「私も早くお姉さま方みたいなステキなレディになりたいです~」
それが本日の問題発言だった。
--オトメな気持ち
「「…」」
顔黒王子にあこがれるチェルシー=トーンが押しかけ女房のごとくパーティに加入して以来、 妙なテンションの毎日が続いている。
彼女は、14歳のお子様ながら、いや、背伸びしたいお年頃だからこそか必要以上にませた発言で男性陣から沈黙と苦笑を、女性陣からは時折華やかな支持 を得ながら今日も今日とてマイペースな乙女発言を繰り出していた。
その結果。
「…一体このパーティの誰がレディだと言うんだ?」
「な、何よ…なんで私を見るのよ」
「うん、フィリアはともかく…なぁ?」
「だからなんで私を見るのよ!!#」
余計な不和をパーティ内に勃発させることになる。
「ははは、それならチェルシーに聞いてみればいいだろう。女性には女性にしかわからない魅力と言うものもあるだろうしな?」
紳士を装ってさりげなく失礼な発言をしているウッドロウ。
それはつまり、ルーティはレディではないと言っているようなものである。
もっとも誰も気づいてはいないのだが。
チェルシーは、乙女らしく語尾を延ばしながらかわいらしい声で応える。
「それはぁ、フィリアさんは優しくておしとやかで…!いつもにこにこしていらっしゃって素敵だなぁって思いますし」
「トロトロしているだけだろう」
「ルーティさんは、しっかりしてらっしゃってお姉さま、という感じで…」
「しっかりしてるっていうか守銭奴だよな?」
「とても頼り甲斐があります~」
「ほら、みなさい。わかる子にはわかるものなのよ!!」
真逆の発言をはさむ男どもをなぎ倒す勢いで(実際スタンは蹴り倒された)ルーティは勝ち誇る。
フィリアにはもちろんルーティにとって、女性らしい自分を肯定するチェルシーはかわいい妹のようなものなのだろう。一見正反対のようで、女としての自 己主張の強さに似通うものがあるのかもしれない。
ともあれ、がっしと手を握り合うほどの結束力の強さだ。
女と言うのはズ太い(リオン談)。
「だとしたら女にしかわからない価値観だな、僕には理解できん」
「それからマリーさんも、今はいませんけど大人の女性、っていう感じで憧れです~」
チェルシーの乙女としての理想語りはここで終わることになる。
スタンがあることに気づいて尋ねた。
「
は?」
「「「…」」」
悪意はない。
しかし、彼女自身が散歩に出かけていてここにいないことがあたりをなんとなく気まずい空気にしていた。
「え、えーと」
なんとなくもじもじとしながらチェルシーは上目遣いでスタンを見る。
「…
さんは…なんとなく「女性」って感じがしなくて───あ、苦手とかそういうんじゃないんですよ?ただ──…!」
「別に弁解することは無いだろう。全く持ってそのとおりだ」
「そ、そうですか~?」
珍しくフォローされる形に思えたのかチェルシーはちょっとほっとした顔になった。何を言っていいものやらと笑いのようなものを顔に貼り付けたまま迷う 他のメンバーをよそに逆に渋い顔になったのがウッドロウである。
「チェルシー」
「は、はいぃ!!」
「
くんのどこが女性らしくないと言うんだね、言ってみなさい」
「いえ、女性らしくないのではなく女性っぽくないという感じで…」
適格だが微妙な表現である。
「えぇ?!でも男っぽくはないよな?」
「…あんたね」
本人が居ないのをいいことに(?)困ったようにスタンが更なる問題発言を繰り出した。
「いえ、男っぽいと言うのでもないのですが…」
「確かに、中性的な感じはするかもしれませんね?」
「本人に今の話をしてみろ。どっちでもいいと言われるのが関の山だぞ」
「いくら
でもそれはないでしょ?」
いつのまにか論点の摩り替わった論争に発展しそうだった。
その、乙女的な話題に蚊ほども興味を示されないのがチェルシーにとってみるとよくわからないことなのだろう。
男らしい女らしいと言うよりは、査定の対象外なのかもしれない。
あるいは、盛り上がりすぎて退かれても男性なら乙女パワーで押しきるが同性だとそうもいかないのが複雑な心境なのかもしれない。
