トクベツな日
発端はジューダスの年齢について謎発言を繰り出したロニだった。
時は改変された現代。
ジューダスはいつものごとく取り付く島も無くあしらったが、それならとカイルがリアラへ話をふったことから不穏な空気は免れた。
聖女であることは既にカイルたちも知っている。が、リアラは16歳、と答えた。
まぁ外見としては小柄ながら妥当なところだ。
それから自然と誕生日の話になった。
「リアラの生まれた日って?」
「え?わ、私は…」
失言だった。
生まれた日はあるのだろうが、それが誕生日と言えるものかは謎だし、時を行き来する聖女にとって…あるいは永遠の命を持つ者にとってそれほど無意味なものは無い。
だから、彼女は持ってない。
それに気付いてカイルも顔色を沈めた。
リアラも答えと言ったらそれしか知らなかった。
「誕生日なんて…ないわ」
「じゃあ作れば」
あっさりリアラの寂しげな雰囲気をひっくり返したのは
の発言。
「「はぁ!?」」
「私たちだって時間を行き来してる時点で厳密な年齢なんて誕生日じゃ計れなくなってるわけだし。
カイルが言っているのは記念日って言う意味でしょ。
だったら、作ればいいじゃない。リアラ、今日がリアラの誕生日!…どうよ」
どうよと言われても。
冷や汗ムードの中心には笑顔のようなものを貼り付けたまま呆気にとられたリアラの姿がある。
呆れたジューダスの溜息。
それに追い討ちをかけたのがカイルの笑顔だった。
「いいね。それ!今日が誕生日か。じゃあ皆でお祝いしなくっちゃ!!」
「いきなり飛躍したな」
「誕生日が決まったお祝い。いいんじゃない、それで?それともリアラ、嫌?」
「ううん、そんな…そんなこと…嬉しい」
ようやく言わんとしていることを理解したのかリアラが本当に嬉しそうな顔をする。
誕生日も祝福もされたことがなかったリアラ。
「あっ、じゃあさ。あたしが美味しいもの作ってあげるよ。腕によりをかけてね!」
ナナリーが一口乗ったとばかりに手を挙げた。
そして、なぜかささやかながら初めての「お祝い」が催されたのだった。
そんなふうに賑やかに夜は更けた。
改変された現代へ来てから皆、張り詰めていた向きがあったのでこういったことは久々だ。
騒ぐだけ騒いでどこか爽やかな顔で寝ているカイルたちから少し離れて
は星を見上げていた。
この時代はひどくドームの外が荒れていて、不穏な空気が流れているので見張りは2人1組で行っている。交代は疲弊を抑えるために1人ずつずらしながら行う予定だ。
自然と声をひそめながら、それでも眠気を催さないようふとジューダスは思いつくままに訊いてみた。
「お前の誕生日はいつなんだ」
「えっ…うーん…と、忘れた」
ふいの質問に我に返ったようにちょっと考える間が合って、口を閉ざす
。
どういうわけかあまり考えたくないというふうだ。
実のところがどうなのかわからないが、ジューダス自身にもそういうことはある。
ジューダスの場合は、よほど馴染んだ人間で無い限り『どうでもいいだろう』という具合なわけだが。
「それも記憶喪失か」
「そうだね、ものすごく断片的な」
「都合のいい記憶喪失だな。」
は過去の話はほとんどしない。
けれどジューダスも追求しないし、記憶喪失かどうかは今の彼にとって既に固執するような問題ではなかった。
なんとはなしに、そうではないのではないかと感じている。その程度だ。
「まぁいい、その断片的な記憶で思い出せ。祝ってもらったことくらいあるんだろう?」
「あるけど…あまり嬉しくない、かな」
「なんだと?」
「いや、撤回。好きな人におめでとうって言ってもらえるのはやっぱり嬉しいね。けど…
それとは別問題で、1人にもなりたくなるの。
自分で自分を祝えるほど…おめでたくないよ」
意味を図りかねてジューダスは仮面の下で瞳を細めた。
「他人の誕生日は祝っているのにか」
