「ちょっと…ヒューゴがいないってどういうことよ!」
「ですから重要な会議が入っておりまして…遠方まで出かけております。今しばらくお待ち頂ければ…」
「そんなこといって逃げるつもりね!?100万ガルドもらうまでは地の底までも追っていくわよ!!」
「…お待ち頂いている間は、よろしければ皆様をプライベートビーチにご招待を、と言いつかっております。もちろん全ての経費はこちら持ちで」
「あらっ?そうなのvやだ、早く言ってよ、もぅ~vいつまででもお待ちしちゃうわよv」
正しい夏の過ごし方
──と言う訳で、神の目を奪還し、セインガルドへと帰還したスタンたちは休養を兼ねてオベロン社総帥のプライベートビーチへとやってきていた。
「ルーティってば…相変わらず現金だよなぁ」
というスタンは仲間たちの別れの時間が先延ばしになり、任務も無事に果たせたとあってほくほく顔だ。
自家用高速クルーザーでざっと100kmもダリルシェイドから離れたビーチは南国ムードに満たされている。
「…で、なんであんたがいるのよ」
コテージも食事も全てオベロン社持ち。
その上、贅沢三昧にいつになく機嫌のいいルーティだったがひとつだけ不満があるらしい。
「僕にはお前らを監視する役目がある。総帥の私有地で馬鹿な事をしでかさないかと心配でな」
「…あらあら忠実な部下ですこと。まぁいいわ、せっかくだから楽しまなくちゃ!」
掛けてもいない元を取る勢いでルーティの機嫌は元に戻った。
「リオンも城の方からは休暇もらったんでしょう?ゆっくりすれば」
「…ふん、興味がないな」
なんと全寝室個室と言うリッチな海辺のコテージに到着してリビングに荷物を降ろす面々。
リオンはさっさとソファに腰を下ろしてもう動く気なしみたいな姿勢を見せている。
「リオン、せっかくだから泳ぎに行こう!こう見えてもオレ、泳ぎ得意なんだぜ!」
「沈みたかったらかってに沈め」
いつになく不機嫌そうに言葉まで置換してさり気に酷い事を言っているリオン。
スタンは「え~っ」と頬を膨らましただけで言葉の意味まで深く考えていない。緊張感の欠片すら見当たらなかった。
「さぁ、みなの者でかけよう!」
「ウッドロウ…で、あんたが一番遊ぶ気満々なわけね…」
浮き輪にシュノーケルと言う(現時点においては)アホのような格好をしたウッドロウの姿にルーティの呆れた声とフィリアの苦笑が漏れる。
ファンダリアは雪と氷に閉ざされた国なので泳ぐ機会など滅多にないのだろう。
泳げたとしても年中寒中水泳状態に違いない。
否、むしろ彼ならばそれでも泳ぐのではないか。
余計なことを考え始めたところでスタンがウッドロウに助けを求めた。
「ウッドロウさん、リオンが泳ぎに行かないって…」
「何!?駄目だろうリオン君!仲間たちとの旅も終りに近づき絆が深まったところで、想い出を作らねば!!
…それともソーディアンマスター友の会でも作って今後の交流を深めることにするかね」
…変な人。
しかしその変な人はマイペースに、呆れて物も言えない──しかも完全にスルーされている──リオンに歩み寄るとがっしとその腕をつかんだ。
「さぁ、スタン君!」
「はい!」
「な、何がはい!だ、おい、離せ…!!やめろーー!!」
途端に危機感を抱いたようなリオンの叫びは遠ざかっていった。
「…あれ、救出すべき?」
「ほっときなさいよ。それよりビーチにいきましょv」
いそいそと水着を下に着込んで誘うルーティ。
あの分ではリオンもすぐに外にひきずりだされるであろう。
はフィリアも着替えるのを待って一緒にコテージを出た。
「…夏だね」
ファンダリアに居た事を考えると急に季節外れな場所にとばされたかのような気分だ。
こんなに寒暖激しい場所を行き来して体、壊さないだろうか。などといらない心配もしてみる。
砂浜に出ると予想通り男性陣が全員揃ってやってきた。
憮然とするリオンはパーカー姿に着替え(させられて?)いる。
「さぁ!まずはスイカ割だ!!」
「ひょっとしてウッドロウ…ビーチではしゃぐの初めてだったり…」
ふと、そんなことに気がついた。
その呟きを聞きとめたウッドロウ。さっと振返って
に語って聞かせ始める。
「実はだね…そのとおりなのだよ。私は幼い頃からファンダリアの良き王となるべく学んできた。…言われてみればこんなふうに砂浜で友人と戯れることも なかったな…」
遠い目をしたウッドロウ。
さすが公式プロフィール(初回特典カード)に「弱点:コミュニケーション」と書かれるだけの事はある。…一応コンプレックスを抱いているのか克服しようと色んな意味で違う方向に頑張ってしまっているようであるが。
