-「自然」-
「…」
が無言でしゃがみこんで黒い物体を見つめている。
じっとそれが何なのか考えているようだった。
「?」
さらにその後ろで足を止めたリオンの頭上にもまた無言のまま疑問が浮かんでいる。
それは黒くて丸くて、柔らかそうなものが地面にぺたりとはべっているようだった。
「?」
確証がつかめないのかそっとつついてみる
。
途端、物体はシャー!と口と思しき部位をあけて威嚇した。
カエルの様な体、器用に折り曲げられた細長い手、それに羽。
「こうもりだ」
わぁ、と驚きというよりは笑顔を見せる
。
正体が判明し、喜ばしいことだろう。
大してリオンの態度は連れない。何だというばかりだった。
「こうもりだから何だというんだ。持って帰るとでも言うつもりじゃないだろうな」
「え、持って帰っていいの?」
「いいわけないだろ」
やぶ蛇だったと自らの発言を悔いても遅い。
「でもこうもりって難しいよね。何食べるんだろう」
再び観察モードに入る
。
こうもりは柔らかい石のようにぺたりとして再び沈黙していた。
「鳥だったらさ、食虫か菜食か調べればわかるけど…こうもりって何?
虫だよね。しかも蛾とか?手ごわいじゃないか」
「何が手ごわいんだ」
「でも放って置いたら死んじゃうよ」
確かに。
うららかな日差しの多き春へ向かっている最中とはいえ、まだ寒い。
三寒四温とはよく言ったものだ。今日の寒さを思い出してリオンは小さく身を震わせる心地を覚えた。
空は暗く、どんよりと灰色の雲が垂れ込めている。
「それも自然だろ。こうもりのことは知らんが冬を越さずに死んでいく生き物は多いと思うがな」
最もだ、と
は言葉はなくとも小さく肩をすくめて同意を示した。
こうもりは冬眠する。
なぜ出てきたのかは知らないが春の目覚めにはまだ少し早い。このまま放っておけば間違いなく死ぬだろう。凍死か飢えでかはわからないが。
リオンは空を見上げる。白い息はまだ、雪でも降りそうな気配を示唆している。
「行くぞ」
その道の向こうには城門がある。これから城へ、新たな指示をもらいに行くのだ。
ヒューゴのいる城へ。
神の目の封印の方法は未だ決められていない。
急に冬に戻ってしまうようだった。
しかし
は黙して動くかどうか迷ったようだった。これは捨て置くことへの反目と見るべきだろうか。
「じゃあ助けるのも自然?」
「は?」
いつもながらに唐突だった。
「出会ったのが偶然なら、助けるかどうか会った人間が決めるのも自然だよね」
「…。何を言ってる」
「いや…」
なぜそんなことを言い出すのか、リオンにはわからなかった。
こうもりが、よりも何かもっと深いこだわりが見えた気がしたからだ。
「…人間のせいで温暖化したことが原因なのに、目の前の溶けかけた流氷の上で死にそうなアザラシを助けないのが自然なのか」
「だから何の話だ」
「いや、何でも。過去の確執を述べてみただけ」
言いたいことを言ったのか、それともはぐらかされたのか
はため息をついて立ち上がる。
その視線は諦めてはいないようだが。
「そういえば」
天邪鬼にもいいのか?とうっかり言いそうになった言葉は飲み込んで、代わりに出てきた言葉をリオンは口にした。
「城内に研究所と称した保護機関はあったな。それこそ室内だから冬は関係ないかもしれないが」
ぱっと明るくなる
の表情。
すぐにハンカチを出して、黒い物体を包んで持ち上げた。
「持っていくのか。実験に使われても知らんぞ」
「そんなこと私も知らないよ」
そうして冬の空の下、二人は再び城へ向かって歩き出した。
FIN.
あとがき**
仕事場に落ちていたらしく3月の中旬だったか、母が拾って来ました。調べたところやはり主食は虫(しかも羽虫)だそうで…
今の時期に羽虫はいない上に、保護施設もないのでそのまま半冬眠状態にすることを判断。
トイレットペーパーの芯の中に入れて風の当たらないところに置いておいたら数日後、いなくなってました。
ともあれこの話はTOD3後でもっとほんわかなイメージで書いているつもりがいつのまにか馴れ合わないリオンが相手の真面目話(?)になってました。奥が深い。