それも掛け値なしにだ。
自分の生まれた日は祝わなくても、人の誕生日を一蹴するような無粋なことはしない。
かといってお義理で祝っているのかと言えばそうでもない。
現につい今ほど、リアラに一生の思い出に匹敵するだろう「誕生日」というプレゼントを贈ったばかりなのだから。
「人の誕生日は…やっぱり大事な日でしょ、年に一度の記念日なんだから。
いかに驚かせて喜ばすことができるか画策できる絶好の日だよね」
と、浮かべた笑みは何を思い巡らせているのかものすごく楽しそうだった。
彼女にとって友人の誕生日は色々な意味で特別な日であるらしい。
ちょっと呆れながらジューダス。
「自分の誕生日は?」
「別に祝ってもらうほどでもない」
次に漏れるのは苦笑。
人の誕生日に価値があっても自分の誕生日の価値はないと言っているようなものではないか。
それはいつも自分自身を貶めることとは縁の無いいつもの彼女とひどく矛盾して見えた。
同時に敢えて教えようとしない理由はわかった。
「それで、その日は1人になって何を考えるんだ」
「それは…」
「
〜」
「「?」」
「ちょっと行って来る」
話の途中でふいに名を呼ばれた
は立ち上がってカイルの方へと様子を見に行った。
「あいつは自分の誕生日には価値は抱いていないのか…」
ぽつりとその背中を横目に呟く。もちろん話を聞いている者がもう1人いる故の発言だ。
「人のことには喜ぶのだから、矛盾しているがな」
『何言ってるんですか。坊ちゃんだって同じですよ。』
やはり密やかにソーディアンシャルティエがそう応えた。
『誕生日…他の誰から祝われたってちっともうれしくもなさそうなのに…
坊ちゃんはマリアンの誕生日は喜ばせてあげたいと思っていたじゃないですか。同じことですよ』
適切な『お小言』にジューダスの眉が寄る。
誕生日なんてろくなことがなかった。
むしろヒューゴの駒として再確認させられるような…イベントだった。
その度に与えられるのは喜びの言葉などではなく、あくまで先へ進むための課題であり。
それを思うと自分の正体を知られるのとは別に、そういった話が単に好きではないというのもあるかもしれない。
誕生日など心の底から祝ってくれる人間はいなかったし、その日を特別視するような環境にもなかったのだ。
つまり、誕生日を祝うこと自体に大して価値を見出せない場所にいたのだとは思う。
だから今まで人の生まれた日に興味を抱くようなことも無かった。
「単なる寝言だったよ」
「そんなものだろう」
もう1人の話し相手が戻ってきたので再びそんな過去の話題は口を噤むシャルティエ。
誤魔化すように先ほどの話をそのまま続けた。
『
、さっきの話。それで、1人になって何するの?』
はいきなりの会話への参加者にちょっと驚いた顔をしたがジューダスの隣に腰をかけると少し、首をかしげて考えるそぶりを見せた。
「別に。なんとなく、沈むだけだよ。『特別な日』なのに何も起こらないのが不満なのかもね。」
前から用意してあった答えというよりたった今、外から深層を探ってみたというような返事。
「…いや、思えば特別なこともあったりしたんだけど」
しかし、考えながら話しているのですぐに多角度的な可能性も発掘される。
彼女の中でいつも答えは1つではないのだろう。
『へぇ、例えば』
「滅多に雪が降らない場所なのに、その日に限って雪が降ったとか妙に夕焼けがきれいだったとか火傷をしたとか」
「…」
3つめの例はどうかと思う。
「────と、言うことはお前は冬生まれなんだな?」
「うっ…で、でもハイデルベルグなんかにいたら冬でなくても降ってるよ」
「今、降らない場所だと言ったろう」
「───南半球だったら、冬は7月とかだし」
「ほほぅ?お前は北半球の生まれなわけだ」
ジューダス、容赦が無い。
これ以上、ボロは出ようも無いが
