天上都市攻略。
二手に分かれたこと、ちょっと後悔してます。
--VSウッドロウ 3rd
「大丈夫かね。
君。何なら私がお姫様だっこでもして少し運ぼうか」
「嫌です」
「…残念だ。結構です、なら結構なのかと運ぼうと思ったのに」
「そんなふうにマルチ商法みたいな解釈されそうだから断固嫌だという意味を込めて言ったんです」
「どうでもいいですが、
さん。時々ウッドロウさんに敬語になるんですね…?」
お門違いなことを気にしながらも花を飛ばして微笑っているのはフィリア。
とウッドロウはその前をすたすたという音がしそうな速さで進んでいく。
シュサイアはそんな調子で乗り越えた。
あそこは戦闘が多いので、距離をつめて来ようものなら敵と接触してやればいい。
そこにおいて、モンスターはウッドロウ避けの罠と化していた。
しかし、問題はヘルレイオス。
特にガードモンスターが巡回しているわけでもないので3人で静かに進む時間が多くなった。
言い換えると暇になった。
隙ができた。
「それにしても、海底洞窟で君の姿がなかった時…私はこれからどうしたものかと思ったぞ」
「そうですわ。でも本当に無事で良かった」
「飛行竜に避難してから、殴ってつれてくるのはスタン君ではなく君にしておけば良かった、と何度思ったことか…」
「以後、力づくで行動に出られても万全の体制で排除することを念頭に気をつけます」
てんでばらばらな会話が繰り広げられている。
それなのに収まるところに収まっているのがおかしなチームである。
…あぁ、早くリオンと合流したい…
そうすればこの腹黒大王の気も逸れるのに。
当て馬にするつもりはないものの、思いつきはさりげなく酷い方向に発展してしまいそうになりながら、
は寄るなオーラを発しつつヘルレイオスの仕掛けを解いていく。
「この床に乗ると移動できるんですわね。…どんな仕組みなのでしょう」
「さぁ、落ちないようにしっかり傍に居ないと」
「そうですわね!」
「…」
突き落としちゃおっかなぁ。
残念ながら狭くもない移動床の上でにじり寄られてなんとなく遠い目で考えてみたり。
そんなふうに生命の危機とは別の危機感を抱きつつ、パネルエリアを越えて通路の角を曲がった。
その直後だった。
「ん?」
背後から遠く靴音が響くのを聞く。
「…モンスター…ではなさそうですわ」
聞き分けようとしても3人か4人か…プロではないのでわからない。
床に耳をつけるほど緊迫感を高めるような状況でもない。
だが、近づいてくるのは確実なので物陰に身を潜めて伺っていると、現れたのはミックハイルを攻略していたはずのリオンたちだった。
首尾よく浮遊クルーザーを手に入れたのだろう。
追いついてくれるのが早くて助かったと思いつつ声をかけようと立ち上がりかけると
「あ、リオ…んぅっ!!!」
「しっ!!あれはモンスターで彼らの姿を象っているだけかもしれない!!」
ふいに引き戻された。
いや、そんなふうに後ろから口ふさがれて押さえられても説得力ないから。
むしろ、本物だと思った上でやってるだろ、それ。
「んーー!!!」
「静かに!!」
「は…っ触るな、変態!!」
ただでさえ人に触れれるのが嫌いな
は力づくでみぞおちに肘鉄を食らわせようとしたが、さすがに大男の王様はリーチの長さで避けてしまう。
一方で幸いなことに、バランスを崩した隙に脱出には成功していた。
大きな身体の人間は小回りが効かない。
「変態とは…あまりではないか」
「過去の行いを振り返ってもう一度自己評価をお願いします」
その場から離脱に成功するとゆらりと機材の後ろから立ち上がったウッドロウにじりじりと構えながら後退する
。
到着したリオンたちは何が起こったのかと足を止めて思わず事態を見送ってしまった。
「何やってんのよ」
「あぁ、ルーティ!天の助け!!」
「またあの男が何かしたのか?」
『だから別れるの反対だって言ったのに!!』
いつ。
ここぞとばかりのシャルティエの主張。
リオンのうるさそうな顔から察するに、別れた後に彼は未練たらたら騒いでいたのだろう。
そんなことがわかったところで今という時間(とき)は進んでいる。
「自分のことももう少し大事にする選択を、今後はしようと思った」
「そうか。いい教訓だな」
感動の(?)パーティの合流にわけのわからない言葉が飛び交っている。