「そもそもチェルシーの言う女性らしさ、ってのはどんなものなんだ?」
「え?そ、それはぁ…マリーさんのようにお強くてフィリアさんのようにおしとやかでルーティさんのようにかわいらしい…」
「どこがかわいらしいんだ。理解できん」
「だからあんたは黙ってなさいよ#」
「何、密談してるわけ?」
「「「「!!!!」」」」
いつのまにか円陣を組むかのように白熱していたその外から声を掛けられて、やましいことなど何も無いのにびくりと数人の肩が跳ね上がった。
が輪の外に立っていた。
「な、なんだ
か~」
怪談でもしていたかのように、しかもなぜ驚いたのかすらわからないくせに胸をなでおろすスタン。
「今、チェルシーさんの女性らしさの価値観について聞いていたところなんですよ」
「フ、フィリアさんっ」
「?」
話が話だけに気まずそうなチェルシー。
はなぜかそんな彼らを見て気味の悪そうな顔をした。
その理由は以下のとおり。
「スタンとリオンとウッドロウも一緒になって?」
「ばっ馬鹿!!そんなわけがないだろうが!!」
確かにそんな話に耳を傾ける男性陣なんて気味が悪い。
「大体、お前が不安定な立場に居るからこうなったんだ」
妙な責任転嫁の仕方をするリオン。
今日は全員揃って話が散らかっている。
「?」
「ねぇ
。自分が女の子に生まれてよかったなーって思ったこと、ある?」
ルーティがいきなり核心に触れた。
この場合の核心が、果たしてそういう問題だったのかは棚の上に上げておくことにする。
「…ない」
即答に、ほらみろとばかりのリオンの視線が言葉に詰まったルーティに注がれた。
「別に女に生まれなきゃ良かったって言うのもないけど。
なんだ、そういう話?みんなはあるの?」
そんな切り替えしに真っ先に目を輝かせたのがチェルシーだった。
「それはもちろん…!あまーいお菓子を食べられたときとか、かわいい服をみつけた時とか…!」
「ガキだな」
「そ、そんなことありませんー!!」
「わたくしも、甘いものは大好きですわ」
「そうよねー考えてみれば、同性だけで甘いもの食べにいけるのって特権だわ」
…。
別に男同士だって悪くは無いと思うのだが。
のこの際、どうでもよさそうな見解は胸にそっとしまっておくことにする。
スタンとウッドロウとリオンが3人で甘味に行ったら気持ち悪いと言うより笑えるので個人的には禁止するほどではないが、きっと今のルーティはありえな いと言うであろう。
「それにおしゃれも!小物集めたり、かわいらしい服着たり髪型も変えてみたり。男にはなかなかできないわよね」
「ですよね」
「…年中同じスタイルで金のかかることはやらない人間が言うと説得力が無いが、とりあえずお前もそんな価値観を持ち合わせていたのか」
「前置きがいちいち余計なのよ、あんた」
「そういえばマリーさんもさりげなく料理が趣味なんだよなぁ」
「そうよ!それにこの女性ならではの豊かなボディライン!!むさい男の身体とは大違いだわ」
「むしろ貧相だろう」
「それはいいすぎなのでは。せめて、ちょっとひいき目に見たらとか何とか…」
「黙れーー!!#」
ドパーン。
ウッドロウはタイダルウェーブの波にさらわれていった。ちなみにリオンは最近ルーティが晶術を用いたつっこみを多用するためとばっちりを避けるために 水耐性の装備をしている用意周到ぶりである。
もっともレベルも60を超えた頃合なので正面から受けてもそのくらいの晶術にへこたれたりはしないのだが。
案の定、スチャリとウッドロウは元のポジションに帰還をした。
「まぁ女性の優しい体のラインについては同意を示そう。古来から、美術のテーマとしても取り入れられているくらいだからな」
「そんなことはどうでもいい」
「あのですね、
さん…前から聞きたかったんですけど、男の人になりたいと思います?」
「はぁ?」
それこそわけのわからない問いかけだった。
…男の子になりたい女の子。
思春期にはよくある話なのかもしれない(?)。が、
「…ない、と思う。男だろうが女だろうが、私は私だし。
それに男になりたいなんて自分が女であることにこだわっている証拠かもよ?
