その単調さはむしろ、迷路のようで。
ダイクロフト攻略記録
ベルクラント開発チーム救出作戦が決行され、彼らはダイクロフトへとやってきている。
ハロルド以下、メンバーの任務は大きく分けて「陽動」「退路確保のための制御権掌握」の2つである。
まず、作戦前半はいかにディムロスたちに敵の追っ手を向けず敵を撹乱するかが目的となるわけだ。
格納庫を出てまず入った場所は運搬用のエリアだった。何のことはない見通しの良い通路と殺風景なホールが交錯するだけで特にこれといった装飾もなければ続く部屋もない。
ただ…
「よっ…と、これで20よ!」
「…上級晶術ってずるいよね〜まとめ討ちだもん」
「いつまでもガーディアン撃破数なんか競ってないでそろそろ温存しろ」
「ジューダス、負けたらハロルドのサンプルだよ?せっかく前衛組みにはタッグも可ってハンデつけてもらったんだから、頑張ってよ」
「…誰がいつそんな条件を許諾した」
「十—————!!!!よっしゃ最下位脱出!!」
「…」
かく乱に勤しむ場所は巡回ガーディアンの跋扈(ばっこ)する回廊だった。
敵の注意を引くために動きの派手さは歓迎、というものの気づいていない敵の前面にわざわざ出るなど勇気のいるものだ。
その上、続くのはひたすらに似たような光景、似たようなエリア。
あまりにも代わり映えのない様子は慎重さを求められる一方で飽きすら催してくる。
そこで考案されたのが「ガーディアン撃破数マッチ」だった。
ひとしきり敵の気配が無くなってしまったところで
が冗談半分にそんなことを口にしたところ「やる気を持たせるにはいい案ね」とかなんとか言って上官(ハロルド)はあっさり採用を決めてしまった。
しかもご都合よろしく最下位は次回の実験台、などと言い切ったものだからある意味、真剣勝負となってしまっている。
この時点でハロルドの「実験台」が何を意味するのか理解していないカイルやロニだったが「改造」だの「新薬投与」だのハロルドが嬉々と語って聞かせるに従い表情から笑顔が消えていったのがその実情だ。
そして「迅速かつ無駄無く派手に」をスローガンに(各自の参加の意志は問わず)今に至ると言う訳である。
「闇の炎に抱かれて消えろ…っ!浄破滅焼闇!!」
「ジューダス、広範囲技ずるーい!!」
「…だからそういう基準で戦うなと言っているだろうが」
人間のやる気と言うものはささいなことで変わるものだ。
とにかく軽いゲーム要素を発端にした
の一言はハロルドの一方的決により「追い込まれ型真剣勝負」になった。
そして今度は──
「ほらほら、頑張らないと実験台よ♪」
「そんなこといってハロルドが負けたらどうするんだい?」
「それはありえないわね」
自信たっぷりのハロルド。
彼女の晶術の広範囲さはすでにお披露目済みなので一概に否定できないのが微妙なところだ。
ロニがおもわず不満に口をとがらせる。
「それじゃただの罰ゲームだろが。何か特典とかつかねーのかよ」
「何が欲しいの」
「とびきりの美女とか」
「あんたねぇ…」
「わかったわ、じゃあ一番勝ちさんには指名権を授与!」
「指名権?」
「好きな人を好きなふうに使っていい権利」
…。
どこの誰まで有効なんだ、それは。
などという疑問を抱く前に今度は至極前向きに反応を示した者が(複数)いたため、ゲームは続行となってしまった。
「いよーっし!地上軍の美女紹介権、ゲットするぜ!」
「嫌ね、ロニ。私に勝とうっての?」
拳を作って俄然やる気を示したロニの後ろでリアラがうふふふvと 妙ににこやかな微笑みを投げかけている。
リアラさん…あなたの英雄はもうみつかったはずなのに、更に誰かを物にしたいのですか…
「私はもちろん実験用サンプルよ♪」
「それじゃ優勝はともかく絶対負けられないね…っ」
「ナナリー、やる気になる前に止めない…?」
「あんた発案者なんだから駄目よ、はずれちゃ」
「…「人を欲しがる」って一体…あ、でもソーディアンマスター1人、ハロルドの我が侭特権で貸し切るのも面白そうかも?」
むしろ、ハロルドのわがまま発動を第三者的に見ていられるのが。
なんとなく前向き発言を模索してみると当然ジューダスから制止の声がかかる。
「受諾するな」
そんなジューダスの言葉に軽く反応を示したのは
だけで既に他の誰も聞いてなどいなかった。
ごく一部を除いて一転して盛り上がりムードである。
それでもハロルドの実験台から逃れるためだけに無駄な緊張感の元、行われる「ゲーム」よりはるかにマシだと
は考える。
* * *
しかしやはり甘くは無かった。
さすがに天才様は伊達ではない。
