「はぁ」
やる気と元気だけが取り柄のリーダー(というと酷く語弊がある気がする)カイル=デュナミスが溜息をついている。
これがジューダスであれば人知れず見るも憂いを帯びるのであろうが、そこはカイル。
それはもう、本人に意図が無くても大げさなくらいだった。
─ 君の悩みと僕の憂鬱
「どうしたの?カイル」
「え?いやなんでもないよ!」
心配するなといってもなかなかお人よしメンバーなパーティであるからして気にかけてしまう故、
リアラが訊ねたが、カイルは大きく手と首を左右に振っただけだった。
「はぁ…」
はっきり言って、から元気。
ナナリーもロニと顔を見合わせている。
時は改変現代。
視界の多くはどこか彩りに欠ける荒れ果てた地が占めるばかりでただでさえ気が重くなりそうな頃合だった。
「どうしたんだろうね」
と、これは心配そうにナナリー。
いつもなら訊いた時点で真面目な悩みは素直に、馬鹿げた悩みはあっけらかんに
打ち明けるカイルだが、今回に限っては溜息の原因を話す気もなさそうだった。
「カイル、大丈夫?」
「何が?」
みんなに愛されるカイル=デュナミス。
も聞いてみたが返答は誤魔化すでもない天然系だった。
ある意味重症だ。
それから何度目か。
「はぁ…」
鬱蒼とした森と砂漠の境目で休憩を取り始めたところだった。
みんなが心配。
みんなが大変。
そんなアンバランスな気遣いの中にあって
がふつりと心配心を苛立ちに変えるには十分な状態だったろう。
「カイル」
神経質に眉を寄せると彼女は見るからに悩んでますといった体勢で、体育座りをして溜息をついた少年の前に立った。
何故だかびくりとカイルは顔を上げる。いや、顔を上げてからびくりとしたろうか。
何はともあれカイルにはその時
が煽り角度もあってありえないくらい大きく見えたに違いない。
「さっきから…何?」
「え、いや、だから何でもないよ?」
こわばった笑みを張付かせて最後の部分だけ妙に早口で答えてみてもそれは不正解であろう。
ここは素直に白状するほか 穏便に、あるいはやりすごす術はない。
いち早く察したジューダスは他の仲間より一歩早く半眼になってそれを眺めた。
彼が表情豊かな人間なら生ぬるい笑みでも浮かべていたことだろう。
「なんでもないならこれみよがしに溜息つくな。
つくなら素直に言え#」
あわわわ、とカイルの顔に明らかな慌てふためく色が浮かぶ。
言いたいことがあるなら言え。
言わないならその態度を自重しろ。
至極シンプルな世界の根源は言葉にするのは簡単だが、カイルにとっては前方三回転するより難しいであろう。
「自覚が無いんだ、許してやれ!?」
「嫌。自覚が無いなら自覚しろ」
…いちいち最もだ。
よほど勘についたのか何らかの挙動も伴うならロニは羽交い絞めにして制止したに違いない。
そんなことをする必要はないが、勢いとしてはそれくらいの必死さで彼は
を宥めている。
「?????!」
当の本人は状況を把握できていないらしい。
「カイル、みんな心配してるんだよ。
こんなに心配してもらっているのに自分の世界にこもって溜息だけを外界に出すとはいい度胸だ」
常日頃そんなことがないよう、できるだけ抑える彼女は
心配されることがどれほどのことか知っているのかもしれない。
こんな時、腹を立てる理由はいつも不意にされた仲間の気持ち。
…という他にも当然度を越えると鬱陶しいということもあるだろうが。
ジューダスはそれこそ何故だか自分の方こそ溜息をつきたくなったが今はやめておいた。
「カイルに何事も無いように装えなんてことは期待しない。
だからそれができないならちゃんと理由を言いなさい」
…さりげに命令形。
「そ、そんな大した事じゃないよな?腹が減ったとかそういうことだよな?
