雑食。
シャル日記
- Books-
いつのまにか世界中旅をしそうな勢いなので、必要な地域性を知識として身に着けておこう、とかなんとか。
あとは、地図とか海図だね。
人によっては専門的なものはわからないにせよ、全体図くらいは頭に入れておくべきだろう。
というわけで、目的のものをみつけた。その後。
本屋や図書館に入るとそれぞれの好みが出る、と僕は思う。
ルーティは読書などしないかと思いきや、自由行動になるとまっさきに「ビジネス」の棚へと向かっていった。
図書館だと経済学とか置いてあるあたりだけど、本屋は大衆娯楽的なものも多いのでこういう本が置いてある。
『絶対もうかる値上げの仕方教えます』。
同じ経済の棚にあったとしても、坊ちゃんが手に取らない類の本だ。
こういうものは、書き手が儲かる仕組みであって、大体が読んだ人間が儲かるわけではない、と と坊ちゃんが話しているのを聞いたことがある。
まぁ個人の趣味だから何も言うまい。
マリーはといえば、ルーティの後にくっついていってから「料理」の棚へ向かった。戦闘も好きだけど、料理も好きな至極家庭的な一面がある女性であることがよく出ていると思う。
スタンはそもそも本屋に入るタイプではない。用が済むと「絵本」の棚を眺めながらそのまま出口へ向かっていった。
フィリアは元々神殿にいたせいか「技術」とか「宗教」の本棚が目当てらしい。多分、神殿の方が専門書が多いから技術関連の本はあまり役に立たないだろう。
なので割とそれからすぐにこっそりとごく普通の女の子が読むだろう文庫の棚へ向かったのも見ていたけれど、別にこっそりする必要はないと思う。
ちなみに はまったくそこへ行く気配はない。
じゃあどこへ行くのかというと…
棚を片っ端から眺めに入っていた。
「おい」
「何?」
「まさかすべて見て回る気じゃないだろうな」
ノイシュタットの通り北側にあるこの本屋は、割と大きい。
さっき言ったように専門書はあまりないけれどラインナップが豊富だ。
は一度入り口付近に戻ると新刊の平台からさきほど見た地図や旅情報のコーナーを経由し、実用書の棚へ移ったところだ。
「全部じゃないけど、時間かかるから先に戻っててもらっていいよ」
と一度は振り返ったものの割と早いスピードで視線が棚に差し込まれた背表紙を追って移動しているのでタイトルをほぼすべて流しているのだろう。
坊ちゃんももしこの先も乗り物で移動する場面があった場合を備えて、何か本を見繕っておこうと棚を見上げていたところなんだけど、自分の後ろを通りすぎた の視線に違和感を覚え、そう聞いたところそんな答えだったわけで、それはおおむね「YES」と意訳すべきだと思う。
趣味、一般マナー、自己啓発、対人心理、能力開発と渡り、人気がありそうな恋愛・結婚はなぜか飛ばして、少し学術的なゾーンへ入る。
奥の方は「哲学」とか「心理学」とかさっきフィリアが眺めていた「技術」とかの棚がある。
娯楽というより、知識的な分野なので入口付近ほど人は多くない。
「お前…一冊ずつ見てたらタイトルだけで何時間かかると思ってるんだ」
「だから全部じゃないってば…一番多い文学は見ないし」
『そうなの?』
思わず聞く。小説の類は読まないのだろうか。
そう聞きなおすと
「それは前にさんざん読んだから、もっぱら最近の興味はハードカバーとか、文庫よりサイズの大きい方」
そういって興味をひいたものがあったのか、一冊手に取る。
このあたりの薬草関係のポケット図鑑のようだ。
「リーネへ行く気はない。それは置いておけ」
ノイシュタットから出るとすればリーネへ行く他はない。でもそんな用事はないわけで。
まったく不要ということになる。
はおとなしく本を棚に戻した。
『具体的にはどういう本を読むの?』
僕は興味が先立って聞く。
「そうだね、棚は文学、恋愛関係以外はほとんど見るのが好き」
「本を読むのではなく棚を見るのが好きなのか」
「そうかもね」
さらりと答えた。
まぁ読書好きならどんな本があるのか探すのも面白いのだろう。
特に のような性格なら、読む本が決まっていないなら半分は探検気分なはずだ。
呆れた坊ちゃんは自ら奥の心理学の棚へと移動した。
『じゃあよく手に取る分野は?』
聞き方を変えてみる。
「科学、哲学、生物、心理学…あぁ、ダリルシェイドの本屋なら歴史も見てみたいね。地図を見るのも好き」
「節操がないな」
「読書は娯楽だからね」
スタンに聞かせてやりたい。
「って言っても、あんまり頭には入らないんだよ。ヒマつぶしに眺めるような状態だから」
正直、僕もあまり興味がない学術的分野を暇つぶしというあたり、人の趣味はそれぞれだと思う。
「モンスター図鑑とか完成してるの見たいよねぇ…」
自分で完成させかねない勢いだ。
「医学も興味あるんだけど…あれは、ホント、難しいから医学というより民間療法的なレベルの本しか見てない」
「雑学というんじゃないのか」
「それも好き」
信憑性に欠けるB級分野だろうが、それが を異様な博学と化しているのかもしれない。
ルーティとマリーがそれぞれの本を手に会計を済ませ、フィリアが立ち読みに熱中始めてしばし……
「リオン、何かおもしろそうな本あった?」
「別に」
もちろん坊ちゃんも本は確保したわけだけど、それがなにかは教えない。
の手にも何冊か本が取られている。
「お前は何をみつけてきたんだ」
自分は教えないのに、聞く坊ちゃん。
「ポケット図鑑と薄い事典を少し」
眺めて楽しむ系だろう。
しかしその内の一番下に、一冊だけ異様に派手な黄色い背表紙に赤と黒の文字のタイトルが坊ちゃんの目を引いてしまった。
太文字のゴシック体でこう書かれている。
『他人の心理をあぶりだす秘密トリック』
「ちょっと待て」
「?」
「お前は何を企んでいるんだ」
どの本が、とは言わなかったが視線で言わんとしていることを察したのだろう。
二人の視線が一瞬だけ同時にその本の背表紙に落ちた。
「失礼な…ちょっと中見たら面白そうだから読んでみようと思っただけだよ。何かしようとかこれっぽっちも思ってない」
「……」
「リオンもあとでヒマがあったら読んでみてよ」
はっきり言って学術書ほど難しくはない読み口だろう。帯の煽りがチープなので僕にも読める気がする。
や坊ちゃんが本気で読むとは思えない本でもある。
ホントにヒマつぶしなんだなぁ。
「そんなものどこの棚から見つけてきたんだ」
別に聞きたかったわけではないんだろうけど、ため息がてら、そんな言葉が出た。
坊ちゃんにはみつけられない類の本には違いない。
「人文・思想 >倫理学・道徳 > 倫理学入門 」
「……………………………………………………」
配架が間違っていると思うという坊ちゃんの心の声が聞こえてきそうだった。
が、しかし。
結局、アクアヴェイルへ向かうこととなったその後の船の中で、何気に放置されていたそれを手に取った坊ちゃんはそれを読破したとかしないとか。
*あとがき(2015.9.13)*
久々に関東最大面積を誇るブックオフに行ったらみつけた本です。
すでに彼らが無意識にやっているであろうものが多数掲載。
ロニに試してみたら面白いと思う。
カテゴリはamazonェ……