運命ノ物語

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外殻の落下によりジュノス、ハーメンツ、モリュウ・トウケイ、そしてダリルシェイドが壊滅したあの日から3年…
これは短期間で復興を遂げるための最初の一歩となった話。

とある史実書の記録より


の提案により、外殻落下時の危機を避けるため、ダリルシェイドの多くの人々は、広大な地下水路に避難をしていた。
これにより、人的被害は最小で済んだ。
しかし、轟音が止んだその後、人々が見たのはおよそ原型すらとどめない凄惨な状況になった栄華の都だった。
戸惑い呆然とする人々。
それでも大混乱に陥らなかったのは、あらかじめこういった事態も想定されての避難であったこと、それから家族全員が無事である者が大半であったからだ。
まもなくソーディアンマスターを乗せた飛行竜が帰還したがそこからダリルシェイドに降りたのはリオンと だけだった。
もうすでに上空から地上に何があったのか、彼らは見ていたのだ。
そして知っていた。それが世界規模で起こっただろうことも。
そのまま他のマスターたちは、自らの故郷に戻っていった。


呆然としていたのは、市民たちだけではなかった。
民衆を水路に避難させるために、役割を担った兵士、そしてそれを指揮したミライナ=シルレルもまた、その様子に黙すしかなかった。
ただ、民衆が動きだすことがなかったのは彼女の存在が大きくあったと思われる。
しかし戻ったリオンを前に、将軍として勤めを果たすべく表情を引き締める。
「他のマスターたちは?」
「それぞれの国に戻った。被害を受けたのはこの街だけではないからな」
そしてリオンはその後ろにいる民衆たちの不安の視線を浴びながら、そちらに向き直った。
「外殻の一部は落下したが、ダイクロフト及び神の眼の破壊は達成された。もう二度とこんな脅威は訪れないだろう」
その言葉に、心を動かさなかった者も無論いる。今この状態を前に何をするか、それがわからないから。それでも多くの人間はその朗報に少しだけ緊張した表情を崩し息をついた。
「ミライナ将軍、私たちは城がどうなったのか確認してきます。数人でいいので部下の方を貸してもらえますか」
がそっとミライナに歩を寄せ声を小さく尋ねる。ミライナはそれを純粋な疑問で返した。
「それは将軍である私の仕事です。現状がわかったのですからすぐにでも確認に行きます」
「いいえ」
はそれを真っ向に否定した。
「王城がどうなっているか分からない以上、ここを治められるのはミライナ将軍だけです。市民の方には確認が出来るまでここを動かないように、騒ぎにならないようにしばらく我慢してもらってください」
意図はある。いくらでも、だ。
ミライナがまだ渋っているようなのでリオンがその理由を明確にした。
「城が崩壊しているようなら、復興のための組織は拠点を変えなければならない。場合によっては立ち上げ直しにもなるだろう。『城がどうなっているのかわからない』以上、方向性が定まらない今、動揺を広げる要素は排除すべきだ」
城は瓦解していた。史実の通りに、だ。リオンと は飛行竜からそれを見ていたため容易に現状が推察できた。それでもそんなことはここにいる人々は知らないのだ。確認に行って、確証を得なければならない。
ここから見えるはずの城の尖塔は、民家の屋根の向こうに瓦礫になって元の場所よりはるかに低い位置に傾いて見えた。ある程度の被害は彼女たちも想定しているであろうが。
「そして、確認が出来たらみんなにはミライナ将軍がそれを説明して欲しいです。これからどうすべきか、も」
ここで膝を折ったら、「18年後」の二の舞だ。疲弊が疲弊を呼ぶ前に、失望が絶望に変わってしまう前に先導するものが必要だった。
「確かにその通り、すぐにでもできることをするのが正しい道だわ。でも、もしも城が完全に崩壊していたら……事実上のあらゆる執行機関が崩壊していることになる。あなたたちはどこへ拠点を作ると言うの」
「それは……」
少し迷ったような の視線がリオンを経由して、市民とともに避難をしていたヒューゴへと向けられた。
ここから見えるヒューゴ邸は「史実どおり」無傷だった。
「私の邸宅を解放しよう。いくらでも部屋はある。人さえ集まれば十分に組織として機能するだろう」
には決定権がない故の伺いだったが、ヒューゴ=ジルクリストは快諾してくれた。
「わかりました。あなたたちが戻ってくる前にみなにどのように説明するのかを考えておく。行って来て」
そしてリオンと 、数名の兵士が城へと向かう。
さまざまな理由で地下水路に避難をしなかった者の縁者にだけ安否の確認を許し、ミライナは待った。


