知能のあるモンスター、というのは珍しい部類だ。
この世界において、モンスターというのは人を襲う強靭で凶暴な存在一般を指すが、レンズの影響でモンスター化しているものと、元々が自然形態の中に生きているものがいる。
つまり…高い知能のモンスターはよほどでなければ、人など襲う理由がない。
人食であるというのでなければ。
「お前らの思考はすべて手に取るように聞こえてくるのだ! 俺に攻撃しようとしても無駄なことなのだ!」
なんだか、珍しくパーティが危機に陥っていた。
さとり
「くっそ、攻撃があたらねーぜ……」
「晶術も……詠唱を始めると何が来るかわかってるみたい……」
相手は思考を読むらしい。
さとり、という妖怪がいたななどと
は場違いなことを思い出していた。
いくら連携攻撃を繰り出しても読まれているのでは避けられるだけだ。
しかし。
「あなた、人の言葉がわかるなら会話できるよね。……なんで襲ってくるわけ」
「う?」
の素朴な疑問はそのモンスター……仮にここからさとりと呼ぶことにする……の動きを止めさせた。ついでに仲間たちの動きも。
さとりは首をひねってから叫んだ。
「人間を襲うのが魔物というものだ!」
……知能はあるが、高くはなさそうだ。
率直な感想。
「お前、今、オレのことを馬鹿だと思っただろう」
「直訳するとそうかもしれないけど、馬鹿とは思ってない」
真面目。
「なんだ、普通に話せるんじゃん!」
「そうだよ。魔物は人を襲うってのはそうかもしれないけど、話せるなら戦う必要もないってことじゃないかい?」
カイルとナナリーの素直な意見。素直故に、さとりは武器を手にしたまま固まっている仲間たちへ視線をぐるりとめぐらせた。
「6対1ってのはそっちにとっても条件悪いだろーが」
しかし、ロニの一言はさとりのプライドを著しく害したようだった。
「6人いようが関係ないのだ! なぜならお前ら全員の考えが読めるのだから!」
まぁ現にいま苦戦していたのはこちらだし、まったくもってその通りであるとは思う。
「俺の恐ろしさをわかっていないようなのだ。俺の力を思い知るがいい!」
「力っつったってよく考えたら、避けてるだけだし考えが読めるってだけだろ」
ははは!と笑うロニ。
故にまっさきにターゲットにされることとなる。
「お前の頭の中は女をひっかけることが大部分を占めている」
「! すごい! 当たってる!!」
「当然なのだ」
なぜか全員が感心する側に回った。
「ロニの脳内は、スケベなこと87%、残りはカイル・デュナミスとその他雑念でできています」
なぜ敬語。
「改めて数字にされると…なんか嫌だな…」
「まだまだなのだ。前の街では18人の女性に声をかけ、18人にフラれている!旅に出てからのフラれ総計がもうすぐ3ケタ突入なのだ!」
「やめろ! それ以上は……!」
「やめないのだ。生まれた町ではめくりのロニと呼ばれていたのだ。自称はつむじ風などと言いながら、女の子のスカートめくりばかりしていたのだ。変態なのだ」
「やめてくれっ……!!」
「小さいころ社会のテストで18点を取り、それを物置の木箱の下へ隠したままなのだ。しかし、最低点はそんなものではないのだ」
段々哀れになってきた。
「ひとつ嫌なことを言い当てられたから、芋づる式に思い出しちゃったの読まれたんだろうね……」
恥が全開で晒されかねない事態だ。
その場の雰囲気が同情的になってきたところで、ナナリーが声をかけた。
「その辺にしといてやりなよ……」
「……」
そうすることで、さとりはナナリーに顔を向けた。
「……お前は、今、この男のことを……」
「あーー!! 何にも思ってないよ! ただの同情だよ!!」
ワイルドギースが火を噴く。感情が先だった行動だったので、読み切れなかったのだろう。
さとりは危うく難を逃れたが、己の心臓を押さえながら低くうめいた。
「恐ろしい女なのだ。だが、まだまd……」
全員の恥をさらすつもりらしい。そうして視線を動かしたさとりの時は止まった。
その視線の先には、にこにことほほ笑むリアラの姿があった。
「………………なんと禍々しい女なのだ……」
そしてよろよろと顔色を悪くしながら後ろによろめいてひざを折る。
「エンシェントノヴァ!」
しかしこれは覚りの範疇であったのかひらりと避ける。
ちっと美白の天使の異名を持つ白い聖女様が舌打ちをした。
彼はいったい何を見てしまったのだろう。
そんなわけで次の生贄は……
「?」
「何も考えてないとはなんということなのだ!」
カイルの純真さにさとりが驚愕する。ということは戦闘ではそれなりに今の状態より頭が回っているということだろうか。
