ままごと
町を出ようとしたその時だった。
「お~ままごとか、懐かしいな」
カイルたちは小さな子どもたちが草原にシートを敷いて座ってなにやら賑やかな声を交わしているのを聞いた。
「お…ままごと?」
幼児の遊びであるままごとを知らないリアラが、微妙な復唱をしている。そういわれると、ロニの発した最初の「お」は一体、何なのか と無駄な疑問を生じている
。
「小さい子が大人の真似をしてする家族ごっこみたいなもの……だよね?」
「「なぜ疑問系」」
そんなことを一方で思いつつ、答えてみるとなぜか複数方向から疑問が投げかけられる。
「そんな詳しくは知らない」
「えー!」
「マジか!」
「何、その『女子ならやってて当然だろう』みたいな目」
確かに女の子の方が好き好んで母親役をやっている印象は強いのは否めないが、それを自分に求めてどうするのだろう。
はフラット な声音で返す。
そもそも、そういうものなのかすら良く考えればわからないのだが。
「そうなの?」
「まぁ、大人の真似事だからね。ませた女の子が楽しむことの方が多いかもねぇ」
苦笑しながらナナリー。
当然そんなこととは無縁であっただろうジューダスは、下らんとばかりにため息をついて会話には参加していない。
「チビども相手によくやらされたな」
「へぇ~あんたがかい? 何役なんだい?」
「決まってんだろ! 『お父さん』だ!」
「お父さん」は「お母さん」の次に最高権力者であることも多い。
そんなわけで、場合によっては赤ちゃんという配役もあったのではないかと、ままごとの本質を思う。
「みんなでままごとやるとしたら、お母さん役はナナリーかな!」
「か、カイル! あたしはお母さんなんて……!!」
ロニが旦那設定となることを意識してか、おかんは他にいないだろうと言う適任を否定しているナナリー。
特に他意もなく楽しそうに「言ってみただけ」というカイルはその反応に「?」と首を捻っている。
「カイルは……ジューダスもいるし、弟とかなのかしら?」
まぁ実際肉親で言ったら元も子もない設定があるが、黙殺することにする。
「長兄がジューダスなの? 基本的に家族設定だから私も兄弟の一員になるのかな」
おかしな設定が出来てきた。
「どんだけ兄弟多いんだよ。家族じゃなくてもありなんじゃねーか? 新聞の配達員とかよ」
「それはお前がかつて与えられた役割だろう」
「そ、そんなわけねーだろ!」
ずばりだったらしい。どうでもいいところを幼児にあてがわれるデュナミス孤児院の長兄。
「リアラはじゃあカイルの恋人役にでもなれば」
「えっ……///」
といいつつもものすごく嬉しそうなリアラ。
行く末は姑いびりも始まりそうである。
「くだらん」
ジューダス、今それをここで言っていいものか。
そういう意味ではなかったのだろうが、リアラが微笑みながらものすごい眼光をジューダスに向けて放ち始めている。
一瞬にして失言に気づいたものの、覆水盆に帰らず。
「ちなみに、ままごとって具体的には何をどうするものなんだっけ?」
全員が巻き込まれる前に、空気を読んだ
が絶妙のタイミングで割り込む。
リアラの興味が、ままごとに戻った。
ジューダスの無言の胸をなでおろした感さえ伝わってくるようだ。
カイルが答え、ナナリーが続いた。
「大体が食事とかだよね」
「そ。食材じゃないいろんな材料を使って、それらしく作るのさ」
「食材じゃないいろんな材料……?」
ままごとを当然知っている人間には出ない疑問が出てきた。
「本物の包丁だと危ないだろ? だから材料も葉っぱとかきのことかな……」
「きのこは普通に食材になりそうだが」
「そういう発想ではいあーん!なんてやられてみろ。危険だから絶対するな……!!」
されたな。これは。
「僕がするわけないだろう!!」
「ロニにあーんをさせるジューダス……気持ち悪い」
「そこで想像するな#」
リアラは沈黙している。
兄弟の恋人役ではなく、母親役がやりたくなったのだろう。わかりやすい。
「しかし、フェイク料理と言われるとナナリーは普通に料理できるし、むしろ母親役は私がやった方が新鮮なのではと思えてきた」
「お前、それで一体何を出すつもりなんだ…」
ジューダスが低くつっこんでみるが、変わった配役変更にカイルが目を輝かせた。
「すごい意外性があるね。そうすると父親役はジューダスかい?」
と来るナナリー。
「なぜ僕が父役なんだ…!」
他意はないのにつっこみっぱなしのジューダス。先ほどまでの不参加ぶりとはうって変わっている。
「ジューダスって黙って教えてくれるから父親役でもオレは合うと思うな!」
「男は黙って背中で教える……確かにお父さんに向いてるし、かっこいい」
『
、そこはお父さんじゃなくて男性としてかっこいいって言って欲しかったな』
「「……」」
いきなりシャルが予告なしに割り込んできたので、黙りこくるジューダス。
も一瞬沈黙に陥ってしまった。
「なんだよ、お父さんは俺の方がいいだろ! 肩車だってしてやれるぞ!!」
「どういう意味だ#」
「ジューダス、他意はないと思う。それしかとりえがないからそれを言ってしまったと思ったほうがいい」
「それフォローじゃないだろ!」
だがしかし、きっとそちらが事実であろう。
「確かにロニは子どもに好かれるし、でもだからお兄さんでいいじゃない」
「うん、お父さんはジューダスの方がいいよね! で、ナナリーはお姉さん!」
「カイルのポジションはかわらないのねv」
配役換えの意味があったのだろうか。
「しかし、ままごとと言うことは、自分で母役に手を挙げてなんだけど、アレをいわなければならないのかな?」
「「アレ?」」
「ごはんにする? お風呂にする? それとも私?」
「おま…それは違うネタが混じってんだろ!」
「そう」
今時の幼児なら言いそうな気もしたのだが。
同様、何が正解なのか分からないジューダスの沈黙は続いている。
「じゃあ母は研究職で家をあけがち。お父さんはどうする?」
「僕も遠征に出るので、家にはいない」
「どういう設定なんだよ」
ジューダスの反応は普通に、リオン時代の仕事が口をついて出ただけであろうがそんなことはまだ知らないロニが真顔でつっこんでいる。
「えー。お父さんとお母さんいないの?」
「昔から両親が家を空けがちなので、長男と長女は家事に長けている。面倒見のよい兄姉の下、弟と妹、もしくはその恋人候補は子犬のよ うにじゃれあう日々」
「ある意味、間違っていないが、激しく間違っている」
「ちょっと変わってるけど、幸せそうな家庭だし辻褄はあっている」
「ままごとではちょっと変わっているどころではなく、相当変わっているからな?」
辻褄はあっていても、主役の両親不在と言うとんでもない設定だとロニは眉を寄せている。
主役になるのも嫌だからそれでいいやと
は思う。
「ねぇ」
ナナリーがふと、現実に戻ったように遠い目になった。
「それって、ままごとをしていない今と、何か違いがあるのかい……?」
「「「……!」」」
そう言われるとあまり、ない。
「そうか……私たちはままごとぶりの見事なパワーバランスで旅をしているんだ」
「なんだ、ままごとぶりとは」
「結局いつもと変わらないねー」
はは、と笑いながらカイルが歩き出した。
今日も、いい天気で旅日和だった。
FIN
20180817筆(9.6UP)
唐突に寝る前に思いついて忘れる前にノートに殴り書いた珍しい一作。