その横ではフィリアとスタンがのんきに再会の喜びをわかち合っていた。
「こっちも無事みたいで良かった」
「はい、スタンさんたちも早く来てくださって嬉しいですわ」
「大体、はじめに言っただろう。戦力に偏りがありすぎると」
スタンとフィリアのほのぼのムードはほったらかしで、こちらはこちらで蒸し返し発言を繰り出すリオン。もちろん話し相手は
である。
「そもそも壊れたソーディアンを未練たらしく持ち歩いているようなヤツに何が出来る。
ダイクロフトの敵に弓ひとつで立ち向かおうとするような無謀な輩と一緒では自分の命がいくつあっても足りんだろうが」
「…」
真理だ。
ウッドロウは三度加入してもなおレベルの低さもあいまって万年二軍だった。
しかもイクティノスが壊れたままでは。
復活しても結局、ろくに扱えないのでそれでも二軍のままなのは目に見えている。
「そんなことを言っていいのかな」
琴線に触れたらしいウッドロウが蚊帳の外から不適なオーラを浮かべながら会話に参加してきた。
リオンは相手にせずに歩き出す。
無論、ウッドロウもそんな扱いを受けたくらいでは凹まない。
「イクティノスがなければあのダイクロフトにも乗り込めないのだぞ」
「なるほど、活躍するのはマスターではなくソーディアンと言うわけか」
「じゃあイクティノス貸してよ。ウッドロウはいらないから」
諸刃の刃は直球でリオンと
の2人から同時に返されることになる。
「まぁ確かにこの場合マスターは必要ないかしらね…?」
ルーティが素直な感想を述べた。
「何言ってるんだよ、ウッドロウさんは仲間だろ!!」
「うるさい、スカタン」
瞳を輝かせながら青春モードで拳を握ったスタンの意 見はこの際却下することにする。
「スタン君…!」
「ウッドロウさん!!」
それなのに青春映画が始まってしまった。
「ところでリオン、マリアンさんは無事だった?」
「あぁ…脱出ポッドで先に地上に送った」
「良かったね」
『あ、なんかいい感じ〜』
「ではないだろう!!」
「「「何が」」」
さっぱり相手にされずに青春映画に飽きたのか、珍しく声を大にしてつっこみにまわってみたウッドロウは複数からそう返されてしまった。
もちろん、それしきで引き下がるような人間ではないことは周知の事実だ。
「今の発言…不自然だろう、シャルティエ君。
リオン君、君はマリアンという人がいながら
君に近づこうとするのか!!女の敵だぞ」
「むしろお前がストーカーのようだぞ」
「ストーカーと言うのは一線を越えてしまった人間の ことだろう。私のように常識の範囲内で動いている人間にそれとは全く嘆かわしい」
「十分一線越えているだろうが」
確かにきっぱりといわれても自己の正義を主張するのはストーカー以外の何者でもない行動だとどこか遠くで
は思っている。
「それに使えないと言うがな。それは使わないからレベルが上がらないだけで剣と弓、遠近両用二種類の武器が扱えるなど他にいないのだぞ?」
「そしてどちらも中途半端か」
険悪なムードが漂い始めていた。
それにしても遠近両用…なんとなくメガネを髣髴させる単語だ。
などとどうでもいいことを考えた
をよそにリオンの快進撃は続いている。
「知っているか?そういうのを器用貧乏と言うのだぞ」
「フッそういう人間は極めれば無類の強さになるのだ!」
「誰が極めさせるというんだ。言っておくが僕は願いさげだぞ」
ていうか、他のマスターが強いだけにウッドロウって極めても使えない気がするのだが。
(むしろ極めたら最強だったのはリオンだった)
「大体、図体がでかいくせに女の後衛で弓を放っているなど、それこそ男の風上にも置けないだろう」
「置かないで欲しいな、勝手に」
それこそロニよりも。
合いの手を入れてみた
。
しかしリオンの発言はなかなかやぶへびだった。
「ほほぅ?ではミニマムな君こそ後衛に下がっていた方がいいのではないか」
「…………」
「ルーティ、なんか言ってよ」
「やぁよ、なんで私が」
冷た。
ドライな彼女の反応はよく状況を理解している証拠かもしれない。
こうなってしまうと彼女は唯一の常識人となってしまう。
沈黙に居たたまれなくなって助けを求めてみたが無駄だった。
リオンが黙って漂わせた不穏なオーラに代わりに割り込んだのはスタン。
