イツカ見タ アノ空ヘ―――――

Home


料理は愛情!(?)


「もう我慢ならん! 、俺と勝負だ!」
……何が我慢ならないのかよくわからないが、いきなりロニに勝負を挑まれた。
「どういうことかな」
「食は命の基本! お前はそれに対する執着がなさすぎる!!」
食事は旅中での粗食でもおいしくいただいていますが。
特に何かを粗末にしているわけでもないので、ナナリーも何言ってんだいと言葉だけでなく全身で表してくれた。
「最初から説明を求めます」
全員が首をひねる勢いだったので、仕方なく聞く。
「前の町に入る前、俺が食事当番だったろう」
「うん」
「その時、食材が余っていた。新しく補充する必要があるからな、俺はその食材をミラクルな勢いですべて使い豪華な料理にした」
新しいに越したことがないので使い切った、ということだろう。
「買い替え時とはいえ、食材を粗末にしたのはお前じゃないのか?」
「黙れ」
何かこだわりがあるのだろうか。ジューダスの一言にも珍しく耳も貸そうとしないロニ。
「お前は……お前はその時、賛辞の一つも俺に述べなかった!!」
「ごちそうだねって言った気がするけど」
「それは事実や感想であって賛辞ではない!」
つまり腕によりをふって作った料理に、期待通りの反応がなかったので納得できなかったらしい。
ごちそうという評価は割と賛辞の部類に入ると思うのだが、確かに名詞として用いれば事実を表す言葉になるのかもしれない。「俺はおいしいと……おいしいと一言言ってほしかった……!」
とか思っている場合ではなさそうだった。
何があったのだ、ロニ=デュナミス。
「ロニ、あれおいしかったよ!」
「さすが一人暮らしで腕を磨いただけあるわよねv」
「リアラ、ジューダスもそれ、思っても言わないよ」
カイル、リアラに続いて
みんなフォローする気があるのかないのか、賛辞から遠ざかっている気もする。
「ジューダスはいいんだ。いつものことだしな」
今頃わかったようなことを言われても。
「でもお前は違う! おいしいならおいしいという人間だ! なのに! 俺の自信作に舌鼓を打たなかった……」
「細かいことを引きずる男は嫌われるぞ」
ジューダスの鋭い指摘に女性陣はうんうんとうなづいている。
「何か考え事でもしてたんじゃないかなぁ…」
自分で言う。一応、味については相手ががんばったなら頑張ったなりに良いところをみつけることは心掛けているつもりなので、それを言わなかったことには理由があるのだろうと自分で思う。
それか、食べなれないものを食べてそうは思えなかったか。割と外食は新規開拓しないタイプなので、大いにありうる。
「だから今日は……勝負だ!」
「町がもう見えてますけど」
日没までに入れる圏内。早く入ってお風呂に入ってベッドで寝たい。
「だからこそ、今ある食材すべてを投入し、勝負!」
「しつこいな……」
ナナリーとカイルはどんなメニューができるのかとちょっと興味を引いたようだ。
今日は割と、いい食材が残っている。
無理に使い切らなくてもよいのだが、パーティの懐は旅も中盤に至り、それなりに潤っていた。
カイルが食べてみたいというので、リアラが同意し、ジューダスはどうでもよさそうだ。
……仕方ないので意味が分からないまま受けることにする。
「よーし、時間は仕込みから入れるようにたっぷり90分だ! 食材は早い者勝ちで使えることにする!」
「うん、わかった」
気分の問題なのか、ロニはどこからか白いコック帽をとりだし自らの頭に装着した。
「料理人ロニ様の本気を見せてやる」
掛け声つきの気合を入れて根菜類を刻み始める。
温度差が激しい。
「ねぇロニ、ひとつお願いなんだけど」
「なんだ!?」
さすが一人暮らしが長いだけあって、包丁さばきは主夫だった。
男の一人暮らしは、出来合いのものになりがちだが、彼の場合孤児院で手伝っていたこともあって自炊派だったのだろう。
それにその方が安くすむ(おそらくロニの自炊、最大の理由)。
「ライスを最後に炊くでしょう? できたら分けてもらっていい?」
「……まぁそれくらいなら……同じもんだしかまわねーよ」
「じゃあ、分量は私が計って研いどくね」
それでは、共同作業じゃないか。
ジューダスの目線があきれたように訴えていた。


