−童話シリーズ(←?)−
人 魚 姫
美しい海の底に人間の知らない国がありました。
住まうのは1人の王様と美しい人魚たちでした。
人魚の姫は6人。中でもとりわけ末の姫は好奇心旺盛で人魚の国を出てしまうこともしばしば。
「あんまり遠くへ出ちゃ駄目だよ」
「今日はお母さんじゃないんですか、カーレルさん」
「そういう君も今日はしっかりヒロイン役なんだね」
何にせよ人をまとめるポジションは不動なのか王様。
その日、海の上は大変な嵐でした(唐突)。
「どこ行くの人魚姫!?こんな日に」
「……。6人も人魚の姫がいるのに何故主役だけ「人魚姫」って呼ばれるのだろう」
「…最もだけど、今日は嵐だから出かけない方がいいわよ」
「嵐の時ってざわざわして気もそぞろにならない?」
「ならないいわ」
ひとつ上のルーティお姉さんに止められましたが、姫は危機感そっちのけなことを言っています。
「今、上に大きな王国船が来てるみたい。
転覆したら金銀財宝も海の底だね」
「それは一大事だわーーーーーーー!!!」
ドッゴォーーン!と水中なのにソニックブームが起きそうな勢いで彼女は人魚姫の手を取って浮上しました。
そんな勢いで浮上したら内臓出ちゃうよ。
※深海魚は海上に上がると水圧の差で内臓が出ます。
幸いそんなには深くありませんでしたので無事に海上に出られたわけですが、何と折り悪しくまさに今、船が荒波を受けて海へ沈んで行く ところでした。
「きゃーvやったーーーーーvvV」
「………財宝も沈むけど、人間が沈んだら私、もう海に住めない」
そうですね、ホラーですね。
物騒な喜びに沸き立つ姉姫の横で人魚姫は溜息をついています。
幸い人間たちはボートで脱出したようですが…
投げ出された人間もいた模様。
「……。お姉さん」
「なぁにV」
一度もぐっていた姉がご機嫌な高速具合で返事をしてくれました。
「拾っちゃった」
「……捨てなさい、そんなもの」
人魚姫の腕には気を失った一人の少年の姿。
気を失っていなかったら苛烈なののしりあいが始まりそうなところですが、幸い(?)目を覚ます気配はなさそうです。
しかし、見れば見目麗しい黒髪の少年、そして吹くもそれなりに地位のありそうな…
その時、二人はおそらくは彼を探しているのであろう従者の声を聞きました。
「王子ー!」と。
「王子…?」
「…ぽいね」
思い切り眉をしかめた姉姫はむむぅ、としばし唸るとよし、と決めた顔で暗い空を振り仰ぎました。
「助けましょう、人として…!」
…報奨目当てですか?
とりあえず二人は浜の岩陰に王子を運ぶと身を横たえます。
どうして人目につかない場所を選んだかと言えば、それは彼女らが人間ではないからです。
「おらっ起きろーーーーー!!#」
ビシリ。
そんなセオリーを無視して姉姫。
容赦なく人魚ならではの尾びれアタックをくらわせています。
「ねぇ、ルーティ」
「なぁに?」
にっこり。
「姿見せるのってマズイんじゃなかった?」
「どうしてよ」
「人魚の血は若返り、肉は昔から不老長寿になれるって言うし、王子はともかく他の権力者に知られたら…」
「………………………」
「ひょっとして、知らなかった?」
こくこくと姉姫。
言い伝えとしてはオーソドックスだと思っていたのですが、全く知らなかった模様。
つまり狩られる可能性もあるということです。
現実的な恐ろしさを理解したところで二人はこのまま海に帰ることにしました。
「もうっ!この助け損!!」
「っいい加減にしろ# 人が大人しくしていれば…」
王子も逃げ際にばっちり目を覚ましたので心配なさそうです。
張り手を打とうとした腕を達する前にぎりぎりと掴み上げられた姉姫は…
「あ、あら、お目覚め?」
「あぁ、さっきからな#」
「いやっ食べないで〜!」
「誰が食うか!#食あたりを起こさせる気か!!」
「なんですってぇ!?」
しなを作って怯えてみたら、見事に追い払われました。
一足早く海に飛び込んだ人魚姫は遠まきにそれを眺めていました。