まぁなりたい人はなればいいさ」
「いや、そういう問題じゃなくて…」
「見ろ。僕のいったとおりだろうが」
それについては多少の齟齬があるが、少なくとも「男の子」ならともかくむっさい男になってしまった日にはへこむかもしれない。
そう考えると、女の方がいい気もする。
それもまたそういう問題ではないのだが。
リオンの言うように、女である今の身からいわせてもらえば「どちらでもいい」のには違いないだろう。
「なんでそんなこと聞くの?」
「だってあまり女の方らしい話に興味を示してくれないので…」
「剣が好きなのも、花がすきなのも、お菓子がすきなのも性別で分けるこだわりじゃないよ。違う?」
「それは~」
「まぁ、男と女じゃ使う脳域が違うみたいだから傾向はある程度偏るみたいだけどね」
「お前は説得したいのか、自分の発言を覆したいのかどっちだ」
「失礼だなぁ、私は多角度的な視点から何が一番間違いないのか導き出そうと…」
「要は女の子には女の子らしいところがあるってことなのよ!!
で!!あんたが女の子として生まれてよかったなって思うのはどんな時!?」
無理やり女の子に仕立て上げてまとめてしてしまおうと言わんばかりにルーティ。
もうこの際、お菓子がすきvでも花が好きvでも動物が好きvでもどんなささいな理由をもこじつけてもっていこうとしている気迫が見て取れる。
例えば「動物が好き=心優しい=女の子」というように。
はっきりいって偏見と曲解の世界だ。
世の中、そんなものなのかもしれないが。
そうして考えてみれば、男だろうが女だろうが趣味趣向には隔たりのないことの方が多いことに気づく。
「…………………」
「ちょっと」
「…うーん?」
「悩みすぎよ」
「大体、どうしてこんな話になったんだかなぁ…」
「…好きになった人が男の人だった時?」
誰もがスタンのつぶやきに同意し 先行きを暗く見ていたその時、
のひねり出した見解。
それは…
「!!!」
全員をいろいろな意味で狼狽させるものだった。
「ど、どうしよう?///」
「な、何 赤面してんのよ!!」
「うろたえるな馬鹿者!」
「チェルシー、聞いたかい?これが女性というものだ。他の誰の答えよりも女性らしい…!」
「く、そんなっ!?(←?)」
「素敵ですわ、
さん………!!」
ほんの一言で立ってしまった不要な波風。
「ねぇ、そんなに盛り上がることかな?
ていうか別に相手が男でいいって言うならいい気もするんだけどね?」
女ならではのメリットといえばそんなところだろうというくらいの気持ちでしかない
の意図に反して、勝手に浪漫的な誇大解釈を始めてしまったようだった。
騒ぐ人約3名、喜ぶ人およそ2名、悔しがる人残り1名…
その後の、問題発言についてはまったく耳を貸してくれない模様。
「誰も今そうだとか言ってないんだけどさぁ…」
そして、あきれ返る人が最後に1名。
そんなこと聞いて盛り上がる君たちの方が、よっぽど乙女だよ───…
あとがき。
お題に回そうかと思いましたが長いのでやめました。
お題=事実に基づくお話。
詳細は省きますが、とりあえず…チェルシー初登場(笑)
