前回のおはなし。
マスカレード(仮面舞踏会)が城で開かれるが客員剣士として参加を余儀なくされるリオンは気乗りしていない。
仮面なのをいいことに身代りになれだの、できないならパートナーとして参加しろだのいつにない調子で一連託生を計ろうとするリオンだが
は頑として譲らない。
理由。
「ドレス着るのが嫌だから」
結果的に、力技に出たリオンと
の姿を目撃したルーティにより大いなる誤解の生じることとなった。
翌日のことだった。
キリリク125619
夢のおつり
「
さん、リオンには舞踏会に行くようなお友達はいなかったの。一緒に行ってくれると私も嬉しいのだけれど…」
仲間たちの誤解を解くのにおよそ丸1日かかってリオンは訳も無く疲弊している。
それでもって彼自身は、正装を済まし既に出発を待つばかり。
もう、話題をふられることは無いだろうとその様子を見学に来て、油断していた時のことだ。
妙ににこやかな顔でマリアンが現われた。
そうやんわりと発言した彼女からは優しげな口調と裏腹に有無を言わさぬ雰囲気が、だだ漏れして見える。
なんというか、黒いオーラを背負っている、とでも言うのだろうか。
しかもその手にはなぜか、というべきか既に、というべきか高級そうなドレスが持参されていた。
「マリアンさん…でも、それとこれとは別問だ──」
「実はね、ヒューゴ様にも了承済よ。これからこの屋敷に住まうなら顔出ししておくのもいいだろうって。否、むしろそうなると上司命令というものかしら?」
彼女の黒さにめげずに確固とした意思の元、きっぱり断ろうとした
をさえぎるようにマリアンはまくしたてた。
上司命令────(滝汗)
いきなり厳しい現実世界に巻き込まれてしまった
(ていうか初命令がこれってどうなのよ?)。
もちろんそれらはマリアンの前もっての陰謀であろうことはわかる。
瞬間的に察した
には、彼女は既にイレーヌさんと同種の人間に見えている。
が。
『良かったですねぇ坊ちゃん。お連れができそうですよ』
シャルティエがのんきに彼女の行動を肯定してくれた。
リオンはもうなんでも良さそうだ。
「と、言っても急な話で納得できない?」
なんだか嬉しそうなマリアン。
嫌な予感。
「じゃ、賭けましょうか。」
「マリアン、どうしていきなりそうなるんだ?」
唐突な申し出にリオンがいつになく弱い調子でつっこんでも、マリアンは相変わらずにこやかにどこふく風だった。
「だって、昨日の話を聞いたら
さんをつきあわせるのも一筋縄じゃ行かないかなって考えたのよ。勝負ならすっきりするでしょう?一応逃げ道を用意するつもりもあったんだけど」
考えるな、そんなこと。
大体、逃げ道って何?
ますます退路をふさがれるような気分になりながら
は顔を曇らせた。
「リオン、それでいい?」
無言で頷くリオン。
今更なんだがマリアンにはとことん弱いというか寛大というか…
この場合、あまり歓迎できない方向性だ。
「じゃあ私がコインを投げるわね。表か裏か当てるだけよ。あ、勝負の相手はリオンがして頂戴。そうすれば恨みっこなしv」
まぁ退けないのであれば公平を喫する意味で妥当な計らいだ。
計らっているのが彼女でなければの話。
の勘が何かを告げている。
そこへシャルティエの声が割って入った。
『他には何か賭けないの?』
「そうねぇ、それだけじゃ面白くないから…」
『いっそいつもと違う自分を演じてみるとか』
「じゃあ負けた方がいつもと違う自分を演じることにしましょう」
ねぇ、マリアンさん。
シャルティエの声聞えてない?(汗)
それとも自分に都合のいい電波を傍受しているのか。
あまりのタイミングの良さにリオンですらもそれにつっこむ間もなく冷や汗をかかされている。
口を開けばそれとは無関係な質問が発せられた。
「マリアン…負けた場合は僕がそれをやるのか…?」
「楽しみにしてるわねv」
当然のごとく肯定。
それにしたってどこでそれを見るつもりなのだろう。
まぁ彼女のような人種はどんな手段を使ってでもこっそり潜り込んで知らない間に背後にいるに違いない(怖)。
リオンはわずかに眉をひそめたきりそれ以上何も言わなかった。
「勝てばいいだけの話か」
「じゃあ行きます」
銀貨を高く放るマリアン。
しかし、動体視力のいい2人はしっかり見ていた。
それが表裏一体のコインであると言うことを。
「………………………」
マリアン。
なんてすごいものを持っているんだ。
ダン!