城は想像通り、崩壊していた。
見て回るまでもない、全壊だ。
中央部にいた王や将軍はまず、生きてはいまい。だが、ほかに生存者はいるかもしれない。
建物の状況とざっと見て生存者がいない状況を確認、瓦礫の下にいるかもしれない生存者の確認はつれてきた兵士に任せると二人は取って返すことにする。
町並みの向こうから駆けてきたリオンの姿をひとりがみつけると、ほかの人々もそれを見た。
ミライナはその会話の内容の配慮からか、それとも自身が待ちきれなかったのか駆け寄るようにして二人を迎えた。ヒューゴも少し遅れてやってくる。
「王城は、城門まで含めて全壊です」
その言葉の意味は、完膚なきまでに破壊された、ということだ。
「生存者は?」
「見た限りではいないですが、お借りした部下の方に瓦礫の周りを見てもらっています。いずれ救出には手が必要でしょうが……」
それを聞いてミライナは歯噛みをするような珍しく激しい表情をうかがわせた。
そもそもあちらが無事であるならば、誰かしらが伝令で来るだろう。あるいは将軍のいずれかが。
それが来なかったと言うことは、将軍でさえも無事ではなかったのだ。
自分だけが生き残ってしまった。
「これでこの民衆を制御できるのは将軍だけです。これから家の状況をそれぞれ確認に行くと思いますが、その前に、先にやるべきことを伝えてください」
「私に何を伝えろと言うの」
リオンも もすでに何歩も先を見据えていた。この状況では難しい判断だ。
だが、どんな道であろうと一番にやることは決まっていた。
「復興組織を立ち上げる。残った兵士と、学者。手数は必要だ。家族が無事で、その気がある者、やるべきことがわからない者は一度ヒューゴ邸に来るように伝えてくれ。無理強いはしない、その旨もだ」
受けるショックは人それぞれだろう。家族を失い家も失ったものがいたなら、その人間にすぐに動けと言うのは酷な話。だから出来る人間が出来ることだけすればいい。
ミライナはそれを承諾した。
「復興の組織がすぐに立ち上がるのは、失望する人間を減らせるかもしれない。数日経てばストレイライズやファンダリアからの支援が来るだろう。その数日を落ちないように保たせるだけでも意味はある」
「オベロン社の技師や機械も使えるはずだ。無論、そちらも使ってくれて構わない」
ヒューゴのこの言葉は、実際、後年に渡りダリルシェイドにとどまらず復興の大きな力となる。
オベロン社は復興に貢献し、悪名高く残るはずであった史実は変わるだろう。いずれ、後世の話であるが。

