─ 狼と7匹の子ヤギ ─
その森から程近い、白い家には白ヤギの家族が住んでいました。
ある日のことです。
母ヤギはでかける間際に子どもたちを呼んで言いました。
「いいかい、これから出かけてくるけど狼には気を付けて」
森には狼が住んでいます。これまでも狼はたびたび現れましたがとにかく子ヤギたちにとって危険なので母ヤギは近づけない様に気を付けていました。
「気をつけてって言うけどよ。家だとか店だとか経済の成り立ってる擬人化世界でも、襲って丸ごと食われちゃったりすんのか?」
「君みたいな子は食べても肉が固くて不味そうだけどね。非常食用に攫われるのもありだから気を付けなさいと言っているんだよ。…他に質問は」
「…ありません」
他愛の無い年長組みのロニお兄さんの呟きはカーレル母さんの見事な説得の前に沈黙の海へ沈みました。
「狼がきたら絶対に扉を開けてはいけないよ。狼はよく変装をするから気をつけてね。
でも、あの独特の声と黒い色で狼と分かりますからね。用心をおし」
きっちり言い聞かせて母ヤギはでかけていきました。
「狼ねぇ…これだけ人数いれば逆にふんじばってやることもできそうだけど」
「もし中に入ってきて襲われてもさすがに7匹も一度に食べたりなんてできないし。その時は誰か1人を差し出しておけばとりあえず大丈夫よねv」
一番上のルーティお姉さんが事もなさそうに言うと、二番目のお姉さんのリアラがうふふvと楽しそうに笑います。
その時でした。
コンコン。
鍵のかかった戸口でノックの音がします。
「かわいい子どもたち、開けてくれないかい?お母さんだよ。君たちに素敵なものを持ってきたよ」
「「「…」」」
「口調的には母さんと似てるんだけどね」
部屋の奥のソファで本を開いていた一番末っ子がなんとなく溜め息とともにドアの方を振り返ります。
ルーティお姉さんは、戸口に忍び寄るといましもオープンドアカウンター(注※人がいると分かっていながらドアをぶつける勢いで開ける荒業。ドアに近いほど鼻が折れる可能性がある)を食らわせそうな顔で外をうかがっています。
「絶対開けちゃ駄目だよ」
関わり合いにならない方が良い。
末っ子には見るまでもなく「黒い」狼であることがわかったのです。
と、言ってる傍から一番上のスタンお兄さんと一番下のカイルお兄さんが開けてしまいました。
「「おかえりなさい!!」」
「話しがちがーう!!!!ってきゃあっ!」
つっこむために振り返った姉ヤギは、ドアの向こうから伸びた色黒の手に捕まってしまいました。
「ルーティ!!!」
バン!
勢い良く扉が閉められスタン・カイル両兄ヤギは弾き飛ばされてしまいます。
「おい!大変だ!!ルーティさんが攫われた!!!?」
「…1人ずつ攫っていく方法で来たのかな。狡猾な」
ドアの向こうを伺った時には既に、狼と一番目のお姉さんヤギの姿はどこにも見あたりませんでした。
「くっ…狼め!!!」
「彼女、攫ってもただで食われたりしないから大丈夫なんじゃない?」
と、ドアの傍にいた2人のお兄さんにのんきに苦笑を向けたのは4人いる内の3番目のお兄さん。シャルティエでした。
「そんな…!!」
「確かにルーティさんならビンタのひとつも食らわしてくるんじゃないしら?」
これはひとつ上のリアラお姉さん。
なんとなくシャルティエを境にした年少組の方は落ち着き払っています。
「それよりも」
末っ子の は言いました。
「狼が誰かって事」
コンコン。
再びノックの音がします。
神妙な顔で部屋の奥にあつまっていた子ヤギたちの視線は再びドアに向かいました。
「こどもたち、開けてくれないかい?おみやげを持ってきたよ」
「うるさい!狼め!!もう騙されないぞ!!」
「そんなことを言わずに。ほら、開けて確認すればいいだろう?」
そんな小賢しい言いっぷりに扉の両脇に経っていたスタンとカイルはうなずき合いました。
そして…
「ってこら!開けるなっていってんでしょうが!!」
なんと。
言われるままに鍵を開けようとしたところ、部屋の奥から飛んできたフォトフレームに後頭部を直撃されて、おかげで錠前は外されずに済みました。
「何するんだよ 〜」
「アホか、君らは」
情けなく振り返ったどこかそっくりな2人はほっておいて。
