にくきう
プレセアは肉球が好きだ。
感情の起伏の少ない彼女が、それに対してだけはほかの物にはない反応を見せることを、パーティの皆が分かってきた、その頃。
「……」
プレセアが今倒したばかりのウルフをじっとみつめていた。
「そうしたんだ? プレセア」
ロイドが声をかける。
「…………」
プレセアはそれに気づかないほど真剣に何かを見ているようだった。
「肉球?」
「あ、はい」
がその視線を追って、言うとそれには的確に反応した。
「肉球、かわいいよね」
「! はい。 さんも肉球がお好きなのですか?」
「うん、好き」
なんだかおかしな会話だが、間違ってはいないので素直に応じる。
すると
「……!」
はじめて同志をみつけた気分なのだろうか。プレセアにしては珍しく頬を紅潮させて、瞳を見開く。目の輝きも違っていた。
「お前は肉球というより、動物が好きなのだろうが。そんなものノイシュでがまんしろ」
「わかってないなぁジューダスは」
ジューダスにとっては、想定の斜め上あたりからの返答が来た。
「なんだよそれ」
ロイドも首をひねって、疑問符を浮かべている。
「イヌ科の肉球は、硬いです……」
「肉球の魅力は、ネコ科にこそ真髄がある」
もはや意味の分からない世界だ。
「知ってる? 足跡も犬と猫じゃ全然違うんだよ。犬はまず、爪がかくれないから、忍び足もできないの」
骨格の違いもあろう。
「犬の足はスパイクのようなものなので、主に地面を強く押さえることに向いています。猫は前足を人間の手のように器用に使うため、肉球も柔らかく静かに歩くこともできます」
「そうなのか!」
はつんつんと倒れたウルフの肉球をつついてみた。
ひび割れて、乾燥しているような肉球は、見るからに固い。
「猫の肉球は、犬と違って適度な湿度もあるため、さわり心地も素晴らしいです」
「ノイシュだって柔らかいぞ!」
「くぅ~ん」
ロイドに呼ばれて、魔物がいなくなったこともあってノイシュがやってきた。
ロイド曰く
「犬なんでしょ?」
「だけど柔らかいんだよ!」
「犬なら柔らかいはずがありません……」
プレセアのちょっとがっかりしたような微妙な顔に、ロイドがむきになり始める。
「絶対気に入るって! ほら!!」
ロイドが無理やりノイシュの足を持ち上げる。
あうあうと首を振りながらあわてふためくノイシュを見てため息をつくジューダス。
「……ロイド……」
「なんだよ」
「ノイシュってホントに、犬?」
今更。
がその肉球を見て、前々からの疑問をもう一度口にした。
プレセアがそっと指先で肉球をさわる。
ふに。
「……!」
ふにふに。
「普通に猫っぽいていうか柔らかそう」
「柔らかいです……!///」
ふにふにふにふに。
プレセアの行動がエスカレートしていく予感。
「そうだろ! ノイシュの肉球は柔らかいんだぜ!!」
……犬じゃないな。
同時に思う とジューダス。
ふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふに。
「ぁおーーーん」
気に入ったのだろう。
ノイシュにとっては暴挙と化したプレセアの肉球いじりは果て無く続いている。
「……楽しそうだが……」
「私、あとでいいや」
「ノイシュ、ごめんな」
さすがに同情したのか は遠慮しつつ、ロイドはなぜか謝っている。
ノイシュはそれからプレセアと目が合うと、逃げるようになったとかならないとか。
20160731**
珍しくTOSです。ノイシュの肉球は柔らかい。アスタリア産の公式ネタでした。
肉球マウスパッド欲しいぞ。