「そうだ、海水浴をしよう!」
唐突にカイルが言い出した。
--正しい休みの過ごし方--
「…現状を述べておくと…今、私たちはイクシフォスラーの改造も終わってこれから神のたまごに向かうのよね?」
「うん」
「なんで今から海水浴?」
「だってさぁ…なんだかこう、真面目なこと続きで疲れたというか。たまには息抜きしたい」
…お前の頭はいつも空気が漏れている状態だろうが。
ジューダスがそんな感じの表情を見せたがふ、と悟ったように黙り込んだ。
黙ったのはきっとその前にリアラが口をはさんだせいもある。
「いいわね!私、実は泳いだことないの」
まぁちょっと考えてみればそうだろう。
聖女がバカンスとは考え難い。
「でも…アレはどうするんだい?」
「あぁ。落ちるまでに止めればいいんじゃない?」
にこやかにリアラが素で言い切ったので、誰も反対するものはいなかった。
───カルバレイスのビーチ。
「…て、ここじゃ暑すぎない?」
「これくらいの方が夏っぽくていいわよ」
沖縄では真夏の真昼間から泳ぎにでるアホな現地人はいないと聞いたことがある。
同じことなんだろう。夏の浜辺に人影はなくチェリクから程近い割にプライベートビーチ状態だ。
焼け付く砂に日向へ出るのさえ躊躇していると、リアラが微笑みながら喜声を上げた。
「インブレイスエンド!v」
(喜声…?)
はしゃぎまくりの聖女様のおかげで辺り一帯は程よく涼しい風が吹くようになり海水浴日よりとなった。
「よっし!泳ごう!!」
カイルはまっさきに着替えて音頭をとる。
可愛らしいピンクのワンピースの水着を着たリアラ、ビキニ姿のナナリー、その横にはなぜか不満そうなロニの姿があった。
「どうしたんだい?」
「なんでお前らはそんな格好なんだよ!」
「僕は海に入るつもりはない」
「入ってもいいけど水着に着替える必要性を感じない。」
さすがに、涼しそうな格好をしているもののまったくつきあう気の無いジューダス(仮面は総員により奪取された)とパーカー姿の
にロニは顔をしかめた。
「夏と言えば海!海と言えば水着!美女!ロマン!!
…水着に着替えずに海水浴なんてオレは許さん!!」
「美女とロマンは関係ないだろ」
ジューダスにつっこまれても聞いちゃいない。
ロニは一人で世界を作っている。
「いいか!オレがこれから似合いそうな水着を調達してくるから大人しく…」
「何、馬鹿なこと言ってるんだい!!」
お約束どおりナナリーはロニを締め上げながら海へ引き摺っていった。
「お前の水着姿が見たかっただけなんじゃないのか…?」
「いや、多分ジューダスの水着姿も見たかったんだと思うよ。素顔を見たがるノリで」
と、言いながら
は一人町へ引き返そうとする。
「どこへ行く?」
「買出し」
「僕も行く」
「あれ、手伝ってくれるの?」
「このまま1人でここへ留まっていても、あいつらが煩いだけだからだ」
…どっちが本心だか微妙なところで2人はその場を離れた。
それから30分後、両手に諸々を抱えながら戻った2人。
「もう!どこ行ってたんだよ〜」
さすがにいなくなったことには気づいていたのか、カイルが海から上がって迎えてくれた。
「食料とおもちゃの買出しさ♪」
「おもちゃ?」
どこへ行っていたのかハロルドもひょっこり顔を出す。きっと海辺の生物でもあさっていたのだろう。
「そ、夏と言えばもう一つ…ほら、花火!」
「…あ、何気に私、初めてよ」
「私も!」
ハロルドとリアラが予想以上に喜んでくれた。
まだ、日は高いが今日はここでバーベキューでもしながら野営をしようと言う話になった。
「なんだか本格的なキャンプだね」
「全く、のんきなものだな」
そういいながらも買出し中はジューダスも興味津々だったことは敢えて心の中にしまっておく。
「夜が楽しみね」
お楽しみはまだはじまったばかりである。
そんなこんなで日もあっという間に傾いてきた。
