白と黒(後編)
しかし、裏をかいて逃げたのか同じ個体と思われるユニコーンが間もなく湖畔へ走り出た。
同時に倒れこむ体躯。どうやら後ろ足に怪我をしているようだ。 「とうとうやられたか…」
「そんな哀れみの眼差しをむけなくても」
「行こう!」
力尽きたのか起き上がれない傍へ駆け寄ったカイルたちの姿にじたばたと巨体で暴れだした。
「うっわ!暴れるなって!!」
「男が嫌いなんだからしょうがないだろうが」
「ロニ。何か、その言い方って…間違ってないけどおかしいよね」
が2mほど離れたところでしゃがみこんでカイルが蹴られそうになっているのを傍観している。
諦めたのかとりあえず皆が後退するとすぐさま大人しくなった。
「どうしよう?」
「どうするもこうするも…治してあげればいいんじゃない」
「その前に肋骨折られそうだぜ」
こちらをじっと伺うユニコーンに隙の無さを感じたのかロニはあまり近寄りたくない様子だ。
依然、一番近いところにしゃがみこんでいた は、しばし悩んだ挙句にそろりと手を伸ばす。
その指先がユニコーンの鼻先に触れた。
「!?」
様子を伺いあうような間があった。
それからユニコーンが近づいても暴れないのを確認して後ろに回る。
「ヒール!」
そして、あっさり怪我を治してやった。
「お、おおお前…」
「何ドモってんの、ロニ」
大人しいユニコーンの顔の横に移動してことも無さそうに撫でている 。
言わんとしていることはわかるのか少しいやそうな顔をしている。
「凄いや! 、ユニコーンが大人しいよ!!」
「おわっ!!」
うっかりカイルが近寄りかけたのでユニコーンがいきなり立ち上がり後ずさった。
警戒している。
「カイル、迂闊に近寄るな。 に任せておけ」
「う、うん」
「任せられても困るんだけど…」
「角をとって帰るんだろう」
言われて、 は浮かない顔をする。一緒には行かないと言った先ほどの顔だ。
ユニコーンの方を見るものの近づこうとしない。
「何か問題があるのか?」
「おい、ジューダスっ」
先ほどまで忌避していた疑問をはっきり聞いたので今度はロニが慌てだす。
近づけることがわかったのだから、問題が別にあることなどわかりきっていることではないか。
…なんてあえて説明したりはしないが。
「ユニコーンてさ…角、取られると死んじゃうんだよねぇ」
「え?」
「それも言い伝え上の話だけど。ホントだったら嫌じゃない?」
「そうなの!?」
病気を治すためだろうが1つの命を救うために1つの命を消し去るとは。
考えてみれば愚かな話ではある。
「でも、それがないとハロルドは…」
「それも困るんだよね。じゃあ…聞いてみようか」
決めるや否や、スタスタと近づいて自分の背より高い位置にあるユニコーンの顔を見上げる。
「ねぇ、フェスタードっていう熱病を治すのにユニコーンホーンが必要だと言われてきたのだけれど、他に何か治す方法を知らない?」
「いや、そもそもしゃべれるのか?」
「え?自分の角が使われるんだから他に同じような効果のもの知ってるんじゃないかなと思って」
「はい?」
背中を向けたまま明らかにおかしい会話を繰り出した にロニは思わず聞き返す。
「あ、ごめん。ひょっとしなくても聞こえてない?」
「…聞こえない」
「そう。『お前はわざわざ角を採りに来た相手にそれを尋ねるのか』だって」
ソーディアンの声のようなものなのだろうか。
彼女には会話が成立っているらしくそれだけ訳すと再び向こうへ向いてしまった。
「どうかな?」
…。
『ないことはない。カラバの実やフェニックスの羽がそれにあたる』
「それって今から探してもどこにあるかすらわからなそうだよね…」
『そこの湖の水を器に入れてここへ持ってくるといい』
「そこの?」
ふいに振り返られ、つられてカイルたちも背後に視線をめぐらせた。
依然、霧に包まれた湖面が静かに揺れているだけだ。
満面に疑問符を浮かべたカイルたちに笑みを向ける 。
「そこの湖の水を器に入れて持ってこい、だって。」
