ツインコンチェルト 16
だが、彼を覆う光は消えなかった。
まとう光の粒子はゆるやかに空を目指して昇っては消える。
「ウィス……」
誰かが彼の名を呟いた。
ウィスは振り返り、小さな笑みを浮かべる。
「ちょっと、冗談やめなさいよ」
「ウィス……!」
はじまってしまった乖離は止まらなかった。そうしてやがて、世界に還るのだろう。ウィスの顔は穏やかだった。
「バカね、だから何度も警告したのに」
「……そんな、なんとかならないんですか!?」
アーネストは黙って首を振った。
適格者であれば、覚悟しなければならなかったこと。
だからだろうか。ウィスの瞳に後悔はなかった。
存在が揺らぐ。それを感じながらウィスはすぐ目の前にいる
を見る。
「
、時間が来たみたいだ」
「いや」
「わがまま言うなよ。さよならだ」
「絶対にいや!」
はこらえるように顔を逸らしたが、何を思ったのかアルディラスを再び抜剣した。
「ウィス、私の命をあげるよ、だから生きて」
「お前が僕に生きてほしいと言うように、僕はお前に生きていてもらいたい」
「そう」
はだが、ウィスの言うことは聞かなかった。小さく笑って消え行こうとしているウィスにそっと手を伸ばした。光が生まれる。エルブレスだ。
「駄目だ。やめろ」
エルブレスの光は次第に大きくなる。やがて、それはウィスを包む光の粒子に溶け込むと大きなひとつの光になった。
光が……爆ぜた。
* * *
二人は草の上に倒れていた。
アルディラスとウェリタスはない。
「
! ウィス!」
フィンをはじめに皆が駆け寄り、その身を抱き起こした。
揺さぶられ、ゆっくりと黒い瞳が覗く。
「私……」
が自分で起き上がる。風が吹いた。
すぐ傍では彼の片割れも額に手をやって、同じように起き上がっていた。
「なーんだ」
アーネストその様子に笑みを浮かべた。
「結局、帰ってきたんじゃない」
穏やかな光が降り注ぐ。それはいつもと変わらない。なんでもない今日の始まりを予感させていた。
「
……」
心配そうな顔でウィスが片割れをみつめた。
は笑顔で答える。それをみて、ウィスも口元をほころばせた。
「良かった、無事で」
「無茶をするなと……言ったろう」
「無茶じゃないよ。……半分こね」
命も、星の意思(イニシオ)も、世界も。
そうして人は明日を分かち合っていくのだろう。
「そうだな、半分こだな」
穏やかな風が、吹き抜けていった。
そうして……世界は少しの間、分かたれることになる。
星の意思(イニシオ)が自ら動き、セレスタイトにエルブレスが満ちた時、二つの世界は再び邂逅するだろう。
また会おうと約束をして、それぞれがそれぞれの世界に帰っていく。
ウィスはアースタリアに。
はセレスタイトに。
それは別れだとは思わなかった。
アーネストが近い内に行き来を可能にしてくれると約束もしてくれた。
信じて待つとする。
それとも、こちらから出向こうか?
はそして、今日もホワイトノアで空を駆ける。
万感の思いは風に乗せ……
ツインコンチェルト 完
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