最近、夜になると
は外を気にしている。
「流星群が来てるんだよ」
聞いてみればわかりやすい理由だった。
-星の巣-
「流星群?」
「知らない?流れ星って珍しいようだけどけっこう見られるんだ。
その内、流星群っていうのが年に14,5回来てるらしいよ。
今日はその内の、二番目にたくさん見られる日」
私も知ったのは最近だけど。と付け足す。
流星群、というと多くの流星を見られるのではと期待させる言葉だ
けれどどうやら違うらしい。
その内の殆どは肉眼で1時間に数個、という程度で騒がれるほどではないという。
道理で知名度が低いわけだ。
「見えるのが4つや5つで「群」というのか?」
「さぁ…ただ流星群の時は同じ方向から流れてくるみたいだからその辺の定義の違いなんじゃない?」
その辺りはストレイライズで観測されているらしい。フィリアにでも聞けば分かるのだろうか。
けれど彼女の分野はどう見ても自然科学ではないのでお門違いだろう。
そもそも聞く気はないのでリオンの興味はすぐに失せる。
「でも先月から来てるのは、今日をピークに1時間で50個見られるんだって。
だから気になるんだけど…最近、夜になると曇るんだよね」
昼間は比較的晴れているのにその天候。
は不条理さを感じているようだった。
「でも今日は…雲は薄いし、空も見えるから流星も見られるかも。食後に行こう」
「僕もか」
「夜の散歩は涼しいよ~?」
部屋の中は風が入ってきても昼の熱気が吹き溜まっている。
リオンは誘いを断る理由もなくつきあうことにした。
といっても、出たのは庭だ。
表では明るいので窓や外灯のあたらない自分たちの部屋の影に入る。
それだけでも空の明かりは格段と違って見えた。
「…今日は新月だっていうから、星が明るいね」
郊外に出ればまた違うのだろうが、雲の具合からかそれをする気はなさそうだった。
数分経過。
「…流れないな」
「…どうしてかね?」
「そんなことを僕に聞かれても」
立って見上げていると首が疲れるので座り込んで見上げている。
手の下には草の柔らかい感触があった。
「寝るな」
「こうやって見た方が良く見えるし、楽だよ」
こういう時になると
は無頓着になる。
片膝を立てて、自分の両腕を枕に横になると空の大半を視界に収めることに成功したようだ。
「む~ うっすら流れているような気がするけど」
「街灯りで見えないんじゃないのか」
リオン、既にただの涼みモード。
空は星自身の力でも明るかった。けれど雲と空の覗く具合は五分五分。
薄くとりとめもなく散らばる雲に見え隠れする1等星。
流星観測はともかくきれいな空の日ではある。
「あっ!あそこあそこ!」
ほら!と指差す
にそちらを向いたがリオンにはそれが見えなかった。
「今のすごかったよ?あの星の少し先からあの星まで」
と
は頭上の白い1等星から南の赤星まで指先で軌跡を描いた。かなり長い距離だ。
本当に流星か?といいたくなるほどのものだった。
が。
「あんな大きいの見たことない。赤いし、周りも白く包まれてて流星って言うより…隕石みたいだった」
誇張ではないらしい。
はしゃぐ気配は見せずに、けれど少しは興奮気味にはっきりと様子を語る
。
「なんだ。大物を見た割に嬉しそうじゃないな」
「だってリオン、あんなにゆっくり長い流れ星なのに見ないんだもん」
流れ星など一瞬のことだと思うのでそう言われても僕のせいじゃないといいたい。
確かに
の指し示している時間はそれにしては異様に長かったが。
「流れ星って願い事を3回言うと叶うって言うけど…あれは3回言う間があった」
大抵言う間もなくそれこそ「あっ」という間に消えるものである。
「だったら言えばよかっただろ」
「リオンが見るように×3…とか?」
「…」
要は自分にも見て欲しかったらしい。
「じゃあ次が見えたら教えてくれ」
呆れがちにリオン。
「教える間も無いと思うよ、流れ星って」
「だったらさっきの行動はなんだ」
「反射行動?」
更に呆れながら空を見上げた。
合間に覗く星は美しかったが、雲が多くなってきていた。
結局、似たようなことを数回繰り返したがリオンは一度しか見られなかった。
まぁそもそもそういうつもりで付き合ったわけでもないのだから良しとする。
「思ったより見られなかった」
「不満そうだな」
「涼しかったけどね」
窓を開け放してでかけたせいか、部屋の中も大分夜風に冷やされていた。
夜中までには寝やすくなるだろう。
「でも、見える方向がまちまちだったから流星群とは関係ない星な気もする」
星は常に流れている。
野営の夜も見上げていれば大抵1つは見られるものだ。
それがみつけられるか肉眼で見えるかどうかの問題で。
「そもそもなぜ決まった時期に同じ方向から流れるんだ?」
さしあたっての疑問はそれくらいだった。
「知らない」
おそらく、それを解明できるほどこの世界の技術は進歩していない。
1000年前であったら理解は容易だったかもしれないが…そんな記述が残っているかも疑問だった。
「でも、彗星が関係あるみたいだよ」
「彗星?」
「うん、厳密に言うと同じ方向から、っていうよりポイントから放射状に飛ぶっていうのが正しいんだ。「星の巣」って感じだよね」
星の巣とは言いえて妙である。
この星から見ると、同じ場所から星が生まれて見えるという意味でそれは間違っていないのだろう。
「あとは詳しく知らないけど…」
「彗星の軌道や引力の関係か」
確かめるすべはなく
は肩をすくめて見せた。
「ストレイライズまで行けばわかるかもね」
「そのために行こうなどと言うなよ」
「思ってもいないってば」
本当だろうか。そう思っていると
「でもあそこは星がきれいそうだよね」
意図があるのかないのか、全く不明なことを
は言い放った。
「星なら旅をしている間に散々見ただろう」
「まぁね。流星群は気がつかなかったけど」
「二番ということは今年一番のがあるんだろう?それを見ればいい」
「…もう過ぎちゃったかもしれないのによく言うね」
自分で言いながらそれを考えるように、ふむ、とリオンは顎に指をからませるように僅かに瞳を伏せる。
「過ぎていたなら始めにお前がそう言ってるだろうからな」
導き出した答えはそんなところだった。
「そう、そうかもね?」
「自分のことだろ」
「次は12月だよ、寒そうだ」
「…」
自分で言っておきながら、今から凍える気分を想像してしまったリオンだった。
あとがき**
8月13日のペルセウス座流星群 極大日。
辛うじて2日連続見られたのがそんな流星でした。
厳密には流れ星(Shooting Star)と流星は(meteor)は別物だそうです。メテオ!(笑)
流星は彗星の軌道上に流れる塵で、最も早いしし座流星群で秒速72km…時速約259200km(地球を6周半)。
金星ほどの明るさのものを火球(fireball)と呼ぶらしいので今回彼女が見たのはそれだと思われます。赤い時点で燃えてます、って感じが。
次の流星群極大日は07年12月15日です(更新予告でなく)。