* * *
二日後。
嵐は収まっていました。
「あら、妹」
ここ二日、海に沈んだ財宝集めに奔走していた姉姫は腕に金銀パールを抱えながらほくほく顔です。
「いいわね、人魚って。棚ボタだわ」
たち悪…
「あとはあんたが王子様と結婚すれば玉の輿よ〜♪」
「なんでそうなる?」
「人魚姫ってそういう話でしょ?」
「ディ●ニーのリ×ルマーメイドの短縮(演劇)版はこのまま『やっぱり海が一番だわぁ!』みたいな感じでハッピーエンド(?)だったけど」
要するに陸に上がる気はなさそうです。
「そんな貴女には…!」
海の魔女ことハロルドが現れました。
「惚れ薬と人間になれる薬、どっちがいい?」
「どっちも嫌」
「でも気をつけてね。王子の心を射止めないとあなたは海の泡になって消えてしまうわ」
「ねぇ、これ何かの罰ゲーム?」
魔女の中では人間になれる薬が選択されたようです。
何故って惚れ薬ならそのペナルティー自体が有り得ないからして。
「大体そんな危ない橋を渡ってまでどーして人間にならなくちゃ…」
「軽やかに人間捨てるわね」
「じゃあ持ってけどろぼー!!タダでいいわ。代わりに後でデータ採取よろしくねv」
要するに実験台か。
「まぁ確かに種族変えられたら世紀の発明だよね…」
しょうがない。というように姫は陸へ上がることにしました。
行って帰ってくれば満足するだろ。
…と思ったのはなかなか甘い考えでした。
立派な尾びれの代わりに今、あるのは二本の足。
「……………」
「どうした?お前」
波打ち際に座り込んだ人魚姫の元に現れたのはあの嵐の夜の王子でした。
ここは見事に彼の散歩コースであったようです。
「……………」
「口が効けないのか」
「むしろ歩けません(汗)」
当前です。
今まで一本で足りていたものが、二本になればバランスを取るのはむしろ至難の技。
どうでもいいけど声はとっていかなかったのな、あの魔女。
「どうしたんですかね、怪我は…してないようですが」
お付の金の髪の青年がワンピース(!)からのぞいた足を眺めて心配顔です。
「…」
とりあえず座り込んでいても仕方がないので努力は試みる人魚姫。
「…あっ」
がくり。
「…てゃっ!」
ヨロヨロ。
「…大丈夫?」
転びそうになると支えてくれたお付の青年はにこりと笑ってくれました。
金髪碧眼。
不機嫌そうに腕を組んでこちらをみつめる王子と対照的にこれはこれで王子っぽい見た目だと思いつつ(あくまで見た目だけ)。
「お前…」
じっとみつめていた王子はふいに近づいてきて紫の透き通った瞳を細めました。
「嵐の夜に僕を助けた人魚か?」
「うん」
あっさり暴露。
「「「………………」」」
「そ、そんなわけないじゃないですか、坊ちゃん!ほら、足!足だってちゃんとあるし!!」
人魚だと気づかぬ王子はそのまま素性すら知らぬ彼女を城へつれて帰りました(シャルティエの希望につき無理やり進行)。
「だから人魚なんだろ?」
「うん」
「だー!そういう会話は自粛ーーー!!!」
* * *
城に戻ると王様が待っていました。
隣には客人として招かれていた隣国の王子が帰ってきた王子たちを驚いたように見つめていました。
「どうしたのだ、リオン。その女性は」
「あ、坊ちゃんの運命の人です」
「自粛と言いつつ一番好き勝手なことを言っているのは誰だ#」
結局、従者に手を引かれてフラフラしている様に耐え切れなくて王子自ら運んでいただけですが、お姫様抱っこで現れれば勘ぐる人もいるでしょう。
従者が勝手なことを今日のうちにふれまわらないことを祈ります。
「君には想い人がいるだろう!」
「どうして僕が攻められるんだ#」
「二股はいかん!」
「だから……?」
「彼女を私に任せてもらえないだろうか」
「…#」
二人の若き王子のやり取りを聞いていた王のヒューゴは品定めのごとく姿をじっとみつめ
「素性もわからぬ女性を城に入れるつもりか」
「お気遣いなく、歩けるようになったら帰ります」
