—プロローグ—
冷たい…
ここは、何処だ。
見覚えがある気もする。
意識が戻ったその時、既に彼はそこにいた。
冷たい水面。
暗い闇。
その中に崩れ落ちた遺跡のような白い柱がぼんやりと浮かんで見える。
水没した何かの名残。
半濁して緑がかって見える水に、胸まで浸かったまま歩を進める。
その黒い髪も、頬も濡れていた。
やはり、知らない場所だ。
記憶にある限りでは、まとっていた服も見慣れないものに変わっている。
闇色の服。
この、薄寒い場所よりもなお濃い黒色の。彼の髪と同じ色の。
しかし、その左手にはひどく慣れた感触。
水から引き上げられたそこには静かな銀色を湛えた一振りの剣があった。
彼は、それが再び水に浸からないよう肩まで引き上げたまま、ただ、先へと進んだ。
ぱしゃり、と彼が進むその度に水の揺れる音が響くがそれだけだ。
一層に孤独であることを思い知らせるかのように。
広く、果てのない暗闇はまるで象徴。
あてどなく進む。
どこがこの静粛で、冷たい闇からの出口かもわからない。
いや、そもそもどこへ向かおうとしているのかすらわかっていないのではないか。
それでも、彼にはそうするしか術がなかった。
無心に
何かを探し続けるように
彼は、闇の中を手探りで彷徨い歩いた。
どれほど歩いたことだろう。
時間にしては大して経過もしていなかったのかもしれない。
ただ、いつからこうしているのかも
いつまでそうしてよいのかも既にわからなかったから。
まるで、それは終わらない悪夢のようで。
ふいに、彼を呼ぶ声があった。
〝リオン=マグナス…〟
それが、彼の名前。
立ち止まり、認識する。
まるで急速に霧が晴れるような、
潮が退いていく様な意識の覚醒。
その瞬間。
光が
溢れた──────