広範囲に及ぶ晶術に加えて元からこの時代にいるモンスターの情報を握っていること。弱点も看破済みというだけでも彼女には分があった。
そしてその尋常ではない集中力。
常日頃、興味のないことにはあっさり流すくせに興味を抱くととことんやる気になるあたり、誰かを髣髴させる気もする。
「ふふふ、私の勝ちは98.73%決まったようなものね」
「…ところでハロルド、勝ったら誰をご所望なの?」
聞かない方がいいのかもしれないが、気になったので舌打ちしたリアラの後ろから聞いてみた。
瞬間、全員の視線がバッ!っと集まる。
よほど自分に来ることを警戒しているのだろうか。
目に星でも浮かべそうな勢いで両手を組んでハロルドは嬉しそうに教えてくれた。
「そんなの決まってるじゃない!ここにいる全員よ、ぜ・ん・い・ん☆」
「な、なんだってーーーー!!?」
「敗者は勝者に従うべし!!!個人戦でも戦争でも永久不変の鉄則よ!」
「いや、指名権は1人だろ?いつからそうなったんだよ!!」
「あら。1人なんて言ってないし〜。今から、ってことにしてもいいわよ」
「趣旨変えするな!!#」
勝ちが決まってから急変したかのような要求に全員一丸となって反論の声を上げる。
もちろんハロルドに通用するはずはないのだが。
「ど、どうする?」
「どうするって…」
「このままじゃほぼ間違いなく全員餌食だな。──だからやめろと言ったんだ」
そら見たことか。といわんばかりのジューダスの言葉にそれこそ二の句も無い一同。
もはや逃げるにしても遅いということは誰もが理解していた。
は小さく溜息をついてなんとなくひそひそと輪をつくるカイルたちの後ろから声をかける。
「今、一番ハロルドの点に近いのは?」
「え、と…ジューダスだね。って言っても結構差があるよ」
「じゃあ皆でジューダスをカバーする」
「…ハロルドの優勝を阻止しようって事か!」
とりあえず今から逃れる手段はそれしかない。
「しょうがないわね」
晶術でいくら追いやってもハロルドには勝てないと踏んでチッと舌打ちするリアラ。
その黒さを垣間見た。
「よし、みんなやろう!!」
「あぁ、全員でハロルドを止めるんだ!!!」
また、趣旨変わってるよね。それ。
この何だかわからない流れはこのパーティらしいといえばらしい。
いつになく一丸となって、まるで最終決戦に臨むような結束力に燃えるカイルたち。
その後は黙っていても物凄い勢いで追走劇が始った。
さしものハロルドも詠唱のたびにリアラに微笑みながら邪魔をされては退かざるを得なかった。
主に「うふふvごめんなさい手元が狂っちゃった」とかなんとかいいながら。
というわけで。
「やった!!!ジューダス一番勝ちだよ!!」
「これで実験台は無しだね、ハロルド」
「むぅ…あんたたち、なかなかやるわね」
ジューダスは見事ハロルドを打ち負かす(他の順位はこの際どうでもいい)こととなった。
もう当初の目的が何だったのかわからない展開だが、妙に全員晴れ晴れしているのでそっとしておくことにする。
これで何とか山は越えたわけだ。
しかし、もう一波はその後やってきた。
「で、あんたは誰をご所望なの?」
剣を鞘に収めて一息ついたジューダスをハロルドが首だけで振り返る。
当然、全員の視線がそちらに集う。
背中を向けている仮面の下で一瞬その瞳がふいうちをくらったように動揺を示したことは誰にも知られる由は無い。
事実、忘れられていた条件である。
彼もまた視線だけで、振り返って言った。
既に冷静に。
「…僕はそんな下らんゲームに参加した覚えは無い」
「あらぁ覚えは無くても権利はあるわよ?滅多に無い機会なんだからこの際行使しときなさいよ」
「第一行使する相手など…」
今度こそ体ごと振り返る。
呆れだか、嫌気なんだかどちらにしても眉を寄せて微妙な表情を浮かべて上げたジューダスの視線は、言葉と共に不意に止まった。
「…」
「…」
「…」
誰ともなしに妙な沈黙を落とす。
意味も無く決まりが悪い心地に陥ったのは
だった。
「いや、居たな」
誰にターゲットを絞ったのかはその視線の先を見れば誰から見ても明白だ。
胸騒ぎと共に
が口を開くより先にジューダスはうっすらと笑みを浮かべてご指名と決め込んだ。
「
、まずはお前に言うことを聞いてもらう」
「………アシストとしてはいい点を上げた人間にそういうこと言う?」
「放っておけば想定外のことをしでかすくせによく言う。とにかくしばらく大人しくしてもらう」
対象が絞られたことに安堵してか、にやにやと笑みを浮かべ始める面々。
しかしそれも長くは続かなかない。
「ハロルド、お前はしばらくわがまま禁止だ。」
「な、何よ。工兵隊長に命令する気?」
「1人とは限らんのだろう?