「器って…何でもいいの?」
『皿状のものなら。』
「皿だって」
「「そんなものないだろ」」
2人してつっこみ的に即答しなくても。
どうしようかと思っているとユニコーンの方が湖へ近づいた。
『何か入れるものはあるのか?』
「ボトル状のものなら」
『それでいい。すくったらすぐに移せるようにしておけ』
会話をしているだろう間の後に はパナシーアボトルを1本空にした。
それから水を両手ですくう。そこへユニコーンが頭を下げて角の先をつけると透明な水に不思議な微光を帯びた波紋が広がった。
それを小ビンへ入れる 。何度か繰り返してから礼を言った。
「はい、薬、完成」
「それで治るの!?」
「すごいね、ユニコーンの力って」
小ビンを受取っておおはしゃぎのカイル。 は思いがけずにユニコーンに接触していつもの様子だった。
「…よくあっさり薬を作ってくれたなぁ」
「怪我を治したお礼だって」
その怪我も元を正せばリアラがしでかしたことであろうが。
微妙な罪悪感を覚えるカイルを除いた3人。
そこへ諸悪の根源の声が響いた。
「ナナリー、こっちよ。血痕があるわ!!」
「「「…………」」」
「早く逃げた方がいい」
言葉は聞こえないことは分っているがつい忠告しているジューダス。
ロニがその隣で深く同意の頷きを繰り返している。
「アレはこちらで責任を持って回収する。万が一見かけても誰も近寄らないように他のユニコーンにも伝えておけ」
ジューダス、酷いいいようだ。万一誰かがちくったら血の雨が降るだろう。
…そんなことしたら巻き添え食らうことはわかっているから誰も言わないだろうが。こんな時の団結力は並々ならぬものがある。
理解したのかユニコーンは首を上下させるとそのまま後ずさり、馬首を翻すと風のように去っていった。
「…少し勿体無いなぁ、もう少し話したかったというか触りたかったと言うか」
「先ほどまで会おうともしなかったのはどこの誰だ」
『あ、坊ちゃん。少しほっとしてません?』
ゴン。
ジューダスは自らの背に向けて拳で殴りつけた。
奇妙な間に、振り返るカイルとロニ。
次の瞬間、その正面からリアラたちが猛然と踊り出たので茂みの前に立っていた2人はリアラの膝蹴りとナナリーのエルボーをくらってしまった。
「あぁっ!!大丈夫かい!?」
「あら?いたの。ごめんねv2人 とも」
一応、謝るがリアラの方にはこれっぽっちも心が篭っていないように聞こえるのはなぜだろう。
「それよりユニコーンは!?」
一撃で沈めておいて、「それより」扱いか。
「薬はもう手に入ったから、追わなくてもいいよ」
「え!?本当!?」
「ここにユニコーンが来たの?」
「あぁ。水のみ場のようだからな。3度ほど来たぞ」
「その内一頭が怪我をしてなかった?」
やはり貴女の仕業ですか。
「…してた。」
「もうっ裏をかかれたわね!!立派なユニコーンだったから狙ってたのに!!」
ちっ、と舌打ちをして湖面に向かって悔しげに叫ぶリアラ。
…あぁ、これじゃあユニコーンでなくとも近寄るまい。
仲間の何人がそんなことを考えたかにはあえて触れないことにする。
「狙ってたって…いきなり殺したりは…しないよね?」
「カイル…」
びくびくしながら訊いたカイルにリアラの花を飛ばさんばかりの可愛らしい微笑が向けられた。
「そんなことしないわよv」
じゃあどういうつもりなんだよ。
「だって、あれくらい立派なユニコーンなら絵になるでしょう?…聖女とユニコーン!乙女のシチュエーションとしては最高よね!!」
何を夢見てる。
「その為に、怪我負わせても生け捕りにしようとし…」
「ロニ、口を慎む…!」
しっ!と諌められて思わずロニは言葉を飲んだ。
後で聞いてあげるから今はやめよう。
お互い視線を交わしあい、暗黙の了解がロニとジューダスと の間で成立した瞬間だった。
「まぁ、そんなわけだから…早いところ帰ろう?ハロルドのためにも」
ユニコーンの皆さんのトラウマをこれ以上深くしないためにも。