「ウッドロウさん!」
ヤな予感。
「リオンは小さくても素早いし強いじゃないですか!それに弓だって大きな人が前にいたら使いづらいでしょう!?」
「貴様…っ」
「わぁ!!なんだよ、リオン!?」
スタンにしては珍しく理にはかなっている。
けど、仲直りをさせたいならそれは逆効果だよ、スタン。
抜剣して斬りかかりそうなリオンが、無駄に逆なでされている様を遠い目で眺めてから
は気がついた。
「ここは…」
巨大なクレーン、外へ繋がる搬出口。
目の前に立ちふさがるロックのかかった大きな扉。
「久しぶりね、スタン君」
「イ、イレーヌさん!?」
その前にはイレーヌ=レンブラントが立ちふさがっていた。
「イレーヌさん…どいて下さい。俺たちは先へ進まなきゃ!」
急展開です。
しかしイレーヌはあでやかな笑みを浮かべただけだった。それから、階段からゆっくりと朱桃色の豊かな髪をなびかせて降りてくる。
「イレーヌ…」
彼女はすぐ目前までやってきて微笑んだ。
なぜか嬉しそうに。
「…そうね、
ちゃんの身柄と引替なら渡してもいいかしら」
「…………!!」
意味の異なる「!」マークが飛び交った瞬間。
「そ、そんな…」
まじめな意味でスタンとフィリア。
急展開過ぎるなじみ具合にある意味総天然色(つっこめ)。
「それだけは断じてみとめられん!!!」
即答でウッドロウ。
「イレーヌ…何を考えている」
嫌な予感一杯でリオン。
「……………
がいいって言うならいいんじゃない?」
「ルーティ!!」
一番まともな反応を見せたのは一体誰だかわからなくなったところで
はイレーヌを伺い見た。
「話は聞いてたわよv」
イレーヌ女史は軽く…その実誰にも二の句を許さぬ顔で笑った。
「でもね?私は断固、
ちゃんの味方だからv安心して」
「…これだからオベロン社と言うのは信頼できないのだ!」
意味わかんないです、ウッドロウ。
そして味方と聞いても承服しかねるリオンと
。
二人にはノイシュタットを皮切りに散々彼女に遊ばれた過去がある(イレーヌさんちの謎、他参照)。
その隣でスタンは無駄に嬉しそうだった。
「やっぱりイレーヌさんはいい人だったんだ…!」
どういう展開でどのように解釈したらそこにつながるのかはわからないが、馬鹿者はほっといてここにイレーヌvsウッドロウの構図が出来上がりそうな気 配である。
しかし、そんな予感すら彼らは容易に転覆させてくれる。
「
ちゃんの秘蔵の写真、5枚セット。」
「…!?」
「あなたたちは絶対見てないだろうレアな写真と引替に…どう?」
さすが、オベロン社幹部。
まずは交渉。その手段にも長けている。
ってそういうことに感心している場合ではないのだが。
「イレーヌ!!」
慌て出したのはリオンだった。
アレとかコレとか、きっとそこには彼にとっても有り得ないものがあったりするのだ。
経験から察するに。
「秘蔵の写真だと…?そんなものをいつのまに…いやしかし、本人と引替では本末転倒。だが…」
苦悩の末、くわっと目を見開くウッドロウ。
「見たい!!」
「一遍死んでこい」
はりせんがあったら思いきり誰かが背後からどついてもいい場面と思われる。
「大丈夫よvリオン君といっしょのヤツは別にしてあるし、これからたくさん撮れるじゃない」
「引換える気満々ですか、イレーヌさん」
「というか、今の発言では僕も引き抜かれることになっているようだが…?」
「引き抜くも何も…同志でしょv」
「個々の思惑はともかくオベロン社の同志であったかもしれないが、それ以外の意味であるならお断りだぞ」
「そういうこというと、リオン君の写真もばらまいちゃうわよv」
「…っ!!!」
この場合、本人にとっては恥かしい写真でもある種の人間にとっては奪い合いになるかもしれないテの写真であろうことを申し述べる。
「イレーヌ女史」
ウッドロウはきりりと彼女の前に一歩出た。
「リオン君はのしを付けて進呈してもいいが、
君は渡せない。」
「そう?じゃあここは通さないわ」
「おい#」
リオンの意志は余所に、話を続けているウッドロウ。
ぐっと拳を握ると彼は断固たる意志をその瞳に宿して見せた。
「かまわない。貴女が自分を曲げないのなら我々も貫くべき道がある。
力づくでも我々はここを通らねばならないのだ!