銀貨は床に落ちて物凄いスピードでマリアンの靴の下敷きになった。
「「表」」
マリアンの動向にもつっこみたいところだが、結果、当然2人でハモることとなる。
「2人とも同じじゃ賭けにならないわよ」
「でも表としか…」
「僕も譲れないな」
「そう…じゃあ…」
マリアンはゆっくりと銀貨から足をどけた。
セインガルド王家を象徴した紋章が描かれている。
「…2人とも残念ねv」
「「えっ?」」
「裏よ」
「いや、それは表だろう?」
「裏なのよ」
「…でも…」
「誰が表と裏を決めたって言うの!?私が裏と言ったら裏なのよ!!!」
「「わかりました」」
自分で誰が決めたと言いつつ、裏と言い張るマリアン。
その矛盾を指摘できるほど命を無駄にしたいとは思わない。
その気持ちは一緒なのかリオンもハモって負けを認めた。
きっと裏と言ったなら表と言い張るに違いない…
どだい、矛盾している人に矛盾を指摘してもそれがまかり通るわけはない。
賢明な2人は彼女の演出どおり「2人して負けを認める」羽目に陥った。
「いい?2人とも…きちんと賭けたこと実行しなくちゃダメよ。密偵放ってチェックしてるからねv」
マリアンの密偵とは一体何なのだろう。
そんな謎を抱えつつもうされるがままになっている
。
いつもだったらこのあたりでも不本意であることを強調したいところだが、諦めの境地と言う奴だろうか。
そう言う意味ではマリアンの用意した罠(賭け)は効果てきめんだった。
「しかし違う自分と言われても…」
さて、なんだかんだで会場までやってきた2人。
真顔で
が考え込んでいる。
「そもそも普段の自分てどんな?」
「自覚が無いのか?お前は…」
というより違う自分を演じるならまずそこを突き詰める必要があるのでは。
思わぬところで命題を与えられてしまった気分だ。
「そんな深く考える必要は無いだろ」
リオンは呆れたように言ったが決して下らないとは言わなかった。
マリアンが首謀者としてからんでいるためだろう。
…そんなところで思いやってないでいつものように一蹴して欲しい。しかしシャルティエは違う意味で楽しそうだった。
『そうそう♪まぁ2時間も頑張れば終わるんだから気軽にやってみたら?』
「じゃあリオン、どんな人間を演じて欲しい?」
普通。
違う人間を演じろと言われたらとりあえず自分が違うだろ、と思う1キャラへ路線を持っていくものだが、彼女の中では既に数多の別キャラが候補として上がっているようだった。
「な、なぜ僕に聞く」
「だって今日はリオンのパートナーってことだし…どれも嫌だからどれでも大差ないし」
なげやりな言動だ。
『僕としては、物凄く可愛らしい女の子、くらいしか思い浮かばないんだけど他にも候補があるの?』
「物凄く男言葉な割に品はある女の子とか、粗雑なレディなんてのもあり?」
「『…。』」
どっちも嫌だ。
「どちらにしても演じられるかは謎だけどね」
頭の中で冷静に分析できる分、恥を捨てる度胸があれば何でもできそうではある。
それがないから困るわけだが。
「なんでもいいから無難な路線でいけ」
『そういう坊ちゃんはどうするんです?』
「…」
物凄く嫌そうにさっと視線を逸らすが彼の演じられる人間など幅は知れているだろう。
というか、2人ともどうあがいても自分は捨てられないタイプであるわけだし。
そうこう言っている間に、舞踏会は幕を開けてしまった。
この場合の仮面なんてものはお約束であるだけで大した役には立たない。
さっそく貴族のご令嬢たちの視線はリオンへと向いていたがさすがに謎のパートナーの存在に今日ばかりは誰も寄ってこなかった。
そもそも
を連れてきたがっていたのは人払いの意味もあってだ(失礼な)。
そう言う意味では効果のほどは大きかった。
「なんだか…視線が痛いんですけど…」
しかし、矢面にさらされている
にしてみると針のむしろである。
『ダメダメ!いつものキャラだよ、
』
お前がマリアンの放った密偵か?