敗者は勝者に従う。永遠の鉄則だといったな」
ハロルドが優勝していたら覆されることの無いだろう「鉄壁のルール」を逆手に取られてさしものハロルドも一瞬顔色を変える。
次は自分にジューダスの妙に冴え冴えした笑みが向けられるのではないかと冷や冷やと表情を曇らすロニとナナリーの横でカイルだけはお気楽だ。
「へぇ、じゃあ他にもありなのかな」
「カイル、お前はダイクロフトにおけるむやみな突撃禁止だ。下手な晶術もやめておけ」
「えぇっ!?」
口は災いの元。
これはどういう意味なのか、カイルに言う時だけは真顔になってジューダスは本気で苦言するような口調になっていた。
それからひとつ、溜め息をついて
「よくよく考えればいくらでも注文がつけようがあるな、このパーティは」
再び小さく笑みを浮かべる。
「お、俺は無いよな?ジューダス」
「あぁ。 お前は別にそのままでもいい」
ほっと胸をなでおろすロニ、がもちろんそれで済まされるはずはない。
「代わりにナナリー。ロニが何か気の抜けたそぶりをみせたら気合を入れてやれ」
「あぁ、そういうことなら…」
何を言われるかと辟易していたナナリーはほっとした表情で笑みを浮かべてからそれをいつもの気の強そうな、それも大変な気乗りしたものに切り替えた。
「まかせておきなよ」
「ぅええええ!!」
「なんだい、不満だってのかい?」
この場合は不満以外の何者でもないだろうに。
それでも何も言うことはなくがっくりとロニは肩を落とす。
「ジューダス…」
と、これは少し困ったような顔で
。
「大人しくしてろ」
「大人しくって…」
「戦闘中僕より前に出るな。半径5m以上離れるな。むやみに危険な発言をするな」
「…」
子供ですか。
子供じゃないからタチが悪い。
そんなやりとりが展開されていそうな微妙な沈黙だ。
「危険な発言って?」
「そもそもこのゲームの発端は
のお遊び発言だから、それのことなんじゃないかしら?」
その横でカイルとリアラ。
にこやかなリアラは「命令したら殺す」オーラを出し ながらジューダスを牽制していた。
「あ〜あ、今回はやぶ蛇だったわね」
本命、敵を撹乱させることには大成功という功績には誰1人目もくれずに、ダイクロフトを奥へと進んでいく。
「でも次は負けないわよ」
「金輪際次は無い」
ハロルドの発言で、いつか来るリターンマッチを宣言された頃、未来のソーディアンチームのメンバー姿が通路の向こうに見えた。
あとがき**
連載でカットされたのがこの話の冒頭…「撃破数マッチ」でした。
連載ってそこまでノリノリだったっけ?前の話で戦争のシビアさを語っておきながら敵陣でお遊びはないだろうよ、と短編に転向。
ふっ切れてるジューダスは結構好きです。
当初はヒロインだけご指名でしたがからかわれそうなのでこの際全員道連れと相成りました。
リアラ?リアラは───冷や汗と共に視線をはずすジューダスをご想像下さい(遠い目)