紺のグラデーションに染まり始めた空を見ながら
が炎の傍で海から上がってきたロニを呼んだ。
「ねぇ、ロニ!!スイカも買ってきたんだよ!」
「お、でかいな」
「ぜひロニに割ってもらおうと思って」
さっそくやってきたロニが嬉しそうにスイカを眺めている。
…
の妙なにこやかさに、ジューダスは違和感を覚えたが黙っていた。
一見、意欲的でなさそうでも彼女は一度参加を決め込むといかに楽しむかという方向へ転向する傾向がある。
海水浴だけのつもりがキャンプとなった買出しの成果がいい例だろう。
「オレが割るのか?」
「スイカ割、したことない?」
「あぁ。目隠しをして割るんだよな」
「そういう遊びなの?!」
カイルが目を輝かせた。それでロニもいいところを見せようと自らタオルで両目を覆う。
「でさぁ…」
くすり、と
が笑った。
「回すんだよね」
「!?っておい、3回だろ普通!何回回すつもり…無理だって!!!」
ぐはぁ!と限界的な悲鳴を上げたところで手を離されてロニは結構な勢いで歩き出す。
歩き出すと言うより、よろけて止まらないと言った感じだ。そして
ゴン。
スイカが割れた。
「ロニ、すご〜い!」
「スイカの方が硬かったらお前の頭が割れていたぞ」
「あっはははは!頭で割る人、初めて見たわ!!」
そう、彼は顔面からつっこんでそれでも見事にスイカを割ってくれた。
「お〜まえら〜##」
「な、なんでオレに怒るんだよ。回したの、
だよ!?」
「後半はカイルが面白がって回してた」
「カイルっ!!」
カイルを追い掛け回し始めるロニ。浜辺は止めようの無い笑い声に包まれた。
「今ので脳細胞が1万個くらい死滅したかもね♪」
「じゃあ、ロニの貴重な脳細胞と引き換えだから感謝して食べないと」
「不味そうなことを言うな…」
ナイフで切り分けて渡されたもののジューダスは思わず捨ててしまいたい気分になっている。
「じゃあそろそろ海で遊ぼうかな」
「今からか?」
「普通、こんな暑い地方で真っ昼間から入らないよ…」
リアラのインブレイスエンドの氷も溶け、辺りは通常の気候に戻っていた。
心なし自然風も涼しくなっている。
半分闇に沈んだような透明な色の海はどこか惹き付けるものがあった。
「ジューダス、来るならそっちの花火持ってきてよ」
「なんで僕が…」
いいながらも一緒に行くところがジューダスらしいというか何というか。
自然、リアラたちも水際で集まった。
「水上でやるときれいだよね」
「おっホントだ。…水遊びをしながら花火、ってのは初めてだな!」
「普通、いっしょにはしないだろ」
「でも、消火も兼ねてて合理的よね」
支離滅裂な会話なのになぜ成立つのか。このパーティの不思議なところである。
「ジューダスも少しくらい入って遊んだら?…涼しいよ」
「誘うな」
「つきあってくれないとロニと二人がかりで突き落とす」
「…わかったから手を離せ」
盛大な溜息と共にジューダスは折れた。
それを狙っていたかのようにロニ。
ジューダスの背後でにやりと笑って思い切りつきとばした!…かと思われたが次の瞬間なぜか彼は1人で波打ち際に突っ込んでいた。
「避けるんじゃねぇ…」
「お前は行動がわかりやすすぎる。」
「ちゃんと気配を消さないと」
「…………悪戯ごときに気配を消してどうする…?」
ご丁寧につっこむ傍らで
は線香花火で遊んでいる。か細い火花が散って海に落ちる。刹那的な光景だ。
「ねぇ、こっちのは何?」
「それはロケット花火」
「…なんだか、危険な香りの漂うネーミングね」
「そう思うのはハロルドだけだと思う」
ロケット花火を片手にハロルドが何か悩んでいる。どう使うのか考えているのだろう。
火をつけてみればわかることだが。
だれも説明しないのが悪かった。
花火の頭の下に出た芯に着火するハロルド。
「ハロルド!それは手に持ったまま火をつけるものじゃない!!」
「…うわ!こっちむけんなよ!!」
ひゅおっ…スパァン!!