「狼さん。お母さんはそんな声じゃないよ」
シャルティエお兄さんが言いました。
「そうかい?さっきは開けてくれただろう」
「開けて欲しくばセオリー通り、店にいってチョークの大きな塊をひとつ食べて声を変えてきて下さい」
「…ははは、手厳しいね」
ところでチョークで声、変わるんだろうか。
そんなことを思いつつ末っ子が遂に口を開くとなんだか妙に余裕のある返事がドアの向こうから返ってきます。
「ヘリウムガスじゃ駄目かね」
「駄目です」
ていうかそれ、変な声になるだけですから。
「ついでに言うとお母さんはそんなに黒い手じゃないですからね。さっき見えてましたけど」
「でかけがてら日焼けサロンで焼いてきた。というのは?」
「無しです」
「あ、そこはパン屋へいって生地つけてもらって、粉屋で白い粉をふってもらうところだよね♪」
「だから、ヤギ襲う狼がなんで店にいってパン屋と粉屋に協力させんだ?」
「協力じゃなくて脅迫よv」
背後でギャラリーと化した姉兄たちが好き勝手言っています。
だから人数が多いのと言うのは大変です。
末の子ヤギがやや眉をしかめたところでドアの向こうから溜め息が聞えてきました。
「…まぁ、いいか。いよいよなら鍵師に開けさせるという手段がある。王の頼みとあらば断るまい」
「腹の中まで黒ですか、あなたの属性色は」
とうとう正体を自白した狼は、にこにこと微笑みながら窓から顔をのぞかせました。
そしてコンコンとガラスを叩きます。
銀の髪に、黒い肌。
見てくれだけは整っていて黒狼と言うべきか白狼と言うべきか迷うところですがとりあえず腹黒狼と呼ぶことにしま しょう。
「ちょっと話しを聞いてくれないかね」
「御免被ります」
正体が判明したので末っ子は再び部屋の奥へと戻っていきました。
人の良いスタンとカイル兄弟コンビは逆に顔を窓へと寄せます。
「どうしたんですか、ウッドロウさん」
「実は間違って攫っていったルーティ君だがね。暴れてどーしようもないのだよ。
まぁ狼としては非常食としてストックしておいても良いのだが…
とにかく迷惑被っているので一緒に来て宥めてはくれないか」
「えぇっ!!!!それは申し訳ないです!」
ごめんなさいと言いつつぺこぺこと身内(?)の行いに頭を下げる兄ヤギ。
そこは謝るところじゃないから。
大体、いらないのならあちらから返しにくれば事は済むだろうになぜわざわざ訪ねてくるのか。
いや、それよりも。
「今、間違って…って言わなかった?」
「シャル、関わっちゃだめ。どっちにしても最終的には全員さらって食べるのが目的なんだからね!」
部屋の奥で狼とは目を合わせない2人。
しかし今回の狼の狙いは…
「2人とも。一緒に来てはくれないだろうか。お礼にできる限りのごちそうもしよう!」
「えっ、ホントですか!!」
「ごちそうはともかく、オレ、責任持ってルーティを大人しくさせます!!」
待て待て待て。
そして、彼ら2人は自らドアを開けてしまった。
「フ…開いてしまえばこっちのもの…」
「リアラ!」
「まかせて!フィアフルストーム!!」
「ってスタンさんとカイルがーーーーー!!!」
さしもの狼も上級晶術には対抗できませんでした。
外へ出てしまった兄2人ともども、悲鳴を残して消えてしまいます。
バタン。ガチャ。
絶妙のタイミングで扉を閉める末っ子。
ふぅ、と息をつくも、兄弟はとうとう4匹になってしまいました。
「…どうするよ」
「どうするって…どうしよう?」
助けにいかなきゃ!というよりも、ほんとに困ったと言った感じで2番目と3番目の兄ヤギ。
「まぁあの狼ならすぐに何って訳じゃないと思うけど…もう一回来る気がする」
それも回避不可能な理屈をひっさげて。
はじめに相手にしなければそれで済んだのに、こうなってしまうと後には引けません。
狼としてはどんな手段を用いてもセオリー通り全員牙にかけようとするでしょう。
するとどうなるか。
最後に1人だけ残る→狼とタイマン。
…。
それだけはさけねば。
なんとなく言い知れぬ危機感を抱いた末っ子は、気が向かないながら重い腰を上げることにしました。
「助っ人、頼みにいこう」
「助っ人?」
