イツカ見タ アノ空ヘ―――――

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飢餓




パーティは、かつてない危機に瀕していた。

「腹が減った……」
「それは何度目だ。同じことを言うくらいなら黙ってろ」

財布の管理は、基本、カイルがしている。
管理と言っても文字通り持っているだけなので、買い物をするときには食材ならナナリー、武器ならロニとジューダスといった具合に通常であれば 二重チェックが入るので、パーティメンバーがそろってきている現在は、割と残額は安定していた。
ので、道中の用品・食品にはまず困らない……はずだった。
「誰だ、食材を盗み食いしたのは!」
「ごめん、ジューダス。どうしても我慢できなくて……」
カイルに素直に謝られると弱いジューダス。
しゅんとして自白したカイルに「うっ」という声が上がりそうな雰囲気だ。
「しょーがねーよな。育ち盛りだしな」
「そうね、カイルには頼れる男の人になってほしいもの。大丈夫よ、これくらい」
なんてみんなで甘いことを言っていたのは、育ち盛りのメンバー(ほぼ全員)が空腹に負けそうになる2食抜きをした頃までだった。
「あぁっもう限界だよー!」
「お前のせいだろ!」
「誰だろうね、しょーがないって言ったの」
「俺だって、育ち盛りなんだぞ……!」
「ふざけるな、パーティ最年長」
本来、次の町まで保つはずだった食材は、道を誤ったこともあり枯渇していた。
水源豊かな地方なので、水については確保できるのが不幸中の幸いだ。
が、 を除いた全員が、モンスターにまで狩人の目を向け始めるのは時間の問題だった…
「肉…ニク…」
「怖いよ、ロニ」
今倒したモンスターは爬虫類系なので、味は鶏肉に似ていると思われるが、まだ限界まで間があるのでご遠慮したい。
休憩をとるため河原に降りるとため息が複数聞こえ、一気に場の空気は消沈した。
「どうすんだよ! 水ばっかじゃもう戦えねぇ!!」
ロニは叫ぶ元気はあるらしい。
「野菜だけでも取っておく?」
「葉物はまっさきになくなっただろ…?」
ナナリーも食と体力資本なので、心なし元気がなさそうだ。
「せりなずな」
「?」
「ごぎょうはこべら ほとけの座  すずなすずしろ」
「???」
全員が疑問符を浮かべる。
、それなんの呪文……?」
確かに呪文っぽい。
「春の七草」
ちーぴぴぴ。
優しい日差しの中に、春の鳥の声が天高く、響いた。
「食べられるの?」
「草だろ?」
「本来は、野菜が乏しい冬場に不足する栄養素を補う意味で、食べられてたものもあるらしいよ」
「ホントに!!?」
カイルがものすごい勢いで立ち上がった。元気ではないか。
「それ、この辺にあるのかい?」
「いっぱいあるじゃないか」
周りを見渡す。
確かに緑のじゅうたんであるが、どれが食べられる草でどれが違うのか、誰もわからなかった。
「そっか! ないなら調達すればいいんだ!」
「その結論に至るのに、全員で約1日かぁ……」
「様子見してないで早く言えよ!」
本当に誰かが倒れる前に、そろそろ食料を調達すべきとの判断もあるが、町へつけるならそれが良かったわけで。
「七草はわからないけど……知っているものを探せばいいのよね」
「そうと決まればさっそく! …… 、さっきの呪文は?」
呪文じゃないって。
「セリはわかるでしょ。川にあるじゃない」
探さなくても、すぐ近くでひとつみつかった。
「なずなというのはそれじゃないのか」
さすがジューダス。言葉はもちろん覚えているし、割と有名な花なので、その名前も知っていたらしい。
「ぺんぺん草じゃねーか…食べられんのか、それ…」
23年生きてきて、初めての事実のようだ。孤児院でも役立つ知識だと思うが。
「ごぎょうって何?」
「よくわかんない。何度見ても似てる毒草がある気がするし」
「それはやめておけ」
植物図鑑ではないので、 だとてすべて網羅しているわけではない。
覚えているのは、興味があるところだけだ。
「はこべらは、はこべか?」
「確かにそれならいっぱい生えてるけど……」
「鳥がおいしそうに食べるし、新芽はとても鮮やかでゆでたら普通においしいのではと常々思っていた」
「お前の考えはよくわからん」
ジューダスの困惑した渋面。
柔らかそうだし、絶対ビタミンは豊富な色だと は思う。
種も意外とたくさん入っているので、穀物代わりの栄養があるに決まっている(断定)
「まぁ……動物が食べてるものは大丈夫っていうしな」
「違うと思う。一応訂正しておくけど、例えばコアラがスローモーションで動くのは、猛毒のユーカリを解毒しなければならないからっていうし」
「猛毒!?」
むしろ としては、この世界のどこに象やキリンやコアラがいるのか謎である。
(でもカイルやロニはその存在を知っている。)
「まぁいいや、そういわれればよもぎとかは餅に入れてよく食ってたしな。そういうの集めりゃいいんだろ」
