「リオン君、ちょっといらっしゃい」
「嫌だといったら?」
「ヒューゴ様にあなたが小さい頃の写真をもらってコレクションに加えちゃうv」
「…」
キリリク88946
首都圏の抱える諸問題
ヒューゴ邸に召集され、現われるなりテンションも崩壊気味なイレーヌ。
リオンが是が否もなく沈黙していると彼女は腕を取って無理やり部屋から連れ出した。
「僕に何をしろと言うんだ!!」
得体の知れない不安を感じつつ思わず訊くリオン。
イレーヌは振り返って「うふふv」と笑っただけで更に焦燥を増大させただけだった。
訊かなければよかったというリオンの後悔の元に。
「あれ?どうしたんですか。イレーヌさん」
ヒューゴ邸の長い廊下をひきずられていると
シンとすれ違う。
思わず訊いてからイレーヌの顔つきを見て、やめておけばよかったという表情が浮かんだのをリオンは見た。
「これから一大イベントがあるのよ。リオン君に手伝ってもらおうと思って」
「へぇ…大変そうですね。じゃ、頑張ってください」
「ちょっと待て」
すかさず、すちゃりと敬礼して立ち去ろうとした
シンの腕をつかむリオン。
逃がすものか。
なんだか珍しく見た笑顔には、そんな気迫がもうオーラとなって見えるほど強く滲んでいた。
「イレーヌ!
シンも連れて行け」
「いいわよ。丁度女の子も必要だったから」
「「!?」」
またもや嫌なことを聞いてしまった2人。
承諾よりそのなんでもなさそうな発言に思わず眉がしかめられる。
「じゃあリオン君。
シンちゃんをきっちり連れてきてね」
いつのまにかイレーヌ→リオンの構図がリオン→
シンとなって
シンは無理やりしょっ引かれていく。
逃げられないとわかったのかリオンは腹をくくったようだった。
その代わり一連託生ということなのだろう。
なんてはた迷惑な。
連れて行かれたのは城の離れの2階だった。
中庭が良く見える。
ついうっかり窓辺へ歩み寄って一望した
シンは次の瞬間、とんでもないものを目にする羽目になった。
【王国主催】ミスター美人コンテスト。
掲げられた看板に一瞬目が点になった2人。
協賛者にイレーヌ=レンブラントの名(しかも個人名)が連ねられていることも特筆すべきだろう。
「ミスター美人…」
「コンテスト…?」
嫌な予感で一杯になりながらリオンの顔色が悪くなったことには気づかないふりをする。
その代わりに、背後にイレーヌの含み笑いを感じつつ。
「断固拒否する!!どうして僕がこんなものに出なければならないんだ!!」
「あら、美人コンテストだからって何も女装しろっていってるわけじゃないのよ?」
「当たり前だ。」
にこにことすこぶる上機嫌なイレーヌを前に、何をさせられるのか悟ったリオンの苛烈な拒否論が展開されようとしている。
「大体、なぜこんなものが王国主催で開催されるんだ。聞いてないぞ!!」
「あらかじめ大々的に報道したら、リオン君みたいな善良で一般常識のある美少年は絶対出たがらないからよ」
「…」
不良で良識がないという自覚はあるらしい。
妙なところで妙な発見。
ついでに言うとリオンのような役回りの人間も複数いるということだ。
なんだか哀しい発見である。
「お祭みたいなものなの。国民は喜んで盛り上がってくれるわよv」
「一部違う盛り上がりを見せそうな人も集まりそうだけどね…」
───と、いうかそういう輩がいるからこんな企画が上がるのではないだろうか。
王都ともなるといろいろな人間が密やかに生息しているものだ。
リオンは初めて都会に住まっていることを呪った。
「大体そんな馬鹿げたイベントに出てヒューゴ様が黙っているはずが…」
「優勝すれば、知名度が上がるから気張れと言われているわ。ほら、協賛者名簿にも名前が。」
そんなことで上がっても。
アホな総帥ぶりにリオンは思わず額を抑えた。
「エスコート役に
シンちゃんをつけてあげるから」
何ぃ!?
ふってわいた話に驚いてみるが、イレーヌは全く気にしてないようだった。
もう決定事項なんですか?