厳しい視線で言いましたが、あまりにもあっさり返されて少々あっけに取られたご様子。
しかし、次の瞬間には寛容にお笑いになって言いました。
「これは面白いお嬢さんだ。どうかね、丁度退屈していたところだ。少し話し相手になってはくれないか」
「かまいませんが…」
そうして、人魚姫は王様のお話し相手をすることになりました。
しかし、王子は何故か渋い顔をしています。
その晩、王子は人魚姫の部屋を訪ねて言いました。
「すぐにこの城から出るんだ」
「どうしたの、いきなり」
「ヒューゴに目をつけられる前に逃げろと言っている」
なんだかシリアスな展開です。
「あいつは利用するだけ利用して………?何を読んでいる?」
「人魚姫」
「…今更そんなもの読んで今からその通りにでもするつもりか?」
王子様はベッドに腰掛けて絵本を開いている人魚姫(どんな構図だ)を妙に高い視線から見下ろしています。
「いや、単にものすごくあやふやだからどんな話かなって。
凄いよ、王子様は通りすがりの女の人を命の恩人だと思って惚れちゃうんだって」
「………………命の恩人=惚れると言う構図が理解できん」
「ベタ惚れだそうです。隣国のお姫様と結婚が決まったらいっそその人に似ている人魚姫と結婚するほうがいいとかなんとか…失礼な話だ」
「…僕はよく知らんが最後はその姫と結婚するんじゃなかったのか?」
「隣国のお姫様が実は通りすがりの娘だったと言うベタな落ちみたい」
「幸せすぎて滑稽だな、その王子は」
なまぬるい笑みを浮かべたところでどうにもならないのが現実です。
「ところで人魚姫は言葉を失ったから王子に自分が命の恩人だって言えなかったらしいけど…
どうして筆談しないんだろうね?」
「お前がそうやってしゃべっている時点でこの話が成立しないのは明白だ。しゃべれなくても筆談するだろうが」
「で、ヒューゴさんがどうかした?」
はたと我に返って王子は人魚姫の手を引いて立たせました。
「お前が人魚だとわかったら搾取される。早くこの城を出ろ」
「出ろと言われても…既に向こう3ヶ月客員学士で話しつけちゃったし」
「勝手につけるな#」
どうやら人魚姫と王様は意気投合した模様です。
「大体それはもうばれてるんじゃないのか?この国を甘く見るなよ」
「王子様…心配してくれるの?」
「…っ」
思いがけず目をそらす王子。
「命の恩人=ほれる構図がわからないとかいって、坊ちゃん、まさか〜」
「湧いて出るな#」
背後から意味深な笑いを禁じえずにおつきのシャルティエ。
「とにかく」
王子様は咳払いをして誤魔化しました。
「いいから今すぐ出ろ!」
「えぇっさっきのニュアンスじゃそんな急な話じゃなかったのに!」
「気が変わった。お前にいられると僕も迷惑だ。むしろ今すぐ出してやる#」
「迷惑ってどうして。どこら辺が?迷惑かけないように自分でなんとかするって!」
「それが迷惑というんだ」
まだ上手く歩けない人魚姫を王子は力技で羽交い絞めにして廊下に引きずりだしました。
部屋の中で従者があ〜あ、とつぶやくのんきな声を聞きながら王子はふいに背後から落ちた影に振り仰ぎました。
「わたしの姫君に何をしているのかな?」
「──ウッドロウ…」
そこにはものすごい威圧感をふりまいて笑顔で腹黒い肌の男が立っていました。
「わたしのって何?」
「ははは、そのまま言葉の通りだよ」
「…王子様。この部屋で大人しくしてるのと外に出てこの人に遭遇するのはどっちが危険かな」
「…………………」
本気で悩んでいる様子。
「そんなことはどうでもいいんだ」
数瞬後、正気に戻りました。
羽交い絞めを離されて人魚姫は床にぺたりと座り込んで見上げています。
「…なんか、龍と虎のオーラが…」
「笑顔が怖いですね」
犬猿の仲なのか、ふたりはそのままいい合いをはじめてしまいました。
パタン、ガチャ。
「あっ!」
人魚姫はその隙に部屋に戻って不穏な空気から逃れました。
「…なんかもう、どうなるんだろうね」
移動に慣れるまでこんな毎日が続きそうです。
と、その時。