そーいやそろそろ昼か。飯にでもすっかぁ!?」
さしものカイルも「う…」と口を開きかけたが彼が口を割るより前にロニが兄貴風を吹かせて話題を変えてしまった。
余計なフォローといえば余計なフォローだ。
そんなことは露とも思わず、口を挟めなかったナナリーとリアラも半端な笑顔でそれに同意した。
「まったく」
そんなわけで逆にカイルは元の状態に戻ってしまうことになる。
今度は溜息こそつかないまでもしょんぼりしているのは明らかだ。
こんなカイルを見たことがあったろうか。
いや、ない。
なんとなく傍観者の気分でジューダスは一連の流れを遠い目で見つめていたが、みんなが散って初めて口を開いた。
「らしくないな。どうかしたのか」
「ジューダス…」
ちなみに もそこに残っていることを忘れてはいけない。
「言えない、か。
まぁそれならそれで、得意の謎解きにでもしたらどうだ」
突然に
に話題を振るジューダス。
「そうだね。じゃあヒントちょうだい」
「ヒントって
」
さすがに仲間に心配をかけていることに気づいたのか叱られた犬のような顔をしていたカイルは
言われて冷や汗ながらに
を見上げた。
も方向性を切り替えたのか、特に怒っている様子などは無くむしろ真顔だった。
本気にするな、本気に。
「カイルが悩んでるのってこの旅のこと?」
そうは見えない。
むしろ関係ないことのようにも思えるが。
とジューダスが思うのはあながちはずれではないだろう。
何故ならそんな重要なことならこんなふうに一人で悩んだりはしないからだ。
するとどうでもいいことなのだろうか。
…。
なんとなく今までのカイルの言動からしてそちらの方が可能性濃厚だと気づいてしまった瞬間だった。
これほど頻繁に溜息をつかれているともっと個人的かつ世界の命運とは関係ない目先のことのような気がしないでもない。
「そう…じゃない、かも」
また曖昧な返答だ。
それで
がまた苛つくかと思ったがそうでもないようだった。
「じゃあリアラのこと?」
「なっ、なんでリアラが出てくるのさ!」
「ふーん」
あれで何がわかったというのだろう。
はてこてこと食事を準備するナナリーたちの方へ行ってしまった。
「カイル…」
「ほんとに何でもないんだってば!!」
誤魔化すことが苦手なこの少年が、誤魔化そうとしていること。
ジューダスにはそれが何なのかわかりそうもなかった。
「はい、カイルv」
「わーーー!!!マーボカレーだーー!!!」
「ちょっと待て。なんだそのさっきまでの欝を覆すそのはしゃぎっぷりは」
「え?」
と、昼の準備が整って、あつあつのマーボカレーを盛った器をリアラが差し出すとカイルはそれを笑顔で受け取った。
匙を口元に運んでロニの指摘に振り向くその顔も、笑顔満面。
幸せ一杯夢一杯(?)
世界が明日終わっても悔いは無いとか言いそうなくらい幸せそうな笑顔だった。
「ひょっとして…ほんとに腹が減ってただけ…?」
「ち、違うよ!」
しかしマーボカレーに向き合ったカイルは既にいつもどおり。
一体この数秒の間に彼の身に何が起こったのか。
仲間たちの視線が集まる中、照れを隠すようにカイルはひたすら匙を運び、少年らしい食欲旺盛で見事な食べっぷりを披露する。
ちらり、とリアラの…追うようにナナリーの視線が
に向いた。
当の本人もそ知らぬように匙を運び始めている。
「
の言ったとおり…」
「へ?」
「だから
がマーボカレーにしてくれって言うからしたんだけど…なんだか効果抜群みたいだね?」
カイルのために、とは言ってなかったのだろう。
はじめてリクエストの趣旨を理解したようにリアラとナナリー。
リアラは不思議そうに、ナナリーは感心したようにカイルの食べっぷりを眺めていた。
「みんな食べないの?」
「あ、食べる食べる」
「いただきます」
いつのまにか食べる方に没頭していたカイルに疑問符を浮かべながら言われて何事も無かったかのように食事が開始される。
改変現代へ来て久々の和やかな食事。
いつもどおりの賑わいで話しだした一行を横目にジューダスは聞いてみた。
「…
、さっきのがなんだかわかったのか?」
「ホームシック」
本人の名誉ゆえか
はぽつりと応えた。
「?」
「だから…ホームシックだったんじゃない?」
ジューダスはもうすっかりいつもどおり…
むしろロニと残った料理をとっくみあって取り合い始めるくらいに騒がしくなったカイルを見て納得した。
なるほど。
親の味が恋しかったというわけか。
「さすがに世界自体がこれじゃ仕方ないのかな?ジューダスは平気?」
「平気じゃないわけがあるか、馬鹿者」
冗談にしてもタチが悪い。
しかしそういわれて確かにカイルがそれを言い出せない気持ちは理解できた。
15にもなって家が恋しいとは。
…………それ自体がおかしいことではないのだろうが、おそらく言い出す側にとっては恥かしい。
男としてならなおさら。
「ところで久しぶりに聞いた、馬鹿者って」
「そんなどうでもいいことに感心するな」
「なんの!先にさじをつけたのは俺だ!」
「あーもう!食事中くらい静かにしな!」
「ホームシックであろうが無かろうが、子供であることには変わりないな」
ジューダスは呆れたように呟いたが、マーボカレー効果は間違いなくスタンの血筋であろう。
マーボカレーはデュナミスファミリーの味。
あとがき**
匿名さんより『気付いてくれた唯一の貴方に感謝』という記念絡みの小説。
キリリクというか、50万HIT時(4月の話)にひっそりしていたところ
自発的にお祝いしてくださった第一号の方へリクエスト権を進呈いたしました。
素敵なお題に対して、なんだこの話はーーー!!…と言われそうですが、
ジューダス>
は想像しやすいかなぁと思って敢えてカイルに焦点をあててみました(笑)
むしろロニの方がホームシックになりそうだとか色々ありますが楽しんでもらえれば幸いです。
リク下さいました匿名さん、50万HIT祝ってくれた方々みなさまありがとうございます。
(やりとりに一言メッセを使用したためナチュラルに匿名さんのままです。
何か物凄く知っている方のような気もするんですが特定できないのでそのまま(ある意味凄い(汗)
