ちゃき沢さんより


『とある日のミステリー』



———気がつくと、そこは何故かハイデルベルグ城だった。

「久しぶりだな君。もっとも私は、君のことを忘れた日など一度もなかったが…
 さあ、今宵は2人っきりで、じっくりたっぷり愛を語らおうではないか!」
「……はい?」

玉座には、銀髪碧眼に黒い肌、そしてヒゲを生やした腹黒王…もとい、ウッドロウの姿があった。
白い歯を見せ、笑顔で腕を広げて立っている。
まさに「今すぐこの胸に飛び込んでくるがいいさハニー!!」な体勢だった。
は突然の展開に頭を抱えたくなった。

大体、なんで私はこんな所にいるんだ…?
自分一人でこの腹黒男に会いに来るなんてことはまずありえない。
だからといって攫われた覚えも全くない。この男相手にそんなヘマはしないはずだ。

の頭の中でそんな自問自答がぐるぐると駆け巡り始めた頃…
突然、謁見の間の正面扉がぶち開けられた。

「っ!!何処だ、!」

現れたのは、黒衣を纏った少年剣士——言わずもがな、ジューダスだ。

が返事をするよりも先に、腹黒王が言葉を投げた。

「ほう、招かれざる客がやってきたな。」
「僕だってお前の招待なぞお断りだ。、さっさと帰るぞ」

ウッドロウの相手をする気はさらさら無いらしく、ジューダスはのほうに向き直った。
無論、も此処に長居する理由などないので ジューダスの言葉に頷いた。
しかし腹黒王ことウッドロウは余裕の表情で薄い笑みを浮かべ、パチンと指を鳴らした。

すると、ジューダスがぶち開けた扉とは反対側の扉が開き、一人の人物が姿を現した。

「呼ばれて飛び出てにょほほのほーっ☆天才科学者様のご登場よん。」

それは、ピンク髪に紫の瞳、そしてフリルの付いた派手な服といった外観の少女だった。

「ハロルド…?」

はとっさに小さく呟いた。
が、彼女の呟きを拾えた者は誰もいなかった。

ジューダスも少し動揺しているのか、何も言わずに自称天才科学者様を見つめている。
ピンク髪で童顔の天才科学者様は、どうやらご機嫌うるわしいらしくニコニコと笑顔を振りまいている。
その手にはしっかりと、何とも言えない色合いの怪しげな液体が入った試験管を握っている…。

「サンプルを提供してくれるっていうから協力してあげるけど〜♪
 そのサンプルっていうのは、そこの2人でいいのかしら?」
「いや、女性のほうにはくれぐれも手を出さないように。
 黒衣の男のほうは何をしてくれてもかまわない、好きにやってくれ。」
「ラジャ! ぐっふふー、今回のはかなりの自信作だから、腕が鳴るわねー♪」

自称天才ピンク少女は怪しげな笑みを浮かべ、試験管片手にジューダスに忍び寄る。
身構えるジューダス。だが遅かった。
彼女は素早い身のこなしでジューダスの懐まで間合いを詰め、不意をつかれたジューダスは強引にも試験管の中身を口の中へ流し込まれてしまった。

「っ貴様……!!何を飲ませた!?」
「それはこれからのお楽しみ〜♪」

瞳をキラキラと輝かせ、何やらご満悦の天才様。

「ジューダスっ」

ウッドロウの制止を振りほどき、は慌ててジューダスに駆け寄る。
薬の効果は、すぐに現れた。
PON☆という軽快な爆発音と煙が生じるとともに…ジューダスの姿は変貌した。

「……っ…!!」

その姿は、まごうことなき獣のものだった。
ジューダスは、体じゅうに厚い毛皮を持ち、四肢で立つ狼のモンスターになってしまった。

「にょほーっ☆実験大成功っ!!」
「貴様……何をした♯」
「何って、見ての通り人をモンスターに変えちゃう実験♪」
「ふ…ぶざまな姿だな、リオン君。」

さまざまな声が飛び交う中で唯一、声を発しない者がいた。
は体じゅうをふるふると震わせ、ただその場に立ち尽くしていた。

……が、次の瞬間。

「ジューダスかわいいーーーっ!!ふかふかーvv」
「なっ…おい、抱きつくなっ!」

は「触りたい」という欲求を押さえられず、嬉々としてジューダスに飛びついた。
たじろぐジューダス、呆気にとられるウッドロウ。
そう、彼女はモンスターだろうが野獣だろうが何でもこいな動物好きだった。

