お約束の予感 AM8:00
しーん。
それは特に何の音も発しなければ特別目に見えた現象を起こしたわけでもなかった。
しかし。
「なんだ、特に何も起こって……って、ぎゃあぁぁ!?」
その絶叫は果たして誰だったのか。
「何これー!!」
阿鼻叫喚のごとく悲鳴を発した一同は、ついていたテーブルを囲むように立ち上がり、はたとする。
全員の時が止まった。食堂に朝食を取りに来ていた人々がこぞって注目してきたからである。
そんなわけで、割と長い沈黙の後に一同はまだ人通りの少ない宿の外に、そそくさと、かつ一目散に撤退することになった。
「ハロルド!!」
がっ!
涙目になって、その肩を掴んだのは、リアラだった。
「どうするつもりだい!? これのどこがお約束なんだい!!? あり得ないよ!」
……正しく言うならば、それはリアラの姿をしたナナリーだった。
「しんじらんねぇ…物理的法則とかどこいったんだよ」
先ほど一階で大声を上げたロニがの姿で呆れたように呟き、頭に手をやりながらため息をついた。
「人格の入れ替わりか。お約束と言うか、こんなことは普通ありえんが」
ジューダスはなぜかそのままだ。そして、装置を作ったハロルドも。
「私ってやっぱり天才なのね。すごいわ! ランダムに入れ替わったのは要検証だけどそこをクリアすれば任意の人間を入れ替えることもできるじゃない」
両手を組んで目を輝かせているハロルド。これは一体何の実験だったのだろうか。
「でもその装置、『お約束が起こる』ってだけで不特定要素満載だからもう一回起動しても入れ替わりが起こるわけじゃないんだよね」
妙に平坦なテンションでカイルが冷静な目でハロルドを見やっている。
「……?」
「うん? ……リアラはロニに入っちゃったのか」
「もうお嫁にいけないわ!!」
ロニの姿でわっと泣き出すリアラ。
内股でその場に崩れるのは勘弁して欲しい状況である。
「ハロルド! なんとかしてよ!」
カイルはナナリーに入っている。声はそのままなので、今のはあまり違和感がなかった。
「まぁまぁ。お約束ならそのうち元に戻るわよ」
「その内っていつ?」
「わからないけど。お約束だから」
「なんでもそれで済まそうとするな!」
ジューダスのつっこみはむなしく、ハロルドの弁は続いている。
「どうせなら楽しみなさいよ。そのカッコウだからこそ出来ることだってあるでしょ?」
「このカッコウでなかったら私、この身体をボコボコにしてやりたい気分だわ……」
「え、いやリアラ。なんでそうなるんだ?」
それくらいそこに入っているのが嫌だと言うことだろうか。
「確かにカイルの身体は身体能力が高いから、ちょっと動きやすいね。身長もそんなに変わらないし、違和感はさほどない」
「いや、あるだろ」
ジューダスはつっこみ要員として無事なのか……なるほど、お約束だ。
じっとカイル(の姿をした)にみつめられ、あまりの違和感にたじろぎそうになるジューダス。
「例えば、ロニはその姿でちょっとそれっぽい男装をして女性に声をかければひっかかる子もいるかもしれないわよ」
「何!? それはデート可ということか!……確かにいつもと違うアプローチも悪くねぇ!!」
「……」
「おい、ジューダス」
「……」
ふと、ジューダスの様子が気にかかってロニは振り向く。彼はじっと目を閉じている。
「なんだよ、なんで目をつぶるんだ? さては俺様のセクシーな中身との外見が融合することに恐れを抱いて……」
「うるさい。音声のみだとダメージが少なくて済むんだ」
確かにギャップとして酷いのは、リアラの入ったロニとロニの入ったであろう。
下手にみんなで走る事態にでもなったら、ロニが内股で腕を左右にブンブン振って走る乙女な姿が目に飛び込んでしまう。
…………見たくないような。見てしまったら笑いが止まらなくなるような。(でも中身リアラだから笑ってはいけない)
「でも、なら男装より化粧して女の人っぽいかっこした方が男の人ナンパできそうだよね!」
カイルの悪気のない一言。
「あのな……中身は俺だぞ? 男引っ掛けて何が楽しいってんだよ……」
「あら、でも男って馬鹿だから相手のツボをつけば欲しいものとかバンバン買ってくれるかもしれないわよ? あんた男なら男性心理の方がわかるんじゃないの?」
「なるほど……確かに、かわいくねだられるとつい買ってしまう心理……!」
「やめて。本気でやめて」
カイルの姿をしたがまだ男装の方がマシだとぼやいている。そういう問題か?
