秋晴れの道程
天地戦争時代を過ぎ、季節のある時代に帰り、閑話休題。
秋色のどこか彩りが寂れてきた、道行きにて。
最近、ロニがジューダスに妙になれなれしい態度に出ている。
当初、ジューダスもいつもの調子でさばいていたが、あまりにも持続しているのでおかしいと誰もがあきれ始めたその頃……
「お前……最近僕のことを馬鹿にしているようだが、なんなんだ一体」
「そうかぁ? そんなつもりないんだけどな」
馬鹿にされていると感じる側にとって、最悪の返答である。詳細は割愛するが自覚がないなら、なお、失礼な話である。
「ロニってば、前の街でフラれまくってから特にそうよね」
「僕を相手に発散してるということか?」
リアラが首をかしげていったことは的を射ていたのだろう。ハロルドがそうねーと同意したので、ジューダスの表情がすこぶる不機嫌になった。
「フラれるのはいつものことだけどね」
「傷心の俺を慰めてくれるのはお前だけだぜ、ジューダス!」
くぅっと泣くような仕草をしてジューダスの肩に腕を置く。当然ジューダスはそれを振り払った。
「なぜ僕が」
「何言ってんだよ、同士だろ?」
え。
全員の意味不明といった視線が集う。
笑顔のロニ。本気らしい。
「お前、大事な人がいるんだよな? そしてその人にはもう会えない……」
「そうなの? 初耳だわ」
マリアンのことを言っているようだ。
「つまり、お前は誰ともつきあったことがない。むしろつきあって3日でフラれた俺とどっこい……!」
「ふざけるな#」
恋人がいないことでは同意でも、フラれることと、モテることではえらい違いだと思うのだが、彼の中で妙な親近感をもってその事実が認識されたらしい。
なぜ今頃。
「つまりロニは『そういう』方面でジューダスに勝るとも劣らないと判断してそういう態度に出ている訳か……」
「客観するな#」
「客観だもの」
あっさりと
が答えている。ロニにしてみれば何につけてもかなわないと思っていた相手、最初は相いれすらしなかった……に急に(錯誤による)自分と似たような部分を発見したつもりになり、こういうことになったらしい。
親近感を覚えたといえば聞こえがいいが、おかしなところで同列に並べられ、ジューダスは非常に不愉快そうだ。
「人を馬鹿にするのは良くないよ」
「そうよ。ロニ」
「男の風上にも置けないね!」
「待てや」
いつも馬鹿にされて……否、いじられているパーティ最年長者が言う。
すべて言わずもがな、全員が理解しているところでジューダス。
「お前は根本的に誤解している。僕はお前のように自分から声をかけてフラれまくったりなどしない!」
「なんかこの流れだと、ナンパ対決になりそうだよね」
「………………そんなことはしない」
多分、ふっかけられればそういうことになったろうが、ここが町から遠いことと、何より
の一言がその事態を避けてくれた。
「でも、ロニは確かに最近ジューダスを馬鹿にしてるように見えるから、ちょっと反省した方がいいよ」
「そうか? 仲間に共通点をみつけてなお仲良くなればいいだろ?」
反省する気がないようだ。今度はそれを見た
が不愉快そうに眉を寄せた。
「あーお前はジューダスの味方だからな」
「そうかしら」
「理解者だけど、
は基本的に公平だよね」
女性陣から声が飛ぶ。
「人の助言には真摯に耳を傾けた方がいいわよ」
「「お前が言うか」」
何人からかハロルドにつっこみが入った。
そして、黙りきりのカイルの存在に、今頃はたとロニは気づいてそちらを見る。
「オレはなんか…いやだな、最近らしくないっていうか」
カイルにとってロニはジューダスの手玉に取られるくらいの方が今や日常茶飯事で「らしい」ということだろう。
本人が理解していない真意までは追及はすまい。
「じゃあどうすりゃいいんだよ。……誰か俺の納得いくように助言してくれ」
しおらしくというより、どちらかというとふてぶてしい態度でロニ。
「調子に乗らない、とか」
リアラが言う。
「仲間は大事にする!」
これはナナリー。関節技を大事な仲間にするのかというロニの疑問はおいておく。
「舐める人は選ぶ」
…………。