「ふ、ふふっ…まぁいい。こんなこともあろうかと…」

スチャ、と何かをどこからともなく取り出し、左手に隠し持ったウッドロウ。
そのまなざしにはもう、先ほどの余裕めいた色はなかった。

「どきたまえ、君!」

鋭い声をとばし、ウッドロウは玉座から離れてジューダスのほうへと歩み寄った。

「リオン君、男なら1対1で勝負するというのがスジだろう?」

その言葉を聞いたリオンはぴくりと眉を寄せる。
返事こそしなかったものの、反論するつもりもない様子だ。

はしかたなく、2人から距離を取って見守ることにした。
ザッ——と、決闘めいた空気を纏って対峙するリオンとウッドロウ。

「先手は貰ったぞリオン君!必殺、エナジーブレット!!」

ひょい、と放たれたソレはバリバリと電流を放ち、床を伝った。

「…フン、そんなチャチな小道具に頼るとは……英雄王の名が廃れるぞ」
「っていうか懐かしい代物出してきたねー…。」

説明しよう!エナジーブレットとは、今は無きオベロン社の販売していた戦闘お助けアイテムであり、地を這う電撃により敵にダメージを与えられるという優れもの。
これがあればちょっとスゴイ裏技が出来ちゃったりもする、意外に使えるアイテムなのだ。

しかし、今のジューダスにはほとんど通用しなかった。
彼は自慢の脚力で大きく跳んだ。
そしてウッドロウの至近距離に着地し、勢い余って前足でウッドロウを押し倒すという大技をお見舞いした。

「ぐほぉっ!!」

やはり体力が衰えたのか、それともただ単に元々レベルが低かったせいか、ウッドロウはいとも簡単にノックアウトした。
すでに勝負は決まっていた。が、ジューダスは容赦しなかった。

ウッドロウの襟首を掴み、ずりずりと部屋の端まで引きずっていく。

「な…何をするんだ、リオン君」

じたばたと抵抗するものの逃れることはできず、さすがの腹黒王も少しうわずった声をあげる。
が、ジューダスはウッドロウの言葉に耳を傾ける気など毛頭ないらしい。

そして…

無言でウッドロウを窓の外へと放った。


正確に言うと、ジューダスはウッドロウの服の裾にするどい牙で噛みついて体を持ち上げ、十分にスイングしてから思いきり遠くへ飛ぶよう、彼を力の限りにぶん投げた。

「うぬぐぁあああああああ!!」

ウッドロウは賢王とは思えぬ断末魔の叫びを残して、空の彼方に消えていった。

「あらら、派手にやったわねぇ…ああいうタイプの人間も、案外しぶといから実験体には向いてそうね」

腹黒王の協力者(?)だったはずの天才科学者様は、さして同情する様子もなく知的好奇心に満ちた独り言を発した。

「お疲れ様、ジューダス」
「ああ、あのガングロ王の相手をするのはもう二度とごめんだ」

はお疲れ気味のジューダスを労いつつも、再び毛皮の誘惑に負けてその身に抱きついた。
だがもうとやかく文句を言ってくるような輩もいないので、ジューダスは何も言わなかった。

「……ねぇ、アンタ達」
「!!」

ジューダスはその存在を忘れていたらしいが、自称天才様はじぃっと2人を見つめ、声を掛けた。

「アンタ達、なかなか観察のしがいがありそうね。特にそっちの、フェンリルにきゃあきゃあ言ってるほう。
 ねぇ、この際アンタもこの薬飲んでみない?」
「いいよ。ちょっと興味あったんだよね」
「!?おい ッ…!!」