恥を延々とさらされたロニはキッ!と顔を上げ、さとりをにらみつける。
そして……
「お前! あいつだ! 次はあいつの恥をさらしてやってくれ」
「のだ?」
仲間を売ったロニ。その指先にはジューダスがいた。
このパーティ最大の謎と言っても過言ではない
真に謎な人間はほかにもいるのだが、その事実はあまり認識されていない。謎であることが目立つか目立たないかの差だろう。
しかし、そんな謎などどうでもよい。
「僕を巻き込むつもりか!」
「死なばもろともだ!」
もろともの相手が違うだろうが。
さとりが体ごとジューダスに向きなおった瞬間、ジューダスは隣にいた
をがっと掴むととっさに自分の前に突き出した。
「ジューダス……………」
「僕は正体を知られるわけにはいかないんだ……」
うん、多分、それ今言うセリフじゃないよね。
「のだ~」
独特の語尾を発するさとりの瞳が細められる。
の心を見透かしている。
今更ながらに、カイルたちまで固唾をのんでしまった。
そういえば、一番常日頃考えが読みづらいのは彼女であった(しかしその事実はやはり通常は認識されていない)。
「……」
「…………」
「………………」
「のだ……っ!」
がくり。
さとりの方がひざを折る。
「何!? 何が起きたんだ!!?」
「読めない……」
「馬鹿な!」
と、これはロニ。
実は
に特殊な能力が…!? 騒然とする一同。
「読めないのだ…こいつ、思考に隙がない……!!!」
「え」
「どういうこと?」
に視線が集まった。
「だって、心が読めるなら、心の中で話しかけるだけで通じるんだろうなーって。だから色々気になった疑問をぶつけてみた」
「そ、そうか……」
つまり
は何かを考えるのではなく、さとりと(一方的に)会話をしている状態だったようだ。
「なるほど、つまり読まれる側が意図的に、心の中で罵倒すればそれがそのままそいつに伝わるわけだな?」
「罵倒はしてない。ただ、その能力ってモンスター同士ではなんの意味があるのかとか、嫌がらせには使えるけど有効活用したいなら人間の中で活かした方がいいよねとか、そもそも私がこうやって話しかけている場合は、いったい何か弱みがつかめるの?とか、何一つ返事しないからいい加減何か答えろ、時間が無駄だろが、くらいまで行ったところで挫折された」
にしては珍しく長い口上で説明してくれた。
「そっか! そんな手が!」
「お前は何も考えていないのだから別に対策をする必要はない」
「じゃあ、私も次に心を読まれそうになったらそうしてみるわねv」
さとりはリアラと目を合わせようとはしない。むしろ反対側を向いて震えているように見えるのは気のせいだろうか。
「そうだねぇ…乙女の秘密はやっぱり見透かされたくないもんね」
「お前乙女って柄じゃな…」
ゴスっと鈍い音がしてロニが顔面を抱えながらうずくまった。
「まぁ対処法が分かったなら、まったく問題ないな」
とこれはジューダス。無の境地に至るのは難しそうだが、肝心の秘密は守りとおせるであろう。
「のだ…?」
じりっと輪がせばまったところで、攻勢逆転したように見えた、が。
「それは通常時の話なのだ! 戦闘中にそんなことはしてられな……」
がつかつかと躊躇なくさとりに近づく。
そして
「?」
ガツン。
前触れもなく鞘ごと剣を振り下ろした。
当たり所が悪かったのか、さとりは悶絶している。
「あぁ、思った通りだ」
は何かクイズを当てたかのような笑顔をしている。
「この人、めちゃくちゃ弱い」
「のだ!!?」
逃げる隙を与えず、ジューダスが飛び退ろうとするその魔物に足をかける。後ろにすっころんだ。
「……思考を読めるだけで、戦闘能力が高いわけじゃないんだな」
ほほう、とロニ。
「お前は12歳の時、母親代わりのルーティ・カトレットに……」
「死ねぃ!!」
ずばん。と、見事に思考を読まれた隙だらけのロニにさとりは一撃のもと倒された。
「くだらない戦闘だったな……」
やれやれとジューダス。
あんなモンスターが存在するとは思っていなかった。むしろ、もう会いたくない。
「名前もわからなかったけどね」
「妖怪系なら『さとり』、悪魔なら『ダンタリオン』が思考を読むっていうけど……高貴なる悪魔、って感じじゃなかったしねぇ」
ある意味、心の秘密が開示されるなんて、下手な怪我をするよりピンチといえばピンチだった。
そして、カイルはと言えば。
「何? ロニ、母さんが何?」
そうして、次の街につくまでしつこく、ロニに聞きまくるのだった。
2016.11.22筆(2017.10.12UP)
結局ロニがいじられて終わる今日この頃の短編。
