「たまには私の部屋でゲームでもしない?」
例によって、それが発端だった。
「お断りだ」
僅かな沈黙を破って短く言い切ったのはジューダス。
きっぱりかつ妥協すらない短い彼の返答には仲間たち全員の想いが込められているのはいうまでもない。
普段の言動から考えると不自然なまでのお誘いをかけたのはハロルド=ベルセリオスその人なのだから。
「何よ、それ。失礼ね」
「ど、どうしたんだい?ハロルドこそ急に」
「いきなり平和な時代からこんな大変な時代に来て頑張ってる部下の緊張を解き解してあげようって素晴らしい気心よ」
忘れていたが、彼らは天地戦争時代に来てから彼女の「部下」ということになっていた。
頬を膨らませそうなハロルドにナナリーがさりげなく気遣いの質問を投げかけるとまたもやありえないことを言ってのけるハロルド。
ロニが続いた。
「…わざわざハロルドの部屋まで行かなくってもよ、どうせここは俺たちしかいない部屋なんだからここで遊べばいいじゃんよ」
彼女の言う「遊び」とロニの言うそれはおそらく違うが危険区域へわざわざ自ら足を運ぶ気はない。
カイルとリアラもこくこくと頷いたが…
「あっそ、じゃ、そうしましょ」
ハロルドはあっさりだった。
「!?」
「何警戒してんのよ」
「い、いやお前のことだから…ってそのトランプ!何か仕込んでんじゃねーだろうな!!」
持参していたカードを目にしてしまったロニが指摘するがしたしたとそれをきってみせて
「種も仕掛けもないわよ」
と笑ってみせた。
そのままハロルドは
が腰をかけていたベッドにやってきてぼすりと飛び乗る。
「わたしだってたまには普通に遊びたい時があるのよー。こんなに大人数でカードゲームとか、あんまりする機会ないしね?」
そしてカードを裏向きに散らばして片手で混ぜる。
テーブルでなくベッドを対戦場所に選んだのは…単にソファに対して人数が多いからである。
その言い分を聞いてまず納得したのがカイルとリアラ、ナナリーだった。
「お前、友達少ないんだな」
「うっさいわね」
次に人情に厚いロニが落ちる。
「あんたもよ」
「僕はいい」
は自分の居場所をのっとられていつのまにかカードを配られている。
ゲームならば特に断る理由もないのでまぁいい。
残るジューダスは相変わらず腕を組んだまま拒否を示すが
「隊長命令。ロニ、力づくで捕獲よ」
「アイアイサー」
一人ほっておかれるわけはなく、こんな時ばかり協力的なロニに羽交い締めにされて引きずられて来ることになる。
逃げられると困るのでベッドの奥の壁際に放り込まれた。
「…#」
こうして配られたカード7組が円を描くようにベッドの上に並べられていた。
「で、何するの?」
「んーまずは準備運動にババ抜きでもしましょっか」
「下らん」
しかし、人数が多いのでそれなりに普通に盛り上がって、早々に終わることになった。
「さぁ、もう一戦よ!」
多分、自分にババが来た時ほど面白いのだろう。
ハロルドはおおげさなほどに表情を変えながらその隣にいるカイルにババを引かせていた。
結果、準備運動と言わずもう一戦続ける気になったらしい。
…対して
はババが一度も来ないまま終わってしまった。
別にポーカーフェイスをしたくてしているわけではないのだが。
「…ババ抜きってさ」
そんな
から批評。
「何かひとひねり足りないよね」
「…言っておくがひねらなくていいからな」
なんとなしにとんでもないことを言い出しそうな
を先回りして止めるジューダス。
止めるほどの事態ではないのだが、お約束のようなものだろうか。
お約束であるならなお、止められるはずがない。
むしろ仲間たちが集っている場合、周りが触発されることの方が多いのだから。
「…何がどう足りないのよ」
案の定人の話など聞いていないハロルドが問い返してしまったため、大衆ゲームとして広く愛されるババ抜きの抱える致命的な問題が露呈されることになっ た。
「とりあえずこの人数だとすぐに終わっちゃうし。もう一デッキ足してみたらどうだろう」
「いいね!枚数倍になるしね」
