運命ノ物語
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あの夜の顛末。
続・明日はそろって低血圧
夜半を過ぎても半分はそのままだった。
「リオン、私もう寝たい」
「駄目だ」
何を根拠に駄目なのか。聞いたところで望む答えは返って来まい。
有無を言わせぬ口調でリオン。酒に撃沈されているのはスタンとフィリア。ルーティもこっくりこっくりと舟をこいでいる。
夜の帳もすっかり下りてそれだけでも静かさは増して見えるが一番手ごわい人間が残っているため
シン
に安息は訪れない。
…酒に強いんだか弱いんだかわからないね、この人は。
それでも相手に強制してくることはないので良心的と言えた。
しかしならば一体私に何をせよというのか。
「
シン
くんそちらのワインをついでくれないかね」
「嫌です。ご自分でどうぞ」
ウッドロウも良心的に酒を楽しんでいるようであるし、ルーティに財布をすられたりしたことへの同情もあって、何度かは応じたりもしたが嫌なものは嫌なのである。
それを見ていたリオン。
「
シン
、注げ」
「……」
明らかにあてつけであろう。真顔であるリオンをしばし見つめ、
シン
はため息をついてからワインをついでやる。
なんとなくとほーんとしていた王様は少なからずショックを受けた模様。一方リオンはふっと不敵で素敵な笑みを壮大に浮かべた。
気をつけよう男性諸君。
セクハラとはその行為そのものより受ける人間が嫌がるかどうかがポイントであり同じ行為でも明暗が分かれることがある。
いきなりなんでもかんでもセクハラと叫ぶのはどうかと思うが
シン
的ルールによれば「一度嫌だと言う意思表示をしたにもかかわらず、同じことを繰り返す」時は容赦なく侮蔑のまなざしを向けるに値するとなっている。
ウッドロウはその基準を超える直前まで行っていたというまでの話。
もちろん今のリオンの場合下手に逆らうといらない問題が巻き起こる可能性が高いと判断したせいもある。
素直にしょんぼりされると同情してやりたい気もするがきっと今はそれどころでもない。
今は動いたら負け、という気がする。
そんな不動の空気に歪みが割り込んできて三すくみが解けた。
「なーにしんみりしてるんだい、旦那!」
「ジョニー、ジョニーもそろそろ寝なよ?」
「休めよって聞こえるのは俺だけかい?」
陽気な酔っ払いは陰の空気を中和するが余計なパワーも注ぎ込んでくるのでたちが悪い。
「あっちへ行け」
しっしっと手を振るリオンに
「坊ちゃんご機嫌斜めかーい?」
とからんでいる。
この手の人間には素で理屈は通じない。
こっちもこっちである意味今日の最強か。
「僕に触るな。次に触れたら刺すぞ」
「おぉ、こわーーー!!」
…でもなさそうだった。
どちらかというと柳に風といったところか。
「リオン、そろそろ寝ようよ」
「一緒に寝るのか?」
待てよ。
確かにさっきは「Want(寝たい)」だったところを「Let`s(寝よう)」と言ったさ。
まぁ最も横になったら流石に彼もばたんきゅーだろうが。
「そりゃいいや!みんな仲良く寝るとしようか♪」
おい。
「では私も」
こら。
「お前らはいい。大体、そんな大男が近くで寝ていたらむさ苦しいだろう」
ピンポイント攻撃。
ジョニーもそれなりの身長はあるが、細身の分むさいという感じではない。
残るターゲットといえばいわずもがな、消去法でどうぞ。
「はっはっは、ジョニー君はそんなに大男でもないだろう?」
素でボケているウッドロウに、いらりとしたリオンの気配が伝わってきた。
陽気に笑ったのがまた、気に障ったのだろう。
再び三すくみになる予感。
その前に
シン
は逃げることにした。
「待て」
無理だった。
酔っ払いは酔っ払い同士が話している間に誰かいなくなっても大抵気づかないものである。
さりげなく席を外すというのは割と使える手だ。
しかし、さすが客員剣士様というべきか、この期に及んで気配の有無にも敏感だった。
「お前がいなくなったらますますむさ苦しくなるだろう。僕にこの二人を押し付ける気か」
こういう場合、誰に誰が押し付けられるのかは、はっきりいって正解はわからない。
「わかったよ……」
と言いながら、自分でも何が分かったかわからないわけであるが、木製の椅子に座りなおして考える。
瞬間的に、神が降りた。
「じゃあせっかくだからゲームをしよう」
……と思ったが口にしてみると通常運行だった。
「何かね」
王様がわくわくしている。
ジョニーは酔っぱらいつつも期待をはらんだまなざしで。
リオンは明らかに目が座っているので異論が出るほど思考は回っていないようだ。
「誰が一番お酒に強いでしょうゲーム」
「普通に飲み比べと言ったらどうだ」
思考が回っていない割に、速攻つっこみが返ってきたのでこれはもう反射的なものであろう。
リオンは通常時、良心的なつっこみである。
「おいおい、自信がないのかい?」
「世の中には王様ゲームというものがあると聞いた。私は一度それをやってみたい……!」
「お前はすでに王だろう! ゲームにする必要性がわからん!」
「既に王だからゲームとしてやってみたいのだよ、リオン君」
「どうでもいいけど、意味が分かって言ってますか、ウッドロウ」
判断が微妙だが、唯一のしらふでもある
シン
は誰にどこから突っ込んでいいのか、悩みどころだ。
……どうせ誰に何を突っ込んでも、意味などないのだろうが。
なので、この際、片っ端から突っ込んでみることにした。