「よし! そうなれば、のお嬢様化計画発動だ!」
「やめいって言ってるだろうが!」
蒼刃斬!
自分の身体相手に容赦ない。
一応はずしたらしいが、目の前の木が真っ二つになって倒れてきたので勢いでコケて尻をついたまま真っ青になって見上げるロニ。
「ロニ……元に戻ったら私に殴られた後で謝るか、謝った後で殴られるか、選ぶがいい」
「どちらも結果は同じだな」
妙な威圧感を放つカイルに見下ろされ、ガタブルしているロニ。
「それ以上、私の身体で恥をさらすようならここで斬る」
「まて、お前の身体だろう!?」
「……リアラ、元の身体に戻ったら、その居心地の悪い身体にエンシェントノヴァ落としちゃおっか」
「そうねv」
かわいらしい笑顔で小首をかしげて、肩をすくめ、手を前で組んで女の子なポージングのパーティ最年長(男)。
ジューダスはそれを視界に入れないことにした。
「結構面白いわねぇ。ナナリーやカイルはその身体で何が出来るかしら」
「余計なことは考えなくていいよ」
「というか、本当に(主に見た目とロニが)見苦しいからなんとかしろ」
「そうかしら。リアラ、あんたがカイルラブなのはわかってるけど今のカイルを見て何か思うところはないの?」
「えっ」
そういわれて改めてリアラはロニの視界からカイル(の姿をした)を見る。
も思わずリアラを見た。
いつものカイルより何かキラキラした演出がその周囲にかかったらしい。
「……!///」
「?」
「英雄としてはこっちの方が完成度が高いわよ」
晶術と技を重視とした剣術使い。の機転の利いた立ち回りとカイルの持つ力の融合だ。
加えてまとう雰囲気は、怜悧さと冷静さ。
なるほど。納得してはいけない納得をジューダスもしてしまう。
にまりとハロルド。
「いやいやいや、ロニの姿できゅんってされてもね!? ほら、リアラ。カイルは馬鹿かわいいところも魅力なんでしょう?」
「までオレのこと馬鹿って言ったー!」
「馬鹿かわいいは褒め言葉なんじゃないのかい?」
ナナリーがフォローしてくれているが、リアラの目が一瞬にして乙女から狩人に変わったのをは見た。
怖い。
「いい加減にしろ。その装置は知らんが戻すことくらいは可能なのだろう? ハロルドなんとかしろ」
「あんたね……なんであんたがその姿のままなのか、疑問には思わないの?」
「「「?」」」
総員ここで首を捻る。
そういえば、ジューダスだけなぜ入れ替わらないのだろう。
お約束であるとすれば残ったハロルドもろとも誰かと入れ替わっていてもいい気がするが。
「それはね……こういう事態を収拾するのがあんたの役目……つまりそれが『お約束』なのよ!!」
「ふざけるな#」
ジューダスの反応をよそに「おぉっ」と妙に納得してしまった一同。
期待の視線がジューダスに集まる。
「大体この状況で収拾できるわけないだろうが。理屈も現象もまったく意味不明だぞ!」
「そうだよねー。それにこういう時は大体ジューダス自身が収拾させるんじゃないよね」
がヒントになることをぽつ、と呟いた。
即座にジューダスはその意味を理解する。
「あぁ、そうだ。ハロルド」
「なによ」
天才様は張り合うようにジューダスの前で腕を腰に当てて出来る限り胸をそらしてみせている。
「僕の役割は
お前に責任を持って事態を収拾させる
お目付け役がお約束だ」
「く……そう来るわけね」
そんなわけで……天才様はジューダス監修の元、謎の人格入れ替わり現象を解明・解決することになる。
事なきを得たのは、それから1時間後。
2018.5.14筆(6.10UP)
入れ替わりネタは「お約束」。騒乱の予感のTOD2バージョンになりそうかなと思いつつ、次のお約束ネタ大募集。
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