超単純計算でカイルはノリノリだ。
実際はそこから既にペアになっているカードを捨ててしまうのでどう頑張っても二倍にはならない。
とりあえずもう一組を混入して増やしてみた。
「あ、それとさぁ」
「?」
「コソコソするな#」
「してないってば」
ベットの端で乱雑にカードを混ぜながら何事か話していたハロルドと
の様子にいらない不安感を煽られているジューダス。
幸い2デッキ分のカットはすぐに終わって手元に配られた。
「…」
「新ルールも追加しよっか」
「新ルール?」
「Qが捨てられたらスキップ、Jだったらリバース、Kは…」
「全員山から10枚取り直すってどう?」
「あ、それいいかも」
解りづらい人はUNOを思い出してみるといい。
スキップは一人飛ばしで、リバースは逆周り、というわけだ。
それだけでもメリハリが出て戦いも長くなるであろう。
「それはすでにババ抜きではないような…」
「言い忘れてたけどこれ本番だから。負けた人は明日一日つきあってもらうわよ。もちろんデータ採・取に☆」
「「何—————————!!!?」」
「隊長命令。」
「ってどこが気心だ!いつもと変わらないだろうが!」
「ゲームで決める余地を与えてあげたんじゃない。それともあんたがなる?」
「うく…」
地獄のババ抜きの予感。
「だから嫌だと言ったんだ」
ぶつくさいいながらジューダス。
しかし、矛先を変えて自分に指名が下ると嫌なのか、ぼやきに留まっている。
「…あ、じゃあ…」
ベッドの誕生日席に当たる場所にちょこりと座ってリアラ。
「私が勝ったら二番負けに、私もお願いしてもいい?」
「「「「「………………………………………」」」」」
にっこり小首を傾げたが、誰も答えようとはしなかった。
どうでもよさげなハロルド以外は。
「せっかくのゲームなんだからいいわよ。その方が盛り上がりそうだしね。で、何がお望み?」
「一日私の英雄になってもらうことにするわv」
お願いと言うより、断言になっていたが誰もつっこもうとはしなかった。
とりあえず…二番負けになるのも断固避けなければならないとは思う。
「そんなっリアラ!!!オレって英雄は!?」
「嫌なら二番負けになるよう頑張ればいいだけの話よv」
…それって頑張るって言っていいのか?
それとも彼は試されているのだろうか。
真実は闇の中だ。
「だったらあたしも何か「お願い」しよっかなぁ」
こんな時、女は逞しい。
「やめとけよ。大体お願いって柄じゃ…」
「なんだってぇ…?」
「はい!俺はナナリーの暴力禁止を希望します!!」
「…じゃあラディスロウのマスターキーで手を打つ」
「これ以上行動範囲を広げるな。僕はハロルドの我が侭防止で手を打ってもいいぞ」
「…一番割に合わないお願いをしているのは
とジューダスになってるわよ」
結局のところこうして真剣勝負が始まってしまう。
ハロルドの、次順へのからかいっぷりは目に見えてだが、意外にダークホースなのが
だった。
「「…」」
誰かにババが廻ったことは大抵「ひいた瞬間」の顔を見れば解ることだ。
考え様によってはひいた人間も自分が持っていることをアピールすることで
次の人間にプレッシャーを与える効果が期待できる。
逆に黙って何事もないように次にまわしてしまうのもひとつの手。
…と、いったように考え始めると奥が深いものだと
は
自分の手の内にやってきたジョーカーを見ながらそう思ってみたりする。
その奇妙な間で何か察したのかとなりに居たジューダスが警戒の色を浮かべた。
そんなもの浮かべてみたところでババがスキップしてその次に廻ってくれるわけではない。
まだたくさんある手札の中から一枚、ひいてくれとばかりにわざと突出させてみる
。
「………………」
なかなかに心理戦だ。
わざとらしいが、だからといってその一枚がババでないとは限らない。
むしろ彼女の性格だと裏をかいて普通にババである可能性すら高いだろう。
というか裏の裏でそれはなんでもないカードである可能性もある。
「…ぷっ」
はまってしまったジューダスを前に思わずポーカーフェイスを崩す