一刻も早く立ち去らなければ。 しかし、裏をかいて逃げたのか同じ個体と思われるユニコーンが間もなく湖畔へ走り出た。
同時に倒れこむ体躯。どうやら後ろ足に怪我をしているようだ。
「なんだか、負けたみたいですっきりしないねぇ」
「お前までそんなこと言うなよ」
「あら、まで。ってどういう意味かしら」
「いやいや、乙女なリアラならともかくナナリーには神聖なユニコーンは似合わないだろ、って言う意味だ!」
「どの口が言ってるのかな…?」
リアラを立てるにしても何ゆえナナリーを引き合いに出すのか。来た時と同じく一方に弁解するために一方のご不興を買ったロニに呆れた視線を向けて ジューダスは溜息をついた。
* * *
ラディスロウに戻ると
「あら、思ったより早かったわね」
元気なハロルドの姿があった。
「おい…?」
「なぁに?ユニコーンホーンは採ってこれたの?」
「元気じゃねーか!!お前はぁ!!」
「嫌ぁね。ちょっとしたジョークじゃない。それともそんなに激怒するほど心配してくれた?ん?」
──────……。
ロニが激怒するほど神聖なものをこう、なんというかピンチにするような大変な修羅場を見てしまったわけですが。
色んな意味で引っ掻き回された(それはハロルドのせいだけじゃない)男性陣は黙りこくり、リアラとナナリーも「?」という顔を浮かべた。
「ハロルド、仮病?」
「そうとも言うわね」
「ぬわんだとーーー!!!オレたちがどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
「男どもはそれほど苦労しなかったでしょ?」
「そういう問題じゃねぇ!」
の指摘をあっさり肯定する様に脱力した仲間たちの前で、相変わらずハロルドはどこ吹く風だ。
きっと研究材料に欲しかっただけなのだろう。
同じく1人、大して顔色も変えない
にジューダスが思わず訊いている。
「お前、仮病だと気づいてたのか?」
「そうだね。何か芝居がかってたしカーレルさんも全っ然慌ててなかったから」
途中で出くわした時はロクに話もしないで出かけてしまったが、どちらかというと見送ってくれた様子はやれやれと言った様子だったはずだ。
思い返したのか、ジューダスの眉がやや困ったように寄った。
「どうして早く言わないんだ」
「だって本当に病気だったら大変だし…ユニコーンなんて見たこと無いから」
きっぱり。
彼女にとってはどちらでも良いことだったらしい。
「でも良かったね、仮病ならユニコーンの角、採らずに済んで」
「!?何、それどういうこと!!」
のセリフに今度顔色を変えたのはハロルドの方だった。
「角を失くすと死ぬって言うから…他に方法が無いか訊いてみたら薬を作ってくれたよ」
「…ユニコーンが?」
むぅ、と顔をしかめる。カイルが渡した小ビンをまじまじと見てひとつ溜息をつく。
「まぁいいわ。これはこれで珍しいものだし。
しっかしあんた。ユニコーンに尋ねると来るとは…想定外だわ」
「世の中、計算しきれないから面白いんでしょ」
「それもそうね。まぁ気づいてそうだったからメンバーからはずしちゃおっかな、とは思ったんだけど」
「あはは、それは惜しかったね」
しかし、
が同行しなければ高潔なユニコーンが一頭、ハロルドの実験の素体に。あるいは、ユニコーンの森からユニコーンたちがどこかへ移住してしまうような大惨事に陥っていたかもしれない。
惜しかったような惜しくないような。
和やかムードの2人の周りに、
仲間たちの脱力しきった溜息が虚しく響いた。
-END-
あとがき**
タイトルの意味。解りますよね?(笑)
つっこみどころの多い話ですがとりあえず…
ジューダスの心中を察してみてください(何)
ちなみにこの話ではヒロインがヒールを使ってますがつっこみは無用でお願いします。
ヒロインがついていかなかったもうひとつの理由↓
「え?だって自分がきれいなつもりでいて拒絶されたらそれはそれでショックじゃない?(笑)
ジューダス「言いたいことはそれだけか……?#
