お約束の時間 AM8:30
「押すな、もうそれはロクなことにしかならないことが分かった!」
「「最初からロクなことにしかならないことはわかっている」」
「お約束がどんなもんなのかもちょっと興味出てきたわ」
第一のお約束、人格の入れ替わりが収束して喉元過ぎればなハロルド。
容赦なくまたポチっとボタンを押した。
容赦ないというか、全然聞いていない、というほうが正解だろう。
「……」
何が起こるのかと一瞬、全員が沈黙に陥る。
叫んでいたロニに異変が起こったことを察するにはしばし、時間がかかった。
「今度は何が起こったの?」
「なんだろう、あたしには何にも」
「オレも変わらないよ?」
ジューダス、
も同意だ。
そして全員がロニを見て……
「……」
黙り続けているロニにお鉢が回ってきたことを察したというわけだ。
「ロニ?」
「あ、えーと……」
歯切れ悪くロニが口を開く。
「ここ、どこですか?」
「えーーーーーー!!!?」
「ひょっとして!」
口ぐちに可能性を言う面々。
「「記憶喪失!!?」」
「アルツハイマー?」
「健忘症?」
「頭悪い」
「ちょっと待て」
最後のはただの悪口だろ。と口調だけは今のでなぜか戻った。
「お約束というか、事件だよね」
「事件が起きるのがお約束の装置だろ」
ジューダスと
は自分に被害がなかったことで、必要以上に冷静だ。
カイルたち3人はロニを囲んで、必死に記憶喪失を確認している。
「ロニがホントにオレのことわからないよ~」
「えっと……君は誰なんだい?」
「ん~なんだか口調が不安定ねぇ。改造する?」
「あ、あんたは近づかないでくれ!!!」
ハロルドの記憶は、吹き飛んだその奥に直感的な危険物として刻まれているらしい。
「ハロルド、こいつの記憶、いつ戻るんだい?」
「お約束ならほっとけばその内治るでしょ」
「なんだい……? そのアバウトな解決方法は……」
確か30分くらい前にもそれ聞いたよね。
しかしこれでカイルとリアラのお子様二人組は、そっかーと納得してしまったので騒ぐ人間がいなくなってしまった。
自分に被害がないと、ブレる要素があまりない。
「ロニ、周りのことはともかく自分の名前も本当にわからないの?」
静かになったところで、改めて
が訊いた。
「僕の名前……それがロニ」
「気持ち悪い!」
「一人称が僕なのか? ……やめろ」
「なんだい君は! なぜ剣に手をかけているんだい!?」
ジューダス、若干じんましんが出てるみたいだけど大丈夫だろうか。
「違うわよ、あんたの名前は茂吉・ダイニング・シャイニング・フライングフラれ英雄(ひでお)」
「あからさまにウソ言うな!!」
「そうそう、他人行儀なしゃべり方よりそのほうがいいよ。それにロニは俺っていうほうがあってる」
「とりあえず、君が僕の味方であることはわかった」
すちゃ、とロニが
の前に片膝をついてその片手を取った。どこから出したのか口にバラの造花をくわえている。
「じゃあ改めて記憶の確認からしようか」
事件が起きて、だいぶ時間がたってからのスタートだ。
「そうだな、何をどこまで覚えているのかを聞く方が早そうだ。おい、茂吉」
「誰が茂吉だぁ!!」
この反応はロニに他ならない。
「茂吉、とりあえず
の手をあと3秒以内に放さないと、撃つよ?」
キリキリキリ。
弓を至近距離で構えているナナリー。
「お、俺の名前は茂吉なのか? 多数決で行くと茂吉な感じがしてきた」
本気で記憶がないので、本気で悩みはじめて頭を両手で抱えているロニ。
「ロニはロニだよ! 茂吉じゃないよ!!」
「えっと、お前は……カイル、だったよな。信じて……いいのか?」
「茂吉さん、あなたの名前は茂吉。ロニっていうのはハロルドが最後に付け忘れたラストネームの「カロニバフラレ・フラレマン」の略」
「「「「「…………」」」」」」
リアラぁぁぁー!
「茂吉さん、小腸の絨毛の数は?」
「うおー! 5対1になった! 俺は茂吉なのか! それともロニと名乗っていいのか!?」
「悩むべきはそこなのか?」
話は一向に進まない。
「カイル! 俺はロニなのか!? ロニでいいのか!!」
ある意味、ロニでしかない。
「茂吉さんよねv カイル」
「え? あ。う、うん。ごめん。茂吉さん! ロニは茂吉さんだったね!」
「どういう意味!? それどういう意味なんだ!?」
とりあえず、全員が茂吉認定をしたので問題はなさそうだ。
「ちょっとーせっかく
がゼロ地点からスタートしてくれたのに、全然話が進んでないじゃない。答えなさいよ、茂吉!」
「えっ? あぁすまん。なんだっけ」
「小腸の絨毛の数」
「……それって普通、みんな知ってることか?」
直感は働いている模様。
「知ってるわよー。私は即答できるわ」
まぁハロルドなら円周率も一日中つぶやいていられるだろう。
「小腸の絨毛……小腸の絨毛……」
「リアラ、ショウチョウのじゅうもうって何かな」
「きっと知らなくても生きていけることよv」
カイルとリアラが傍観に回っている。ナナリーは現時点でちょっとあきらめ気味だ。
あの装置が原因であるならば、何をどうしたところで、戻りそうもないことが今更分かってきた。
「駄目だ、わからん! 他の質問をくれ!」
「茂吉さんがいままでつきあってきた女性の数は?」
「100人ジャストだ! 前の彼女はナイスバディ―だけどおしとやかなマリナ。その前は、猫耳のオプションが似合うカトリオーナだ!」
光の速さで即答。
「記憶を都合よく改ざんしてるんじゃないよ!!!」
「つまり、100人フラれたという解釈でよろしいですか」
「ぐはっ」
さすが言葉遊びが好きなだけある。
はすかさずその真意を引きずり出す。
ナナリーの物理的な制裁が加えられるより先にロニは倒れた。
「馬鹿だな」
「知ってたけどね」
ジューダスとナナリーの呆れた視線の先では、
とハロルドがしょうもない質問を繰り出してロニを翻弄している。
飽きたら解放されるだろうが……
「この中に茂吉さんの彼女がいます。さて、誰でしょう」
飽きたらしい。
ジューダスには展開が見える。
「なっ! ……俺はまさかの彼女もち!? ってか……」
「自分でまさかと認めたな」
「気づいてないよ、あのバカは」
女性は4人。
ロニは女性陣を見渡す。
カイルとリアラのラブラブぶりは見ればわかる。リアラは年齢的に圏外であるし、除外。
ハロルド。童顔。あゃしぃ。除外。
消去法で二択。
「ち、ちょっと……なんでこっち見てるのさ」
じーーーーーー。
ナナリーの服装。
ツインテールに、胸チラ、ショートパンツ、フィットするロングブーツ。
「どこ見てんだい!!」
「いるよねー。何か、人の身体見る男」
ラインを見られる服装をしていない
をよそにロニは
「こいつはないな」
失言を繰り出した。
「あんたの記憶なんて、戻らなくても問題ないわー!」
決まるサブミッション。
響き渡るロニの悲鳴。
「これは戻るな」
「そうだね、お約束だもんね」
ロニの記憶が戻ったかどうかは、また後日談。
2020.2.23筆(20200304)
茂吉は、リアルタイムで見てたアニメに出てきた名前。