不慮の沈黙が落ちた。
「お前な……」
「私は人を大事にしない人は人から大事にされなくても仕方ないと思うんだ。だから人が嫌がることはしない方がいいと思う」
真っ当な意見だが、前後に若干の矛盾を生じている。
ジューダスは敢えて、正さない。
だが、ロニ自身が聞いてしまった。
「嫌がることをする奴は?」
「逆にこっちから見下げるくらいの勢いで相手にしなくてもいいと思う」
……。
「もしも、自分が舐められたらどうすんだ?」
更にロニは聞く。
全員の視線が興味深そうに、あるいは真面目すぎるくらいの熱を込めて、
に集まった。
「別に何もしないよ」
まぁらしいといえばらしい。
「不愉快になる人とはできるなら、関わらないことだね。舐められるくらいなんだから、その人にとっては自分はその価値しかないんだろうし、自分も相手をその程度だと思うことは全く間違っていないと思う」
やられたらやり返す、とはちょっと違う感じだが…
「因果応報ってやつね」
「その場合、相手の助力は得られなくなるというデメリットが考えられないこともないけど、たぶん、そういう人は最初からろくに協力などしない人だろうから、消えてくれた方がマシ」
この世界からではなく、
の脳内からと解釈したいところだ。
「まぁともかく…
舐める人と舐めちゃいけない人は、ちゃんと選んだ方がいいよ」
真顔。
……ロニは今ので、
のことは舐めるべきではないと判断しただろう。
「うまいわね。『私を舐めるな』っていうより、あの言い方の方が効果があるわよ」
「それは意図されているのか謎だが」
渦中にあったはずのジューダスが傍観に回っている。
気のせいかもしれないが、もうすぐ事態は収束に向かうであろう。
「まぁ、ここのみんなくらい関わっちゃえば、そんな非情にはなれないけどねー」
「そうよね、せいぜい報復したいくらいよねv」
リアラ、せめて「一泡吹かす」程度にしてください。
「ロニだって、ジューダスが本気で怒ったら困るでしょう?」
「悪いが、僕は割と本気で怒っていたわけだが」
傍観に回った瞬間に、怒りがどこかへ吹き飛んでいたのも事実。
「ジューダスが……本気でねぇ」
なんとなく、想像がつかないようだ。
冷静だからというのもあるし、なんだかんだいいながら、ここまで来るとジューダスは付き合いの良い、仲間思いの人間であると全員が理解している。
「本気で怒ってもこの辺じゃ何もないしなぁ…」
リアラの言葉が印象的だったのか、ロニは「報復」に使われそうなものを探して見回した。
街は遥か遠く、秋風の吹く草原は枯れ色だ。
「仮にちょっと厄介な敵が出てきた時に、ジューダスがわざとロニだけフォローしなかったら?」
「う?」
しかしそこはわかりやすく例示をはじめる
。
ここは漢なら、自分の背中は自分で守るぜくらい言ってもいい気もするが、強敵であればそうもいくまい。
神との戦いも近い予感のする今日この頃。
「ライフボトルがいくついるかしらねぇ?」
ハロルドがぽつりとつぶやいて、そのシーンが容易に想像できたらしい。ジューダスも、つけたしてみる。
「ライフボトルなど5つも持てば邪魔になるから、必要なら自分で持ってもらうことにするか」
「いくつくらい?」
「少なく見積もって30くらいか?」
継続プレイオプション、カンストしてます。
それでも切れたらどうするのだろう。一番大柄なロニは担いで町に戻るには誰にとっても大荷物である。
が真面目に可能性に思考を馳せ始めたその頃。
「やめてくれ! 俺が悪かった!」
かくして早々にロニは白旗を上げ、悔い改める羽目になった。
その様が、カイルとしてはほっとするものだったのだろう。
声を上げて笑いながら言った。
「あはは! やっぱりその方がオレたちらしいよ!」
今のやり取りのどこらへんに「オレ」が入っていたのかわからないが、いつものパーティの空気には戻った感はある。
ナナリーがまったくと小突いて、ロニはとほほと肩を落としている。見慣れた光景だ。
元気になったカイルが、聞いた。
「でもさ、
だって、何もしないってことはないよね。このパーティで頭に来たらどうするの?」
「え……」
