昨晩は、強い雨が降ったせいか大気が澄んでいる。
雲までもがくっきりと白い影を見せて止まない風に通り縋っていた。
星も、空も明るい梅雨の終わり。
-月光浴-
今日は、会議が遅くなる。…とは言っておいた。
リオンはヒューゴ邸の門からふと顔を上げ…
の部屋のカーテンが開いていることに気がついた。
夜半をまわったろうか。街はとっくに寝静まっている。
それでも月が出ているおかげで足元はよく見えた。
足元だけでなく、遠くの山並みまでも見えるくらい今日は天球はほの明るい光に満ちていた。
待っているのだろうか、いや…まさか。
特に何に期待するでもなくリオンはまた歩を進ませはじめる。
リオンと
は日常の空間の一部を共有している。
同じ部屋に寝泊りをしているわけではないのでルームメイトとも言いがたいが無論、それ以上、あるいは以下での関係でもない。
だから部屋への出入りは自由だし、割と互いに干渉しない。
けれど、きちんと時間を伝えておかないと食事などは待っていたりすることもあるので割合互いのスケジュールに無頓着でもなかった。
のそれは、育ちで身に着いた習慣のようで自分が出かける時はきっちり時間や場所を告げていく。
なのでリオンも自然とそうすることが多かった。
言わないことは追求されないがあまり遅くなったりすると心配されることは知っていたからだ。
今日も遅くなると言うのは暗に先に休めと言ったつもりだったが…
カーテンの開いたままの部屋は暗かった。
はうっかり居眠りをするタイプではないのでいつもきちんと閉めている。
だからリオンは起きているのかとも思ったわけだが、かけられた鍵を開けて部屋へ入るとダイニングもまた暗かった。
人の気配は無い。
「?」
そうなると、気になるのが
の部屋だ。
開け放されたままのカーテン。
それは普通に考えると昼から留守であることを示す。
「…」
リオンはノックしようとして一瞬手を止め、…おそらく自分にしか聞こえないくらいの控えめな音でコンコン、と扉を小突いた。
仮にも女性の寝室なのだから夜中に入るのは気がひけるものだが、そういう相手でもなかった。
躊躇したのは眠っていたらその音で起こしてしまうかもしれないと思ったからだ。
それでもノックしたのは自分への気休めに過ぎない。
「
…?」
はたして…彼女はしっかり自分のベッドで眠っていた。
半分ほど開けられたカーテンからは月明かりが鮮明に射し込んで、窓の格子をベッドの上に黒く移しこんでいる。
足音をたてないように近づくと…納得した。
月光浴、といったところか。
は無防備なまでに横たえている指先から肩、頬まで淡い光に身体を委ねて深い眠りについている。
月を見ている内に眠った、のではなく月灯りの中で眠ることをしてみた。というのがおそらくは正しいのだろう。
穏やかな呼吸が見て取れる。
部屋は静寂に満たされ、安息が満ちていた。
それは一見に値する光景ではあると思う。
らしくないと思いつつ、窓の方を向いている
に毛布を肩までかけなおしてやると
リオンはその部屋を後にした。
あとがき**
なんだか、星や月明かりの下で眠ると言うのは満ち足りた光景ですね。
二人旅の時はよくあったことでしょうが…
一昨日の晩がそうでした。なんとなく、安心して眠れます。
でもヒューゴ邸の彼らの部屋は一階なので開け放しはあまり感心できません(笑)
(きっと次の日、正気に戻った(?)リオンにそんなことを言われるんだと)