は口を閉ざした。
「いいよ、私の誕生日はどうだって…そういうリオンの誕生日はいつ?」
「お前が知る必要は無い」
「な…何で!?いいじゃない、それくらい教えてくれても」
自分はどうでもいいとか言ったくせに。
どうあっても祝いたい気が出たらしい。
本気で食い下がってきそうな不満そうな顔をしている。
「お前に教えると…何をされるかわからんからな。さっき自分で言ったろう。年に1度のイベントだと」
「酷い…祝うくらいいいじゃないか…。全力を持って何がいいか考えさせてもらうよ?」
「だから教えないと言っているんだ」
その返答にものすごく
は消沈した。
同じ物事なのに自分に対する価値と人に対する価値がここまで違うと言うのは珍しいものである。
「で、お前の誕生日は?」
「─────だから記憶障害だって… …2月の…」
ジューダスの唯我独尊気味な問いかけに、一度は言いかけてやはり、というように首を振った。
にしてみれば第一この世界と向こうの世界では微妙に対応する日付だってずれているのでは、と考えられるのも一因だ。
それでは言ってみたところで厳密には違うことになりかねない。
「そうか、じゃあ近くなって記憶が戻ったら教えろ」
「え?」
「いつものお返しだ。何らかの方法であっと言わせてやる。」
その意味までは考えずとも、いつにない戯れの言葉に思い切り呆気にとられた
。
「更にしっぺ返しをくらってもイヤだから僕の誕生日は教えない。」
「そんなの有り?」
『坊ちゃん…それ宣言したら、あっと言わないんじゃないですか?』
そんなシャルティエの声は敢えて聞こえないことにした。
思わず漏れていた
の苦笑は何を思ったのかふっとほころぶようにいつもの笑みに変わる。
「リオンだったら驚かすようなことされなくても一言言ってくれたら嬉しいと思うよ」
「…」
『僕は?』
「嬉しい」
「随分と簡単なものじゃないか。」
「だって、物をもらうから嬉しい日じゃないんだよ。覚えていてくれるのが一番嬉しいな」
あぁ、彼女の基準は心なのだと理解する。
いくら金をかけても心の伴わない祝福は、即座に見抜くだろう。
言葉も同じだ。
義理でかけるなら最初からいらない。
だから、逆に心の篭った言葉は何よりも喜ぶ。
本当は、誰もがそんなものなのかもしれない。
『それで、彼女の誕生日がわかったら何をしてあげるつもりなんです?』
を先に交代させることにして、次の見張り番を起こしに行かせた。
その隙をついてシャルティエが興味津々に尋ねてくる。
「別にそこまで考えていない」
話の流れと言うヤツだ。
自分以外のその日が特別だと言うのなら、きっとその日は彼女を驚かせるまたとないチャンスである。
それには少し、興味を惹かれないわけではない。
が、あえて笑顔で祝うと言うのも何からしくない(それ以前にできないだろう)とは思う。
『ふぅ〜ん?』
「本当だ。ただ…言ってみただけだろう」
小さく溜息をついて見上げると、漆黒の空に無数の星々が様々な光を放ちながら散らばっていた。
『そうですか。でも、
のことだからきっとなんでも喜んでくれると思いますよ』
了
あとがき**
キリ番123000HIT−月上滴 さんによるお題「誕生日」です。
…わいわい系で行けるかと思いきや、ふたを開けてみたらリオンの真面目エピソード混じりとなりました。
素直にリオンかヒロインの誕生日を描きたかったのですが、
*リオン→誕生日の時点で17歳になってしまう。
*ヒロイン→誕生日の話が出ると必然的に年齢の話が出てしまう
と設定がらみの問題点により一考してこうなりました。
個人的には「お互いわからなくても足りている」という個人的イメージもあり
解らないなら解らないなりの楽しみ方を描けていたらと思います。
ちょっとイレギュラーな感じですが(汗)、月上さんに捧げさせて頂きます。
