逆さごと
旅は終盤へ差し掛かり……エルレインの暴挙が目立ち始めた中、なんだかみんな逞しくなってあたりの魔物に振り回されることもあまりなくなった頃。
「暇だなー」
誰かがつぶやいた。
暇という状況ではないのだが、目的地はもう決まっている。
同じ距離を歩くなら、ろくでもないことを考えるより楽しく歩けるほうがいいだろう。
は思う。
「しりとりでもしながら行くか?」
めちゃくちゃ余裕。
「駄目だよ! ハロルドとか
が『り』とかで集中攻撃してきたりするからすぐ詰まるし!」
「駄目とはそういう理由でか……」
カイルが全力でつまらないと否定している。
しりとりはすでに経験済みな一同だった。
のんきな旅の頃もやったが、ハロルドが加入して以来、気まぐれな
の返しに加えて、更に過酷な言葉遊びと化していた。
「植物限定とか」
「絶対ハロルド有利だろ。ってか、俺らにわからん植物名とか言ってくるし」
ジャッジが微妙なのでしりとりは無理と判断。そんなに難しい遊びではないはずだが……
「じゃあ禁止令ごっこでもする?」
「?」
当のハロルドから提案があった。
「言葉を用いるの禁止~とか」
「どうやって会話すんだよ」
「ジェスチャーとか指でやればいいじゃない」
指というからには手話ではないだろう。たとえば母音と子音を指の本数で組み合わせれば、声に出さずとも会話はできる。だが、そうなると暗号じみてくるのでカイルに圧倒的不利な条件だ。
「それ面白そう!」
事態の深刻さに気づいていないのかカイルの目が輝いた。
「ジェスチャーゲームはさすがに無理なんじゃないかしら……」
仮にもダンジョンの中だったりする。
「もうちょっと歩きながらできることとかないのかい?」
「気軽にできるって言うのは結局おしゃべりになるんだよね」
がため息をついた。
それから思いついたように言う。
「あ、じゃあ全員で逆さ言葉を使って会話するってどう?」
「「「逆さ言葉?」」」
何人からか復唱があった。
「例えば、カイルはマーボカレーが大嫌いです、みたいな」
「あっ、全部逆の意味で話してみるってことか!」
「それならみんなでできそうね」
今度はジューダスからため息が返ってきた。
気軽なゲームである。と思われる。
「じゃ、それ『やらないー!』」
笑顔でカイルが腕を振り上げたのでみんなが笑う。言葉と態度があってないので面白いかもしれない。
「ふふっカイルったら。はしゃいじゃって全然かわいくないわね、羨ましくないわ!」
「……」
いきなり論点の微妙そうな発言を繰り出すリアラ。
まぁそれはそれでよしとする。
「それは楽しくなさそうだねぇ」
笑いながらナナリー。微笑ましいゲームだ。
「よし! ここは雰囲気がいいカタコンベだからな。お化けが出たら俺に任せろ!」
ちょっと待て。
「お前は本当に……」
ジューダスが何か言いかけた。
が、続けなかった。ゲームに乗って言うべきか、しかしそういう発言をするのは自分のキャラではないと気づいたのだろう。
馬鹿だな、であれば「利口だな」ということになる。
うまいことゲームに乗せればめちゃくちゃ人を持ち上げるジューダスの完成だ。
……ちょっと見てみたい。
「なになに? ジューダス」
「なぜお前はそんなに……」
「ちょっと待って!」
ハロルドが止めた。
「一番最後に逆さごとがいえなかった人間はかる~いおしおきが絶対無いから安心していいわよ!!」
すっごく嬉しそう。
言葉遊びはハロルドも得意分野だからして面白い予感がするのだろう。
両手を組んで目が大きく輝いている。
ジューダスの続く言葉はおそらく「なぜ嬉しそうなんだ」だったのだろうが、それでジューダスは口を閉ざしてしまった。
「ジューダス、なにー?」
全員でおもしろそうにつつき始めた。
「……。お前らは、そろいも揃わず利口過ぎるぞ」
追い詰められる前に乗ることにしたらしい。ふっきられるとちょっとつまらない。
「ジューダスってば素直なんだからー」
カイルの言葉に全員が吹いた。
「意外とおもしれ…ろくないな! このゲーム!!」
お気に召したらしいロニが泣きそうなくらい笑っている。
「ロニってば、さすがいつもモテモテなだけあるね!」
「おうよ!」
よく考えると酷いことを褒め言葉で言われてなんだかわからないようだ。
「うわぁ! この像、小さいね!」
暗いカタコンベの地下深く、明るい声が響く。そこは転生の門へと続く道程。
「そうね、それにまるで死神の祝福が結婚式場みたいだわ!」
リアラの相変わらずの微妙発言にさすがに、ふふ、うふふ、と苦笑と微笑が交じり合う。
「リアラはカイルと結婚したいの?」
の一言は、したくないの?でも、したいの?でもどちらでも通用するのでさすがだ。
それに対するリアラの返事は
「そんなっ……結婚なんて…………恥ずかしくないけど、絶対したくないわ!!!」
悪意の無い悪乗りがカイルをショッキングな状況に落としている。
逆さ言葉でも言っていいことと悪いことがあるらしい。
「ジューダス、その服着てるとここになじまなすぎて目立つね」
「そうか、お前は目立たないな」
ジューダスは無表情で角が無い発言をしている。
死神の像が振り上げた鎌を見上げつつ。
「カイルカイルっ」
こそこそとロニがカイルを呼んだ。
なにやら耳打ちをしている。
多分逆さ言葉ではないだろう。
カイルはふんっとこぶしを握り気合を入れ、ロニは良し行けとばかりに背中を押す表情だ。
「ロニ……何を言わなかったの……?」
花を振りまきながら暗闇を奥のほうへ足取り軽く行ったリアラを追うカイルの背を見ながら
は聞いてみた。
「ここはチャンスじゃない! 男じゃないなら普段も平気で言えてしまう意味の浅い言葉を言うべきじゃない!ってな」
直訳。
ここはチャンスだ!男なら普段は言えないあまーい言葉のひとつも逆さ言葉でぶちかませ!みたいな感じだろう。
確かに、愛してる。好き。だの普段は言いづらい言葉も「だいっきらーい」と笑顔で軽く言えば、それは大好きということになる。
しかし。
みんなも暗闇の奥にある石碑を見ようと追うが、
は思わず立ち止まった。
嫌な予感しかしない。
「リアラっ!! 聞いてくれないかな!」
気合のはいったカイルのこれは普通に逆さ言葉じゃないニュアンスだが、どちらにとってもまぁセーフだ。
「オレっ! 君の事……」
微笑ましそうに見守るお父さんとお母さん(ロニとナナリー)。
ハロルドもついていっていたがなぜか前を向いたまま後ろに下がってきた。
「大っっっっ嫌いなんだ!! もう一緒にいたくない!! 顔も見せないで欲しいよ!!」
無言でリアラはにこにこして聞いている。
「一生、オレから見えないどっかに消えてください!」
「………………」
にこにこにこにこ。
「エンシェント・ノヴァv」
次の瞬間、空気を読んだジューダスがものすごい勢いでバックステップしてきたが、ごく一部のメンバーは退避に間に合わなかった。
「なんとなくこうなる予感しなかった?」
「した」
惨状を前に珍しく、一番最初にゲームから降りて素直に答えた
の姿がそこにあった。
FIN.