窓を開けて頬杖をついていると眼下の海から呼びかける声がありました。
「人魚姫、人魚姫!」
「あ、お姉さま方」
「はーい!元気でやってる?」
気さくに魔女までついてきていました。
「あんまり元気じゃない」
「どうしてよ」
「まだうまく歩けないし変な人はいるし」
「あぁっかわいそうな人魚姫!」
魔女はハンカチを片手によよ、と芝居がかった様子で嘆きの声を上げています。
「あなたが人魚に戻るためには、この短剣で王子の命を…」
「それってどの王子でもいいわけ?」
「どの王子って?」
「いや、言ってみただけ」
まだ外で罵り合っている気配を感じながら人魚姫は溜息をつきました。
魔女が言っているのはどう考えてもリオン王子のことでしょうから。
「人魚に戻るために人殺しって割に合わない」
「そう?」
「軽やかに人魚捨ててるわね」
人間にされる前に同じようなことを言われた気がしますが、怖い会話を繰り出している魔女にかまわず人魚姫は黙って首を振りました。
「とりあえずこの短剣だけ持ってなさいよ」
魔女が軽く鞘ごと放った短剣は、うまく人魚姫の手元にキャッチされました。
「気が向いたら使いなさい」
「いや、向いても困るから」
「じゃ、何かあったら呼んでね!?いつでも駆けつけるわ」
海に面したこの部屋以外では無理な相談そうです。
ともかくお姉さんたちは夜の海に消えていきました。
* * *
一晩たった月の夜。
窓を開ければさざなみの音が遠く近く聞こえています。
人魚姫は灯された明かりの元で、昨晩魔女から渡された短剣を眺めていました。
「そういえばこの短剣で…」
王子の命を…
殺せ、とは言われてません。その流れで自然、話は進んでいましたが…
「王子の命を…救え、とかってのもありなのかな」
他の可能性を言葉遊びの延長で模索中にノックの音が聞こえて来ました。
「誰?」
「お母さんですよ」
「いや、それ前回の「オオカミと七匹の子ヤギ」ネタだから」
どちらにしても今ので誰だかわかったので絶対扉は開けまいと誓う人魚姫。
ガチャガチャ、カチャリ。
「…なんで鍵持ってるんです?」
「私は、王子だからな」
「人ん城(ち)のでしょう」
現れたのは案の定、隣の国の王子でした。
「リオン王子はどうしたんです?」
「彼といつも一緒というわけではないのだが」
「えぇ、どちらかというと一緒に行動しているのが想像つきませんね」
つい、と長身の足を王子がベッドの上に腰掛ける人魚姫の元へ向け…
彼の足はそこでぴたりと止まりました。
「なんだね、その剣は?」
「それ以上お近づきにならないように」
にっこり。
にっこり。
不穏な笑みが二人の顔に浮かんでいます。
「これは注意深いお姫様だ…しかし、君の正体がバレたら大変なことになるのではないかね」
「何の話です?」
「困るのは私ではなくリオン王子だろう、人魚姫?」
どこの地獄の使いだ、お前。
どこまでも腹黒い悪役テイストな隣の国の王子に人魚姫の顔にふつり、と何かが切れた色が浮かびました。
その時です。
「姫!ご無事ですか!!」
王子様のごとく現れたのは従者のシャルティエでした。
「シャル…」
今は出てこなくていいんだよ、ややこしくなるから。
「何、はりきってる」
「だって坊ちゃん!!」
その後から腕を組んで現れたのはその主人でした。
ウッドロウの姿を見るや、眉を神経質に顰めるリオン王子。
…………昨日の勝負の行方はどうなっていたのでしょう。
「あぁ、彼女は私と話があるそうだから…」
「何?」
「今、人魚だとバレると困るだろうって脅されてました」
「そういうことは普通、脅されてる人は言わないんだよ、
…」
従者は火花を散らした二人の王子の間でとほほな顔をしています。
「ウッドロウ王子は私が人魚でも構わないんですか?」
「無論だとも!」
「そもそもどうしてこの国にそんなに大きな顔で滞在してるんです」
「それは私が…英雄だからだ」
「ほほぅ?僕らの世界じゃラストバトルでも二軍でろくに使えもしないイクティノスのマスターだっただけで英雄か」