。
遊ばれている────
「#」
他の並ぶカードからひいてみたらジャック(J)だった。
「はい、ご名答」
と今一枚突き出していたものがジョーカーであることを裏返して披露した。
「リバースだぞ、向こうに引かせろ」
手持ちにあったJとひいたJを山に捨てたジューダスの呆れたため息を背に今度は逆を向く。
ひくのはハロルドだ。
通常ババ抜きにおいて、ババは誰が持っているのかが判明した時点で他の人間は安堵し、わきあいあいとなって良いはずなのだが、今回に至っては妙な緊張感が漂ったままだった。
たった今、危機を回避したジューダス以外の全員が固唾を飲んで見守っている。
賭けものは最高の緊張感へのスパイスである。
…それにしたって、ババ抜きごときだが。
「はい」
「ほい」
同じようにして一枚だけ出す
。あっさり引くハロルド。
「ちょっと待てーい!」
当然物言いがついた。
「お前ら!ババの受け渡しすんなよ!」
「…私が何をひこうが勝手じゃない。
はカードを見せたわけじゃないわよ?」
「いや、今のは普通にそれ以外のカードが渡ったとは思えない」
「うるさいわねぇ、あんたのところにまわしてやる。はい」
と言ってもひくのはカイルだった。
「……………………………」
「ない頭を使うな」
に引き続き三度、同じ事をされて悩むカイル。
しかし、まさか同じ事を三度もされないだろう。
ジューダスの同情に近い声を前にカイルは
「これだぁ!!」
突出されたカードをひいて
「……………………………||||」
「わかりやすっ!」
がくりと敗北感に打ちひしがれた。
* * *
そしてそれから4巡もしただろうか。
全員が慣れてきて己の保身の為に鉄面皮になってきたその頃に事件はやってきた。
「…なぁ」
今、隣に居るカイルから札をひいたロニ。
「なんでババが二枚入ってるんだ?」
たった今、ひいたばかりのジョーカーを右手に彼の視線は左手の薄くなってきた扇に注がれている。
「えっ?」というナナリーとリアラのハモりをバックにロニは左手からもカードを一枚抜いて全員に見せた。
「…ロニ… ババはロニのところに集まりたがるみたいだね」
「ってそういうことじゃねぇだろ」
の呟きが久方ぶりに気の抜けた全員の視線を集めたところで、
彼女はまくらの下から裏返しになったカードを滑らすように取り出した。
「「「「?」」」」
「じゃーん、ババ抜きと見せかけて実はジジ抜きでしたーー!!」
「はぁ!?」
ベッドの上に膝立ちになって両手を広げてハロルド。
ジジ抜き→ババ抜きのアレンジ版。ジョーカーではなく通常、52枚のトランプから一枚抜いて遊ぶ。
ラスト近くまで何がジジなのかわからないある意味、闇鍋のようなカードゲームである。
「…なんでジョーカーが2枚あるんだよ」
「大抵、予備で1枚入ってるもんよ?」
「そうじゃなくてなんでジョーカーをわざわざ入れるのかってことだろう…?」
わなわなしそうなロニの代わりにナナリー。
答えは単純明解だった。
「「みんなババ抜きだと思って一喜一憂してるのが面白そうだったから」」
…。
「お前ら…#」
やっぱり、メリハリのありすぎるゲームになった。
「さぁ、続行よ!?ジジを早く見つけないととんでもないことになるかもねぇ〜」
「「「!!!!!」」」
そして、ババ抜きは恐怖のジジ抜きに切り替わり…
ゲーム続行。
あとがき**
40万HIT記念 キリ番フィーバー企画、402000HITなくたさんによるリクエスト。
「全身全霊を賭けたババ抜き」
楽しそうなお題です(笑)一方で小説を書くに当たってババ抜きについて調べてみましたが、あまりに単純なゲームかシンプルな説明と由来話(OldMaide)くらいしか見当たりませんでした。
ただ抜きあってても全霊かからないんでひねってこんな感じに。
多分、ヒロインとハロルドは何巡かしてる内に気づいていると思います。
この後、ジジに気がつかけないリアラが切れて終わりそうな気もしますが、本日はこの辺で(笑)
なくたさん、リクエストありがとうございました!
