叶え人
「あ、今日は7月7日…七夕かぁ」
ぽつりと呟いた 。
誰に言ったわけでもないが、次の瞬間、仲間たちの視線は自然と集っていた。
「七夕?」
「アクアヴェイルで行なわれているイベントだろ」
…あるのか、この世界に。
別に他意があったわけでもないからジューダスにあっさりと言い放たれると逆に違和感を覚える瞬間。
「あ、オレ知ってるぜ。願い事を書いた短冊を笹につるすと願いが叶うって話だよな」
「ホントに!?」
「ホントかどうかは別として、まぁそういうことを楽しむ日なんじゃないの」
と、ついでに織姫と彦星の話をしてやるとリアラがロマンね…などとうっとりしている。
そんな間にもカイルはこの年に一度のイベントにノリノリで、
「じゃあ、皆で願い事をしよう!!」
と言い出すのに大した時間はかからなかった。
「…お前が余計なことを言うからだぞ」
「私は独り言を言ってみただけであって、話題をのせたのはジューダスだ」
「…」
このテのイベントに縁遠いジューダスが少し嫌そうに非難したが、切り返すと黙す。
その間に、宿の人から笹だの紙だの素晴らしい素早さで調達してカイルは2人にもペンを渡した。
願い事。
と、言われても特に思い浮かばない。
短冊に視線を落とし、そして、ふと呟いた。
「願い事はいいけどさぁ…自分は恋人と会えるかどうか、って時に人の願い事かなえてる場合じゃないんじゃないの?
…考えようによってはデリカシーのないイベントだ。」
「…。」
「何?」
半分は冗談のつもりだったのだが、ジューダスが意外そうな顔でじっと見ているのでつい訊き返す。
「お前が、人の色恋沙汰に気を回すとはな」
デリカシーはともかく言い回しにひどく違和感を覚えたらしい。
「というか、なんでそうなるのかがわからない。どうしてだと思う?」
どうしてと言われても。
普通そんなこと考えたりしないだろう。
結果、ジューダスの返事はいつも通りだった。
「そんなことを僕に聞くな」
「織姫彦星に願い事ではなく、そもそも2人の願いが叶う日にあやかって星に願う、ってことなんだろうか?
…でもそうすると星に願掛けする意味がわからない。」
まったく次から次へとよく疑問が思いつくものだ。
半ば本気になって思考に走り始めた
はふぅ、と溜息をつく。
「ほんの遊びだろう。そんなに真剣に考えるヤツがいるか」
「だってさ、しかも梅雨時だよ?空見えないっての」
なかなか鋭いつっこみだ。この時期、アクアヴェイルにせよセインガルドにせよ晴れていることの方が少ない。
「2人とも何溜息ついてるのさ。ほら、書けたよ!」
アンニュイな空気が流れたところでカイルが笑顔を振り撒いてやってきた。
つい、視線が集まる。
そこには───
「央雄になる」
「「………………………」」
字が違うと突っ込んだ方が親切なのだろうか。
悩むところだ。
「物凄くカイルらしい」
「え?そう?」
そう批評すると嬉しそうだった。
しょうがない、後でこっそり直しておいてやろう…
「残りの2人も知れたものだな」
「うん」
お約束な展開を想像しながらジューダスと頷きあうと再びアンニュイな雰囲気が落ちかけた。
「そういう2人は?何書いたの?」
「何も思い浮かばない」
「か〜っ夢の無いやつだなぁ!!」
ロニがふいに会話に加わった。
「叶って欲しいことなんて星の数ほどあるだろうが!」
「だったら星の数ほど短冊を作ってみたらどうだ」
「美女とお知り合いになる。美女が多い町に永住する、美人コンテストの審査員になる、美女と…」
「本気でやりそうだし、聞いてないから」
「…」
楽しそうなので放っておくことにした。
「願い事…願い事…あぁ、本気で考えるから思いつかないわけか」
「だからさっきからそういっているだろうが」
「いや、オレたちはこれで結構本気なんだからな…?」
じゃあ。
さらり、とペンを走らせる。
それを見ていたジューダスがフリーズする。
『世界征服』
そこにはそうかかれていた。
書いた直後にくすりと笑ったのがまた、なんとも。
「基本だよね」
悪意のなさそうな顔でとうとう声を上げて笑った
に黙って溜息をつくジューダス。
リアラがこれを書いたらシャレにならないだろうに。
そんなリアラの短冊も出来たらしい。
『英雄捕獲』
「これしかないわよねv」
「「「…………………………」」」
多分こっちは冗談ではないのだろうな。
この先のカイルの運命にちょっぴり同情しながら
は笹へ短冊をくくりつけた。
「お前はないのかよ?」
「願いたいやつは願えばいいだろ」
ひたすら傍観を決め込んだジューダスに、ちょっと面白くなさそうな顔をしながらもロニはひたすら作業にいそしんでいる。
…勤しまなければつけられないほど、短冊書くなよ(笑)
「1人で乗らないのはずるい」
「じゃあ書くのか?宇宙征服だとか。」
「宇宙空間に興味は無い」
まったく支離滅裂な会話を交わして、賑やかなカイルたちを見ている
。
