お約束の予感 AM7:30
「おらー! カイル! 起きろ!! 朝だぞ!!」
はた迷惑なことに朝から大声が聞こえてくる。
今日泊まっている宿の壁は薄いらしい。
幸いなことにおたまを持っている女性は同じ部屋ではないので死者の目覚めまでは聞こえては来なかった。
すでに目を覚ましていたシンは早起きなナナリーにつられる形で着替えをもう済ましている。
これからすぐに1階に下りて食事の予定だ。
ハロルドの姿はなぜか昨晩からなかった。
隣の男性陣の声が静かになるのを見計らって部屋を出るとちょうど合流できた。
「おはよう、三人とも」
「そこは敢えて三人でくくるな」
おはようでいいではないかと朝っぱらからジューダスにつっこまれるシン。
シンとしてはジューダスに挨拶をしようかと思ったがまだ寝ぼけているカイルに声をかけるのも捨てがたく、ロニも蔑ろにする気はないのでこうなった。
一瞬の細心の判断(無意識)である。
それはどうでもよい。とにかく食事だ。
さて、そうして食堂を兼ねた一階のホールに行くとハロルドが既に陣取っていた。
見慣れない機械をテーブルに乗せて。
「おっはよー 遅かったわね☆」
「…………」
特に何も思わなかった一同だが、そのご機嫌な挨拶になんとなくそれぞれが胸騒ぎのようなものを覚える瞬間。
それを押してシンが聞いた。
「ハロルド、それ何?」
「これ? これは全員に関係あることだから食事しながらゆっくり話すわ」
ということは割とまじめな代物なのだろうか。
ハロルドの時空観測機により未来に干渉が起こっているというまともなことを知ったのが割と最近なこともあって、ありがちな警戒心を解いて食事をそれぞれ注文する一同。
サンドイッチやスープと言った簡単な料理が出てくると、今度はそれを頬張りながらロニが聞いた。
「で? なんなんだよ、それは」
もごもご。
「食べながら話すな」
ジューダスに注意される。育ちの違いは否めない。
全員の視線が集まるとハロルドはレタスとハムの挟まったロールパンから口を離して一口飲み込むとにんまりと笑った。
「これ? これはね……」
その「溜め」により嫌な予感しかしないシン。
「なんと! 今日一日『お約束』が起こりまくる機械よ!!」
じゃじゃーん。
…………。
沈黙が再び席巻した。
「お約束、って何?」
ようやく目が覚めてきたらしいカイルが聞いた。
「お約束はお約束よ。フラグが立った方のルートへ進むようになっているし、そのフラグ自体、お約束限定で立つようになってるわ」
「それはR1とL1ボタンでせめて二択できるのかな」
「お約束だからどっちも同じ選択肢しか出てこないわよ」
「? ? ?」
シンが訳のわからないことを言っているが、ハロルドには通じている模様。
どちらも同じであるならば、選択肢自体意味がないではないか。
ジューダスに分かったのはそれくらいだ。いずれしょうもない会話である。
「お約束……っていうと、例えば俺が今からダッシュで街を走り回ったら、トーストをくわえて『遅れる~!』とか言ってる女の子と街角でぶつかって出会いのフラグが立つとかか!?」
「あんたってやつは……#」
「お前、一体今までどんな本を読んできたんだ……?」
「お約束であるならばその後はフラれる結末が待っているだけでは」
ロニがひらめいたとばかりに勢いよく立ち上がるとコンボでつっこみをもらってしまう。
「なんで俺がフラれるのがお約束なんだよ!」
「ねぇハロルド。その機械すでに起動してるの?」
すでにお約束な感じの日常会話にシンはハロルドの方を見もしないで言う。別に聞いたつもりはない。なんとなく答えは分かっていたので。
「してないわよ」
していたらもっと何か惨状が起こっているのであろう。
わざわざ起こるお約束とは一体何なのか。
「じゃあじゃあ……! 私がカイルをデートに誘ったら、カイルは喜んでくれるのかしら」
「リアラ……そんな機械動かさなくても、オレ、リアラがデートに誘ってくれたら嬉しいよ!」
お約束が朝から続々と起こっている。
「そんな機械とは何よ。失礼ね」
ハロルドはそういいながら、テーブルの上においてあったそれを手元に引き寄せる。
その何気ない動作に、鋭い反応を見せるカイルとリアラ以外。
二人は二人の世界をまだ構築中だ。
「やめとけ! ろくなことが起こる予感がしねぇ!」
「ろくなことを起こすために作ったのでは」
「冷静に推察するな」
「ハロルド、それよりこっちのデザートまだ食べてないだろ? おいしいよ、ねっ」
全力でナナリーが話題を逸らそうとしているがハロルドはどこ吹く風だ。が、ふと、謎のスイッチを押そうとしていた手を止めた。
「確かに、問題を敢えてひとつあげるとすれば、私にも何が起こるのか分からないのよね~」
パルプ○テですか。
「だから街角で素敵な男性にぶつかって、素敵な出会いがあるのはナナリーかもしれないわよ」
「えっ///」
ナナリーは意外と乙女なワイルドレディです。
「ほかにもお約束と言えば、たまたま転んでしまったところに大丈夫ですか?とそっと差し出される白いレースのハンカチ……」
「それは日傘をしている上品でやさしいお嬢様な感じか!?」
「むしろロニが転んだら周りが驚くだけでしょうが」
「そのお約束が起こるとすれば、カイル以外考えられんな」
若干、ナナリーとロニが希望的観測方面に意識を向け始めてしまっている。
「ロニだって可能性あるんじゃない? バナナの皮とか置いてあれば。……その辺に置いてみようか?」
「ちょっと待て。お前はお約束に対して仕込みを使用とするんじゃない」
シンは新たな可能性を模索し始めてしまった模様。
「大体、こいつの発明なんて危険をはらんでいないことがあったか? 何が起こるか知らんが惨劇は目に見えてるぞ」
「ね」
分かっているのに止めないのは悟りの境地なのか。
「じゃあ総員、文句がないところで行ってみるわよー……えいっ☆」
「待て……!」
文句がないのではなく、文句を言う暇を与えずにハロルドは装置を起動させてしまった。
カイルの「何?何?」という以降は全然聞いてなかったらしい声が聞こえる。
今日はすばらしいハロルドの実験日和になりそうだ。
結局のところ、それが本日一番目の「お約束」だった。
2018.5.14筆(5.17UP)
タイトルに時間がついている当たり…シリーズ化必至。