そして、ミライナはリオンたちとともに民衆の元に歩を向ける。
ただ、待っていた彼らの誰もが、ミライナの言葉を待った。

「みんな聞いて欲しい。王城は崩れ落ちた。生存者は───……」


それは、長く続いたセインガルドの王政が終わりを告げた日でもあった。



『復興の組織はすぐに立ち上げる。が、出来る人が出来ることをして欲しい。どんな小さなことでも』。
ミライナのその言葉がすぐに民衆全員の心を掴んだわけではない。
ミライナは貴族の出であったが、王制が崩壊した今、将軍の地位も出身も意味のないこと。故にミライナは頭を下げた。その行為は協力をして欲しいと言う誠意からであったが民衆にすれば、指揮を振るうべきものが頭を下げることに不安を抱く者もいた。
それを察したのがリオンでありすぐさま一歩出ると、労働に限らず情報でも構わない、それは小さな子どもでもできることだが、今すぐにでも必要なものだと説いた。
残った兵士と学者はヒューゴ邸に居を移し、兵士は街の治安を悪化させないように、学者は復興計画を作るべく動き出す。
そのために必要なのが、被害状況の把握。
広い街だ。
すぐに動けるような気力と体力、そして使命感を持った初期の数少ないメンバーが足を使って確認するのでは時間がかかる上に効率が悪い。
まずは被害状況の地図を作るべきと は提案し、これには誰もが賛成したが、 はその際、巡回兼現場確認に出る者に軍医相当、もしくは心理部門に強い学者を同行させた。
家族も家も無事な者、あるいは家だけが巨大な瓦礫に潰されて個人ではどうしようもない者、そういった人間に情報の提供役を担ってもらうためだ。
新たな復興組織の人間が街のすべてを把握しているわけではない。結局、一番詳しいのはその地域に住む人間だ。被害の情報を拠点に持ち込んでくれるだけでも有益なことだが、地図にして提供してくれたらなお迅速に復興計画が進む。
そういった旨を改めて説明させるためだ。なおかつ、声をかける人間を選ばなければならない。家族の誰かを亡くした者にはそのような協力要請をすること自体、避けるべきだ。故に、治安維持型の要員に人の観察や心理を読むことが出来る人間をつける。
あまりにショック状態が酷いならその場で医師がケアが必要と自らのノートに記録するだろう。あらゆる意味で二度手間を省くための配慮だった。
ミライナは自らの言葉通り、将軍としての立場を退き、しばらくは復興要員として協力することになる。彼女自身、陣頭指揮を執るのはもう無理な状態だった。
長く仕えてきた、それも幼い頃から貴族の一員としてもかかわってきたそれらすべてが崩壊したのだ。しかも、自分だけが残ってしまった。無理もない。リオンは黙って一線から彼女を下がらせ自らは望まなくとも陣頭となる立場となった。
少し先の話ではあるが、ヒューゴは体調が限界に近づくまでオベロン社員に方針を示し、ギリギリのところで組織が安定し始めたためクレスタへと移り住むことになる。
肝心の組織はと言えば、 の提案ですぐさま手を挙げたのがもともと城にいた学者、ミライナの部下であった兵士、そしてオベロン社の人間から構成された。
それでも優に15人は超えていたし、二の足を踏んで何も出来ないより遥かにマシだ。何より民衆が集っているところで方針を示すことが出来たため、すぐさま情報収集に入ることが出来た。
それはそのまま復興計画の進行速度を意味していた。
初期のメンバーは計画を作る学者などをメインとして、希望があれば誰でも議論に参加できる。
復興は建物だけを直せばよいと言うものではない。
都市計画はもちろん社会的な制度、治安維持のための方策、外交など決めなければならないことは多岐に渡った。
どれも専門分野だ。
が主に提案をしたのは、王政崩壊に代わる制度の確立だった。
執行機関がなければ社会は動かない。それがなければ無法地帯になるのは目に見えていた。
人々の声を聞き、応えるための仕組みが必要だ。
財ごと残った貴族もいるが、誰もがセインガルド王のように民衆を想う賢王になるとは限らない。むしろ他の権力者がいなくなった今、何をしでかすか分からないと言う危惧がある。
は民主制への移行を推した。
この世界において、民主制の大国は存在しない。世界の大半はセインガルドとファンダリアに二分され、二大王国以外は自治領に近い。アクアヴェイルでさえも細かく言えば領主制だ。
強いて言えばノイシュタットがそれに近いが、自治領、という方がぴったりくるだろう。
しかし、貴族の台頭を押さえ、市民自らの手で街を作る自覚を植えつけることは復興を急進させるだろうと は見ていた。
まずは評議会を身分不問で構成し、権力集中を避けるために査問機関を作る。
誰も異論は唱えなかった。ここに貴族でもいればそういう意見もあったろうが、多くの貴族は自分の残った財を守ることで必死で、ほぼ奉仕に近い復興組織に興味を示してはいなかった。
パフォーマンスのためか寄付をしたり、ミライナのように根っから市民のために、という貴族もいないではなかったが、いずれも組織員ではない。
当面、評議会はこの面子の中からでいいだろうと言うことになった。仕組みだけ作っておいて、執行機関として実働する。安定してきたら一般人に広く認知を広げ、浸透させていけばいい。
査問機関もはじめは名ばかりだ。初期メンバーが悪事など働いている場合ではないから問題ない。
これらの提案は、社会学を専門としていた学者も驚かされた。
国として確固とした民主性が施行されるのは、天地戦争後は初となる。それ以前にはそういった国もあったとされるが、 の提案は理論的で形がはっきりとしていた。なんとなくこうしたら、というものではない。
もともと、何歩も何年も先を読める人間ではあったが…
そんなふうに、 はどんなことにでも斬新な提案をしていった。
だが、あくまで「提案」だ。
決してそれをやれとは言わず、決定権は話し合いにあった。
何より はリオンのように表に立つことを嫌った。
一度聞いたことがある。
「それだけ政治的な知識があるならもっと推してみたらどうだ?」と。
答えは単純明快だった。
「ダリルシェイドはこの街の人の手で発展していくべきだよ。私はこの街の人間じゃないから」
いつもの笑顔とともに返ってきた返事。
なぜか少しだけリオンは言い知れぬものを胸に覚えたが、それが何なのかまでは突き詰めなかった。


