おばけなんてないさ
「なぁ、って怖いものないのか?」
「幽霊が怖い」
ただの雑談だった。
しかし、そういったことでなぜかロニが盛り上がってしまったのが発端。
自分の弱点(?)と共通点を見出し嬉しかったのかもしれない。
しかし、そこでつい出た言葉がこれだ。
「マジか!」
「何それ、私が幽霊怖いって言ったらおかしいの?」
の眉が若干寄った。
多分、この手の話題ではことごとく似たような反応を受けてきたのだろう。
口には出さないがリアラもカイルも驚き気味だ。
肝っ玉なナナリーだけが言った。
「おかしかないけど、意外だよね」
「どこら辺がどう意外なのか、むしろ逆に聞きたい」
そういうところが意外と言わしめる原因なのであろうが、本人は気づいていない。
そのあたりはカイルが言った。
「おばけこわ~い!って感じじゃない感じがする?」
真似をしたようだが、そんなは見たことがないのでリアラの真似にしかならなかった。
「あはは、カイル。何それ。私の真似? 似てない」
棒読み。
みなの知るところでないが、ファンダリアへ向かうアルジャーノン号で、似たようなことをリアラがカイルに言っていたのでその引用である。
「そもそも、逆に理由を聞き返すような人間だから意外がられるんだろうが」
と、これはジューダス。
「がおばけ怖いって……それじゃロニと一緒じゃないか」
「違う、おばけじゃなくて幽霊」
「お化けと幽霊ってどこが違うんだよ、俺はどっちも怖いぞ!」
「威張って言うな」
どうでも良い論争が巻き起こりそうな予感。
「お化けはほら……愉快なイメージがないこともない」
「ないだろ!」
ロニ、全力で否定。
「大体、なんで幽霊なんて怖いんだい? あたしはそんなの見たことないよ」
「僕もだ。いるかどうかも怪しいだろう」
「いたら怖いという話」
「あ、そういえば……」
カイルがふと、思い出したように顔を跳ね上げる。
「前の町で聞いたんだけど、南の森には『出る』んだって!」
「南の森……」
「出るって、何が出るの?」
リアラが余計なことを聞いた。
「昔、森に盗賊が住んでいて……たくさんの人が襲われたんだけど、結局、最後は盗賊同士が殺し合いをして誰も残らなかったんだって。だから今でも旅人を襲おうと……」
「って待て!」
ロニが止める。
「なんでそんな話になってるんだよ!」
天気が悪くなっていた。どんよりと曇っていた空が木々の枝葉に覆われ、鬱蒼とした森に入る道を歩いていた一向は誰もが、いや、もしかしたらカイルを除いて、かもしれないがここが「南の森」であることを認識していた。
いつしか蔦が枝から枝垂れて、眼前にはいかにも陰鬱そうな光景が広がっていた。
「なんでってロニが余計なことを聞くから……」
霧が出てきた。
「そうそう、こんな霧の時は特に出るんだって。人影が横切ったり足音が後ろからついてきたり、風もないのに木が揺れたり」
カイルが話を続けたので、彼はここがその森であることに気づいていないことが発覚する。
したところでどうしようもない。
「やめろ! 俺はもう聞きたくない!」
「……」
「大丈夫だって。ただの霧じゃないか。それに幽霊なんて出てきたらあたしがぶん殴ってやるよ!」
ナナリーが頼もしいが、ジューダスは知っている。
がそれを苦手とするのは、物理攻撃が効かないからである。
おそらく、なんらかの形で撃退できるなら、あるいは無害とわかったなら苦にはすまい。
似たようなものが苦手と言え、根本的に根拠が異なる。
「それこそロニはなんでそんなにおばけを怖がるのさ」
「おばけなんてなーいさ♪ おばけなんてうーそさ!」
「あはは、その歌小さいときよく歌ったよね!」
ロニが他の人間の声を完全にシャットアウトしてシャウトしている。
「寝ーぼけーたひーとが、見まちがーえたーのさ!……ってカイルお前かぁ!!」
「なっ、何が!?」
「ロニがご乱心してますが」
「放っておけ」
というとジューダスは最後尾。いつもどおりのポジションだ。
が。
『、ほんとに苦手なんだねぇ…』
どこか微笑ましそうにシャルティエが小さく笑った。
はジューダスのマントの端を控えめに握っている。
それこそ、ジューダス自身シャルティエが声を上げるまで気づかなかったくらいさりげなく。
「「…………」」
見なかったことにするジューダス。
「だって、想像したら怖いじゃないか……」
想像しなければいいと言いたいところだが、自分から声を上げるのだから怖いのだろう。わかり辛いが。
いよいよ霧が濃くなってきて、うしろからヒタヒタ音でもしたらどうなるのだろうとは思う。
「だけどちょっと だけどちょっと ぼーくだって怖いさ!!」
「ちょっとという域を超えているぞ」
半ばやけになって歌い続けるロニの声が無駄に森に響き渡り、他の旅人が何事かと無駄にドキドキさせたというのは、また別の話。
2017.6.23UP
なんとなく、時間を持て余して書いてみた。