我が家宝、イクティノスを復活させ、ヒューゴの野望を打ち砕くためにも!!!」
これが彼の言葉でなければ感動するところかもしれない。
結局のところ、力づくで
の身柄の確保と写真の奪取を選択したらしい。
そして、哀しき戦闘が幕を開けた。
「…いつになったら終わるかな」
「さぁ、おそらく同族だからな。どちらも一歩も退く気はないだろう」
「こんな時に死力を尽くさないで常日頃まじめにやって欲しいものよね」
目の前で繰り広げられる死闘を前に、ハッチの前に腰をかけて見学するリオンたち。
あまり手を出したい戦いではない。
時々リオン限定で狙ったように弓矢が飛んできたり、クレーンが遠隔操作で振り回されたり危険なことは危険だが誰も手を出そうとはしなかった。
首など突っ込みたくないのだ。
黒い人たちの実力行使の戦いになんて。
ルーティは面倒だから、スタンとフィリアは「1対1の戦いに敬意を表して」。
リオンと
は関わりたくないがために──…
結果、彼らはサシの死闘を繰り広げているのだった。
とはいえイレーヌも戦闘向けではないし、ウッドロウもレベルがレベルなので本人たちの後ろに見える竜と虎が大盛り上がりと言ったところだが。
「あっ!!」
ふぅ、と溜め息をつきあったそこへ滑り込んできた一冊の小さなアルバム。
イレーヌが戦いの最中に落としてしまったらしい。
「「…………………」」
開いてみた二人は沈黙するしかなかった。
そして、無言で外部へ繋がるハッチを開けるリオン。
ぽい。
容赦なく彼はそれを風の海へと放った。
「「リオン君——————————!」」
非難の声と共に背後に気配を感じ、振り返るリオン。
おそらく反射的にだろう、彼は目前に迫ったものから我が身を避けた。
結果。
「ぎゃああーーーーー!!」
突撃してきたふたつの物体は、勢い余ってそのまま開け放たれたハッチの向こうに消えていった。
「「「「「……………………………」」」」」
「ウ、ウッドロウさんーーーーー!!!!」
「イレーヌさん!!!」
慌てふためくスタンとフィリア。
「…どうしよう?」
「知らんな」
見なかったことにするリオン。
それでも彼らは不滅な気がしてならないのはなぜだろう。
そこへルーティ
「大丈夫よ、ほら、イクティノスってば風の属性じゃない?きっと助かるわv」
壊れてるんだけどね?
そんなどうでもよさそうな発言に、もはや異論を唱えるものはいなかった。
とりあえず外殻に引っかかっていた彼らを回収する羽目になったのはそれからしばらく後の話。
あとがき**
前半は連載のシュサイアと同時進行で出来てました。
後半から悩んで止ってしまったのですが…
今回のVSウッドロウ。
むしろイレーヌとVS。
彼女が出てきたせいで「三すくみ」ぽい構図が出来てしまいました。