「……」
よもぎ餅の存在が、ジューダスには割と大ニュースであるらしい。
いかにも常識っぽい言い方をされて、微妙な顔だ。
「そうだよ! きのこだって縦に裂けるのは食べられるって……」
「それ都市伝説だから。というか今の時期にきのこないから」
が矛盾点を的確に指摘する。
「絶対安全なのしか採っちゃダメ」
「すずなとすずしろというのは何なんだ」
「確かかぶと大根だから、それはないと思う。コーヒーが飲みたい人は自分でたんぽぽの根っこを煎じてください」
リアルサバイバルだ。
「そうなるとお肉かライスは欲しい感じもしない…?」
「あ、オレ 肉! 肉が食べたい!!」
「あたしが鳥でも仕留めるよ!」
…………仕留めた後、料理することを考えると、憂鬱になってくる。
羽をだれがむしろのだろうか(ナナリーしかいないだろうが)。
「鳥なら川に来てる痕跡があるけど」
全員の視線が、河原に集まった。
があそこ、と指で指し示した先には大きな岩があって、そこに不自然にとりのふんが白い尾を引いて大量に残っていた。
「大型の鳥類の餌場のようだな」
「でも、待ってたら埒あかないし、魚の方がいいかなぁ……」
「魚の方が、難しくないかい?」
は無言でジューダスを見る。
岩に岩を落とせばその下にいる魚が浮くことは知っていたが、それならロニの方が適任だろう。
しかし、もっと簡単な方法がある。
「?」
「リアラとナナリーは火の準備をしてくれる? カイルとロニは野草ね。細めのネギっぽい葉っぱがピンピン出てたらそれノビルって食べ物だか ら、掘ってみて。玉ねぎみたいな球根がついてたら食べられる」
「……なんでお前そんなこと知ってんだ……?」
「調べたり採るのは好きなの」
普段は敢えて食べるに至らない。採って食べる人に渡せれば大抵は目標を達したことになるのだ。
その一言に、ロニはものすごく納得していた。
「よーし、行ってくるわ!」
意気込んで散りだす一同。
「僕はどうするんだ」
「私と一緒に魚とり」
「なっ!」
川に浸かって地道に漁でもすると思ったのだろうか。
楽しそうだが、濡れた服を乾かすのは面倒そうなので、今回は手っ取り早く行くことにする。
「シャルも一緒だよ」
『僕も!?』
先に説明しないので、えっ!という声が返ってくる。
は少し溜まりになっている深場を見つけて、岩の上から見下ろした。
「知ってるか。見える魚は取れないということを」
「見えるほうが取れるよ、この場合」
そういって は、自分の荷物をごそごそと漁る。
取り出されたものを見て、ジューダスは納得した。
『あぁ、電気ショックね』
違法漁万歳(この世界では関係ない)。
電撃の剣、と呼ばれるディスクだった。サンダーブレードが使えるようになるので……
「手加減してね」
「結局僕がやるのか」
周りに他の面子がいないのを確認して、ジューダスはシャルティエを軽く振り下ろした。
決して、水の中にカイルやロニがいないことを確認したわけではないが、まぁ危険なので、まねしないようn(略)
電撃が水面を走ると見る間に ぷかー。と大量の気絶した魚が浮いてきた。
「……」
「……」
そして、それを誰が拾いに行くのかという問題にぶち当たる。
「僕は嫌だぞ」
「うーん、下流で待ってもいいけど、ちょっと深そうだよねぇ」
たまりなので流れは穏やかだった。
「カイルー!!」
困ったときの英雄様だ。 はカイルを呼んだ。
「何々?……わっ!魚が!!」
「大量だぞ。カイル、水浴びも兼ねて行ってこい」
「やったー! ごはんーー!!」
彼は躊躇なく岩の上から川に飛び込んでいった。
そして、つつがない食卓。
「あー、こっちの草、お浸しにしたら結構いけるぞ」
「草とか言うな」
多少嫌そうであるものの、確実に食材でいける七草であるものにはジューダスも手をつけている。
「魚もおいしいわね」
「何で捕ったんだ?」
「頭で」
うそは言ってない。
全員が久々の空腹を満たせて細かいことは気にせずに、それなりに幸せそうだ。
「これなら食材がなくなっても、またなんとかなりそうだよね!」
「無計画はやめろ」
「そうだね、いつでも川が近くて、春っぽい気候で、魚もいるとは限らないし」
「なんか冬以外なら通年で食えるものってないのかよ」
……。
みんなが一瞬考えたが、思い浮かばなかったらしい。
「ま、今度は食材をなくさないように気をつけていけばいいさ」
ナナリーが締めてくれる。
町までもう少しで着くだろう。つなぎとしては十分だ。
食べて、元気になった仲間たちは意気揚々と立ち上がり、歩き始める。



天然の食材…

昆虫もたんぱく質が豊富であることは知っていたが、黙っていた。


2016.08.17UP**
これ、思いついたの春先でした。


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