as promised.
あれから18年の時間が流れたのか。
それを今日ほど強く感じたことはない。
いや、それよりもこんなことがありえるのだろうか。
死んだ人間から荷が届くなんてことは───
アクアヴェイルは1つの国になっていた。
18年前の騒乱後、降り注ぐ外殻の直撃を受けモリュウ、トウケイの両国は衰退。
今はシデン領に全ての民が移り住み、復興は果たされていた。
フェイトが久々に旅から帰った親友の元を訪れたのは、空気のよく澄んだ秋晴れの日だった。
相変わらず領内・外問わずふらりと出かけ、風の向くまま気の向くままの生活を送るシデン家の三男坊。
フェイトとしてはそろそろ親友として落ち着いて欲しいところだが、こうして帰ってきたときに土産話を聞くのもまた、楽しみだ。
その話の途中だった。
ジョニーの元に荷物が届いたのは。
「…オレ宛に荷物なんて…珍しいな?」
「それより放蕩人間の帰ってくるタイミングを計ったかのような届きっぷりが感心だ」
茶化して言うと、どんなリアクションがあるかと思ったが、返事はなかった。
荷札を手にとったままジョニーは固まっていた。
「おい…?」
「…まさか」
「どうした」
自分に向けて呆然と呟いたジョニーの手元を覗き込むフェイト。
リターンアドレスも梱包の内容物の記載もない。
そこにはたった一言だけ、言葉が綴られていた。
文章として意味すら成さないそれだけでは、それが何を示すかはわからない。
しかし彼らは確かにそれが名前であること知っていた。
それは18年前、アクアヴェイルが神の眼の脅威にさらされた時にこの地を訪れた、忘れがたい人の名前のひとつ───
ジョニーが憑かれたように荷をほどき始める。
1mはゆうにある箱を開け、中に詰められた緩衝材を取り除いてジョニーの視線は再びそこに釘付けになった。
それは固唾を飲んで見守るフェイトも同じだ。
そこには、見事な意匠の和刀が一振り、収められていた。
「『紫電』…まさか…まさか本当に…」
手にとってさらりと鞘から抜き取るジョニー。
よく手入れされているそれは明鏡止水の輝きで彼の顔を映しこむ。
それは18年前に、行方不明になっていたシデン家の家宝だった。
ジョニーが信じがたい顔をしているのも無理はない。
しかし、彼の中では家宝が帰ってきた事実よりも、送ってよこした人間が問題だ。
荷札にある名前、その主は18年前に死んだはずなのだから。
「────
…?」
荷札と紫電とを視線を往復させてとうとうその名前を呟いた。
「いや、そんなはずは…」
それから苦笑を浮かべる。
そうであって欲しいと思いつつもそんなわけはないことを知っている。
「ジョニー…その荷物は、どこからきたんだ?」
だとすれば、それに縁のある人間の計らいか。
せめてもの送り元を確かめようとしたがそれも徒労に終わった。
「わからん。あて先以外は何もない。せめて手紙のひとつでも入っていたら…なぁ?」
「いや、それはそれで粋な計らいだろ」
「は?」
「お前は、それを見たときにもしやと思わなかったか?」
そんなことはないと思いつつ、そうであるのかと希望が湧いた。
「確かに…そりゃそうだ。一度湧いた希望ってのは…叩き潰されない限りはなかなか消えないものだしな?」
「この先それを叩き潰せる人間なんて現われないだろうさ」
ふっと笑いあって紫電をそっと鞘に収める。
ジョニーの視線がふと、こぼれる何かを追うように床におちた。
「いや、しかしなフェイト」
「?」
視線の落としたままのジョニー。彼の視線を追ってフェイトもそれを見た。
「こんな粋な計らいをする人間は、オレはやっぱり1人しか思い浮かばないぜ?」
その視線の先には、きれいに乾いた小さな花びらが床にはらりと落ちている。
そうして、もう一度箱を見て、紫電を覆っていた緩衝材の下にあるものを知る。
それは言葉には綴られないメッセージ。
アドレスのない荷札。
手紙のない荷物。
18年後に果たされた約束。
箱の底には、桜の花びらが敷き詰められていた───
「じゃあ…こうしよう。紫電は貸しておいて?
全てが終わったら必ず返すから。
────お代は、マント代でね」
あとがき
拍手でこっそりUPしようと書き始めたら殊のほかよくできたので正式版としてUPです。
何よりも喜びとともに、驚いて欲しかったらこうするのではないかと思います。
連載中、ノイシュタットは桜の季節の寸前でした。この花びらは早咲きのものか、桜の名所のあの町で、他の季節でも手に入るものかと思われます (土産ですか…)。
きっとジョニーはこのヒントに気づいたことでしょう。>送り主の所在
更新リクエストでも投票してくださった方、ありがとうございまいた。