「目には目を。…ってわけでもないけど…」
「駄目だよ!危ないってば。もう少し待てば母さんが帰ってくるだろうし…」
「絶対来ない。展開的に」
悟った口調で末っ子。
それならと3番目のお兄さんが着いていくと言い出します。
不安一杯の様子に少し頼りない気もするのですが、気が紛れるので一緒に行ってもらうことにしました。
「リアラ、万が一留守中に来たら問答無用でぶっとばしていいからね。それまでロニで遊んでて」
「わかったわv」
「ち、ちょっと待て、俺も連れてけ!ってかボディーガードなら俺の方がいいだろ!?」
「…じゃ、行ってきます」
お姉さんの玩具も残してきたことですし、これで家の方は心配ないでしょう。
3番目の兄と一緒に末っ子は外に出ました。
「…母さんに怒られない?」
「ドアを開けるなとは言われたけど外へ出るなとは言われてないし」
「…」
あのお母さんにはそういう理屈が通じるところが有るので兄ヤギは黙って聞き過ごすことにしました。
* * *
2人は森の中へとやってきました。
そこは狼の森です。
ごく普通の緑の匂いにあふれた森ですがなんとなくどこかから狼が出てきそうで、(若干一名)不安になりながらも進んでいきます。
泉まで来ると末っ子はきょろきょろと辺りを見回しました。
「誰を探している」
びくり。
お兄さんが声に驚いて振り返るとそこには紫の瞳の狼が腕を組んでこちらをながめています。
家にやってきた腹黒狼と違う、白い肌の狼でした。
「ぼ、ぼぼぼぼ坊ちゃん。今、おなか一杯ですか?ですよね?まさか僕らを食べ…」
「食うか!!いきなり現れて勝手に怯えるんじゃない!」
素晴らしい速さで木の後ろに身を隠しながらびくびくと顔色を伺う兄ヤギを一喝してから憤然と溜め息を吐いた狼に末っ子は声をかけました。
「狼さん…腹黒狼が我が家に来て困ってるんですけど…なんとかして。」
末っ子の言い分はストレートでした。
「なぜ僕が」
「同じ狼でしょう?狼が孤高だなんてウソ。なぜって犬科だから。本来群れを作って暮らすものでしょう!!!」
「…ここで種族的説明をされても困るんだがな」
「というわけで同族の義務。あんなのが狼だなんて正統派に失礼。ヤギのみならず他の狼、ひいては社会の迷惑」
この狼は礼儀を重んじることを知っていましたから末っ子はお願いにやってきたのです。
けれど、狼は渋い顔。
しかし、渋っているということ言うことは、それも一理あると認めると言うことです。
特に最後の「他の狼=自分に迷惑」の部分。
彼の場合は「同族扱いされる事自体迷惑」であると言えましょう。
お兄さんも勇気を振り絞って言いました。
ヤギである特質上、狼が恐くて木の影からは抜け出せないまま。
「坊ちゃん…手を貸してください!僕らは所詮ヤギなんです!!紙を食べるくらいしか脳がないんです!!!」
「「それも偏見だろ」」
呆れた顔をしてから思いついたように狼は言いました。
「ただと言う訳にはいかんな」
「…そんなここで悪役されても困るよ?」
「うるさい。僕には人助けなどする義務はない。それにお前。なぜ末っ子なんだ。6匹も兄弟がいるなら一番下と言うことはないだろうが」
「坊ちゃん、そんないまさら設定における矛盾点をついても…」
「細かいこと気にしちゃ駄目だよ」
「…そのやる気の無さで一番端の席に座っていたら末っ子だったパターンだろう」
「そんなところかな」
この狼は常識人で神経質でした。
セオリーからはずれた展開にまだちょっと悩んでいるようでしたが結局最後はこう言いました。
「わかった。だが、何とかした暁には僕の要求を1つ聞いてもらう」
「まぁ1つでいいなら…」
狼を連れて末っ子の子ヤギとお兄さんヤギは再び家に戻りました。
「あら、おかえりなさいv」
家に戻ると留守番していた兄ヤギはなぜかソファの下で倒れていました。
狼はそれを気にすること無く踏み越えてソファに腰を下ろすと今までのいきさつを聞いています。
「…馬鹿か、あいつら」
第一声はそれでした。
とその時。
カチっ…ガチャ。
鍵の開く音がしてノブがまわりました。
「おや、いらっしゃいリオン君」
扉が開いて現れたのは母ヤギです。
訪問者に目を覚ました上のお兄さんがひそひそと聞いてきます。
