「私たち」は、それぞれ存在が確立したときに、分かれた半身。
--独白 <ソーディアン ベルセリオス>
1000年前…
ヒトにとっては悠久なる刻──
ハロルド=ベルセリオスはカーレル=ベルセリオスをマスターとしたソーディアンに、自己の人格を投射することを決めた。
これで、一緒に戦える。
ソーディアンチームと一緒に、あの暴君と対峙できる。
天才と謳われた兄妹。
そして、天上の王。
稀代の天才と呼ばれる人間が三人も同じ時代に生まれた意味は…おそらく無ではなかったのだろう。
少なくとも世紀の対決が行われるチャンスは与えられていた。
地上軍に属し、科学者である「私」はベルクラントを止める。
でも、カーレル=ベルセリオスの妹であり、稀代の天才でもある「私」はミクトランと戦う。
そんなチャンスを逃すほど「私」は間抜けじゃなかった。
だから「私」は自分以外をマスターにしてソーディアンになった。
兄貴なら遜色なく「私」と一緒に戦うことが出来る。
もう一つの半身を守るための力にもなる。
でも。
裏目に出た、というんだろうか。
兄貴は自分の命を投げ出して戦いを終結させてしまった。
死んでしまった。
もう、どこにもいない。
目の前でつんざくような痛みがフラッシュして、血飛沫が飛んだ。
途端、喉が焼け付くように渇きを覚え、けれどその喉をまとわりつくように赤い液体が塞ぐ。
それは多分、兄貴が見ていた光景。
「私」自身はその時天上王の身体を貫いていたのだから。
黒刃は神の眼のエネルギーに守られたミクトランを貫き、代償としてコアクリスタルが少しだけ欠けてしまう。
薄れていく「私」の意識。けれど失われたわけじゃない。
ただの破損だ、と見切りをつける。
その一方で暗闇に落ちそうな中、まっ先に訪れたのは兄貴に対する死の予感。
そして、怒り。
何者かが這いずるように侵入してくる感触。
取り込もうとまとわりつく闇。
同化。
それらが確かなものになった時、「私」は決めた。
こいつを必ず、地獄に叩き落す。
時の果てまで待とうとも、必ずひと泡吹かせてやる。
ベルセリオスという器に侵食したこの男はいつか、「私」から離れて蘇るだろう。
「私」がここにずっといるのだとも知らずに。
その時こそ…全てを終わりにしてやる。
思えば、あれは「私」の闇。
それともミクトランという異物が入り込んできた時に、制御したようでそうできなかった狂気というものだったろうか。
それでもかまわない。
闇色のベルセリオスに、似つかわしいじゃない。
これが私に対する挑戦なら、受け入れてやる。
…オリジナルの「私」は遅れてやってきた。
まだ眠りの浅い「私」に彼女の泣く声が、
心の痛みが夜の浜辺の波頭のように近づき、離れ、打ち寄せる。
でも、彼女は大丈夫だろう。
兄貴の殺される場面を見なかった。
自らの役割を全うした。
貫き通した。
できることをすべてしたのなら、後悔なんてしなくてもいいから。
だけど「私」は違う。
「私」と「私」の痛みは、少しだけ違う。
だから「私」はやり残した仕事を片付けなければならない。
それが果たされたその時に、
「私」も未来へ進めるようになるのかもしれない。
それまでは。
与えられた時を止めてもかまわない。
例えそれが久遠になろうとも。
そして、意識は闇に落ちた。「私」の泣く声を遠くに聞きながら。
これからは長い、長い時間を眠ることになる。
闇色の揺りかごで。
行き着く先が世界の終わりであろうとかまわない。
そうしてその刻を待ち続ける。
成すべきことを成すために。
それが、「私」の使命。
あとがき**
人間のハロルドが天地戦争後にこうなるとは思えないけど…なぜだろう、しっくり来るのは、と考えていたら気づきました。
ソーディアンのハロルドは、オリジナルと見ていたものが違うのだということに。
ソーディアンとオリジナルは同じ人物だけど人格という存在が別に成立した時から、
それぞれが、異なる存在となる…そんな気がしてなりません。
でもハロルドはハロルドなんですね。いろんな意味で。