「ジョニーはやる気がある。リオンは自信がないから不参加、ウッドロウはそもそも王だから自重」
ツッコミというよりボケになった気がする。
酒を飲んでいなくても、酒宴の席にいると雰囲気で酔えるタイプではある。
ただし、
シン
を酔わせるほどの雰囲気を作ったことのある人間は、未だかつて、いない。
整理する。
「王様ゲームをやるとは言ってないけど、負けた人が勝った人のいうことを 常 識 の 範 囲 で聞くというのはまぁありかな」
ことさら強調したのは、万一負けた場合の保険である。
元より
シン
は飲み比べなど進んで参加したがるタイプではない。
しかし、提案したのは一番手っ取り早いこの場の収拾方法を決行するためだ。
すなわち。
全員潰す。
「いいだろう、やってやる」
「和酒は度数が強いんだぜ。アクアヴェイル出身をなめるなよ?」
「はっはっは、未だ持って素面の私に叶うはずもない」
そんな
シン
の思惑など気づく由もなく、酔っ払いどもは全員がなぜかやる気を出した。
各々何を「景品」として思っているのかわからない。
ただの勝負根性なのか、酔っ払い根性なのか、漢気なのかも不明だ。
いずれ、そんなことは
シン
にとってはもはやどうでもいいことである。
一つ言うならば
ウッドロウは顔に出ていないだけで、顔は素面だがもう中身は崩壊して久しい。
要注意なのはジョニーだろうが、ジョニーはある意味、今最も良識のある行動がとれると思われるのでジョニーが一番勝ちなら問題はないと踏む。
「それで、王様ゲームのルールとやらをまず教えてくれるかね」
王様ゲームはどうでもいい。
スルーすることにする。
「ルールは簡単。最後まで残った人が勝ちです。ただし、各々飲めるものと飲めないものがあるので、自分の盃を飲み干したら指名された人間が今あるお酒を飲み干して、新しく酒を注がれるようにしましょう」
ただの飲み比べだと勝敗の基準があいまいだ。
同じものを同じ本数用意して初めて勝負ができるわけだが、今日はそうはいかない。
シン
はビアが苦手である。
理由;味。そして、すぐにおなかにたまる。
度数も低めなので、相手を潰すのにも適していない。
武器は選ぶべきである。
「指名は連続でしてもいいのかね」
「明らかな狙い撃ちは反則にしましょう」
自分がターゲットにされる予感がビシバシしたので却下する。
「馬鹿か。その気があるならそんなことをわざわざ聞くな」
リオン=マグナス、貴方もか。
ちょっと戦慄が走った瞬間。
しかし、逆に機転にもなる。組んでしまえばいいのだ。ジョニーと。
なぜだろう、恐ろしいまでに頭が冴えている感じがする。閃きは瞬間的だ。
ちらとジョニーを見る。
いつもの彼ならばその意味が分かるだろう。
気づいた。笑みを浮かべて、力強くうなづく。
「あー、あーあー」
なぜか喉のアイドリングを始めた。
「では、このジョニー=シデンが開始の合図に一曲」
……………………………………大きくうなずかれた時点で、間違っていることには気づいていた。
ので、張り倒す勢いでつっこんでいるリオンを横目に
シン
はため息をつきつつ準備を始める。
テーブルに乗っているものをざっくり脇に寄せ、空席や足元にも下ろし、四人分の席を改めて空ける。
未開封の酒類、コップ、そして絶対こぼす奴が現れるので事前に布巾を用意。
手際と気遣いが唯一の素面であることを物語っている。
「お酒は苦手なもの以外ならなんでもチェンジはありで。ただし、ビアは度数が低いので論外です」
「短期決戦で行こうとしているな?」
このリオンの察しの良さには内心、ぎくりとする。
戦略に穴があっては戦略にならない。
故に、やろうとしていることは悟られてはならないのは当然のことだ。
「いいルールだ。さっさと全員潰してやる……!」
しかし、自分が潰される対象として考えていないようなので、安心。
「ふふっ、アルコール慣れを一番していない未成年が言うことではないよ、リオン君」
「おいおい、それを言ったら俺だって潰れやしない対象だからな?」
酒の強さは年功序列ではありません。
「ものを食べたい人はご自由に」
つまみを適当に集めて、皿の上にきれいに再構築する。
俗にすきっ腹より食べながらがよいというが、飲む行為自体ほとんどしない
シン
に真偽はわからない。
「そういえば、最後まで残ったやつが勝ちっていうけど、食っておなかがいっぱいだった場合はどうするんだい?」
「飲めない時点で、失格です」
「では、食べないほうが良いな」
今更である。
「用意ができたならさっさと始めるぞ!」
「勇み足で転ばない様に気を付けたまえ、リオン君」
「お前には吠え面かかしてやる」
くくっと軽くダーク…もとい、不敵な笑いを浮かべているリオン。
ターゲットが変更になった模様。
「早飲みではないので、ペースは各自で決めてください」
なぜかずっと敬語。
「よーし……」
はじめ!!!
何人かの声が重なった。
→ 後編へ続く
*20191219筆(21日UP)*
突発リクエスト受付時にえんさんからいただいたリク。
「D3短編、明日はそろって低血圧みたいな感じで二日酔いのリオン」。
その短編は、当時とても人気が高かったため、実は続編を書きかけてありました。
せっかくなので、そのまま続編ということで筆。
二日酔いのリオンというより、そこに到達するまでの経緯という感じになりましたが、楽しんでいただければ幸いです。
長いので、前後編に分割。
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