「なぁ…カーレルさん、鍵、持ってたのか?」
「当たり前じゃないか。自分の家の鍵くらい持ってるよ。」
「…じゃあ、扉を開けたあの2人って」
「だから馬鹿だと言ったんだ」
母さんですよ、開けて。
なんてしつこくいう事自体おかしいのです。
もっともそれに気づいていたのは末っ子くらいなものでしたけど。
「…ところで半分くらいいなくなってるみたいだけど」
「腹黒狼に連れて行かれたらしいぞ」
「うーん、出来のいい子は残ったみたいだね」
いい子いい子、と母ヤギは末っ子の頭を撫でました。
「ってそれでいいのか!!?」
「生存競争の原理だね。野生なんていうのはそうやって優れた遺伝子が残っていくものだよ。
動物的にいうと…7匹中の4匹が残って良かったねvという基準かな」
「「「…………」」」
「所詮多産型の畜生だな」
「まぁ仮にも我が子だから取り戻せと言うならそれもやぶさかではない」
あまり…というか殆ど馴染みの無いメンバーなので愛着が無いのでしょうか。
それとも7匹、という数が元々手に余るのかお母さんはさらりと非情なことを言って述べています。
「狼さん…私は大家族が苦手です」
「そうか、僕もここに加われと言われたら御免だな」
脈絡も無く遠い目をしている一匹と一頭。
コンコン。
そこへ三度訪問者がやってきました。
「何の用かな」
「なんだ、母ヤギはもうご在宅のようだな」
腹黒狼のようでした。
しかしもう開き直っているので変装仮装はあまり関係ないようです。
「なら率直に申し上げよう。娘さんを私にくれないかね」
ちょっと待て。
「娘は今ここに2人いるけどどっちかな?」
だから待てって。
「一番し…」
「駄目————!!ダメダメダメダメ!!他の兄弟ならともかくこの子は駄目!!僕1人でこの一 見無分別な家族の中、誰とどうやって和めっ て言うの!!坊ちゃんや他のソーディアンメンバーもいないんじゃ僕繋がりが何もないじゃない!! がいなくなったらもう僕は旅に出るしかないよ!!っていうか文字どおり狼的な凶行に走られても困るしね!!断固反対!横暴!!セクハラ狼あっちいけ!!!」
何言ってんだ、シャルティエ。
いきなりのマシンガン発言に一瞬場内は沈黙に包まれましたが母ヤギは何事も無かったように、にっこり笑って言いました。
「シャルティエ…じゃあ私はどうなるのかな?D2メンバーはともかくD1メンバーなんて会ったことすら無い上、ハロルドとオリジナルメンバー以外は文字どおり大した縁もゆかりもないんだよ?」
「カーレル中将ならどこに行っても大丈夫です」
「そう、褒められたと思っておくよ」
母ヤギは、ともかく狼に向かって言いました。
「…いずれ狼の末期ははさみで腹を切り裂かれて石を積められて湖に沈められる、って知ってるかな?」
「そんなことが今の世の中できる訳無いだろう?」
「いや、そもそもそれは魔女裁判と同様に男を裁く為の「人間狼裁判」が発端だからね。処刑法としては実在するよ」
「「「…」」」
部屋の奥で青くなって震えそうな子供たち。
「ま、その前にこちらにいる狼くんが君に話しがあるそうだから」
「なっ…僕にふるな!」
「リオン君。それとも君は要求を棄却して敵前逃亡するつもりかい?」
「…誰がだ#」
なぜ交換条件を出したことを知っているのでしょう。
プライドの高い狼は売られた喧嘩を買いました。
「シャル!」
「え…えぇぇぇ!!僕ですか!今、ヤギです。無理です」
「大丈夫だよ。ソーディアン☆ミラクルで何とかなるんでしょう?」
「 、それ何の話…………?」
母ヤギはにこやかに森狼と子ヤギたちの戯れを見守っています。
「ほほぅ?リオン君か…こんなところでまで私の邪魔をするとは…」
「目障りなのはどっちだ。ここはお前の縄張りじゃないだろう。攫った3匹はくれてやるからとっとと帰れ」
狼は外へ出て行きました。
…。
「リアラ、玉の輿でカイル君といっしょに暮らせるとしたらどうする?」
「えっ…そんな…一生王様の財力でカイルと豊かに楽しく女王様暮らしができるなんて…
でもそうしたらお母様たちにも今まで育ててくれた恩返しができますねv」
「…リアラ、すっかり行く気満々だね」