90分は長い。
手の込んだ料理をするには短いともいえるが、普通に待つには長い。
暗くなってきたがすでに料理のために火は起きているのですることもなくみんなそれぞれが談笑したりしている。
「……」
「おい」
「?」
ジューダスが本を開いているに声をかけた。
「お前それ、普通に料理と関係ない本だろう。いったい何をしているんだ」
「…… 何もしてない」
ちょっと間をおいて、答える。勝負する気がないらしい。
最初は料理本かと思い、気にも留めなかっただがはただ、草原の石に腰を掛けて、別々に起こした火の上の小さな網を前に本を読んでいるだけだ。
「でもそろそろ時間だから、用意しようかな」
今頃用意とか。
残り時間は10分を切っていた。
一応網の上には魚らしきものが乗っている。いい具合の香ばしさは漂っていた。

そして、ライスが炊けた5分後に、時間切れとなる。

「どうーだぁ!」
「ロニ、すごーい!!」
野営にありえないコース料理が出てきた。
ただし、時間制限などもあるので、すべてが一斉に並んでいる。その分、さらに豪華に見えた。
こんなものまでできたのかと、羨望のまなざしが集まっている。
「ふふふ、どうだ。孤児院では見たこともない料理だろう!」
「いつ覚えたのかが謎だよね」
「女の気を引くためじゃないのか?」
とジューダスが冷静に言うのは間違ってないのだろう、笑顔のままぐっとロニは一瞬言葉に詰まっていた。
「さぁ、は!?」
「私は量が少ないからあとでいいよー」
それを聞いてロニが不敵な笑みを浮かべた。あとになればなるほど冷める。味が落ちるのは目に見えている。
「ふ…ふふふ…」
「気持ち悪いぞ」
がそれがわからない人間ではないということに思い至っていないわけだが。
「あたしもこんな豪勢な料理……見たこともないよ」
「オレも!」
食べたことないではなく、「見たことがない」あたりが不憫だとジューダスが珍しく憐みの目を向けている。
そして、実食。
「ん、……おいしいわ」
「豪華だよねぇ…チキンなんてこんな丸々だし」
「おいおい、食べすぎるなよ。の料理が入らなくなるだろ?」
ロニは余裕だ。ジューダスは味付けにうるさ……もとい本場の味を知っているので黙って食している。
プロと比べて批評するほどご無体でもない。
「私、ライス系だから途中だけど食べてもらっていい?」
「おう! いいぞ!」
はロニに分けてもらった炊飯鍋ごと持ってきた。
量はないようだが、なんだろうと全員の視線が集まる。
開ける。と……
「……おにぎり……?」
「お前、やる気ないだろ」
「違うよジューダス、に限ってそんなこと……きっと中にびっくりするようなものが入ってるんだよ!」
「カイル、期待してくれて何だけど、これといったものは入れてない気が」
普通のおにぎり。ある意味それがびっくりである。
「温かいうちに食べたら?」
「そうだね、せっかくだし……じゃあ」
ナナリーがまず、手を伸ばした。一応具材は数種類あったので、小さめに作っている。
リアラとカイルもそれぞれ手に取って、口に運んだ。
「!」
一様の反応。3人ともその直後に笑顔になる。
「おいしい!」
「本当……おいしいわ」
「あ、俺の中身が鮭だ。リアラは?」
「えと…ツナマヨネーズかしら?」
普通のおにぎりなのに、異様に盛り上がっている。
その笑顔が明らかにロニの料理のそれを上回っていたので、納得できずにロニはひったくるようにそれを一口に放り込んだ。
「……」
「ただのむすびだろう?」
「ただのおむすびです」
ジューダスも手に取って、口に運ぶ。ロニが沈黙している理由が分かった。
とても温かい。タイムラグはあったが、鍋に入れて保温していたせいだろう。出来立てほかほかだ。
に、比べてロニの料理は……