「普通、エスコートは男がするものだろう!」
「今回は逆なのv新鮮でしょう?」
あぁなんだかもうとんでもなく腐ったイ ベントだ…
リオンは噛み付いてみるが効果はない。
協賛どころかイレーヌが企画立案の首謀者であろう。
2人は即座に理解した。
「さぁ、開幕は今日の午後なのよ。ちゃっちゃと準備するわよ」
「午後!?そんないきなり…」
「エントリーは済ませてあるから気にしないで」
気にしてない。そんなこと。
「そんな急の開会宣言で人、あつまるのかね…」
「あら、ここは天下のダリルシェイドよ?ちょっと触れ回るだけでこの程度の会場だったら超満員よ!突発イベントもなかなか粋でしょう?」
…超満員。
眩暈を抑えてリオンはどうすべきか思案に暮れるが、やはりイレーヌ=レンブラントの前では小細工など意味のないことらしかった。
そんなこんなで始まってしまったイベント。
「何でこんなに人、集まるんだろうね」
「色んな意味で腐れてるな。」
すっかり正装させられてしまったリオンと
シンがぐったりとステージ脇から様子を伺っている。
リオンの腐れているという言葉はそれはもう心の底から汚いものを吐き出したかのよう に、 なげやりだった。
「まぁここまで来てふてくされていてもしょうがない。…似合ってるよ」
「…。素直に喜べない。」
「今日の主役はリオンなんだから~…がんばってね」
「他人事なだけだろうが!」
「そうでもない。私まで巻き込まれてこんなかっこで人前立たなきゃならないなんて…非常に光栄だね」
ふふvとドレスと化粧で綺麗に化けた顔して黒くもない笑顔ながら支離滅裂なことを言う。
密やかな怒りが込められていることに気づいてリオンは沈黙した。
「このまま逃げるか…?」
「審査席にいるイレーヌさんから投げ縄が飛んできかねないからやめておいた方がいいと思う」
むしろ恥。
言ってみたもののどうにもならずにリオンの視線が地に落ちた。
その間に聞こえてきた他エントリー者の声。
「男の美とはすなわち「肉体美」!このコングマン様を差し置いて美を語ろうとは片腹痛い!!」
予選会くらい開催しろ。
思わず顔を上げると何か勘違いした輩の姿があった。
しかしそれだけでは終わらない。
「ふふふ、愚かなる民草どもよ。今日の優勝はこの疾風のグリッド様が頂く!!」
「あぁ、この手のイベントって出たがらない人は良識あるけど出たがる人に限ってあぁだったりす るんだよね…」
横で無関係そうに傍観者と化している
シン。思わずリオンが呟く。
「何なんだ?あれは。」
「漆黒の翼ってレンズハンターグル-プのリーダーだよ」
「どうしてお前はそんなことを知っている」
「一部で有名」
別に知りたかった訳ではないがあっさり問答が繰り返された。
こちらはコングマンとは違って顔は悪いわけではないのにイロモノじみていて何ともいえない。
リオンは今日何度めか押し黙った。
* * *
いざ、始まってしまえばリオンも堂に入ったものだった。
というより、「どーでもいい」気分なのか。
やる気なさそうにお題をこなしていくわけだが、その度に黄色い歓声が上がっているところを見ると上位入賞は間違いないだろう。
大体、貴族クラスは参加対象外(色々ハンデがありそうだから)なのだからいくら街の美青年・美少年がエントリーしていても相手になるはずもない。
ある意味、客員剣士という特殊な身分がこんなところでフルに活用されている。
…もちろん本人にそんな気はこれっぽっちはなくとも、だ。
気づけば、本人の意思とは関係ないところで、優勝をかっぱらう羽目に陥っていた────
「おめでとう。リオン」
「だから嬉しくないと言っているだろうが」
着替える気力もなく、栄えある優勝者の控え室でリオンは頭を抱えている。
『僕も見たかったなぁ!!あ、でも正装は見られたらちょっと満足。』
シンも連れだっていたので、会場には連れて行ってもらえず部屋で終了待ちだったシャルティエが悪意のない追い討ちをかけている。
さすがにちょっと可哀想になって苦笑をもらしているとイレーヌがお花を撒き散らした笑顔で入ってきた。
「リオン君~やったじゃない!」
お嬢な見かけにそぐわない仕草でぐっと親指を突き出して褒め称える。
そういう態度が更に彼のジレンマを深めることはお構いなしに。
「人ってさぁ…そうなりたいと思う人間に限ってなれなくて、別にならなくても構わないと思う人間がそこに抜擢されちゃったりするんだよね」
「何、悟ったことを言っている#」
本気で噛み付きそうな勢いで怒っている。
もちろんイレーヌに通じるわけはないので矛先を向けられた
シンもあっさり受け流した。
「そうそうオプション得点も高かったのよv2人とももっと喜んで。」
「「オプション得点?」」
「エスコート役の女の子でつく得点」
「…………」
私も比較対象かーーーー!