たまにはこういうのもいい。
「あ、じゃあ…夜までにはまだ時間があるから、それまでに考えることにしよう」
「誘うな。そんな下らんこと」
「ちゃんと自主的に動いてくれないと、ペンと短冊と笹を持って部屋に押しかける」
「…」
「考えるのも楽しいものだよ」
「つきあいきれん」
諦めてくれたら面白かったのに。
ジューダスが何を願うか見ものではないか。
残念ながら、彼は興味を示してくれなかったが
は上機嫌に夜を待つことにした。
* * *
やはり、空は曇天だった。
しかし、あれほど泣き出しそうだった空は、夜半に星を垣間見せ始めていた。
既にリアラは眠りについて結構な時間が経っている。
日付が変わりそうだという頃、
は外のベンチに腰をかけて空を見上げていた。
別に七夕だから、というわけでもない。いつもの散歩と星見気分だった。
散歩にしてはいつもより時間が遅かったが。
ただ、見上げる。
そのすぐそばに小さな祈りの束が風になびいてひるがえっている。
宿の入り口に飾らせてもらったら便乗してくる人が意外に多く、笹は大分賑やかになっていた。
笹が風に流れる音が本当に「さらさら」しているのだな、などと今更思った。
さすがにこのしめやかな時間になると、自分が冗談で吊るした短冊がちょっと何かが違う、と思う。
しばし考えていた
はそれをもう一度笹からはずして手にとった。
「何か他に願いたいことでもできたのか?」
「…」
いつから見ていたのだろう。
は振り返らずに、背後にうっすらと笑みを浮かべるジューダスの気配を感じた。
「ジューダスこそ、こんな時間に何の御用で」
「お前が考えてこいと言ったんだろうが」
何ぃ!!?
ありえない。自分で誘っておきながら、あまりにも唐突な展開に
は思う様振り返った。
にやりと笑うその片手には、短冊が────
何か、うそっぽい(何が)。
『何、警戒してるの』
くすくすとその背中からひそやかなシャルティエの声。
そりゃ警戒するわ。
でも多分、彼はそんな
の様子を楽しんでいるのだろう。安易にその結論へたどり着いたので
はすぐに平常心に切り替えた。
「何、願ったの?」
「僕のことはいい。思い直したのなら早く書き換えるんだな。もうすぐ日付が変わるぞ」
まぁいいさ。
笹につければ嫌でも見られる。
と思った
は自分の短冊はひき下ろしたまま。
「自分の願い事は意地でも人には見せないつもりか」
「そうじゃないけどさ」
再びベンチに腰をかける。
そんなに大層なものじゃない。
「今晩、晴れたらいいな、と」
「─────もうあと3分もないぞ」
さすがにこれにはジューダスも呆れた顔をした。
しかも、明日と言わず今日なのか。
しかし、彼は次の彼女の言葉を聞いて、また意外な想いを抱くことになった。
「晴れたら、会えるよ。」
「…まさかアレのことか?」
「そう。」
もとより星など動かないことも、曇っていてもその上の空がなくなっていることではないなど
わかっているのだが。
2人は空を振り仰いだ。
「誰か1人くらい代わりに願ってあげる人間がいてもいいんじゃない?」
「ふん、おめでたいやつだ」
ふと、思いついただけだからそれは否定できない。
まぁ世界征服よりは遥かにまともな願いだろう(自分でやってて何だが)。
心のどこかで上出来だと批評する
の横でジューダスは短冊を笹へと括りつける。
「さぁ、今度はジューダスのば… …!?」
その様子に、喜び勇んでベンチから立ち上がると素早く後ろに回られ、羽交い絞めにされて足止めされた。
「誰が見せると言った?」
「この期に及んで何を言うっ…!」
ぐぐっ…
見ようとする
、させまいとするジューダス。
「大体っどうせ朝になればバレバレなんだから、今 私をとめても意味が無い!」
日付が変わった。
「ふ、そうかな…?」
正面広場の大時計に視線を走らせ確認したジューダスは、場違いな不敵な笑みを浮かべる。
次の瞬間ディスク『火炎弾』の装着されたシャルティエを抜き取って
「ファイアボール!」
「!!」
竹は灰と化した。
「ちょっと…ジューダス…」
なんとつっこむべきだろう。
彼らしからぬ突飛な行動にやや沈黙を混ぜ込んだ
を開放してジューダスは、相変わらず笑みを消さない。
「知らないのか?その後は、炎で天へ昇化させるんだ」
「────────水に流しても、いいんだよ…?」
彼は確信犯だった。
他に言うこともみつからず、ジューダスも当然知っているだろうことを言ってみても、勝ち誇ったような笑いしか返ってこなかった。
──── 結局、ジューダスの『願い事』は何だかわからないまま。
年に一度の逢瀬の日は、うやむやのうちに終りを告げていた。
-END-
七夕です。記念日ネタはぜひやらねば、とシリアス連載の最中、あえて作ってみました。
オチもヒキもないんですが───
シャルティエ→ディスク「火炎弾」装着については連載の方で出ますので突っ込まないようお願いします(笑)