また余計なことを聞く。
ジューダスの眉が最初とは違う意味で寄せられた。
「それは興味深いわね」
と、これはハロルド。
「切り捨てるほど非情になれない。でも腹が立つ。そして、周りに何もないこの条件。戦闘以外でどうするのか聞いてみたいわ」
そして、余計な条件を付ける。
見たことか。
そんなことを言わなければ、何も考えなかっただろう
が周りを見渡しているではないか。
ロニは無意識に一歩引いた。
カイルはその方法を問うただけで、何もロニに向かって実践してくれとは言っていないのであるが。
「見事に秋だね」
紅葉している遠くの山々を見てそういった。
全員の視線がそっちへ向く。
むろん、
がそうさせたわけではない。ただ、思ったことを言っただけなのだろう。
だが、その隙を突くように何事もないかのごときさりげなさで
は街道脇で枯れている草を数本、手折った。
ただの枯草だ。
たたかれたところで、痛くもかゆくもあるまい。
だが、顔を上げ、ロニと目があう。
うっすらと笑みが浮かんだその瞬間、それを見たロニの顔色がさぁっと引いた。
「や、やめろぅっ!」
そして逃げ出した。
はすかさず追いかけるが、素早さにおいて大分まさっているうえ、枯草のリーチはあっさりと追随を許すこととなる。
「ぎゃー!」
いやー!という悲鳴を割と近くに聞いて、首をかしげるほぼ全員。
「? ? ?」
その枯草はすぐに
の手元からなくなったが、ちぎって投げても延々なくならないくらい道脇に延々と生えていて……
ぽかんと見ていたカイルだけが直後に腹を抱えるようにして笑いだした。
「あ……ははは!
、酷すぎ!」
酷すぎと言いつつ笑う様に、ますます首をかしげたくなる。
たかが枯草を一体……
とロニが帰ってくるより先に、駆けていったカイルを追って全員が追いつく。
ロニはもう逃げることをあきらめていた。
「ひでー…これ、取るの大変なんだぜ」
そういうロニの服には無数のごけ茶の種……だろう、1㎝くらいの細長いものが立つようについていた。
「うん、知ってる」
と言いながら、わき腹付近のそれを取る横で、枯草の先についているとげとげが集まってできているような丸い塊をロニにつける。
塊は
が手を引くと同時にばらけて、ごっそりロニの服についた。
「あっ! やめろよ! 時間くうだろ!」
「うん、知ってる」
走ってきたカイルが嬉しそうに言った。
「小さい頃やったよね、それ!」
「なんとなく対人地雷を髣髴させるわ」
ハロルドが物騒な感想を述べた。
「対人地雷って?」
「踏むと、起爆して中に仕込まれた殺傷物が扇状に広範囲に攻撃するのよ。クラスター爆弾も似たような印象かしら」
「やめろ、物騒だ」
「ある意味、最強の枯草兵器ではあると思う」
枯野を歩いていると知らない内に種がつくのはよくあることだ。大抵強めに手で払うと落ちる。
が、これは細かく頑強で、服に埋もれて引っかかっている部分は短いのに、出ている部分が長すぎて払ってもそこが倒れるだけで全く落ちる気配がない。
「ふむふむ。二本の逆棘でより強く食い込む仕組みね。これはすごい進化の仕方をしてる植物だわ~」
天地戦争時代では雑草すら希少だったので、ハロルドにとっては毎日が標本にしたいものとの出会いの連続だ。
「だからひっぱって取るしかねぇんだよ。これ、一本ずつとか……あーー! めんどくせぇ!」
小さいうちは種のくっつけあいもおさな心の遊びで楽しいものだ。
が、大人がすべきかというと微妙な光景だ。
「ジューダスも気を付けた方がいいよ。マントとかにつくと厄介だから…上質な生地には間違ってもやってはいけない」
「木綿で悪かったな……」
ナチュラルコットン。よいではないか。
ロニは肩を落とすように大きくため息をついた。
「因果応報……っていうより、自業自得って感じね」
ジューダスはその姿を見て、気が済んだようだ。
いつも通りため息をついただけだった。
あの植物兵器(?)が自分に向けられる日が来ないことを祈りつつ……
その植物は秋の枯野、最強の兵器としばらく真面目に語るロニだった。

2016/11/21筆(12.22UP)
ガムテープもってこい。
