−ロイド=アーヴィング
事実上、初めて一緒に夜を明かすことになる。
砂漠の野営。
ぽつぽつと生えた南国テイストな木々の下、夕食が完成手前まで近づく頃に、ロイドが1人でその場を離れた。
「どうしたんだろ?考え事なんて…明日雨降るんじゃないの?」
「砂漠だからな。少しは降った方がいいんじゃないのか」
「あなたの言うことはいちいちもっともね」
ある意味酷い。
何やら皮肉気ながらもテンポが出来始めているのは結構なことだが、ロイドに同情しつつも散歩に出ることにした。
ロイドを探すつもりはなかったのだけれど、ぐるりと野営地点を回ると必然的にその姿をみつけることになった。
ロイドは砂の上に突き出た無骨な大岩の上に背を向けて腰をかけている。
いきなり突き飛ばしてみるのがお約束かと思われたが、まだそんなに仲良くないのでやめてみた。
しかし、スルーする気もなく離れた場所から声をかけてみる。
「ロイド」
「あ、
」
どこか呆けたような顔で振り返ったので、
はそのまま歩いていって、岩の上に飛び乗った。
隣に立ってみると、一段高い場所で視界が妙に開けた感じだ。
見渡す限りの砂丘と、その向こうに山脈が見えた。
「皆が心配してなかったよ」
「…してないのかよ」
「冗談だってば。…ジューダスのこと気にしてた?」
「…あぁ」
ロイドはわかりやすい。
感情が顔にもよく出るので返事をされる前から行く先の予想がつく。
「本人が気にしてない、って言うんだからいいんだよ」
「ホントに気にしてないか?」
「さぁ?でもジューダスの場合はそっとしておいた方がいいと思う。」
「本当にそれでいいのか?」
「どうしてそう思うわけ」
「…オレの周りにはいないタイプだったからさ。わからないんだよ」
ロイドの周りというか、タイプとしては希少なタイプだろう。
けれど、わからないと悩んでいると言うことは、理解しようとしていることに他ならない、とは思う。
悪い傾向ではない。
「まぁ…その内わかるよ。それにジューダスの中ではそれはもう完結してることだから。
…相手以前に言い方が不躾だったんだと思うけど?」
「あ、『親の顔が見たい』って?」
「最悪だよね」
ははは、はぁ…自覚があるのか
にあわせて笑いながらもその末尾は溜息に変わっていた。
「とにかく、その点はできれば触れない方がいい。ロイドと違って繊細なんだから」
「…気になる言い方するなよ。…でも、わかったよ」
肩をすくめて了承する。
それから口を開きかけ…ちょっと黙って躊躇してから、やはり彼は口を開いた。
「あのさ。ひとつだけ。いいか?」
「ひとつでいいわけ?」
ロイドはう〜とうなってからとりあえず言いたいことを言うことにしたらしい。
「…あいつって、けっこう酷い境遇だったとか?」
「なぜ?」
「だからオレに両親がいないって聞いた時、あんな顔したんじゃねーかな、って。
オレだったら…多分『オレもそうなんだぜー』なんて笑って言っちまうと思うんだ。
それってやっぱ、あいつの言うようにのんきで、オレは親父に、あ、親父ってのはドワーフの方な。
その親父に拾われて幸せだから、ってことだよな?」
へぇ。
思ったよりも理解しようとしている。
意見を求めるようなロイドの顔に
は苦笑をもらした。
「でも、不遇よりは幸せと思えるならそれがいいと思うよ。
それにそういうことは、誰かと比べるものでもない」
ロイドは、そっか…と呟いて視線を砂の上に落とした。
両親が居ないというのは特殊な環境ではあるのだろう。
意外なところで共通点を見出したのがあのジューダスなら、少なからず考えさせられる気にはなるのかもしれない。
ジューダスも慣れるまでは何を考えているのかつかめないので、単に居心地が悪くなってここへ来たのかもしれないが。
「そうそう、ジューダスはちょっと違うんだけど私の仲間には孤児もいてね。
やっぱり育ての親も大事だって、一緒に暮らしている子供たちも家族だから、って話したことがあったよ。」
ジューダスの場合はもっと複雑難解なものであるから、彼がロイドが悩んでいることを知ったら一方的に共感をもたれても迷惑だとでも言うだろう。
はそれよりも少しだけ、ロイドに近いであろう境遇の話をすることにする。
「当時は、負い目だと思っていたみたいだから声を大にして話したことではなかったけど、どっちも本当の家族ってことで話終わったよ」
ルーティ=カトレット。
彼女はその後、胸を張って自分が孤児院を守る立場になった。
「…」
「だからさ、他人でも家族になれるんだよ。
ジューダスにはその代わりに、過去なんて知っても知らなくても認めてくれる仲間ができたから」
歴史修正により、彼らのその後がどうなってしまったのか知る由はない。
こうなってしまっては、もう会うこともないのだろう。
そう考えると寂しいが、絆は消えていないと願う他はない。
「でも、今は会えないから…ロイドたちもそうなってくれると嬉しい」
「そっか。…そうだよな。
何があったかなんて聞かないけどよ…これから、きっとわかるよな?」
「そもそも旅に加えてくれるならの話だけど」
「…。」
そう、今のところは遭難した人間がついてきているだけに過ぎなかったりする。
「ついでに、今の話、ジーニアスとかコレットにうっかり漏らしたらジューダスに殺されるかもしれないから黙っておいてね」
「なぁ、それって冗談、…だよな」
「少なくとも視線で痛い思いをする」
確かにあの深い紫闇の瞳でにらまれたらさぞかし怖かろう。
ロイドはなぜか震え上がりながら絶対に話さないと約束をした。
…夕食が出来上がったので、呼びに来ていたジューダスが、傍の木陰にいるとも知らずに。
─────後ほど、 は散々怒られることになる。