ヒロインの定義
「いよいよ俺たちの旅は終盤……なのか?」
ロニのシリアスなつぶやきが、夕闇に溶けて消える。
夕日に向かうその横顔に、全員の視線が集まった。
「それ、どういう意味?」
の口調はフラットだが、純粋な疑問故である。
なぜ疑問形?
一応、エルレインとの決戦が近いので終盤と言えば終盤なのだろうが……
それは、誰もが察してはいる。
「俺達には、足りないものがある。戦いに向かう前に、それがどこかで待っている気がするんだ……」
「そういえば不吉の証がまだ集まりきってないよね」
「そういう不吉なものではなく!」
なんとなく、空気が軟化している。
ジューダスはそれをいち早く察して、真面目に取り合うのは無駄だと見切りをつけたらしい。ため息をついた。
「足りないもの……なんだい? それ」
察せない組は真面目に相手をしてしまった。
「それは……ヒロインだ!」
「どーーーーいう意味かしら、ロニ?」
にっこり。
そんなことを言ったら己がどんな目に合うか、わかっているのになぜ言ってしまうのか。
哀しいサガだろう。
「違う!違う! そういう意味じゃない!」
「そういう意味以外、何があるっていうんだい?」
指をバキボキならしながら、万全の排除体勢でナナリー。ひきつったような笑顔は張り付いている。
「というか、こんな終盤で出てくるヒロインとかいないのでは」
正論だ。
「じゃああれだ。隠しキャラだな! この世界のどこかにいるはずだ……俺たちの最後の仲間が!」
「仲間!?」
増えるの!?とばかりに嬉しそうなカイル。
友達が増えるのと同じような感覚だろうか。
「何を根拠にそんなことを言いだしているんだ……」
呆れたジューダスのつぶやきも聞き逃さない。
「それはな……」
名探偵が物語終盤で出すような語り口でロニ。
「明らかに俺達には足りていない要素があるからだ!」
「足りない要素…!?」
ざわり。
ヒロインと言ったからにはヒロイン要素を求めてきそうなものだが、そんな話題はすでに大分向こうに流れてしまったので、あらためて反応を示しているいい人たち。
「それが『ヒロイン』……いわば、お約束、だ」
敢えて言い換えることで、リアラの追撃はかわした。
「お約束が足りないって、いったいどういう…」
「もう相手にするな。どうせろくでもないんだ」
ハロルドははなから会話に参加もせずにそこら辺で昆虫採集をしている。
「十分お約束だと思うんだけど、足りないお約束と言われると気になるじゃないか」
「そこだけ満たされればいいのかお前は」
話を進めようとしたがこくりとうなずくので、放っておくことにするジューダス。
止める者がいなくなりロニは続ける。
「このパーティの女をまず見ろ」
「結局そこなのかい!」
想定内だ。
「リアラのことは……置いておく。カイルの聖女。それだけで十分ヒロインだ」
カイルの、と言われた時点で少し、リアラが盲目になった。
お目こぼしの隙間をぬって主張するロニ。
「足りない要素を満たす女キャラ。そもそもヒロインには三大条件があると言っていい」
「……」
ナナリーまで真剣に聞き入ってしまった。ナナリーもお年頃の女性には違いない。
ロニの演説は続く。
「まずは顔、そしてスタイル! さいごに性格だ!!」
「つまりロニ好みのスタイルの女性がこの中にはいな……」
いち早くの出した結論は、力技で封じられた。
ロニの手は大きいので、下手をしたら手のひらだけでを窒息させるくらいの芸当はできよう。
文字通り口を封じられたは光の速さで抵抗をあきらめて黙る。変な絵面だ。
「まず顔。これはかわいい、美人に越したことはない」
ロニは普通に立っているだけのの口に手を当てたまま説明を始めた。
「リアラはもちろん合格だ」
付け足すことでまた危険を回避する。ナナリーについては失言しなよいようにか敢えて触れない。
今日はかわしがうまい。
「でもな、笑顔を浮かべ相手をボッコボコにするようじゃ駄目なんだよ」
「それは誰のことかしら?」
にこにこ。
「例えばの話だって。リアラはそんなこと、しないよな?」
だらだら汗を垂らしているのは、止められない生命としての危機活動だから仕方ないのだろう。
なんとか杖を握るところでとどめているので、続ける。
なぜそこまでして続けたいのだろうか。
結論はすでに見えているというのに。
「要は表情だ」
力説。
「笑うべき時に笑い
怒るときに怒り
背景に花を飛ばして
瞬時に目をウルウルさせ
泣くべき時にしっかり泣かなければヒロインとは言えない」
「すごいね、リアラしっかり全部当てはまってる……!」
最初の三大条件はどうした。
うっかり口に出しそうになるのを黙殺するジューダス。
それを口にしたなら、三大条件ってなんだんだったかしらと、にっこり笑顔を浮かべて相手をボッコボコにする兆候を漂わせながらリアラが花を飛ばすだろう。
沈黙に徹したほうがよさそうだ。
「リアラはヒロインとして完璧だね。誰もリアラのヒロインの座を奪おうとしたりしないから問題ない」
「どの口が言ってるんだ?」
己の立場を理解しているのか理解していないのか。
閉ざしたばかりの口をジューダスがつい開くまで割と時間はかからなかった。
「だって、私全部当てはまらないし」
(確認事項)
笑うべき時に笑い
怒るときに怒り
背景に花を飛ばして
瞬時に目をウルウルさせ
泣くべき時にしっかり泣かなければヒロインとは言えない
「「「「本当だ……!!」」」」