ロケット花火はカイルとロニの間をギリギリすり抜けて30mほど先の浜辺に炸裂した。
「何、これ。面白いわね!破壊的で!!」
「「………………」」
「だから、アレは買うなといっただろうが…」
「いいんじゃない?楽しんでるみたいだから」
と、傍観に走ったジューダスと
の横ではリアラが今の様子に
「花火にしては変わってるけど…」
「だからリアラ、その使い方は間違ってるんだって……ぎゃあぁ!?」
「え?え?…違うの?」
ちょっと天然気味だか意図的なのだかわからない行動でもって再び「誤った使い方」を実践してくれた。
方や、
「ハロルド、ほらロケット花火って水中でも走るんだよ」
「余計なことを教えるな!!」
ジューダスの制止も虚しく、実演して見せた
の横でハロルドはすでに危険小火薬起爆装置ロケット花火に夢中。
いかに、普通じゃない楽しみ方をするのか傾倒する前触れだ。
「もう少し平和的な花火に興味を持てないのかねぇ」
ナナリーだけが苦笑してその様子を波打ち際から見守っている。
「あれ?こっちのは違うの?」
カイルがふと、別口にまとめられた花火に目をつけて目を輝かせた。
買出しに行ったジューダスも
もハロルドと一緒に遠浅の海に膝まで浸かって騒いでいるため、答えるものはいなかった。
「それって置いて火、つけるやつだろ。よし、やろうぜ♪」
ロニが必要以上に並べてみせる。
こういうものは盛大に連続してやるに限る。
自ら花火師となりつつロニは端から順に見事なてさばきで着火した。
わくわく。
カイルとリアラとナナリーの視線が集う。
しかし、次の瞬間。
「「!?」」
ありえない勢いで噴出した花火はビーチに見事な極彩色の火柱を作り上げた。
「うわぁぁあ!!」
「ロニ!?大丈夫かい!!」
一方のジューダスたちが驚いて振り返ると、目がくらみそうな明るさの中に悲鳴だけが響いていた。光の膝元でいくつかの影 だけが右往左往しているのが辛うじて見えた。
思わず手を目の前にかざしながら見やっているとハロルドの残念そうに呟く声。
「あらら、全部一緒につけちゃったのね。…勿体無い」
「ハロルド…?」
「せっかくの休日のフィナーレを飾るべく、ちょっと改造しておいたのよ。
ハロルド様お手製スペシャル火薬20割増で。」
「改造するな」
っていうか増しすぎです。
ただでさえ特盛りな上にハロルドスペシャルとは…
語るまでもなく結果は目前に展開されていた。
「でも、綺麗だね」
「………離れて見る分にはな」
「花火なんて、離れて見るもんでしょ?手にもってやったら危ないじゃない」
おい。
それともそれはたった今学習したことの賜物なのか?謎に思いながらも訊いてみることはなかった。
顔に出ていたのか
が察して笑っている。
なんだかどうでもいい気分になってジューダスは花火を見上げた。
花火もさることながら水面に乱反射する彩色豊かな光は淡く、確かに美しかった。
神のたまごへ突入するメンバーが、1人、足りなくなったかもしれない。
──余計なことは考えないことにして。
終。
あとがき(8.17UP)**
山もなく谷もなく、ただ楽しげな1日となりました。
ギルさんによる10万HITキリ番リクエスト「D2メンバーで海水浴に行く。」
いかがでしょうか?これでもかってくらいギャグになるかと思いきや程よくシリアステイストで(どこがだ)。
ちなみにリアラはこれが「素」らしいです。
どうでもいいけど自分、スクロール文字使った小説、初めて見ました。