はつかつかと天才様のほうに歩み寄り、その手に握られた試験管を受け取った。

「、馬鹿な真似はっ…!!」
「大丈夫だよ、ジューダス」

は何か含みのあるような笑みを浮べ、自ら怪しげな液体を飲み込んだ。
再び軽快な爆発音と煙がわきあがり、ジューダス同様 はその姿をモンスターに変えていた。

真っ白な羽根に、赤い嘴、つぶらな黒い瞳。

そう、彼女の姿はまごうことなきピヨピヨのそれだった。


「ホイ、これが今のアンタの姿よ♪」

ハロルドは、手鏡にの姿が映るようにして見せてやった。
は鏡に映った自分の姿を見て、半ば絶句した。

「なんで、よりにもよってピヨピヨ…?」
「どんなモンスターになるかはランダムで決まるから、こればっかりはどうしようもないわね〜」

薬を作った張本人は肩をすくめてみせたものの、顔は心なしかほころんでいる。

「よかったじゃないか。気色の悪い不定形の種族じゃなく、ただの愛玩モンスターで」

ジューダスは皮肉のつもりか、そんなことを言ってニヤリと笑った。

「まぁ、確かにそうだけど……何か物足りない。HP少ないし」
「私としては大満足よ!!でっかいのとちっこいの、両方のデータが採れるんだもの♪」

瞳をきらめかせ、可愛らしく手を組んで見た目は乙女モード全開なマッド天才様。
しかしその様子を眺めたは、少し急かすような調子でジューダスに囁いた。

「…そろそろ逃げたほうがいいかも」
「何…?」

マッド天才様は「ぐふふふふ」と気味の悪い笑い声をあげたのち、キラリときらめく銀のメスを振り上げ、高らかに言った。

「さぁーて、アンタ達のデータ、きっちり採取させてもらうわよー♪」
「…撤退するぞ !」

ようやくジューダスもの言葉を解し、先ほど自分でぶち開けた正面扉のほうへとダッシュした。
もそれに続いて飛び上がるが、まだピヨピヨの体に慣れていないためか、あまり速く飛ぶことはできない。

「待ちなさーいっ!解剖あってこそのデータ採取なんだからぁ!!」

迫りくるマッド天才。その魔の手がピヨピヨinに襲いかかろうとしていた。

「…チィッ!!」

ジューダスは舌打ちし、踵を返しての元へと駆けつける。

「乗れ!!」
「いや…乗れって言われても」

躊躇するにおかまいなしに、ジューダスはをくわえて自分の背中に乗せた。

「いいか、しっかり掴まってろ!!」
「え、ちょっとジューダス!?」

フェンリルinジューダスは駆け出し、猛然とハイデルベルグ城を走り抜けた。


☆ ★ ☆ ★


「はぁ、はぁ……つ、疲れた。」

ぴょこりとジューダスの背中から飛び降りたものの、よたよたと足元のおぼつかない。

「お前は背中に乗ってただけだろう」
「…ジューダス、この姿で『しっかり掴まれ』っていうのは酷なことだよ?」
「知らん。ピヨピヨになったお前が悪い。」

どうやらジューダスは未だに機嫌が悪いらしい。
忠告を無視して薬を飲んだに対しての憤りがまだ消えていないのだろう。

「……ジューダスは気づいてないの?」
「何がだ。」
「いや…気づいてないなら、いいんだけど。こういうのって気づいて楽しんだモノ勝ちだったりするよね」
「だから、何の話だ」

だがは答えず、「そのうちわかるよ」と微笑っただけだった。

「…これからどうする?」
「そうだな…この姿じゃ街に入るのは無理だな。」

2人(今は1羽と1頭)はハイデルベルグの街から少し離れた、雪原のど真ん中にいた。
すでに日は沈み、静かに夜の気配が漂い始めている。


「……そういえば、シャルは?」
「…………。」
「もしかして、置いてきちゃった?」
「仕方ないだろう。どのみちこの姿じゃ剣は扱えない。」

今頃ハロルドと一緒で嘆いてるだろうなぁ…と、は密かにシャルに同情した。

「とにかく歩こう。そうでもしないと凍え死にそう」
「ピヨピヨは寒さに強いんじゃなかったのか?」
「さぁ……寒いものは寒い。体質とかはそのままなのかな」

そんな疑問を口にするの隣で、ジューダスは辺りを見回す。
このまま雪原のど真ん中で夜を明かすわけにもいかない。
どうにかして、一晩やりすごせるような場所を見つけなくてはならない。

…と、ジューダスの視線は ここからそう離れていない、少し先の場所に止まった。

「洞窟がある…今日はあそこで休むぞ。」
「ん、わかった。」



その洞窟は、外から見たよりも中は広く、奥行きもあるため雪や風をしのぐには充分だった。
洞窟にたどり着くと、ジューダスは少々重たい腰を落とした。
一方は、寒さゆえか落ち着きなくぴょこぴょこと辺りを跳びはねている。