全員が認めてしまった。
「目がウルウルってどうすればできるのかすら、よくわからない」
「だから教えてあげるわ。あれはね……」
「そこ。ちょっと待て」
演出の極意を伝えようとしている本家ヒロインをとりあえず、止めて話を戻す。
「たまねぎは水にさらしてから切るから、うるうるはしない」
「そんなこと誰も言ってねーだろ」
「わかったわ! 私が留守の間、をヒロイン代行にするためにこれからヒロインの極意を教えるから!」
「何の話? リアラ、留守ってどこに行くの!?」
別にどこにも行かないのだが、意味深で無意味な発言だ。
「あ、そうだ。私、人に思ってもいないお世辞言おうとすると拒絶反応出るのか、涙がにじむ」
「すごい拒絶ぶりだな」
「嫌なものは嫌なんだよ。体は嘘をつけないんだ」
使うべきところが微妙だが、よくわかった。
「そして次。性格だ。性格とはつまり……キャラ付けのことを言う!」
スタイルの話が重要だからだろう。飛ばして3つ目の条件をご高説はじめるロニ。
「これはまぁ、個性的であるか王道か。平々凡々じゃなきゃ概ねクリアできる。そういう意味で、全員ここにいる女はクリアだ!」
「どういう意味だい……?」
ナナリーがそろそろ限界そうだが。
「私、ヤンデレは嫌だなぁ……殺されそうだし、ストーカーとか気持ち悪い」
「自己満足の域すら超える人種だからな」
「そんな犯罪者はこのパーティにはいらねーよ」
みんな違ってみんないい。
分別はできそうだが、害悪的ではない個性のあるのパーティなので、適当に流しても問題はないのだろう。
「そして、スタイル! ヒロインはリアラと固定しておいて、それでも見ろ。足りないものがあるだろう!」
固定されたことで、己の地位が脅かされるものではないという前提が緩衝になって、リアラも会話に耳を傾けている。
どうせいきつく先は同じだろうが。
それより予防壁が頻発しすぎて、不自然な方が気になる。
「言いたいことはわかったよ……あたしらの体形が気に入らないって言うんだろ!?」
「誰も気に入らないなんていってねーよ!」
ナナリーをフォローしてこなかったことで遂に、テコ入れが入ったがロニの真剣かつ素早い反論にナナリーは、心なし頬を赤くして握った拳からも力が抜けたようだ。
「適度に締まった身体、へそ出し、ロングブーツ。悪くない」
「な、なに言ってんだい……」
うろたえる。
「リアラもそのピンクでふわふわ~な感じが、女子としてイケている!」
「もう、ロニったら」
珍しく、この辺りは下出に出ることもなく収まっている。
一般論を述べているのであろう。
「まぁ、童顔でも化粧やらぬいぐるみやら服装やら、ハロルドだって趣味がもろに女子だったりするところもあるしな!」
そのハロルドは「虫ちゃ~ん!」とかいいながら昆虫採集に夢中である。採集先はカゴではなく左手に持った試験管である。
「全然肌を見せない奴もいるが、へそ出し腕だし、ライン出しが多いこのメンバーの中では……有りだ!」
「自分で言うのもなんだけど、無理に全員ほめなくていいんだよ、ロニ」
「バランス取れてるじゃん!」
カイルが、女性全員の長所を(無理やり)並べたところで嬉しそうに言う。
「だがな、まだ足りないものがあるだろう」
言ってはいけない分野にたどり着くまでに、相当時間がかかったのはどういうことなのか。
そこまでして言う必要があるのだろうか。
ジューダスとはすでに言わんとしていることを察して久しい。
「そこまで言って足りないものって……」
わかってないリアラやナナリーが割と真剣に相手をしてしまっている。
そこまで言って、踏み込みたい領域だったのだろうか。
「それは……お色気だ!!」
「なんで普通にグラマーさだって、言わないの? 要するに胸足りないって言いたいんでしょ」
「……なんだって……?」
絶妙のタイミングで今度こそが結論を述べたので、キュピーンとそれまでだましだましされていたリアラとナナリーがまとう空気を換えた。
「! なんてこと言うんだ! お色気とグラマーさは違うだろう!」
「みなまで言わないけどボンキュッボンが足りません。このパーティにはロニ好みのボンなお姉さんがいないのです」
「いいから! 俺の本音を読まなくてもいいから! お前さてはエスパーだな!?」
「エスパーって古くない?」
口をふさぎそこなったことで、ロニのお膳立ては水泡に帰した。
みなまで言わなかったのは、みなまで言ったら自身の身が危うかったからだろう。
ぺったん
ぺったん
そこそこ
なくはないけど、あるかと言われると疑問。
の本音はジューダスにも伝わらない。
言わぬが花であろう。
「あんた……結局、胸のある女が見たいだけかい!」
「ぺったんって言ったわね? ロニ、そんなこと言ってどうなるかわかってるわよね?」
うふふ、とリアラが花を飛ばしながら杖を握り、ナナリーは指をバキバキと鳴らした。
「俺ぺったんなんて言ってねーよ? 誰かの感想を混線して読んでないか? 確かに否定はできないけども……」
エンシェント・ノヴァv
「……リアラはよくあの術使うけど、ターゲットがピンポイントだから助かるよね」
「まぁな」
その分、強力な感じもするわけだが。
思う通り、いつも通りの最後だった。
20200315筆(3.26UP)
ぺったんぺったんそこそこ以下略、は誰が何なのかご想像にお任せします。
「でもそれを言ったら、女4人、男3人…比率的には男性である可能性が高いよね」
は没セリフ。