「待て、俺の料理はまだフルコースじゃないだろう! 最後まで食べて判定しろ!」
「うん、じゃあロニのも食べるよ」
しかし、ほかほか炊き立て握りたてのおにぎりを食べた後に味わうコース料理は……ことさら冷め切っていた。
「うーん……」
微妙な空気。
「おいしいけど、やっぱり食べなれてないせいかね。あたしはおにぎりの方が好きかな」
「バカな!」
ジューダスの常套句もロニが言うとその通りだといいたくなる感じがする。
「こんな簡単な料理ともいえない料理に負けるなんて…」
「まだ判定は出てないはずだが、認めたな」
ジューダスはロニのメニューも割と嫌いではないので両方食べている。
「このチキンとかおいしいから、敢えて細かく裂いて温かいご飯に挟んで食べるとおいしい」
「それは俺が作ったやつだろ!」
「おいしく食べられればいいじゃない」
勝負する気、未だにないらしい。
「でも、よく考えたね。あたしたちの好みとか、習慣とか考えたのかい?」
「いや、何も考えてない
「え…」
ジューダスだけは知っている。
「面倒だから、終了直前から作れるメニューにしただけだろ」
「魚を焼いたりツナ缶を開けたりはしたよ」
ツナ缶を開けるのに一体何分かかるというのだ。
「それに手をかけたものほどなぜか素早くできたものより出来が悪いという私の経験則があって……」
「俺の料理はそんなに出来が悪いか?」
「だから私がそれをすると多分そうなるからしたくなかったの。で、あとは最高のスパイスは空腹だって思ってるのと、私自身が冷たいご飯が好きじゃない」
おそらく+(プラス)勝負への無執着。
結果、条件を満たすものがおにぎりというメニューだったらしい。
「それにおにぎりって、具材で味変わるしねー」
そういって5つ並んだ俵状の小さなおにぎりを取り出した。
「この中に、ひとつだけ激辛のわさび菜が入ったものがあります。どれでしょう」
「ロシアンルーレットにするな」
ジューダスはまっさきに一つとってそのまま割って中身を確認したが、入っていたものが怪しい緑の菜っ葉だったのでロニに押し付けた。
「……つまみに最高だな」
普通に食している。
「空腹は最高のスパイス、か。そうかもねぇ」
ナナリーが何か思い出しているのか感慨深そうだ。
「カイル、3日食事抜きにすればただのおにぎりがさらにおいしいごちそうになるよ」
「えっ……!」
「そもそも3日も耐えられないだろうが。戦闘に支障が生じるからやめろ」
冗談だか本気だかわからない提案にカイルは一瞬笑顔になったが、速攻ジューダスに却下された。
……俺の負けだ。俺は本当に大切なことを忘れかけていた……」
「いや、勝負とかどうでもいいから」
「温かい心のこもった温かい料理! それが最高だなんて当たり前のことじゃないか……!」
今回に限っては、温かい心がこもっているかどうかは謎だ。
「だから、勝負はもういいってば」
「お前はなんて心が広いんだ、それに比べて俺はこんなに小さい人間か……っ!」
心が広いというより、どーでもいいのだろうとジューダスは思う。
ある意味、それを空というならば、菩薩の域だが。
「ロニの食事もあたためながら食べて、そして早く町へ入ろう」
「優しいっ!」
違う。早く宿に入って風呂にでも入りたいのだろう。
ともかく、こんな町のそばで野営などせずに済んだことを幸いに思いつつジューダスは、の作ったおにぎりを口にする。
……普通においしかった。


2016.10.24筆(11.4UP)
どこかの料理アニメみたいに「うーまーいーぞーーーー!!!」って爆発の演出とか入るはずだったんだけど、無理でした。
あと、ロシアンルーレットむすびには、もうひとつくらい何かが仕込まれている予感。何か甘いものとか。


|| Home || TOD2_MENU ||

↑ PAGE TOP