殲滅させる人
「ま、まさか
さんがあそこまで冷徹だとは……」
「やると決めたら徹底的な傾向があるのは知っていたつもりですが……!」
驚愕する復興拠点スタッフの声を背後にリオンは応える。
「あぁ、一度そうと決めたら雑草を根絶やしにするために、ともに咲いている花を犠牲にすることも厭わない。時として、非情な選択肢も視野に入れる。生来はそういうやつだ」
「恐ろしいです…!」
彼らの目の前には広大な敷地が広がっていた。
DRB(ダリルシェイド Reconstruction Base=(復興拠点)、敷地内除草作業の日。
「暑くて嫌になるのはわかるけど、そういう逃避の仕方はやめてくれないかな」
ぶちり。
がむしった雑草を片手に振り返る。
その先(つまり
の後ろ)は、むき出しになった石畳と地面が今整地されたばかりのように整然として見える。
今のは音から察するに根が取れなかったのだろう。
は持っていた小さなピックで土を掘り返している。
「
さん、あんまりきれいにしないで下さいよ。隣のスペース俺の担当なんですから」
あきらめたのか除草作業に戻るスタッフ。
むしられて小山にされている草を回収しつつ、残りの面子は
のそばまで移動した。
「仕事の完璧さが草むしりにも出てますね」
「というか、花だって残してるよ。むしる必要のないところは」
いわれて振り返れば確かに。それっぽいのは残っている。
特に人の通らない端のほうは、だ。
「たんぽぽ は雑草に分類してください」
「え~」
確かにきれいに咲いているが…そいつのいう通りだろう。
と…リオンが気が付いた。
「あれは雑草か…?」
雑草にしては珍しいスペード型のような曲線的な葉を持つ白い花。
今がその盛りなのかそれなりに群生していてきれいだ。
が「わざと」残したものっぽい。
「それはドクダミです! 雑草です! てか
さん、あれ爆発的に増えるの知ってるでしょ!?」
言われるのと同時にリオンさん知らないんですか!?と泣きそうになりながら訴えられた。
「………」
知らない(気づけばあちこちにあるが)。
「でもドクダミって薬草だよ? いざというとき役に立つかもだし」
「そうなのか」
ぶちり。
スタッフの一人が無言でそれをちぎってリオンに差し出した。
「うっ…!」
くさい。
「そうかもしれませんが、繁殖力も強いし一度生えると根っこも抜けません。いますぐ駆除してください」
「なぜ私が頼まれているのか知らないけど、みんなで作業してるんだから、そう思うなら自分で抜けばいいじゃない」
「く…」
においが独特すぎて嫌らしい。
「あ、いもむし」
「うおー!でかい!」
そんなことをしているうちに
の興味は、現れた生物に向いた。
駆除すべき敵である。
は素早く小さなトング(火ばさみともいう)で掴む…と、敷地の外に向かって流れている水路にそれを捨てた。
ぽい。
「……お前な…あれではどこかでひっかかって、どこかの花を食い荒らすかもしれんだろうが」
「リオン、私にはあれを殺す勇気はない」
「川に流すほうがひと思いにするより残酷じゃないか?」
「そうかもしれないけどあれなら助かる可能性も……あぁ、私は自分の手を汚したくないだけなんだね」
会話だけ聞いているとシリアスな展開。
しかし所詮、除草の作業時間である。
「きゃあああ!!」
「!!」
そのとき、絹を裂くような悲鳴が。
リオンが見事な反射神経でまっさきに駆け出した。マリアンの悲鳴だったからだ。
「あ、エミリオ」
とりあえず、ひと気にそれなりに距離があるので、そう呼んでくるマリアン。
「どうしたんだ、マリアン!」
だがしかし、彼女は花壇のそばで笑顔だった。
「ごめんなさいね、久しぶりに大きな毛虫を見たものだから」
ボランティアで作業に参加している彼女は、巨大な毛虫をトングに挟んでその反対の手は頬にやって微笑んでいる。
そして…
「もうっ、駄目ね。ここに住み込んでいた時はこんなのしょっちゅうだったのに」
それを地面に落とすと。
ぶちっ。
躊躇なく踏みつけて絶命させた。
「「……」」
リオンの顔色が一瞬にして青ざめたような気がするのは、気のせいだろうか。
が一歩遅れて到着したときは、そんな感じだ。
そして、マリアンは何事もなかったかのように、花壇の除草を再開している。
「……私も今度はこれやったほうがいい?」
「いや、水路に流せ。許す」
地面に落ちたグロテスクな物体は見ようとしないようにして、リオンは持ち場に戻っていった。
なんの感情もない顔で。
なんでもない、平和になった初夏のダリルシェイドの、とある一日だった。
最近脳内で「うちのヒロインこんな人」という1P漫画が展開されるのですが、これはその別々の話をつなぎ合わせたものです。
冒頭のシリアスな感じを漫画化して実は雑草風景だったりすると楽しいかなーと、草むしりしながら思いました。
後半は幼稚園の先生見て「女の人ってスゲー!(汗)」ってなった鮮明な結構前の記憶から。
虫でもなんでも、躊躇なく殺せるってすごいや。