…大体、彼はスノーフリアからハイデルベルグまでの道のりを「同行」したくらいなのにいつのまにか無二の友人・仲間に格上げになっているのだろう。
この辺りはクールと言うか
の仲間意識は冷徹だ。…リオンも同じ事を思っているらしくこちらは視線まで見るからに冷たい。
「ふーん?遊んだ事ないのによくスイカ割とか知ってるわね」
「書籍で夏の遊びを調べてきたのだよ。あとでビーチフラッグとビーチバレーもやるとしよう!」
「凄い!ウッドロウさん!!」
アホだ。
でもビーチフラッグなんかは楽しそうかなぁ、と思いかけたところ彼はとんでもない事を言い出した。
「そして最後に水着コンテスト…!」
「砂に埋もれろ#」
シャルティエが目を覚ましていたらグレイブで正に砂の墓場が立っていた事だろう。
リオンが後ろから片足で蹴り倒してウッドロウは砂浜に沈んだ。
一体、彼はどんな本で「夏の遊び」を学んだのだろう。
「あら、いいじゃない。あんたも水着姿くらいご披露したら?」
薄い笑みを浮かべながら明らかに嫌がらせなルーティ。
「あぁお前は水着だろうが普段の格好だろうが大して変わらないから違和感がないんだな。…常に脳内が熱暴走してるのか?」
「なぁーーんですってぇ!!!」
逆に冷ややかな一撃を食らって怒る羽目になった。
「全く…うるさいぞ、お前ら。とっとと遊んでこい」
「リオンも一緒に遊ぼうよ~」
「そうだ、水着コンテストはもう避けられないぞ!」
意味が分からない。
リオンは顎に手をやってちょっと考えてから事態を打開すべく、なぜか手持ちのガルドを取り出した。
「ルーティ、とびきりの遊びを提供してやる」
ガルドをことごとく海に向かって投げたリオン。
「拾ってこい#」
「何やってんのよあんたーーー!!」
…と言いながらもルーティは波の向こうに消えた。
「…リオン、いくら困ってなくてもお金は大事にしないと」
「大丈夫だ。あいつがすべて拾うはず」
そして残る天然3人組み。
「お前、そんなに夏の遊びがしたいのか?」
「なんでも受けてたとうじゃないか!」
「
、お前からも何か提供してやれ」
「えぇっ!?」
いきなりふられて一瞬あせる
。
けれど水着コンテストなど彼女にとっても冗談ではないイベントの部類なので速攻頭を使う事になる。
「じゃあ…平和的かつお約束の遊びをしよう」
「何かね」
わくわくしているウッドロウとスタン。
は砂浜に穴を掘り出した。
本当に埋めてしまおうと言う訳だ。
意図に気づいたリオンが、さっさと彼らを葬るべく手を貸してくれる。
もちろん埋まる予定の2人にも掘らせた。
「あ、砂風呂ですわね」
ナイスタイミングでフィリアが微笑む。
そしてスタンとウッドロウは文字どおり自ら掘った墓穴に身を横たえた。
「あっ、砂があったかくて気持ちいい!」
「これはなかなかいいな」
元々普通では考えられないくらい深く掘ったそこへ黙々と砂をかけ、固めるリオンと
。
心地よい砂の温かさに2人は本気で喜んでいる。
30分もすれば出たくても出られない事に気づくだろう。
スタンは寝てしまうかもしれないが。
「よし、封じたな」
そこで初めてふっと不敵な笑みを浮かべるリオン。
一見微笑ましい光景を前に、ほのぼのと花を飛ばしているフィリアは人畜無害なので放っておく事にする。
そこへルーティがざばざばと波間を闊歩して海から上がってきた。
「見なさい、拾ってやったわ!」
「そうか。じゃあ2回戦としゃれこもうじゃないか」
「だから投げるんじゃないわよーーー!!!」
「…」
「つきあいきれん」
その後姿を見送ってから溜め息を吐いてビーチに立てられたパラソルの元に戻るリオン。
フィリアと
も一緒に続いた。
「でもさ、リオン」
「なんだ」
「結構楽しそうに見えるけど?」
「…………………………どこがだ」
眉を寄せて、理解できんと言う表情にフィリアが楽しそうに笑っている。
人気のないビーチは、波打ち際に埋められて喜ぶ男2人という一部異様な光景をかもしながらものんびりとした雰囲気に満ち満ちていた。
なお、満潮時刻まであと20分。
あとがき**
レイさんによる167591(いろんな極意)HITキリリク「D1メンバーで海水浴」。
ウッドロウ、大活躍。
というかまた新たなキャラクター性を発掘してしまったファンダリア王。どーすんだ。
なんちゅーか季節外れですけど、天然ハイテンションなスタンたちとアンニュイなリオンの織り成すバカンスをお楽しみいただければ光栄です。
こうしてみると彼ら、リオンを除いたらどーしようもないパーティですね(笑)
レイさん、リクありがとうございました!