師匠
それは、珍しく全員の共通事項に思えた。
「ジューダスの剣って誰に教わったの? ジューダスに教えるくらいだから、きっとすごい人だったんだろうね!」
始まりはカイルのそんな無邪気な質問から。
「……」
ちょっと間がある。
この辺りは複雑そうだ。
すでに彼がリオン・マグナスであることはみんな知っていたが、故にちょっと考えれば指南役が騎士とか将軍とか、もう存在しないだろう城がらみの18年前の人間だったこともうかがえるわけで。
彼に出会い以前の過去の話は聞くべきではないという暗黙の了解をつい破ってしまったカイルである。
すぐに気づいた。
「あっ、ごめん! えと、深い意味はなくて……」
「一応指南役はいたが、自主練の時間の方が長かった気がするな」
先ほどの間は普通に考えていただけか、何事もないように答えた。
これでほっとするのを通り越して、カイルがぱっと嬉しそうな顔をする。
ジューダスにしてみれば正体が判明するまでは過去への詮索は忌避するものであったが、この程度であれば今はあまり意味がないようだ。
それでも深追いするとどうしても「リオン」の事情に行きついてしまうので、答えてくれたことが嬉しかったらしいカイルもそれが誰だとかまでは追求しなかった。
もっともカイルにとってもそこは初めからどうでもいいことなのかもしれない。
「自主練か~俺たちと一緒だな」
「そうだね、あたしも特に師匠、みたいな人がいたことないよ」
リアラもハロルドもそうだろう。
リアラは生まれついての聖女であるし、ハロルドに至っては世紀の天才だ。
「基本は当然、指南されているが結局実戦が一番の訓練と言えば訓練だな」
実戦を訓練と言い切るジューダス。
この辺りがレベル格差を感じさせる発言でもある。
「そうだね! オレも旅に出てからすごく強くなった気がする!」
「お前はそういうところがまだまだなんだ。それこそ気をつけろ」
そういわれてうっ、となるカイル。
敢えて言うならジューダスが彼の師というか先導者ではあるだろう。
「は? その剣とか、勉強の先生とかいたの?」
質問が回ってきた。
「こいつはほとんど自主学習派だろう」
数々の経歴を知っているジューダスが呆れたようにため息をついている。
は素直に答えた。
「そんなことない。剣はジューダスが教えてくれたし」
「さも僕から親切をしたような言い方はやめろ」
この発言で、何やら一件あったんだなと分かったロニやナナリーは軽い苦笑を浮かべている。
「まだ最後まで言ってないのに……」
「なに? その知識についてはだれか師匠がいたの?」
珍しくハロルドが人のことに関心を示してきた。
意外なことなのだろう、それでなぜかジューダスも含めた全員の視線が集まった。
一番意外そうな顔をしているのがジューダスなのが気になるが。
「師匠というか……しいて言えばグーグル先生にはお世話になりました」
「グーグル先生?」
あらぬ方向を向いては良く晴れた青い空を眺めた。
「へぇ、先生とかいたんだ。すごい意外」
「自分で考える方が好きだものね」
「ていうか教わっている姿が思い浮かばないんだが」
口々に感想が飛んできている。まぁそうだろう。
「どんな先生だったの!!?」
「……」
カイルが目をキラキラさせながらわくわくと聞いてきた。
これは答えないといけないフラグだ。
はちょっと考えてこう言った。
「グーグル先生は、基本的に聞きたいことに答えてくれるんだけど、10分の7くらいの確率でウソ情報が混じっている」
「ちょ、どんな師匠だよ!」
師匠じゃないよ。
「あと、聞き方を間違えると10分の7どころか正答の確率が更に下がって、知りたいことに行きつかないこともザラ。……というか不思議とウソ情報にすら行きつかない人も多い」
「何してくれてるんだい……? そのグーグル先生って……」
「問答の時点から、指南が始まってるってことか!」
まぁそうかもしれない。
グーグル先生を使いこなすには、正しい検索のスキルと言葉の選択力が必要だ。
面倒なので、そのまま説明することにする。
「グーグル先生は計算力にも優れていたんだけどね、ある人がセインガルドからアクアヴェイルまでのルートを聞いたんだ。そしたら『東の大洋を泳いで渡る』という回答で……」
「普通に船で行けよ!!」
全くだ。
正しく言うと、シカゴからロンドンまで経路検索をかけると「大西洋を泳いで渡る」。所要時間は22日と22時間だった気がする。
すでに改修されていることだろう。
「聞き方が悪かったのかい……?」
「どうだろう。他の人はセインガルドからノイシュタットまで聞いてみたら『途中でカヤックに乗り換える』と言われたらしいし……」
「お前それ、結局自分で調べろってことだろう……」
確かにそれが人間の所業であれば、そういう解釈ができるだろう。それくらい聞くな、的な意味で。
しかし、彼らは自分で調べてみた結果、そんな回答が返ってきたわけで。
「そうかもね」
面倒なので、流す。
「ほかには? 他には何か面白いエピソードはないの?」
さすが変人というべきか、グーグル先生に変人の気配を感じたのかハロルドがすごく関心を示してきた。
「……特にないけど、そんな感じだから先生の回答を鵜呑みにする人は、ある意味情報弱者になるという矛盾」
「オオカミ少年に育てられそうだな」
ロニが乾いた笑いで言っている。たしかに、ネットで一度見たものを我が目で見たような話し方をする人は、大体ホラ吹きのゴーシュみたいな感じになる。
「それで、はその先生からきちんと答えを……もらっていたみたいだね」
「いや、もらうんじゃなくてこっちから真偽のほどを判定しなければならず」
「審美眼の研鑽でも狙っていたのか? そいつは」
いえ、ただ情報集まりすぎて素人転載ゴミ情報だらけになりつつあった世界の検索システムです。
強いて言うならグーグル先生が悪いのではなく、真偽も確かめずすぐに情報を転載する輩がわるいというべきか。
ゴミはゴミ箱へお願いします。
「何が正しいのか自分で判断しなきゃならないのは、誰かから教わろうが教わるまいが、変わらない事実だよ」
「確かになぁ……」
「でもそんなに間違った答えも混ぜてくる先生じゃ……大変だったでしょ?」
「そういうものだと思っているので、5回くらい別の聞き方して、情報の整合性を確認してから信憑性があるか判断するのが私のやり方」
……。
なぜか全員が黙りこんだ。
「え、何……?」
「いや、お前の性格って……」
「その先生とやらのせいでそうなったんじゃないのか?」
違います。
珍しく。
自らの発言で、面倒なことになってしまった「師匠」の話。
情報は、いつの時代も玉石混合。
正しい答えに行きつくさまは、
まるで人生そのものだ(遠い目)
20200514筆(5.16UP)**
アイデアは思いついたらすぐに書かないと腐る。
この話は腐るほど寝かせませんでしたが、若干脳内のセリフ回しと違いました。
もっとキレッキレでテンポがよい話だったはずが、
珍しくがやられて終わった(笑)
でもたまには、こんな日もあっていいかもですね。
とりあえず、Google先生は擬人化するとこうなる。(ググれksネタ入れ忘れた)