「…お前はもう少しじっとしていられないのか」
「じっとしてたら凍え死ぬってば。」
「わかったから、少しそこでおとなしくしていろ」

ジューダスはそれだけ言うと、の傍に寄り、そこで再び腰を下ろした。
そして、の体を包み込むように体を丸める。
は少し驚いたものの、そこから抜け出そうとはせず、その温もりに身を委ねることにした。

「これで寒くないだろう?」
「うん…あったかい。ありがと、ジューダス」

しばしの沈黙。だがそれは決して気まずい空気を含んだものではなく、むしろほっとするようなひとときだった。

「ジューダス……好き。」
「!!!!!??」

突然のの言葉に、硬直するジューダス。

「い、いきなり何だ!?僕はそんな……」
「この毛皮…vvふかふかー!!」

は彼女らしからぬはしゃぎっぷりで、自分の体を覆うふかふかの毛皮を堪能していた。
対してジューダスは、の放った言葉が自分自身に向けられたものではないのだと気づき、やや脱力ぎみだ。

「全く、お前という奴は……。」

溜め息まじりにそんな呟きを落とすジューダスを見て、は密かに微笑った。
自分を優しく包み込む温もりを、確かに感じながら。
は微かに口を動かし、そっと小さな呟きを落とした。

「別に、ふかふかだからってだけじゃないんだけどね……。」


広い広い雪原にある、小さな洞穴の中で。
大きな黒い狼と白い小鳥は、ひっそりと身を寄せ合った。

深々と降る雪の音をかすかに感じながらも、意識は少しずつ遠のいていった…。



———ぱちり。

『あ、おはようございます 坊ちゃん、。』

……むくり。

『2人同時に目が覚めるなんて、なんだか運命的ですねぇ』

「「…………。」」

『もしかして、2人しておんなじ夢見てたりなんかしちゃったり!?』
「あー…やっぱり、そうだったのかな?」
『えぇっ!?本当ですかーーーー!!さっすが坊ちゃんとですね』

きゃはーっvvと何やら乙女モードなシャル(←さりげに言い当ててるあたりスゴイ)は、まぁいいとして。

「お前も、同じ夢を見たのか……?」
「リオンはどんな夢見たの?」
「……わざわざ教えるほどのものじゃない」

何とも言えぬ表情で、遠くを見つめるリオン。
何故だかその様子だけで、は確信することができた。

『いいじゃないですか坊ちゃん!どんな夢だったのか教えてくださいよ〜!』

心の底から興味津々!!といった調子でシャルティエが訊いてきた。
リオンがなかなか口を割ろうとしないので、が話すことにした。

話を聞き終わると、シャルティエはさも満足そうに感想を述べた。

『囚われのを迎えにいく坊ちゃん、凍える体を温めようと、身を寄せ合うと坊ちゃん…!!
 いやぁ〜、奇遇ですね!僕もちょうどさっき、そんなシチュエーションあったらいいなぁなんて考えてたんですよ!』

「へぇ……」
「ほぉ……♯」

一方は興味なさげな反応、もう一方は怒気がうっすら現れた反応。

「さてはお前が要らぬ妄想をしたせいで、僕らが変な夢を見たというわけか」
『えぇっ!?何でそうなるんですか!!』
「言い訳無用だ!お前が勝手な妄想電波を飛ばしたのが悪いっ!!」
『ひぇ〜〜っ!!ソーディアンにそんな電波飛ばす機能なんて付いてませんよ〜っ』

……それはただの八つ当たりという名のイジメだよリオン。


「それにしても、リオンと同じ夢見るなんて…クロ二シティってやつかな?」

ただの偶然といえばそれまでだが、普段なかなか出来る体験じゃない。
ならばやはり、貴重な不思議体験ができたと喜ぶべきなんだろうか…

ぎゃあぎゃあとわめく彼らをよそに、はぼんやりとそんなことを考えた。




それはまだ、もう一つの名を持たないリオンとと、シャルティエと。
2人と一振りの剣で旅をしていた頃の話。







**あとがき**

ハロルドがかなりぶっ飛んでたり、意味もなくエナジーブレット出してみたりと、いろいろ遊びすぎてしまいました(^^;
クロとか、自分でもよくわからない原理のオチですが…まぁシャルのメルヘン乙女パワーは凄いんだ!ということで。(ぇ?
さんには夢だってことが見破られてしまいましたね…orz でも最後まで付き合ってもらえました。
D2時代の2人+1振り旅での野営中って、夜はわりと近くで一緒に寝てるから、時にはこんなミラクルもあるんじゃないかなぁ〜と(笑




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