いきなりどっと苦渋に満ちた顔をした
シンを見てリオンはふっと嘲りの笑みを浮かべる。
「どうだ?見世物になった気分は」
「………。リオンよりはマシ」
「余計なお世話だ##」
ふっと遠い目をした
シンの返答に再び静かな怒りを表すリオン。そして真似できないテンションではしゃぎっぱなしのイレーヌ。
そんなことをしていると乱暴なノックが聞こえてきた。
「ここか!優勝者のいる部屋は!!」
返事を待たずに扉が響く。
現われたのはコングマンだった。
「なぜチャンピオンがここに?」
「決まっているだろ、納得できん」
納得できないというその理屈が納得できないのだが。
もうどうでもいいとばかりに目をあわせすらしないリオンと来訪者の間に立ちはだかったのはイレーヌだった。
「…聞き捨てならないわわね。うちの若いもんに何か文句があるっていうの?」
若いもん…?!
何をもってその表現なのかわからないが、関わり合いにならないようしらんふりをしながらも血の気をひかすリオンと
シン。
わけもなく怖い、というのはこういうことを言うのだろう。
しかしコングマンも負けてはいない。…というか単なるバカなのだろう。
レンブラント嬢に真っ向、売り文句買い文句を繰り出している。
「こんなところでお嬢に会うとはな…わざわざノイシュタットからやってきてまで俺様の邪魔をするとはらしいじゃねぇか。」
…察するに、過去にも遺恨があるような物言いだった。
「そのままお返しするわ。私は元々ダリルシェイドの人間なの。猿は猿らしく田舎の闘技場の囲いの中で見世物になっているがいいわ!!」
「なんだとぉ!?闘技場は男の聖域だ!!女ごときに汚される覚えはない!!」
その男の聖域とやらはリリスだのリムルだのリアラだの(←個人的イメージ)に荒らされて止まないわけだが。
「あら、世の奥様100万人を敵に回すことを平然と。言っておくけど、怖いのよ!?奥様は!!オ ベロン社困ったお客ワースト5に『苦情を言えば更により良い商品を格安ゲットできると思っているわらしべ長者主婦』が入っているくらいなんだから!!」
イレーヌも負けていない。これを機会にたまったうっぷんを吐き出しているんじゃなかろうかという口っぷりだ。
サービス業も大変らしい。
というか、その表現がよくわかならいんだが。
「ふん、そんなことは俺様の知ったことか。怪我をしたくなければひっこんでいやがれ!」
「はっ!(嘲笑)できるものならやってみなさい!指一本触れようものなら二度と立ち上がれなくしてやるわ!」
「リオン…怖いよ」
「安心しろ。僕も怖い。」
ドきっぱり彼に言わしめさせるイレーヌさんて一体…(というかそれが怯えている態度か?)
それを聞きとめたのかイレーヌは振り返ってにっこりと華やかな笑みを浮かべた。
「うふふ、ごめんなさいね。無粋なゴリラが乱入してきたら興ざめよね。
ちょっと待っててね。今、生ゴミ処理場に捨ててくるからv」
「ふははは!愚かなる民草よ!!このグリッド様が心広くも優勝者の祝…ぐはっ!!!」
イレーヌはコングマンの服をつかむと片手で引き摺り出す。何の用があったのか訪れたグリッドもついでに肘鉄で沈ませて、去っていった。
「離せ!このやろう!!軽軽しくチャンピオン様に触れるんじゃね…ごぁっ!!」
「「………」」
遠ざかるコングマンの声がふいに途絶えたのを待って残された顔を見合わせる2人。
「帰ろっか」
「あぁ」
そして何事もなかったかのようにヒューゴ邸へ帰ることにした。
その後、しばらくダリルシェイドのゴミ搬入口からゴリラの叫びが聞こえるという怪談が、まことしやかにささやかれるようになった。
**あとがき
キリリク88946(はやくしろ)HIT。
鶫さんによるリク「イレーヌに遊ばれてぐったりしているリオンがいつもと違う格好(非・イロモノ)をさせられる」話。
悩んだ挙句になぜかミスター美人コンテストがダリルシェイドで開催された模様です(想定外)。コングマンとグリッドもこんなところで初登場(想定外)。
そして無駄に長い(想定…以下略)。
この話でヒューゴ様と王様も私の中で変な人になりました(笑)
ヒロインが主導権を握って、というご希望には添えられませんでした。やる気に乏しいヒロインですみません(笑)…というかイレーヌさ んには叶わないしね!?(言い逃げ)
時期的には、スタンたちと別れた直後…?っていうか連載とはこれっぽっちも関係ないんですが。
さすがイレーヌさん!と楽しんでいただければ幸いです。
鶫さん、リクありがとうございました。