民主制の移行については、王政に慣れていた階級持ちの人間には理解の難しいこともあったが、セインガルドは比較的民主的なところもあったので、町並みが美しくなるとともに移行も現実味も増していった。
そして、ミライナは一人の女性として生きることを選び、貴族の地位や復興員としての立場を退き、去った。
その頃。
街に子どもの笑い声が聞こえてくるようになっていた。
は広場の植え込み、花壇の縁に腰をかけ行き交う人を眺めている。
青空の下、子供たちはきゃあきゃあと戯れあい、きれいに整備されたレンガの上には人々の笑顔が落ちている。
風が吹けば仄かに花の香りを運んでくるし、噴水の水は涼やかな音を立ててまるで歌っているようだ。
旧王都ダリルシェイド。
街は見事なまでの復興を遂げていた。





それは後世にもあまり伝えられていないことだ。
復興は急ピッチで進められた。
当時の状況を知るのは当時の関係者だけだと言うこともある。
詳しくその経緯を記す間など無論、ありはしなかったろう。
それでも残った当時の記録、その小さな事実や謎に興味を抱く学者もいる。

ソーディアンマスターであったリオン=マグナスとともにダイクロフトから帰還し、
ダリルシェイドの復興に影から多大な貢献をした人物。
出生も出自も不明。年齢、家族構成ですら不明であった「学者」の存在に。


だが、彼女がどこから来たのか、騒乱が起こるまでの一切の記録をたどることは、誰にも出来なかった……



2018.3.20筆(4.23UP)
TODは神の眼を破壊してハッピーエンドではありません。
むしろ街々は壊滅し、世界の人々にとってはそこからが本当のスタートだったのではと思います。
…と、いうわけで直後はどんなだったのかなと想像したらこうなりました。
本当は、ミライナの演説、リオンのフォローすべてセリフで考えてあったのですがそこはぎゅっと凝縮してカットしてしまいました(長い)。
セリフが少ないので読みづらいかなと思いますが、知られざる伝説(違)ぽいのもたまにはいいかなと思いました。
ミライナは自分の中では割と前から、
普通に地下水路に避難指示出す役の将軍はいただろう=民衆に恐怖を与えない人選=ミライナ=生存
という構図になってました。
でも多分、貴族制度も崩壊したし、逆に縛るものがなくなってその後は女性として幸せになったのではないかと。
蛇足ですがミライナが将軍になった理由は「代々城仕えの武系貴族に生まれたけど城に上がる男子がいなかったため、ミライナが登城した」なのである意味、自由になれたのかな、とも。
PSオリジナル版で彼女のお相手はアスクス将軍の気配があったので脳内では彼も生きてる可能性があります。
でも腕なくなってたりとかなんだか武人として生きることは無理だろうなと言う感じ。


ちなみにここからお題の「富士山一周」に続く気配です。


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