「なんとでも言いたまえ。将来の英雄王と呼ばれるのは違いない。その暁には姫を王妃として迎えようと思う」
「その思考の飛び具合は一体…」
シャルティエでさえも呆れる今日は一段と素晴らしいジャンピング思考のようです。
「…じゃあ私のお姉さま方でも紹介しましょうか?」
「む?」
溜息をつきながら人魚姫。短剣を鞘に収めました。
「王子様がそれほど世に名だたる英雄でしたら姉も喜んで馳せ参じます」
「………私が興味があるのは君だけなのだが…まぁ、挨拶はしておいたほうがいいだろうな」
人魚姫は昨晩、姉姫に言われたことを思い出していました。
何かあったらいつでも呼ぶように、と。
「おい、ややこしいことになるだけだから呼ぶな」
「いえ、ところでウッドロウ王子。グミは何味がお好きですか?」
唐突。
しかし、ウッドロウ王子も切り替え力はぴか一でした。
「…やはりオーソドックスにオレンジグミか…?」
「お前の国はオレンジが取れないからだろう」
「姫が望むなら温室効果でオレンジすらも作らせよう!」
「環境破壊には反対です」
「ん?」
ふいにシャルティエの視線が窓の外に釘付けになりました。
反射的に王子たちもそちらを振り向くと…
なんと、海が盛り上がっているではないですか。
「ふぬぅ〜〜〜…」
どこからともなく、低い息をつく声が…
次の瞬間、ドバァ!と水柱が天をつき
「グミと英雄が嫌いな人魚姫っ!バルバトス=ゲー ティア、推・参!!!」
姉の一人が姿を現しました。
「な、な、な…」
ぱくぱくと指差しながらシャルティエ。
自ら姫と名乗った長い水色の髪の姉君は、手を窓のフレームにかけて巨体を乗り出すとにやりと笑みを浮かべます。
その足には立派な尾びれが…
「…姉です」
「どこをどう見たら!?」
「でも、後ろから見たらちょっとごつめの立派な女性ですよ?」
髪が長すぎてとても男性に見えないというのもありなのでしょう。
「ほら、海洋深層水で髪もさらさら」
「いや、そういう問題では…」
「妹よ、グミが好きな英雄といったのはどこの男だ」
「左」
「こいつだ」
「この人です」
「なっ!!!」
驚愕のハモリにさすがのウッドロウも一歩退く。
その分、一歩部屋に踏み入る姉。
ビシャリ。
強大な尾が部屋に歩む後をつけました。
「…季節的に…」
「ホラーっぽいね…」
「何をしているのだ!衛兵でも呼びたまえ!」
「あ、お姉さま。その方じっくり人魚と話がしたいらしいので、連れて行ってもらえますか?」
「ほほう?」
「断じてそのようなことは…」
「英雄とはなんぞや?」
「「「…」」」
ガッ。
ラリアートを食らわせる勢いで姉は長身のウッドロウを更なる長身で押さえ込みました。
「英雄とはなんぞや!!」
そのままずるずると窓際に引きずっていきます。
「英雄とは…」
窓からジャーンプ。
「なんでっしゃろ」
「「「……………」」」
どぱーん。
現れたときと同じくらいの派手さで二人は暗い海に消えていきました。
一歩遅れて駆けつける衛兵たち。
「リオン様、何かありましたか!!?」
「……………なんでもない」
衛兵たちは静まり返った部屋に疑問符を残しながら去っていきました。
呆然とする王子と従者を残して。
「それにしても…似てないお姉さんだね」
「うん、でも意外と頼りになる」
「頼りになるというか…」
「でも英●と●ミは禁句だから、海の傍で話しちゃ駄目だよ」
「…人魚じゃなくて…モンスターじゃなく?」
従者と人魚姫が話すのを聞きながら王子は溜息をつきながらかぶりを振りました。
「今のを見ると…ヒューゴごときで引き止めるのも馬鹿馬鹿しく見えるから不思議だな」
人魚の国、計り知れず。
あとがき**
すみません…むちゃくちゃ長いんですが…オチをどうしようかと一旦考え、
結局いつものあの方に出てもらいました。
ちなみにこれを書いたのは夏真っ盛りでした。>季節的に…
「なんでっしゃろ?」はビバ・テイルズ(ピーチグミ編)ネタです。