そうつっこみたくなる勢いで、すかさずシャルティエが指摘した。
「はいはい…視線が痛うございますわ、リオン様」
「……………………そういうキャラはやめろ」
超がつくほどなげやりな
のセリフにリオンが本気で頭を抱えそうになる。
「だって冗談にしなくちゃやってられないよぅ」
素でいつもと違う困りキャラになっている
。それはそれで珍しい。
いまいちノリきれない2人にその時話し掛けるものがいた。
「ごきげんよう、麗しの姫君。よろしければ私と踊っていただけませんか?」
「「………………………………………ウッドロウ……」」
仮面の下で白い歯をきらめかせながら、キラーンという擬音つきの光を背負ってまとって謎の男が現われた。
『坊ちゃん!坊ちゃんもアレくらい壊れてみないとダメですよ!!』
「シャルティエ君…失礼ながら私はこれが素なのだがね」
いや、明らかに何かがパワーアップしてるだろ(仮面のせいか?)。
「ウッドロウ、なぜ貴様がここにいる」
「リオン君、マスカレードで名前を言ってはいけないな。私のことはMr.プリンスと呼んでくれたまえ」
国賓として由緒ある舞踏会に彼が参加していても何ら不思議は無いのだが、思わず聞いてしまったことをリオンは後悔した。
名前を呼ぶなといいつつ、人の名前を名指ししているあたり相変わらずのマイペースっぷりだ。
『大体
は今日は坊ちゃんのパートナーなんだから。声をかけること自体不躾じゃない?』
「ふむ。普段のパーティだったらそうかもしれない。が、今はマスカレード。誰が誰とも分からないのにパートナーは無いだろう」
「誰だかわからないのに狙いを定めたように人の連れに声をかけるのはやめろ」
犬猿の仲。とでも言うのだろうか、リオンは明らかに不愉快そうになっていく。
気持ちはわからないでもない。
「ダンスのお誘いでしたらお断りいたします。Mrブラックフェイス」
ふいににこやかに
。
どっちも困るのである。
この状況でお互い離されると。
リオンはてぐすねひいてフリーになるのを待たれているし、
は王侯貴族のあふれるこの特殊フィールドの中では、何がルールなのかもわからない。
いや、それ以前にウッドロウに振り回されるのだけはご勘弁願いたい。
それを察したのかリオンが嘲笑でもって追撃する。
「──だそうだ。お引取り願おうかMr malicious」
malicious…腹黒───────。
そのままだよ、リオーン!(汗)
「ほほぅ?君のような子供が社交場につきあうには大変だろうと気を使ってみれば…」
何か、とってつけたようなお言葉。
彼にとってはどうでもいいことだろうに。
きっと『子供』という言葉を使いたかっただけに違いない。リオンを切らすに値する発言がその次に待ち受けるのは必至だ。
「女性の扱いは私に任せて休んでいたらどうかね、Mr.little」
マスカレードって怖い!!!!!!!
…と思いつつ流れは誰にも変えられなかった。
リオンは禁句(推定)に一瞬顔色を失ったが、ふっと俯いた顔を上げた瞬間には壮絶な笑みを浮かべていた。
「残念ながら…今日の先約は僕のものでな。」
視線が
に流れる。
瞬間思わずびくりと
は強張らせたが次の瞬間、彼はその手をすくい取ると細い指先にキスを落としていた。
その勝ち誇った顔ったらない。
リオンが切れておる────
無論、その行為の意味するところは見せしめ。
ありえない行動にフリーズしているとシャルティエが1人で喜んでいる声が耳に届いた。
『坊ちゃん!ノルマクリアです!!』
ブラボー坊ちゃん!
そんな(どんな)感じである。
ノルマ。
方やその言葉に我に返る
。この難局を乗り切るには今しかない。
どーでもよさそうな意を決するとすかさずリオンに身を寄せる。
「そういうことですの。しつこいお誘いは嫌われましてよ?ご理解いただけたらお引き取りくださいませ、ミスター? 」
小首を傾げて優美に微笑む。
その耳元にリオンがささやいた。
「OK,MY LADY」
快勝だった。
しかし付け焼刃の結託はもろいものである。
山が過ぎれば、谷がある。
2人はヒューゴ邸に戻ってから、激しい自己嫌悪に際悩まされることになった。
機嫌上々なシャルティエとマリアンの傍らで────
あとがき**
125619(いつ頃行く)HIT/水希梨緒さんによるお題「『小休止』の続きでパーティへ行く。なぜか賭けをすることになった2人。シャルから のお題は『いつもと違う自分を演じること』」
…シャルでなく、なぜかマリアンさんです(汗)。
しかもリク頂く際に、誰が演じるのか指定されなかったので2人とも巻き込んでみました(曲解?)
この2人、やはり自分からはそういうことが無理なので周りから追い詰められることに。
微妙にVSウッドロウじみた会話も堪能してもらえれば幸いです。
Mr.スノーマン。そして「仮面つけてると誰もが美形度3割増」。
…出したかったけど出すタイミングが無かったり…
水希さん、リクありがとうございました!