残ったヤギたちはなぜか嫁に行く気(誰のところに?)満々とばかりに頬を赤らめた2番目のお姉さんを囲んで和やかムード(?)です。
「そうと決まったら弱ったところで捕獲して根城へ案内してもらいなさい。幸せにね」
なんだかわからないけど母ヤギと姉ヤギの間で話がまとまった模様。
その時、バン!と扉が開いて肩で息をしながら小さい方の(「小さいとか言うな#」)狼が現れました。
「終わったぞ」
「いやぁさすが坊ちゃん!!剣にかけてはウッドロウも下らないですね!」
「当たり前のことを言うな」
何があったのか外はめちゃくちゃになっていました。
焦土と化した庭の真ん中辺りに黒い狼は転がっています。
「く、…私としたことが…狼役などでなければ」
「いや、狼役でも十分好き放題やってますから」
さて、こうして腹黒狼は森の狼と母ヤギの智略によって「7匹の子ヤギ」の家から去っていきました。
そして…
「さて、狼くん…約束通り何か要求があるなら聞くけど、どうする?」
「…なんだ、僕はてっきりお前が来た時点で適当に難癖付けて無かったことにされるだろうと思ってたんだがな」
「どういう意味かな」
「い、いや別に…」
母ヤギは優しく微笑んで約束を守ることを誓ってくれました。
「坊ちゃん…あんなこと言って要求なんて特に考えてなかったんでしょう」
「リオンらしいね」
その言葉にむっとしたように狼は言いました。
できるだけ無理難題な要求を。
「…1匹よこせ」
「何?」
「だから1匹よこせと言ったんだ。7匹もいるならいいんだろ?1匹くらい」
これには母ヤギもハトが豆鉄砲をくらったように…いやこの場合はヤギが丸めた紙屑なげられたように、と言うべきでしょうか。目を丸くしました。
けれど
「いいよ」
あっさり。
「どの子がいい?」
「どっ…どの子がいいってカーレルさん…!!」
あせった上の兄ヤギがいいますが母ヤギは微笑むばかり。
「だって森の狼に1匹渡せばヤギと狼間で協定も可能だろう?共存共栄が無理でも不可侵条約って言うのもありだし、とりあえずできるだけお互いにいい方向で──…」
「お前…どこまで軍師気質だ」
「あっはいはい!じゃあ一匹と言わず2匹で♪僕と が行きます!…どう?」
「私は別にかまわないけど」
「いいよ、じゃあたまには帰っておいで。森は近いからね」
…と言う訳で…
真ん中のお兄さんは末っ子と一緒に、森で暮らすことになりました。
腹黒狼は住み着かれた子ヤギたちの相手に忙しく、以後めっきり姿を見せる回数が減ったと言います。
時折は森の方で狼同士が騒ぎを巻き起こしている姿も見掛けられたようですが────
めでたしめでたし。
余談。
腹黒狼の元には手に余る4匹の子ヤギ、
森狼の元には2匹の子ヤギ、
そして残る1匹は──…
「って俺だけカーレルさんとこに残るのかよ!!!」
「お嫁さんでも探しに行ったらどうだい?」
「…そうだなぁ、できる限りの美女を…!」
「なんでもいいから早く1人にしてくれないかな。仕事貯まってるんだよね」
1人残ったお兄さん…
お嫁さん探しは長い旅になりそうです。
あとがき**
200000HIT風巳紅狼 さんによるリクエスト「狼と7匹の子ヤギ」。
え〜書き終わる頃に気づきました。
バルバトスがいなーーーーい!!!!(だから?)
彼は粉屋です。今ごろ「予約をしておいて来ないとはなめてんじゃねぇぶるああぁぁぁぁぁ!!(意外に常識人)」とか言ってると思います。
狼と子ヤギ、知らない方はいないと思いますが本筋では6匹は一度に食べられて末っ子と母ヤギにより救出されます。昼寝をしていた狼の腹をかっさばき、 石を詰めて泉に落とされると言う結末とともに…そんな間抜けた役に「彼」を据えられるわけが無い。わざわざ訪問するほどやる気無さそうだし。
というわけで相変らず全く下話がわからない仕上がりでお送り致しました。
無駄にボリュームありますが記念すべき20万HITということでご笑覧いただければ幸いです。
風巳さん、リクありがとうございました!
|| Home || TOD2 小説メニュー
Copyright(C)2015 自由本舗 らくがきカンパニー All rights reserved. designed by flower&clover