女。
大切な人のために、殺した───
でも。
多分、僕はお前を裏切らずに済んだのだろう。
これが自分のとった選択。
こうなることを覚悟していた。
だから、後悔はしない。
いつもこの意思を、
進む道の決意を
そしてそれを貫き通すこと───
例え進む道が違っても、その思い描いた未来を自ら選び取ること。
彼女はその強さを信じていてくれたから。
だから、これで、良かったんだ。
ただ、彼女の信頼を裏切らないがために
彼女をこの手で殺してしまった。
その矛盾。
運命の皮肉が少しだけ今は心残りで。
もう、その想いを確かめるすべは無い。
それがリオンにはもどかしく感じられていた。
その時、ほんの微かに
シンの手が動いた。
もはや体はそれ以上動くことはなかったがうっすらと視線だけがさまよって
やがてリオンを捉える。
「
シン…」
彼女の名を呟いたはずのリオンの声もまた、もはや声にはならなかった。
ひゅうひゅうと息だけが漏れて、それでも何かを伝えようとすると代わりにゴフリ、と喉の奥から熱いものが溢れ出した。
お前は、僕を
許すのか?
それとも─────
もう消えたと思っていた命がそこにあると思うと
途端に何かしなければと思う。
答えがどうあれ。
リオンは、もう起こすこともかなわない自らの身体を
最後の力でひきずるように、彼女の傍へ寄せた。
手を伸ばすとようやく触れることがかなう。
待っていたように、
シンの口元に微かな笑みが浮かんだ。
疑念も、責もない
それどころかどこか誇らしくすらあるその笑み。
あぁやはり。
僕は、お前を裏切らずに済んだんだな───
それは確信。
だからもう、何も後悔することはない。
リオンは静かに笑みを浮かべるとゆっくりと瞳を閉じた。
進む道は違っても、
そこにいつもある。
強すぎる光の中へ引きずり出そうとせずに
薄闇の夜でもいい。
いつもあるべき姿で認めてくれた。
一緒に眠ろう。
この静謐な、海の底で────
それが、僕を最後まで信じてくれた
お前へのせめてもの償い。
やがて押し寄せる波の音。
それは全てを押し流し、空間を満たすと
後には海が奏で伝える潮騒だけが、いつまでも遠く響いていた───